ワタナベ星人の独語時間

所詮は戯言です。

映画部活動報告「アイム・ユア・マン 恋人はアンドロイド」

「アイム・ユア・マン 恋人はアンドロイド」観ました。
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「彼に課されたミッションはただひとつ。私を幸せにすることー」

 

ドイツ。ベルリンのベルカモン博物館。楔形文字の研究に没頭する学者のアルマ(マレン・エッゲルト)。研究資金を捻出するため、ある企業の極秘モニターに参加することとになった。その内容は「全ドイツ人女性の恋愛データとアルマの性格をプログラムされた、アルマのニーズに答えられるアンドロイドとの生活を3週間送る」というもの。

アルマの前に現れた、ハンサムな男性トム(ダン・スティーブンス)。彼こそが例のアンドロイド。積極的にアルマを口説いてくるトムに戸惑い、拒絶するアルマだったが。

 

「君のセンサーは探している この僕の愛のパスワード」(すかんち「恋人はアンドロイド」)

あまり普段お見掛けする機会が少ないドイツ映画…でしたが。「なんやこれじわじわしみてくるエエ映画やん」主人公アルマと似たような世代の当方の心をガシガシにかき乱してきた作品。

 

博物館の楔形文字研究室に所属するアルマ。恋人はしばらくいない。でも別にさみしくなんてない。今は研究室を取り仕切る立場で研究に没頭する日々。

とはいえ、あまり日の目を見ない題材ゆえ博物館から与えられる研究資金は少ない。けれどある企業の極秘モニターに参加すれば、その企業から研究資金が提供されるという。

 

「それで恋人アンドロイドが支給されるって」「しかも国中の女性と自分のデータを踏まえた上で自分用にカスタマイズされた専用のアンドロイド」「理想の恋人」

「よろしくお願いします!」当方ならば差し出された手をがっつりと握り返すであろう案件。なのにアルマは全然気乗りしない様子。

 

初対面。ダンスパーティの会場で現れたトムは、確かにハンサムだけどどこか動きがぎくしゃくしていて、性能に不安を感じた。けれど一緒に生活していくうちに少しずつ気にならなくなっていく。ほだされる心…なのにいちいち「あかん!」と立ち止まり意識してトムに「機械のくせに」と突きつけるアルマ。

「なんでやね~ん。楽になろう~。無条件に自分を好いてくれる相手いてほしいやん~」

色々と疲労困憊の当方から見たら「どこに頼めばトムを派遣していただけますか」と思うけれど。かたくなにトムを受け入れまいと頑張るアルマ。というのも。

 

「今はよくても自分が年老いた時に相手も一緒に歳をとるわけではない」「自分がしてもらってうれしいと思うばかりで相手には返せない」真面目かよ…真面目だよ。

 

かつての恋人への思い。乗り越えて昔のことだとふるまっているけれど…本当に大好きだった。彼と幸せになりたかった。

離れた実家で一人暮らしをする父親。認知症があり危なっかしいけれど、家を離れようとしないし、自分も一今は緒に暮らすことはできない。

人は老いたときにどうなるのか。その時支えあいたいと思う相手は誰か。

「想像しうる最も哀しいことは?」「独りで死ぬこと」

 

色々疲れている今、自分を全肯定してくれる相手の存在はうれしい。家に帰ったら掃除が行き届いた部屋で迎えてくれる。話を聞いてくれながら一緒に食事をして、甘々なお風呂に入り、体を重ね一緒に眠る。喉から手がでるほどそういう状況は欲しいけれど、あまりにも一方的で、果たしてそれは望んでいる幸せなのか。

相手にも何かをしたい。喜ぶ姿を見たい。けれど結局相手はプログラムされたアンドロイド。人間ではない。

 

けれど、トムはそんなシンプルなアンドロイドではなかった。

中盤以降。何よりも優先させてきた研究の挫折やかつての恋人のことで自棄自暴になりかけたアルマ。そんな彼女への対応に「人間らしさ」を感じた当方。(あそこでアルマにとってのご都合主義に走ったら、何もかも終わりでしたよ)

 

作中。実家に泥棒が入り、年老いた父親が暴力を受けた。駆け付けた警官が「大したものはないとわかるだろうに」と口にしてしまったとき「価値は相対的なものでしょう!」を声を荒げたアルマ。

アンドロイドと恋をしろだなんて。今はよくても長い目で見たら絶対うまくいかない。そう思い戸惑う気持ちはある。後で後悔するくらいならば今のうちに手放した方がいい。けれどそういった概念や常識をいったん置いて、目の前のトムだけを見てみたら…自分の今の気持ちは?

 

子供のころ。夏に恋をした少年がいた。アルマも妹も彼に夢中だった。その少年の面影がトムにはある。アルマのデータから編み出されたアンドロイドが、あの夏の記憶から続いているものとは。

 

怒涛の畳みかけで迎えたラスト。「なんて素敵なんだ…」胸と目頭が熱くなった当方。「なんやこれじわじわしみてくるエエ映画やん」

 

ところで。当方は諸手を上げて参加しますけれど。どこに頼めばトムを派遣していただけますかね。