ワタナベ星人の独語時間

所詮は戯言です。

映画部活動報告「ちょっと思い出しただけ」

「ちょっと思い出しただけ」観ました。
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6年の歳月を遡る、とある男女の7月26日。

 

2021年。舞台の照明係の照生(池松壮亮)。起床して、体操して、猫に餌をやり観葉植物に水をやる。出勤途中の公園には随分長い間帰らぬ妻を待つ男性(永瀬正敏)がいる。お地蔵さんに手を合わせる。職場では一人前と認めて打ち解けてくれた先輩と一緒に、かつて自分に憧れていた後輩の舞台に光を当てる。

同じく2021年。コロナ渦で客足が伸びないタクシー業界。タクシー運転手の葉(伊藤紗莉)はあるミュージシャンを乗せていたが、途中でトイレに行きたいと言われ、ある劇場に一旦駐車する。

客を待つ間、ふとタクシーから降りて劇場に吸い寄せられた葉。そこで見たものは…。

 

昭:はいどうも。当方の心に住む、男女キャラ「昭と和(あきらとかず)」です。

和:おっと。我々は解散して各々の故郷に帰ったんじゃなかったの?

昭:各々ってどこだよ!俺たちは当方から派生した架空キャラクターなんやから、帰るところなんてここしかないんだよ。

和:怖い…自ら架空とか言うの…とかいう茶番で無駄に文字数増やしたくないから、とっとと進めてもいい?

昭:お前のそういう切り替えの早いところ、嫌いじゃないけれど…ただ俺は…一先んじてお断りしておきたい。

和:なになに~?そもそもの当方に語れるほどの恋愛体験がないこと~?男女の機微を語るキャラでありながら、ここからは終始机上の空論で繰り広げること~?

昭:お前の、致死ポイントにしか弾を打ち込んでこないところどうにかしてほしい…まあそういうことで。始めていきますよ。

 

和:7月26日っていうのは、照生の誕生日なんよな。

昭:また一つ歳をとった。今日自分はこう過ごした…それを一年ずつ遡っていく物語。2020年。思い出のバレッタを止められないくらいに、長かった髪を切った。

和:なにもかもつまんない。可もなく不可もなく過ごしていた。友達に誘われた合コンもつまらなくて。タバコを吸うために店の外に出たら、たまたま同じくタバコを吸っていた男性にナンパされた。

 

昭:2019年。足を怪我してしまった。ダンサー生命にとって致命的な負傷。ずっとダンスで生きていくと思っていた自分にとって、急激な転換期。どういう選択をするべきなのかわかっているけれど認めたくなくて混乱していて…恋人のことを思いやる余裕などない。

和:どうして私に何も言ってくれないの。辛いときはちゃんと寄り添うのに。

 

昭:遡り映画『ペパーミント・キャンディー』方式で、この作品は一年ずつ遡るんやけれど。順当に内容をつらつら書くのはどうかと思うんでここでストップ。以降はふんわりした内容にしていくよ。

 

和:まあ…つまりは『あの素晴らしい愛をもう一度』ですよね。

昭:あの時 同じ花を見て 美しいといった二人の 心と心が 今はもう通わない。

和:遡って初めてわかる「ああだからあんなに固執したんだ」という決別のシーン。一年前。ラブラブだった時。生涯をともにしようかと思っているといわれていた。その思いを告げられるはずだった日に、不毛すぎる喧嘩。

昭:でもあの状況って、自分が一生を掛けようと思っていた夢を打ち砕かれて必死に整理をつけようとしている最中なんよな。そりゃあ自分の中で答えが出るまで待ってくれよと思う。

和:辛いときは支えるから!だから一人にならないで。ちゃんとそばにいるから。思っていることを言って。

昭:それはありがたいけれど…ならばなおさら今はそっとしてしてほしい。いずれかは伝えるから。

和:何なのよもう!私たちって結局本当のことなんて話してなんてなかったのよ!もう降りて!さようなら!

 

昭:あくまで俺たちは当方の心から派生しているので(今回何回目)こういう解釈になってしまうけれど。俺は結局照生と葉がうまくいく世界線はなかったんやと思っている。

和:2016年。友達が出演していて誘われた舞台。その後にあった打ち上げで知り合った。初めてだけれど引き寄せられるのに違和感がなかった。水族館で告白。二人で過ごす日々はとにかく楽しくてキラキラして。長い髪に似合うからと誕生日にバレッタを贈った。ずっとこんな日が続くのかって思っていた。

 

昭:そういう、うれしいたのしい大好きなことばかりじゃない。だって恋愛だけで生活しているんじゃない。生きていくために生業としていること、そこに対する自分のスタンス。恋愛も大切だけれどそれとは別に大切にしてきたことがある。そこに対する考え方が共有できない相手とは…いつかどこかで衝突してしまう。あの、人生の転機としか言いようのなかった照生の心情に、性急すぎて寄り添えなかった葉とは…そこを乗り越えたとしてもうまく行かなったと思う。

 

和:葉だって悪気はないし一生懸命だったんやと思う。昭:それはわかってる。

 

和:2021年の夜。一瞬再会した。言葉を交わしたわけでない、見かけただけ。今ではお互い環境も変わった。けれど…思い出してしまう。あの時、あの場所。あの感情。

昭:相手を失ったばかりの時は、痛みしか感じなかった。ぽっかり空いた心の空間、いつも通りの生活なのに肝心な相手がいないことが苦しかった。けれど二人はあの公園で待ち続ける男性とは違う道をゆっくり歩んだ。少しづつ心の隙間を埋めていって、かつての生活を馴染みのものにしながら、外に意識を向けていく。そうやって心の痛みは感じなくなった。けれどふいに実物を目にしてしまったら…一瞬にしてあふれかえってしまう。

 

昭:終わった恋は美しく思えるんですわ。苦しかったことは薄らいで…美しい部分だけが光を持つ。

和:何か…ヤッてるんですか?ちょっとポエムが過ぎませんか?

昭:お前…まあでも2021年の葉の実生活が明かされたときは「ああ~こういう~」って思ったな~小気味が良かったというか。

和:運命って、つまりはそういうことですよ。

 

昭:ここ最近見る、センチメンタルに胸をかきむしられる作品。「ああ~」と自分の過去にシンクロさせてはもだえる…そこに毎度存在する伊藤紗莉…俺たちの青春時代に輝きをくれた花束みたいな元彼女…また君に恋してる

和:そんなもだえるような経験はないんですがね。でもイマジネーションでも十分理解できる。胸が痛くなるような気持になる。かつてそんな恋をしたような…そう思える…今後もそういう作品はちょくちょくかみしめたいです。