ワタナベ星人の独語時間

所詮は戯言です。

映画部活動報告「さがす」

 

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大阪。西成に住む、原田親子。

父智(佐藤二朗)は日雇い労働者、娘の楓(伊東蒼)中学生。

貧しいながらも身を寄せ合い暮らしてきた二人だったが。「お父ちゃんな、見たんや、あの…指名手配中の連続殺人犯。懸賞金300万のやつ」そう言った翌日、智が失踪した。

ひとり残された楓は必死に父を探す。そしてある日雇い現場で父親の名前を見つけ、駆け寄ったが…。

 

「あの人お父さんじゃありません。全然違う人です」

(どこの『クリーピー』だよ!黒沢清監督大好き当方が絶対にぶっこみたかったフレーズ)

 

『岬の兄妹』でデビューした片山慎三監督作品。今回もまた、社会の底辺と見たくない考えたくない部分をなぶってきました(褒めています)。

 

大阪の西成区。日本屈指のスラム街に住む父と子。かつては卓球教室を営んでいた父智だったが教室を畳み、今は日雇い労働者。しっかり者の一人娘楓と二人暮らし。

ある日智が「懸賞金300万の殺人犯見かけた」と言い出した。「そんなん言うてんと、きちんと働いてや」にべもなく受け流した楓だったが。この日を境に智が姿をくらませてしまう。

「嘘やん」「お父ちゃん知りませんか」必死に智を探すが、日雇いの元締めも警察も相手にしてくれない。自力で日雇い現場に向かうと、そこには智の名前で働く赤の他人(清水尋也)がいた。

 

とにかく楓役の伊東蒼が、そして父智を演じた佐藤二郎が素晴らしかった。

「ああ~このじゃりン子チエ感!」チエちゃんっぽい楓。ちゃきちゃきして、家計を切り盛りしていて、言いたいこと言ってるようでめっちゃ周りに気を使ってる。しっかり者のチエちゃんに対し子供な親が大好きで…でも本当はちょっと甘えたい。

情けなくて汚いお父ちゃん。ウチとは血繋がってへんのちゃうの。顔も似てへん。そう悪態をついていたけれど、いなくなってしまうのは困る。お父ちゃんどこいったん。

 

朴訥とした印象の智。日雇い労働でその日暮らし。スーパーで万引きして楓に迎えに来てもらうなど「やめてぇや…お前…親としての尊厳は…」とため息が出てしまうボンクラ感。挙句「懸賞金でくらせたらなあ」と言い出す。「しっかりせえや!」と目の前にいたら腹立ってまう。そんな人間に見えたけれど。

 

この作品は3部構成で進行する。娘楓の視点。父智の視点。そして…。

「さがす」というタイトルは多様で「行方不明になった父親を捜す」という意味だけではない。「なぜこういうことになったのか」と背景にまで探りを入れていく。「父をさがす」普段一緒にいたその人を深堀りし、そしてその実態を知ったとき…何とも言えない哀しさ。一生懸命さと滑稽さ。そして愚かさ。

「この父親にはこういう事情があったのか…」そう知った時のやるせなさよ。

 

当方は俳優佐藤二朗(敬称略)の何を知るわけでもありませんが。正直…デフォルメされた…おちゃらけた演技を見る機会が多かったので…今回「やっぱりそれだけの引き出しを滅茶苦茶持っている俳優なんだな(何様だ)」と感服。うまい。うますぎる。こういう佐藤二朗が見たかったんだよ(何様だ)。

 

連続殺人犯、山内照己(清水尋也)については「ああ。こういう事件実際にあったなあ~」と思いましたが。いかんせん、本当に起きたことについては何とも言えない…ただ様々な事情があって「死にたい」と思う人との間に利害が一致するのならば、こういう殺人もある意味致し方ないのかもしれないと思う当方。ただ「死ぬ」って絶対に取返しがつかないんで。生半可な気持ちでやってはいけない。

 

それにしても。西成という日本屈指のスラム街における警察の無能さよ。確かに日雇い労働者がふらっと姿をくらませても「まあ~見つかりませんわ」と思ってしまうのはわかるけれど…にしてもええ加減。誠実さのかけらもない。

「そもそもさあ~あの卓球教室…」ネタバレしたらあかんと思うので書きませんけれどねえ。何故あの時点でそう処理された。後、あの卓球教室跡地、空き家やんね?誰が所有してるの?ずっと気になっていた。まだ智のものなの?何故水も電気も止まってないの?

そして。貧困層父子家庭の楓は智が消えてからどうやって暮らしたんだ。中学生の女子があばら屋とはいえ一軒家で暮らすには生活費がかかる。給食じゃなかったみたいやし…食事とかどうしたんだ。(父親探しのためとはいえ、フェリー代とかどうやって捻出したんだ)

本来、智は楓のことが気になるなら失踪なんてできない。絶対すぐに生活費が枯渇して楓が生きていけなくなる…そう思うと、父は娘のことを優先には考えていない…結局は自己保身なんだな。そう解釈した当方。なのに楓は智を探し回っている…。

 

物語の中で「死にたい」と口にしながらも誰よりも「爪痕を残すために生きる」ことに執着した人物、ムクドリ(森田望智)。若くして死を選んだた彼女に智は泣いた。けれど結局追い詰められれば智はすぐに極論に行きついてしまう。

 

やるせない環境。ぎりぎりまで追い詰められて、もう一緒にいた人物は諦めきってしまっている。だからもういいじゃないか。楽にしてあげたらいいじゃないか。

 

「本当にそうかな」

 

「さがす」自分を見失った父智を、必死で駆けずり回って見つけ出した娘の楓。今度は楓が智に「さがす」をつきつけた。「時間をかけて答えを見つけて」とことん肝が据わっている。

 

楓は智を見つけた。智はここから「さがす」。そういう物語だと当方は思っています。