ワタナベ星人の独語時間

所詮は戯言です。

映画部活動報告「それから」

「それから」観ました。
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「これはまあ。なんという公私混同が生んだ作品…。」

 

韓国の名匠の一人、ホン・サンス映画監督。

彼の現在のファムファタール、キム・ミニ。今作以降も幾つもこのタッグでの作品公開予定が告知された劇場予告編。

「キム・ミニからどれだけのインスピレーションを受けているんだ…そしてホン・サンス監督ってここまで惚れ気の強い人だったとは。」

 

とある小さな出版社。そこに勤める事になった、新入社員アルムの散々な初日と。恋多き社長ボンワン。ボンワンのかつての恋人。恋人との日々。そしてボンワンが他の女に恋をしていると気づいた妻。

時系列をシャッフルしながら。大人の男女のどうしようもない、どこか可笑しな恋と生き様を描いた作品。

 

…もう。今回の感想文はこれでいいんじゃないかと。正直思う当方。

だって当方は…「KO…I?」と聞き返すほど、そういう感情を失っているアンドロイドなんで。人らしい感情と引き換えに機械の体を手に入れてしまっているんで。(何を書いているのか意味不明)ほんわかとした感想は書けないですよ。

 

なので。このボンワン社長にも「取りあえずあんたさあ!女性社員を雇うの辞めたら?」「ここの女性社員は一体どういう職務内容なんだか知らないけれど…せめて奥さんを会計とか経理で会社内に在籍させなさい。」「こういう会社の女性社員に手を出しちゃう癖のある事業主、また繰り返すよ。」「全く、会社を何だと思っているんだ。」等々、THE正論の厳しい畳みかけを被せてしまうばかり。

 

「いや。ほら…あかんたれの甘えたさんって。放っておけないやん。社会的地位のある男性が自分だけに見せる弱い所、奥さんには吐かない愚痴とか。私だけって感じするやん。」

やんやん理論。正に不倫女子発言(こういった発言は作中はありません)。ですがねえ…その男は貴方を選んでますかね?結局奥さんの元に帰ってませんかね?

 

時系列をシャッフルしているのですが。結構分かりやすい流れ。

冒頭、ボンワンに妻が「貴方恋をしてるでしょう」と唐突に切り出す朝食から始まり。何を言っているのかと一笑に付しながらも、次の場面では若い女性といちゃついている。彼女は自分の会社の従業員。そして次にはその不倫相手が中華料理屋で「貴方は卑怯だ」と大泣きしている。

それら場面場面のはざまに、キム・ミニ扮する新入社員、アルムの出勤初日が描かれる。

 

大学教授からの紹介で就職する事になった出版社。少し前に従業員(それが先述の不倫相手)が辞めてしまい、今はボンワン社長一人。けれど、きさくで人当りも良さそうで、働きやすそうな職場。早速仕事に向かうけれど。

ボンワンが外出し、一人になった時。おもむろに突撃してきたボンワンの妻。突然の大声。罵声。挙句殴られるアルム。

ボンワンを外出先から呼び戻し。ボンワン、妻、アルムの最悪な三者面談が開始。どうやら妻はアルムをボンワンの不倫相手だと思い込み。それで逆上したという事が判明する。

 

「ああもう。この会社、仕事を何だと思っているんだ。この出版社の労働実態は。」イラつく社畜当方。なのに。

作中では勤務時間内に延々妻からの「貴方の書いた詩を見つけたの」からの、同席者全員の前で自作のラブポエムを読み上げさせられるという、舌を噛んで自害したくなるような羞恥プレイが横行。「それは…前の彼女に書いたんだ。随分前だ」加えて恥を上塗りするボンワン。「あ。あほか。それは酒に酔って書いたんだ、とかでええやん。」ずっこける当方。呆れるアルム。

 

「でも貴方美人だから。」とかなり納得しないまま会社を後にする妻。そして「まあ…昼めしにでもするか。一緒にどうだ。」と午前業務終了。何それ。アンタら一体何のジョブをしたんだ。

そして真昼間から酒を飲みだすとんだサラメシ。アルムが何やら人生論的な蘊蓄を語っていましたけれどね。すみません。正直全く頭に入らなかったし何一つ思い出せない当方。

 

「兎に角辞めないでくれ。」そうして何とかアルムを引き留める事に成功したのもつかの間。まさかの元恋人が登場。

 

そして「何それ。よくぬけぬけとそんな口が叩けるな」というド厚かましい元恋人と、さっきまでアルムに泣きついてきていたはずのボンワンの完全なあかんたれ露呈。

ボンワン、元恋人、アルムの午前とは別の意味で最悪な三者面談が開始。

 

「出版社のお仕事内容、知りませんけれど。少なくともこの日丸一日働いてないやん。」苦々しく呟く社畜当方。社長…こんな事していたら潰れますで。この会社。

 

そして月日が流れ…。ボンワンとアルムが再会。そこでボンワンから語られた「それから」。

 

「よくもまともに聞いてられたな!当方ならソファーに座ったままそのローテーブルを蹴り上げたかもしれん。あほらしくて!」

THE恋する俺に酔う中年。「皆に悪い事をしたよ…」何全てを綺麗な思い出にしてるんだ。こっ恥ずかしい。お前、やっぱり皆の前でポエム読めるメンタルの持ち主なんだよ。何でいい年して冷静さが欠けているんだよ!

 

…とアンドロイド当方は身も蓋も無い事ばかり思ってしまいましたが。

 

けれど。「ホン・サンス監督やなあ~」という独特のカメラ回し。当方の言う『運動会の父兄ビデオ方式』(=我が子の走る徒競走グループを先ずは撮って。その中から我が子を見つけたら一気にズーム!)みたいな、ズームの多用。あまり音楽は使わないけれど。使う時はちょっと耳障りなほどの爆音。

そして登場人物達の食事シーン。兎に角対面に座って食事をしながら会話しているシーンが多い多い。(そして大体食べ方が汚い)

けれど。それが何故か下品にはならない。寧ろそんな歪さが癖になってくる。それがホン・サンス監督の不思議な魅力。

今作は全編モノクロというのも相まってか。『何言ってんだデレデレ中年案件』なのに生々しさは感じなかったし、「しゃあないなあ~。」という所に着地できた。(まあ、間違いなくアルムがまともな人ポジションを死守したのが大きいですけれど)

 

何だか…凄く…監督の公私混同している印象が否めなかった作品でしたが。

 

「作品を生み出す原動力=KO…I。お幸せに…。」

 

アンドロイド当方は真顔でそう言って踵を返したいと思います。