ワタナベ星人の独語時間

所詮は戯言です。

映画部活動報告「午前十時の映画祭 時計じかけのオレンジ」

「午前十時の映画祭 時計じかけのオレンジ」観ました。
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1971年公開。スタンリー・キューブリック監督作品。1962年アンソニー・バージェスが出した同名小説の映画化。

 

「超有名な作品。キューブリック監督没後20年を記念して今回の午前十時の映画祭公開に至ったと。確かにテレビ画面で観る気がしなくて見た事が無かったなあ~。これが映画館で観られるのは貴重やぞ。」

 

勢い勇んで。映画館に向かい。そして「こういう話やったのか!」今さらながらではありましたが。無事収める事が出来ました。

 


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近未来のロンドン。15歳のアレックス。『ドルーグ』という4人組の悪党グループのリーダー。薬。喧嘩。強盗。強姦。ありとあらゆる悪行の限りをしつくす日々。けれどその反面、クラシック、特にベートーベンを愛する意外な一面も持ち合わせる。

 

まあアレックス率いる『ドルーグ』の悪いこと。

ある一日の出来事。行きつけのバーで薬物入りのドリンクを飲んで出発。路上で気持ちよく酒を飲んでいただけのホームレスに暴行。敵対グループと喧嘩。盗んだ車を乗り回し、作家夫婦宅に押し入り大暴れ。夫を滅茶苦茶に痛めつけた上、彼の前で妻をレイプ。当然金品も奪い去る。

後から調べて。アレックス15歳という年齢設定にもびっくりしましたが。酒もタバコもドラッグも女もと。やりたい放題。しかもそれらを手に入れる方法が暴力。

いかにも治安の悪そうなアパート。ボロボロのエントランスから上がればアレックスが両親と住む部屋。

一人息子。部屋一杯に置かれたレコードから、お気に入りのクラッシック。それを聞きながらペットの蛇と戯れる。

 

「何それ…。」という悪行の数々。これらを一晩で行った上、翌日にはケロッとして町へ出て女性二人をナンパ。自宅自室に連れ込み三人で散々お楽しみ。

 

その頃。『ドルーグ』の面々がアレックスに反抗しようと画策。リーダー交代を狙ったけれど。結局アレックスにねじ伏せられる。「リーダーは俺だ。」

 

その後。押し入った女性宅で。女性と争った挙句、殺害してしまったアレックス。逃げようとしたけれど、アレックスに不満を感じていた仲間たちに依って裏切られ捕まってしまう。

 

禁固14年の実刑を言い渡され、収監。それから約2年。

模範囚を装っていたアレックス。ある日刑務所に内務大臣の視察が入るとの知らせが回る。新しい校正プログラム『ルドヴィコ療法』に適応する囚人は居ないか見に来ると。この校正プログラムを受ければ、すぐに釈放されると知ったアレックスは大臣に自身をアピール。模範囚である事と熱心なキリスト教徒である事からアレックスは無事『ルドヴィコ療法』を受ける事になったが。

 

約50年前の作品なのをいい事に。ガンガンネタバレしてしまっていますが。

 

約50年前…って言っても、キューブリック監督のセンスと1970年代という時代背景もあってか。古いと言えば古いけれど、全体的におしゃれ。

『ドルーグ』のコスチューム。黒い帽子とステッキ。上下白の服装に片方下付けまつげもスタイリッシュ。

女性陣も軒並みスタイルが良いし服装も当時の最先端。中でも「やるなあ~」と思ったのがアレックスの母親。あの服のセンス。素晴らしい。

『ドルーグ』がたむろうバーも、作家宅も、あの猫夫人の家も、アレックスの自室も…軒並デザイナーセンス。

何だか無音で観てしまったら。おしゃれ映画に見えてしまう。けれどけれど。

 

15歳。反抗期と言ってしまうにはあまりにも悪すぎるアレックス。罪悪感は何処に行ったんだ。お前の良心は死んだのか?そう問うてしまいたくなる。

 

いよいよ警察に捕まって収監された。14年どころか。二度と娑婆の空気なんか吸わせたくない。そんなアレックスが「外に出たい。」一心で飛びついた『ルドヴィコ療法』。けれどこいつがまた非人道的だった。

 

「おいおいおい。その機械。ちゃんと麻酔かけてから付けたんやろうな!」頭部と一体の大仰な開瞼器を装着され。つまりは瞬きすら許されず、ただひたすら暴力的な映像を見せられ続ける。一応は目薬を絶えず差してもらえていたけれど…「眼科医の監修、入っているよな?」そこが一番気になった当方。(しかもこの開瞼器、ずれて実際に角膜を傷つけたというエピソードを見つけてしまって。震える当方。)

何らかの投薬をされ。起きている間終始体と目を固定されて映像鑑賞。しかもそこで流れていた音楽が、意図されていなかったとはいえアレックスが大好きだったベートーベン。

発狂寸前の日々を繰り返し。そうしてすっかり暴力や性行為に嫌悪感を抱くように刷り込まれる。それが『ルドヴィコ療法』。

 

校正プログラムを経て。確かに早く出所出来たけれど。そこでアレックスを待っていたのは、かつて自分が犯してきた悪行の数々からの報復。

 

「これに関しては…悪いけれど因果応報としか。」完全にかつてのアレックスのせい。老いぼれは死ねと暴行したホームレスからの逆襲。自宅にもアレックスの居場所は無く。仲間だと思っていた『ドルーグ』のメンバーからの仕打ち。土砂降りの中。這う這うの体でたどり着いたのがかつての作家の家。

 

順当に最後までネタバレしていくのは流石にどうかと思うので…ここいらで風呂敷を畳んでいこうと思いますが。

 

1971年イギリス公開。その後「この作品を観たから…」と言わんばかりの少年犯罪が起きたこともあって。キューブリック監督が亡くなった1999年までイギリスでの劇場公開はされなかった。「暴力性、犯罪を助長する。」との理由で。

 

誰もが心に持つ憎悪。誰かに牙を剥いてしまいそうになる衝動。理性が普段は押しとどめているけれど。ふと突破口を作ってしまう。そう言われがちな作品は確かある。

「でも。そこで本当に爆発してしまった人はおそらく…無意識にずっときっかけを探していた状態だったんじゃないかと。本人がそう言ったとしても、それはこじつけにしか過ぎない。」もごもご言葉にする当方。

「少なくとも、その作品が持つ素晴しさが損なわれることは無い。」

 

どうしようもないワル。けれどクズと言い切ってしまうには情緒が残っていそうなアレックス。

町では手が付けられなかったワルを矯正する。それには少なくともやはり、当初の審判の通り長い年月が必要だったと思う当方。

パブロフの犬よろしく、暴力や性行為を見たら反射的に嫌悪感と気分不良が押し寄せる。確かにアレックスの衝動を抑えることは出来るのかもしれないけれど、それはかつての自分自身を反省しての反応ではない。

 

そして案の定。とってつけたニューバージョンアレックスはいとも簡単に崩落する。そして現れたのは…。ぞくぞくする表情。

 

タイトルの『時計じかけのオレンジ』が「見た目はまともだけれど中身がぐちゃぐちゃになっている状態」という意味合いがあると何かで見て。唸った当方。

 

ところで。終盤アレックスが作家宅でミートスパゲッティを食べるシーンがあったのですが。
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(案の定、最後までは食べられませんでしたが)あんな扱いだったのにも関わらず「ミートスパゲッティ、食べてえええええ~。」となった当方。

映画館を後にして。ちょうど昼時。無心でイタリアンを探しに探し、ミートスパゲッティにありついた当方。「もっとゴロンゴロンに肉が入っていて欲しかった。」と後日自作してやっと満足した次第。

まさか。まさかこの作品を観て、当方にはこんな衝動が起きるとは…。