ワタナベ星人の独語時間

所詮は戯言です。

映画部活動報告「まともじゃないのは君も一緒」

「まともじゃないのは君も一緒」観ました。
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女子高生の秋元香住(清原果耶)と予備校講師の大野康臣(成田凌)。

香住が通う予備校の数学講師、大野は数学一筋の変わり者。土台は相当良いのに、無頓着な身なりとコミュニケーション能力の低さ故に恋人の影など皆無。

けれど。「自分はこのまま一生一人なんじゃないか」「自分だって人並に恋をしたい、結婚だってしたい。」そんな悩める大野に恋愛指南をすることになった香住。

「もうちょっと普通に会話出来たらモテるよ。」「こういう時はね。」

訳知り顔で恋愛のノウハウを手引きするけれど。実際には恋愛経験が無く、SNSなどで得た知識を総動員させる香住。

 

憧れの青年実業家、宮本功(小泉幸太郎)に婚約者が居ると知り大ダメージを食らった香住。けれど直ぐに気持ちを切り替え、作戦開始。恋敵である君島美奈子(泉里香)との仲を裂くべく「女の人と付き合えるようになる練習」と大野を接近させる。

「どうせダメ元。」そんな気持ちもあったのに、何故かおかしな方向に進み始めて。

「普通が分からない」大野と「普通を知ったかぶる」香住の行きつく先は?

 

監督:前田弘二×脚本:高田亮のオリジナルストーリー。

 

「一言で言うと、可愛い作品だった。」

眉が下がりっぱなし。不器用な二人が何だか愛おしくなる。噛み合っていないまま強制的に回す内に、歯車が合ってくる会話がどんどん癖になってくる。

 

「最近の予備校って個人授業なのか!」昨今の学習塾事情なんて、電車内広告でしか知り得ない当方がまず驚いた設定。

だって…当方が女子高生で、担当に成田凌が付いたらもうそれだけで毎日が浮足立ってしまう。けれど…そこは冷静な女子高生、秋元香住。

(話が脱線しますが。成田凌って、当方が認識し始めた数年前はグットルッキングと甘ったるい喋り方から、いかにもスケコマシな役(クラスのカースト上位男子とか)が多かったんですが。最近グッと演技の幅が広がりましたね。二枚目キャラ以外でも見かけるようになった。)

 

香住が大野に繰り出す言葉の散弾銃。

「先生見た目は良いんだからさあ。もっとまともな恰好したら。」「普通に会話できたら彼女出来るよ。」「普通にしてりゃあ良いのに。」

まとも(普通)のゲシュタルト崩壊。一体普通ってなんだ。普通の人ってなんだ。

「普通を手に入れたら、自分は一人じゃなくなる?」

 

「一人が寂しいという感情はあるんじゃないか…。」

恋人や配偶者を持たない人が増えているこの現実社会。御多分に漏れず当方もその部類に属しているけれど…切実に「一人が寂しい」「誰かと一緒に居たい」とは思わない。

数学命。そんな大野が誰かとの繋がりを求めている点に意外性を感じましたが…そんなところで躓いたら物語が始まらないという事は理解していますので目を瞑って。

 

香住の憧れの人、青年実業家の宮本。

これがまた…清々しいまでの薄っぺらさ。

『教育関係』『知育』子供が何にも抑え受けられることなく伸び伸び育つ環境とは。多分元々の志しはご立派なんでしょうが。いかんせんその内容は雲のようにふわふわと掴み所がなく実体が無い。

かつて辛かった時に救われた。そこから妄信的に入れ込んでいた宮本には婚約者が居た。

戸川美奈子。宮本がグローバルに活動するにあたり有力な後ろ盾となる権力者の娘。

香住は明らかに政略結婚だと言い放ち二人の中を裂こうとするけれど。

 

「美奈子さん。良い娘さんやないの。当方は好きやな。」

金持ち。ホテル王の娘。華やかな見た目も相まって、どんな高慢ちき(死語)かと思ったら。意外と気立ての良い家庭的な女性。

 

結婚寸前の婚約者は、仕事で仕方ないとはいえ自分の父親とばかり行動。自分は置いてきぼり。この人との結婚生活は大丈夫なのかしら。そんな時に現れた大野という風変わりな男性。

「普通になりたいんです。」真顔でそう言って。何もかもに初々しい反応を見せる。

けれどそれは嫌じゃない…。正直な大野と一緒に居ると安心する。

 

二人の出会いと接近をセッティングしていた香住。二人が出会うまでこそドタバタしたけれど、いざ大野と美奈子が対面してしまったあたりから慌て始める。

「こんなはずじゃなかった。」美奈子は高嶺の花。あっさり玉砕すると思ったのに、何だかイイ感じになってしまった。どうしよう。

 

「相談に乗っていた相手を好きになってしまうって。少女漫画王道のヤツやんか(当方心の声)。」

自覚してしまった大野への恋心。けれど…どうしていいのか分からない。だって恋なんてしたことが無かったから。

 

香住からやたらと出てきた『普通』というフレーズに。「若いなあ~」と思った当方。

普通とは何か。香住が指していたのは『空気を読める行動が出来る人』だと当方は感じましたが。

「『空気が読める=場を丸く収めるために自分が我慢する』ではない」という答えを出した大野。

 

自分が大切だと思う人が誰かに傷つけられるのは嫌だ。

自分の心を偽ることはよくない。

 

まともという言葉が『普通』とイコールで結ばれる表現が多々ありましたが。そもそもまともとは『正面から物事に向き合う』ことで。

それがきちんと出来て然るべき行動が取れた大野は…確かに『普通』ではない。

 

誰かの真似をしたり、周りから浮かない様に努力して。当たり障りのない人間になれば恋が出来るなんて…それこそ恋愛経験がない人間のいう事。だってそんな人間、誰も見つけられないから。

 

不器用で変わり者。でも二人で居たら楽しい。自分のとっておきなお気に入りの場所を、この人になら教えてあげても良い。きっと気に入ってくれる。

「そんな相手が見つかるのは本当に幸せだ。」そう思った当方。

とはいえ。宮本と美奈子もまたお似合いの二人なんだなと思わせた最後。まさに破れ鍋に綴蓋。

 

1時間38分というコンパクトさ。ほとんどが会話劇でそのテンポの良さ。そして主人公を始め、結局は「ここには悪い人などいません」。登場人物全員が愛おしくなる。

「一言で言うと可愛い作品だった。」

 

エンドロールはひたすら笑顔。こういう作品は大好きです。