映画部活動報告「彼女がその名を知らない鳥たち」
「彼女がその名を知らない鳥たち」観ました。
白石和彌監督作品。沼田かおるの同名小説の映画化。
大阪。とあるマンションに住むカップル。十和子と陣治。
無職。かといって家の事をするでもなく。ただただ暇を持て余す、自堕落な十和子。クレーマー。
惚れたもんの負け。そんな十和子をべたべたに甘やかしている陣治。(土建屋勤務?)
十和子が可愛くて。十和子は何にもしなくていい。ただ一緒に居てくれたらいい。
陣治が働いて。陣治がご飯も作って。ゴミ屋敷ではないにしろ。散らかった…よく言えば生活感溢れまくりの部屋で暮らす二人。でもそんなに尽くしてくれている陣治に対し、風当たりの強い十和子。
15歳も年上の恋人。でもそれはただの汚いおっさん。
見た目も汚らしい。太って。清潔感なんて欠片も無い。気持ち悪い位に自分を好いてくれているけれど。年上の威厳も無い。いつも自分にへこへこして。みっともない。
忘れられない。かつての恋人。黒崎。
年上で。カッコよくて。スマートで。でも何だか可愛くて。…そして最悪な恋人。
もう全然連絡なんて取っていないけれど。とても好きだった。
ある日。いつもの手当たり次第なクレームから知り合った、デパートの時計売り場主任。水島。
一見誠実そうで。自分にだけ語ってくれる夢や旅の事。それがうれしくて。すぐさま恋に落ちてしまう十和子。
そんな時。かつての恋人黒崎が失踪していたと知って。
『共感度0%。不快度100%。でもこれは、まぎれもない愛の物語』そんなキャッチコピーを掲げて。
10月28日公開でしたが。何故かスケジュールが合わない日が続いて。ちょっと諦めかけましたが。「まあ。同郷のよしみでな」と。随分経ってからの鑑賞となりました。
まあ…分かっていたんですけれどね。当方は…当方は(小声)メンヘラ女性が嫌い(キッパリ)ですから。
「嫌いやあわああああああ。十和子」
当方の家族の暗黙の家訓『働かざる者食うべからず』。もうのたうちまわりそうなくらい、十和子が癇に障る当方。
蒼井優は最近はメンヘラ枠女優ですか?メンヘラ。ニート。(『岸辺の旅』の愛人役は怖かったですね)まともな人格の者を演じていない感じがしますけれど。…あの中途半端に引っかかるイントネーションで。甘えた喋り方。もう「嫌いやわああああああ。十和子」
(余談ですが。この役は、ちょっと前なら池脇千鶴がドンピシャやなあ~と思った当方)
働かず。かと言って家の事もせず。献身的に尽くしてくれる陣治の事は馬鹿にして。なのに毎日陣治が置いて行ってくれた小遣いで遊んで。
「で?挙句好きな人が出来たって。陣治にばれても開き直って。怒ってこないのを良いことに、陣治に当たり散らすけれど、結局はまた二人の家に帰ってくるって」
当方の中の神鳥忍が。2000年代初頭。テレビの『女子プロ学園』で。やる気の無い生徒の荷物を窓から放り投げた神鳥忍が。「十和子なんて追い出しな!!」と吠えてくる。
ですが。結局十和子の引き寄せた男達のあかんたれさよ。
昔の恋人。黒崎。
根っからの女たらし。その手練手管に溺れた十和子。でも。次第に見せてくる、どす黒い根性。結局は自身が上昇するためには女を売る事も厭わないという最低さ。しかもそれをなじったり拒否したら鉄拳制裁を食らわせてくる。
新しい恋人。水島。
端正な顔立ちと、誠実そうな振舞い。ただのクレーマーの自分に、きちんと対応してくれた。下らない。つまらない毎日から引き揚げてくれそうな恋人。
そう思ったのに。ただただ利己的で。冷たくて、薄っぺらいだけの男。
「松坂桃李が…何だか好きになってきた」当方。もう振り切りすぎて。清々しい位のクズ。薄っぺらい水島をしっかり演じ切って。
「俳優生命の転換期」「どちらかと言えばいい奴を演じる事が多かった様な気がするのに」
「今更何を守っているんだ!」という蒼井優の濡れ場。そんな声出しながら。なんで十和子はそんな中途半端な恰好でセックスしているんだ。という不完全燃焼っぷりと比べて。楽しかったでしょうね。イキイキしてましたし。
(当方が毎日の通勤で近くを通って。そして毎年花見をするあの川沿いで。何させてんだ!桃李!…そして意外とあそこ人が通るんやぞ!)
そういえば。協賛に大阪市が出ていましたが。確かにロケ地が思い至る場所ばかりで。それは単純に楽しめた当方。「水島はハービスエントにお勤めで」「鴫野?!」「玉造駅!!」なんて。
中盤。長らく音信不通であった恋人黒崎が実は失踪していたと。刑事から知らされた十和子。
とんでもない別れ方をしたけれど。でも。その頃を思うと。何だかおかしい。
「何かがあった?」
そして。その状況と、現在の自身の状況を比較して。一つの答えを出す十和子。
そこからの展開はもう…ホンマに。
「嫌いやわああああああ十和子!」(三回目)
幾ら公開して一か月以上経ったとは言え。順番にネタバレするのもどうかと思いますので。ここいらでふんわりと大風呂敷を畳んでいきますが。
十和子の恋人。陣治。
あくまでも献身的で。ちょっと怖い位に、十和子への執着心を見せた陣治…ちょっと怖い位に?…ちょっと?苦い表情で首を振る当方。
「いや。十分怖いって」
終盤。十和子への想いや、二人が辿ってきたこれまでが駆け巡るシーンがあって。
それはそれは美しい。陣治と十和子のストーリー。陣治から見た純愛ストーリー。それに無理やり落としどころを付けて。いきなり十和子に押し付けた陣治。
ふわふわと。直ぐにどこかに行ってしまいそうな十和子を。縛り付ける、最後の手段。最も効果的な。そして忘れる事など出来ない呪縛。
「陣治が一番怖いって」震える当方。
『彼女がその名を知らない鳥たち』このタイトルは何を表すんでしょうね。
とめどない愛の話?それを見た女の話?
当方はそれを見たが最後…と思うと。ぞっとしました。