ワタナベ星人の独語時間

所詮は戯言です。

映画部活動報告「ボーダー 二つの世界」

 

「ボーダー 二つの世界」観ました。
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スウェーデンデンマーク後援。アリ・アッパシ監督作品。

 

税関職員のティーナ。違法な物を持ち込む人間を嗅ぎ分ける能力を持つ。

ある日の勤務中。いかにも怪しそうな旅行者ヴォ―レと出会うティーナ。本能的に何かを感じ、ヴォ―レを呼び止め身体検査をするが、彼は違法な物は持っていなかった。

後日再会。自宅にヴォ―レを招いたティーナは、そのまま離れに居住するように勧める。

同じ敷地に住むようになったティーナとヴォ―レ。次第に惹かれあい…。

 

『ぼくのエリ 200歳の少女』2008年に公開された映画。その原作者、ヨン・アイヴィテ・リンドクヴィストが原作と共同脚本に関わったと。

「え。あの当方変態映画部門でも屈指の『ぼくのエリ~』の!それは観ないと。」

雑食に映画を嗜む当方ですが。「得意なジャンルは変態映画です。」と言い張る当方。と言っても。「変態映画=エロ」という意味ではありません。「何か構図とか色彩に異常に拘っているなあ~」とか「この登場人物たちの偏ったフェチズムよ!」とか。何だか観ていて心がざわざわする…それが当方の考える変態映画。

 

『ぼくのエリ~』少女の姿のまま年を取らない吸血鬼と。彼女に魅せられていく少年。「M男の成れの果て。」と言わんばかりの従者に、当方の心のやらかい所が締め付けられ…(「えっ!そんな話じゃないよ!」というクレームは無視)。そしてどこまでも美しいスウェーデンの雪景色。ほぼ全編白と黒そして赤という、徹底的に拘った画面。静寂で禍々しい…まさに変態映画。

 

今作。タイトルの『ボーダー 二つの世界』の意味は一つにはとどまらない。

美醜。善悪。性別。種族。主人公のティーナの風貌はかなり独特…当方の受けた印象としては正直「気持ち悪い」。不細工だとかそういうレベルではなく、何というか…生理的に受け入れにくい。(ギレルモ・デル・トロ監督の世界観で見かける系のビジュアル。)

自身の容姿のせいで孤独になりがちなティーナ。けれど彼女は決して一人ではない。職場で彼女の特殊能力は重宝されているし、親しくしている友人夫婦もいる。離れた場所にある老人ホームには父親が入所中でちょいちょい面会に行く。そして森に囲まれた自宅に帰れば同居している男性もいる。確かに容姿のせいで人付き合いは苦手かもしれないけれど。ティーナは決して天涯孤独ではない。

 

けれど。出会ってしまった。自分と同じ系統の顔をした相手と。

「あなただ~たんだ。あなただ~たんだ。」惹かれざるを得ない。だってこの人なら分かる。自分の苦しみも。そして分け合える。

そして。思いがけない出生の秘密を知るティーナ。(これ、当方も聞いたとき「だからこの顔かあ~」と凄く腑に落ちました。)

どうして私は周りと全く違う容姿なのか。どうして私はパートナーと性交渉出来ないのか。どうして私は森に住んでいるのか。雷が怖いのか。動物たちを制する事ができるのか。どうして。どうして。そんな積年の疑問に回答が出揃う。やっと仲間に出会えた。

 

例の「ショッキング過ぎる」と各国の映画祭で話題となったシーン。エレクトするティーナの体に「そこもひっくり返すのかあ~」。

思い込みの既成概念=ボーダーを踏み越えたなと感じた当方。別にショックは受けず。(むしろ彼等が虫を食べる姿の方がショックでしたよ。)

 

完全にドラム缶体型の中年男女が裸で森の中を駆け抜ける。湖に飛び込み、抱き合う。キツイ画面だけれど、美しいとも感じる。不思議な感覚に襲われる体験。

 

同居していたパートナーを追い出し。(でもさあ。性交渉なしで男女が同居って、そりゃあ浮気するに決まっているやんかと思うんやけれど。)二人だけの世界に浸りきっていたけれど。二人の価値観が決定的に違うと思い知らされていく出来事が起こる。

 

ティーナが税関職員で。特殊能力を以て『違法な物を持ち込む人間が分かる』。

『違法な物』と言っても、それは一つではない。薬物。酒。違法な画像…多岐に渡る。

ティーナの功績で検挙された『違法な物』の出どころ。それを捜査するメンバーに組み込まれたティーナ。

この彼女の職業が、しっかり話を展開させるキーになっていて上手い。

「ああまさかここでヴォ―レとの衝突が来るとは。」

 

やっと巡り合えた仲間。運命の相手。でも全てが分かり合える訳では無かった。

 

同じ境遇であったからこそ分かれた価値観。「醜いから」と受けてきた仕打ちに依って生まれた憎しみ。愛してやまない相手が歯をむき出して怒りを露わにする。「どうせあいつらは敵だ。分かり合えない。」けれど。決して一人で生きてこなかったティーナには、周囲に対してそこまでの憎しみは無い。

 

「一体何が正しいことなのか。善悪は何処に主観を置くかで180度変わってしまう。そんな時、自分が守らなければならない信念はどれか。踏み越えてはいけないボーダーはどこか。」「誰を。何を取るべきか。」

ティーナが選んだ選択に。何度も頷いた当方。

 

最後。あの雪の日に。届けられたのは希望だと思った当方。

果たしてティーナは何処に向かうのか…。