昭:あけましておめでとうございます。当方の心に住む男女キャラ、昭と和(あきらとかず)です。
和:2022年の映画部活動報告。これは年内には無理だお思って、お尻に火が付くどころか全身火だるまで連日スタバに詰めた年末。コーヒーが飲めない当方がホットミルクで半日粘った日々…そうやって無理矢理納め。2023年も明けてもう幾つ?まさに光陰矢の如しだよ。
昭:まあまあ。松が明ける前に。2022年の総括、やってしまいますか。
和:2022年の映画館鑑賞作品は56本でした。
昭:少ない…コロナ禍が始まってから減少の一途やなあ。
和:2022年はちょっとしんどい一年やったから。
昭:ワタナベアカデミー賞は、映画好きあるある『年間ベスト形式』ではなく、当方が勝手に設定した『~賞』でノミネートしています。ですが、一部門に複数該当する場合もあり、その場合は劇場公開順番で表記させていただきます。では早速。いきますよ。
【ふと思い出す作品賞】
『MEMORIA メモリア』『ドント・ルック・アップ』『カモンカモン』『ドント・ウォーリー・ダーリン』
和:『MEMORIA メモリア』タイのアピチャッポン・ウィーラセクタン監督作品。頭内爆発音症候群を患う女性を主人公に、一体この音の正体は…というストーリーかと思いきや。思えば遠くへきたもんだ。まさかのSF展開。
昭:絶対眠くなる…そんなゆったりした作りの中で、唐突な爆発音に再三たたき起こされた。あれよあれよという間に…確かにアレ、唯一無二の映像体験やったな。
和:『ドント・ルック・アップ』結構豪華メンバーを取り揃えての現代風刺劇。「ありそう~」の連発と人類滅亡後の世界。あれこそ『アバター』やった(巨大海洋生物恐怖症の当方は最近公開されたアバターを観るこは不可能)。
昭:『カモンカモン』いわゆる「おじさんとボク」なんやけれどさあ。こういうの、好きなんやなあってつくづく思ったな。
和:独り者の中年男性と変わり者の少年。少年が年齢の割に幼すぎる気もしたけれど…つまりは…みんなみんな生きているんだ友達なんだ。恰好悪くて上等だ。
昭:『ドント・ウォーリー・ダーリン』男にとってのユートピアは女にとってディストピア。フローレンス・ピュー演じる人妻アリスの精神が乱れていくさまよ。
和:そんなに期待していなかったんやけれど、思いがけない良作やった。
【ごはんもの賞】
『スープとイデオロギー』『土を喰らう十二か月』『ザ・メニュー』
昭:『スープとイデオロギー』のオモニが作るスープ、たまらんかったな~あれ絶対うまいやつ。そして『土を喰らう十二か月』さすが土井喜晴先生監修。ストーリー自体にはのれなかった部分もあったけれど、とにかく食べ物のシーンが眼福。永遠にみていられると思ったよ。
和:『ザ・メニュー』孤島にある高級レストランでふるまわれる、有名シェフ監修のコース。これがもう…一言「食べ物で遊ぶな!」。
昭:悪趣味やったね。元々シェフが訴えたかったメッセージがあったんやけれどさあ。表現方法が皮肉を通り越してなんだか幼稚やった。結局一番うまそうやったのがハンバーガー、っていう。
【一体何を見せられているんだ賞】
『チタン』『未来惑星ザルドス』『MEN 同じ顔の男たち』
和:例年【変態映画部門賞】を設けていたんやけれど…手放しに「これは~おかしなやつがきたぜ!(歓喜)」と思える作品はなかった気がして。色んな意味で「何これ」と思った作品を挙げてみました。
昭:『チタン』「車とセックスし車との子供を身ごもる」頭にチタンプレートが入っていることとなんの因果があるって言うんだ…そしていちいち痛みの描写が辛い。
和:終始、隣に座っていた見知らぬ男性と共に「うう…」と低い声でうめいた。主人公もたいがいイカれているんやけれどさあ、彼女を守ろうとする男性はもっとイカれてんの。
昭:『未来惑星ザルドス』1974年公開のカルト映画。ボンド俳優、ショーン・コネリーが赤いふんどし一丁で活躍する世紀末スペクタクル!
和:嫌いになる要素が一切ない。でもこれを手放しに「変態映画だ!(キャッハ~)」とは言い切れないな…。
和:『MEN 同じ顔の男たち』。これはホンマに「一体何を見せられているんだ」と思った。主人公と同じ、真顔になってしまったよ。
ラストのマトリョーシカ現象のキモさがな…。
【胸悪賞】
『無聾』
和:2011年に台湾のろう学校で実際に起きた性暴力・セクシャルハラスメント事件を題材にした作品。
昭:小学校から高校まである寮制のろう学校で起きた校内暴力。その陰湿さ、根の深さにひたすらため息。そしてどこまでも腐りきっていた大人たち…主人公の持つ正義感故に他の生徒を傷つけてしまった八方ふさがり…そして諸悪の根源と思っていた生徒の抱える想い…。
和:あそこで起きていたことは余さず胸が悪かったけれど、「ここ(ろう学校)以外に居場所がないから」と縋り付いていた生徒たちが一体大人になってどう過ごしているのか…実際に起きた事件がもとになっているというし…気になった。
【オープニング賞】
『アネット』
昭:前衛的コメディアン・ヘンリー(アダムドライバー)と売れっ子オペラ歌手アン(マリオン・コティヤール)。二人が恋に落ち、結婚し、アネットという子供を授かる。けれど次第に二人の愛は冷めていって…バンド・スパークスのオリジナルミュージカルをレオス・カラックス監督が映画化した作品。
和:俳優陣、監督、スタッフたちがスタジオで歌い始めるオープニング〜からの本編開始。数年前の『ラ・ラ・ランド』みたく「今から物語の幕があくぞ」というわくわくする気持ち。こういうのって高揚するよね。
【ラストシーン賞】
『ベルファスト』『ケイコ、目を澄ませて』
昭:『ベルファスト』2022年はロシア・ウクライナ間で戦争が勃発した。そんな中、北アイルランド紛争下のベルファストに生きた少年とその家族を描いたこの作品は随分話題になったな。
和:自分の住む町が安心して住めない場所になっていく。生まれも育ちもベルファスト、ここで骨をうずめるつもりだったお母さんの決断。でも個人的にはおばあちゃんをラストシーンにもってきたのがもう…。
昭:『ケイコ、目を澄ませて』一人の女性プロボクサーの葛藤を丁寧に描いた作品。ボクシングを続けるのが辛い、でも諦めたくない…揺れ動くケイコの前に現れたラストシーン。
和:しんどい。でもしんどいのは自分だけじゃない。皆頑張って生きている。素直にそう思えた。あのラストシーンからのエンドロールはこの作品のハイライトやったと思う。
【元気が出た賞】
『RRR』
昭:「THEインド映画!」3時間強をものともしない、感情ジェットコースター作品。こちらのコンディションなんて全くかんがみずにねじ伏せてくる力強さよ!
和:1920年代、イギリス統治下のインドが舞台。インド政府側に属する警察官ラーマと、部族の少女をイギリス軍人に連れ去られたビーム。二人は互いの正体を知らずに出会い、意気投合し…けれど敵対する存在であると知ってしまう。
昭:終始満面の笑み。もはや恋?というほどのラーマとビームの絆や、最終なんだか壮大な使命に向かって駆け抜けていく疾走感。
和:相変わらずインド映画はエンターテインメント性が高いなあと思った。歌って踊って。爆発して。何があろうとも主人公は死なないし。絶対大団円。安心して見ていられるよ。
【ドキュメンタリー賞】
『世界で一番美しい少年』『スープとイデオロギー』
昭:1971年公開の『ベニスに死す』そこで主人公を演じたビョルン・アンドルセン。当時15歳だった彼は今60代。ヴィスコンティ監督に見出されて「世界で一番美しい少年」として一気に注目の的になったけれど…性的な意味合いを持ったアイコンになってしまった。
和:ビョルン・アンドルセンが多くを語ろうとしないしあくまで推測だけれど…おそらく性的搾取があっただろう。美しいとちやほやされる反面、まだ十代の少年を守れるまともな大人がいなかった環境にぞっとしたな。
昭:『スープとイデオロギー』ヤン・ヨンヒ監督と彼女の母親である在日コリアンのオモニを主人公に撮った作品。
和:済州4.3事件のこと、正直この作品を観るまで知らなかったけれど、この作品を通じて在日コリアンの人たちの背景を少し知ったように思った。
昭:でも、この作品はそういう社会派だけじゃなくて、シンプルに母と娘の記録映画であると思ったな。自分のルーツを知るだけじゃない。次第に年をとっていく親と自分の関係。新しくできた家族と離れて暮らす親はどう繋がっていくのか。だれもが抱える家族の物語。
【子役賞】
『さがす:原田楓 伊東蒼』『流浪の月:家内更紗 白鳥玉季』『こちらあみ子:あみ子 大沢一菜』
和:『さがす』「あの人お父ちゃんじゃありません。全然違う人です」
昭:って、絶対『クリーピー』の物まねしてしまうんよな~。大阪西成を舞台に、父子家庭で突然失踪した父親を捜す中学生を演じた。
和:うますぎた。リアルにいてそうな大阪の女子中学生。お話自体は途中から「ん?」っていう展開になってしまうんやけれど、とにかくこの子はずっとぶれてなかった。
昭:『流浪の月』家に帰りたくない10歳の小学生を19歳の青年が自宅に連れて帰ってしまって…という、かつて起きた事件をずっと背負う羽目になった二人を描いた作品。15年後の二人はどこまでも暗いんやけれどさあ。この10歳当時の更紗を演じた白鳥玉季がとにかくかわいいの。
和:結構辛い目にあっていたんやな~と後から知るけれど。あんな天真爛漫な子が一緒に居たら楽しかったやろうな。出先で二人が引き裂かれるところがとにかく辛いの。
昭:『こちらあみ子』は…この子ありきやった。すさまじい説得力。個人的にはあみ子は苦手やけれど…強く生きてほしいよ。
【助演女優賞】
『母性:ルミ子の義母 高畑淳子』
和:ルミ子が嫁いだ先の義母。田舎の小金持ちで嫁いびりがひどい。いやもうこれ演じていて面白かったやろうな~。シリアスな雰囲気を一蹴していた。
【助演男優賞】
『ドライブ・マイ・カー:高槻 岡田将生』『流浪の月:中瀬亮 横浜流星』
昭:『ドライブ・マイ・カー』海外で高評価を受けて一気に注目を浴びていたけれど、個人的には何故注目されてなかったのかが分からんくらい、岡田将生が良かった。特に夜高速道路を走っている車中の高槻。流れるライトが照らす彼の表情、台詞…神がかっているとしか言いようがなかった。
和:『流浪の月』の亮君。更紗の婚約者できちんとした職業に就いていてイケメン。ハイスペック彼氏なんやけれど、実はDV気質で依存的。更紗が精神的に自立していくにつれて、亮君のメンタルが暴走し崩壊していく。亮君の危うさを横浜流星がしっかり演じきっていた。上手かったな。
【主演女優賞】
『ケイコ、目を澄ませて:小河ケイコ 岸井ゆきの』
昭:正直ボクシングに関して当方は判断できないんで、その努力と結果はよく分からんかったけれど…揺れ動く女性プロボクサーとしての正直さを感じたな。
和:コロナ禍の煽りもあって、所属するボクシングジムが閉鎖することになった。憧れだったプロボクサーにはなれたけれど、以前ほどがむしゃらな気持ちではボクシングに向き合えなくなっていた。やればやるほど怖くなる。もういいんじゃないの?これをきっかけにボクシングを辞める?自分の中で答えが出るまで、ちょっと休んで考えたいけれど…本当に休んだら答えが出る?何を恐れているの?何が辛いの?何をしたいの?何が大切なの?
昭:立ち止まっても、すぐに答えがポンと出るもんしゃない。だから動けるのならば…ただ走ればいい。平気な顔をしていたって、皆何かしらしんどいことはある。全部に折り合いなんてつけられない。それでも生活はある。一見惰性で毎日を重ねていって、けれど年をとったときにふと振り返ったら「結局は自分が選んできてここに立っているんだ」って思うんよ。少なくともケイコよりは長生きた当方の実感。だから…エールを送るよ。
【主演男優賞】
『エルヴィス:エルヴィス・プレスリー オースティン・バトラー』
和:エルヴィス・プレスリー=キングオブ・ロックンロール。アメリカ・ミシシッピ州の貧しい家に生まれた白人の少年。黒人音楽にもまれて育った彼が才能を見いだされ、その圧倒的歌唱力と音楽センスで一気に有名人へとのし上がり、そして42歳という若さで生涯を閉じた。
昭:性的なパフォーマンスも多く、保守的な層からは眉を顰められるた…一見尖った若者に見えるけれど、実はどこまでも情に厚く…家族を大切にした。
和:エルヴィスがずっとプロデューサーから搾取され続けていたこと。結果ラスベガスのホテルでショーをしていた。「そうやったのか…」最近はやりの「往年の大歌手ヒストリー作品」カテゴリーの王道やったけれど。若い頃から晩年までを演じたオースティン・バトラーは格好よく哀愁も漂わせていたよ。
【作品賞】【ラズベリー賞】
昭:さすがに息切れがしてきた…最終、作品賞とラズベリー賞いきますか。
和:どちらも該当作品なし。
昭:そう。そうやなあ。
和:コロナ禍になって3年?2022年は、映画館で映画が観られないほどには追い込まれなかったけれど。色んな作品が苦しい中、制作・公開されて観ることができた。だからもうベストもワーストもないよ。映画に携わるすべての人に感謝です。
昭:(小声)もともとベストって毎回必ずしも出ていたわけじゃないしね…雷に打たれたみたいに「これは年間ベストだ!」って思う作品は毎年現れない、ということでもある。
和:お疲れさまでした。
昭:お疲れさまでした。いやあ、一年あっという間でしたね。
和:2022年…特に仕事が…大変やった…でっかい氷山にぶつかったあと沈んでいく船そのものやった。
昭:本当はもっと前から衝撃を受けてもろくなっていたんやろう。春以降からぐんぐん沈みだして、秋以降は修羅場。次々船を見捨てて海に逃げていく人の姿を目にしながら、残って楽器演奏をする者の気持ち…感情を押し殺してやるべきことをする。美徳や自己犠牲じゃない。仕事だからだ。今も沈没寸前で何とかとどまっているけれど厳しい状況に変わりはないよ。
和:職場を『タイタニック』に例えるやつ、早々に止めてくるかと思ったら便乗し続けたな。当方以外わけわかんないから、この話はやめようか。
昭:「観た映画全ての感想文を書く」。己で課したルールについに身動きがとれなくなった。「一つの作品につき一つの感想文」は8月からは月別ダイジェストになってしまったな。
和:加齢に伴う気力体力の低下。加えて、さっきちらっと書いた沈没船のくだりもあって、映画部活動報告のスタイルを継続できなくなった。終業後帰宅してもへとへとすぎて…人としてのクオリティ最低限で、翌日また沈没船へ向かう生活。その繰り返し。そして現在も決して楽にはなっていない。
昭:「あれもできていない」「これもできていない」そういう「できていないタスク」が積み重なると、当方は「全部できない!じゃあやらない!」に変換されるという性質があるとひしひしと感じた。「~であるべき」にとらわれすぎてフレキシブルじゃない。加齢によってできないことが増えてきているんやから「~であるべき」を一旦減らしていこうかなと。2023年は心も体も、ため込まず巡るように心がけたいと思っている。
和:正直、2023年映画部活動報告はどうしますか?
昭:ばっさりやめる…とは言いたくない。「一つの作品につき一つの感想文」は厳しいけれど…でも今回2022年を振り返るにあたって読み返したら、やっぱりダイジェストより個々の感想文の方が断然思い出せるんよな…。ただ、ダイジェストでも「観た映画全ての感想文を書く」のルールは崩れていない。悩ましい。
和:映画を観て感じたことを、忘れないように素直に書く。だらだら書かなくていい。あくまで備忘録。その原点を大切にして、やれる範囲でその時のスタイルでやっていきますか。
昭:はい。
和:2022年。行きつけの一つだった映画館が閉館した。
昭:昨今、映画を観る方法は多様化してきたけれど、それは映画だけではない。今後も色んな施設やお店が変化していくのだろうし、そう思うと当たり前の場所なんてどこにもないんだな。沈没船の中でも考えていた。人を大切にすること。いつまでも当たり前に傍にいると思わないこと。互いに支えあっていること、大切な存在であることを時には言葉にしないと人は離れていく。人も映画も映画館も。毎回は言わなくいてもいいけれど、大好きで、かけがえのない存在であることを伝えないといけない。いなくなってからでは言葉は伝えようもない。つくづくそう思っていた。
和:…信じられますか。この人、素面なんですよ。まさに「彼は酒に酔っているのではない。自分に酔っているのだ」。
昭:なんでここで『カラマーゾフの兄弟』。ああもう恥ずかしくなってきた!だらだらしてきたし…もうここまで。2022年もお付き合いいただいてありがとうございました。
和:まいど茶化してごめんね、相棒。2023年もよろしくお願いいたします。