ワタナベ星人の独語時間

所詮は戯言です。

映画部活動報告「フリーソロ」

「フリーソロ」観ました。
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2019年度米アカデミー賞長編ドキュメンタリー賞受賞。その他幾多もの賞を受賞したドキュメンタリー作品。

 

「命を守る、ロープや安全装置を一切使わずに山や絶壁を登る『フリーソロ・クライミング』その若きスター、アレックス・オノルドに迫った。」

 

「体一つで断崖絶壁を登る…何それ。狂気の沙汰やないか。」

 

時々見かける、世界のお騒がせニュース。「某高層ビルを体一つで登った何某が逮捕されました。」およそ当方のような凡人には理解出来ない。けれど知る人ぞ知る。彼は噂のスパイダーマン

笑顔で屋上から連行される、手錠をされた何某が語る犯行動機は「登りたかったから。」

 

「そこに山があるから。」

とはいえ。ロープがあったとしても危険なその絶壁を、体一つで登ろうとする輩の心理とは。文字通り命がけ。滑落したら最後…それは死を意味していて。

 

「一体どんな冒険家だよ!」「剛健で無鉄砲。」「命知らずのならず者。」

…勝手ながら。そんな印象を抱いていたのですが。

 

今作品でスポットが当てられたアレックス・オノルド。

彼を見て思ったのは「想像していたよりもロジカルで緻密な世界なんだな。」という事と「意外や意外。これはお仕事映画だ。」という事。

 

「好きなことで食べている。」作品の中でも語られていましたが。

引っ込み思案だった幼少期にロッククライミングに出会った。生真面目な性格で人と群れることが苦手だったアレックス少年が一人で夢中になれた遊び。年月を重ねるにつれてそれはアレックスの生きていく糧となった。

 

一人で山にチャレンジしているアレックスを撮影隊が追う、というよりも「アレックスがチャレンジし、成功出来るようにサポートしている人たち全体を撮っている。」という感じがした当方。

 

舞台となったのは、カルフォルニアヨセミテ国立公園にそびえる巨岩エル・キャピタン。

2017年6月3日。今まで誰もなしえなかったエル・キャピタンのフリーソロに挑んだアレックス。

 

けれどそこに至るには。何度も何度もロープを使った実地練習とそこから導かれたルートと攻略法。アレックスと共に練習した友人や恋人の存在。そしてアレックスの精神力ありき。

 

アレックスを撮影したクルーメンバーは、これまでもアレックスが色んな山にチャレンジする姿を撮影してきた。「いつだって彼の最後の姿と撮ってしまうんじゃないかって思うと怖くなるんだ。」そりゃそうだ。けれど彼らはアレックスをカメラに収めてきた。アレックスの邪魔にならないように配慮しながら。

2017年6月以前にも一度、アレックスはエル・キャピタンのフリーソロにチャレンジした。けれど…序盤でどうしても気持ちが進まずチャレンジは中断された。

「俺たちの存在が邪魔をしたんじゃないか。」「いざとなれば俺たちに連絡せずに一人で登ってしまうってこともあるんじゃないか。」

命がけで行う。本番は一発勝負。撮影隊の存在は、アレックスの集中力を欠くんじゃないかと心配し、どうするべきかと悩み工夫するメンバーたち。

 

「いやあ。思っているよりアレックスは座長としての自覚あるって。」

『アレックス座』『チームアレックス』。彼がフリーソロを続けていくには単独行動では不可能。かつてのシャイボーイは想像以上に仲間意識がある。言葉でそれを表現するのが下手くそだけれど…アレックスなりに仲間を大切に思っているんだな。彼はプロのアスリートだ。当方はそう感じましたが。

 

「これ『プロフェッショナル仕事の流儀』やんか。」

鑑賞中、延々とスガシカオが歌い続けた当方の脳内。

プロのフリーソロ・クライマー、アレックス・オノルド。目標とする山を定め、無事登頂目指し日々練習する日々。そのアスリートたる姿。

彼を支える人たち。そしてアレックス自身の生い立ちと、山に魅せられたのは何故か。

「脳が異常な興奮を欲しているから?」「どうして彼は平常心を保ちながら危険な山を登れるのか」そんな化学実験も挟んで。

アレックスと彼を支える恋人の存在。「あくまでも一番はフリーソロ」そんなアレックスに寄り添う彼女。

 

「そして決戦の日が訪れた。撮影隊に連絡をした後、夜明けと共にアレックスはチャレンジを始める。」

 

『ずっと探していた 理想の自分て もうちょっとかっこよかったけれど~』ああもう、脳内のスガシカオが止まらない。

 

アレックスの集中力の妨げにならないようにと、遠隔で撮影するクルーメンバー。息が出来ない。こんな絶壁をアレックスが登っているなんて。いつカメラ越しに彼が滑落する所を収めてしまうかもしれないのに。そう思うと見ているのが怖い。

最後。実際にフリーソロに挑んでいる姿がもう…観ているこちらが手に汗握ってしまう。当方は高所恐怖症ではないけれど…怖い。こんな景色を見たら手が滑り、足が立たない。(目の前の壁をどう攻略するかに集中しているので景色は登りきってからしかしっかり見ていない気はしましたが。)息が詰まる。グラグラする。

 

「意外とそれぐらいの時間しか掛からないもんなのか…。」「どうやって下山しているのだろうかと思っていたけれど。なるほどなるほど。」

当方の素朴な疑問も一応に回答が得られ。

 

ロッククライミング自体、全く馴染みのない分野だったので。全てが新鮮でしたし「結局全ての答えは『そこに山があるから登りたい』なんだな。」と思いましたが。

 

超人としか思えない人物が見せる生真面目な人柄と、フリーソロに魅せられた人たち。そして想像以上に緻密な世界。フリーソロは最早冒険ではなくアスリート分野なんだな(ただし命がけ)。

 

そして…新しいチャレンジの成功は聞きたいけれど、悲しい知らせは知りたくない。お願いですから。

そう願った作品でした。