ワタナベ星人の独語時間

所詮は戯言です。

映画部活動報告「殺さない彼と死なない彼女」

「殺さない彼と死なない彼女」観ました。
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「すべての眠れぬ夜に捧ぐ」

 

Twitterから誕生した、同名4コマ漫画(作者:世紀末)の実写映画化作品。

 

「死にたい」が口癖の女子高生鹿野なな(桜井日奈子)と、無気力でぶっきらぼうなクラスメイト小坂れい(間宮祥太朗)。クラスで浮いていた二人は、ある出来事をきっかけに急接近。「ちょっとリスカしてくる。」「トイレ行ってくるみたいなノリでいってんじゃねえ。殺すぞ。」剣呑なやり取りとは裏腹に、同じ時を過ごすにつれ互いに心が通っていく二人。

「きゃぴ子は可愛いんだから。」自分は可愛いと強く自覚していて、愛されたい願望が強い堀田きゃぴ子(堀田真由)。常に彼氏を切らさないけれど、決して長続きしない。そんなきゃぴ子の幼馴染で親友の宮定澄子/地味子ちゃん(恒松祐里)。

澄子の弟、宮定八千代(ゆうたろう)に何回振られても告白し続ける同級生、大和撫子(箭内優菜)。

同じ高校の6人の男女を通して描かれる、甘くて、滑稽で…そして儚い青春映画。

 

昭:ああこれ、アイドル映画やん。そう思ってスルーしようかと思ったけれど。あまりに鑑賞した人たちの評判が良くて。そこでよくよく見たら、小林啓一監督。

和:2014年公開『ぼんとリンちゃん』。最高やったもんな。そうなると俄然「これは期待できる青春モノじゃないか?」と希望が湧いて。公開から随分経ってからの鑑賞。

昭:危なかった…下手したら見逃し案件になる所やった。そして案の定、心のやらかい所を締め付けてきて…声にならなかったよ…。

和:映画館に来ていた客層も流石に若くてねえ。予告編が終わるまで大声で話していたりしたんで…正直心配したけれど。意外と皆本編が始まったら静かで。終盤すすり泣く声があちこちから聞こえてきたり、上映後も「本当に良かった!」って言ってたり。「あんたら可愛いやん。大好き!」ってなったな~。

昭:という所でハイ、自己紹介。我々は「当方の心に住む男女キャラ昭(あきら)と和(かず)」です。「男女の目線から見た機微」を語ろうと思います。

和:(当方:随分大人しく滑り出してるやないか…)お決まり冒頭の「何で我々を呼んだんだよ~」の寸劇をしている暇はないので。サクサク進めさせていただきます!

 

昭:いやあ。眩しかった。こんな青春、欠片すら送らなかったよ。

和:こと恋愛とか恋愛とか恋愛とか。からっきしやったもんねえ。ところで昭さんはこの物語の女子の中で誰が好きでしたか?

昭:女の子に一番とかランク付けられないよ~(鳩尾に衝撃。散々むせてから)。…俺は撫子ちゃんかな。

和:「八千代君が好き!」何回振られても一途にアタックしてくる撫子ちゃんね。あのカップルは確かにキュンが過ぎた。(当方:あの夕暮れのシーンで当方を包んだ多幸感よ!)「付き合ってくださいとは言ってない。私が八千代君の事を好きだという気持ちを伝えたいの!」兎に角素直に気持ちを表してくる。その純粋さ。

昭:撫子ちゃんは農家の子なんやけれど。大切に育てられた子なんやなあ~と思った。育ちの良さが滲み出てる。

和:かといって、散々撫子ちゃんを振っている八千代君も決して悪い子ではない。過去にあった出来事から「自分には恋をする資格などない」と思っている。でもさあ、高校生男子が実際にそんなストイックさ持ち合わせているもんなん?

昭:自分に想いを寄せてくれる女子の出現なんて、赤子の手を捻るかの如く早々に心持っていかれるな。正直入れ食い状態な訳やし…八千代君の佇まいは…ちょっと信じられなかったよ。

和:そういうがっついた所が、10代の女子には響かないんよな~。モテない訳だよ。

昭:お前が誘導してきたんやろ!そういう自分は?

和:私?きゃぴ子と地味子ちゃんかなあ。昭:うわ来た。

 

和:きゃぴ子っていう名前がまず凄いけれど。見た目というか、出で立ちというか…きゃぴ子って本当に『期間限定彼女』なんやと思う。

昭:可愛いっちゃ可愛いんやけれど。すぐやきもち焼いたり我儘言ってきたり…いつだってチヤホヤされたいっていう印象で。俺は苦手やなあ。

和:頭悪く見えるんよな。フワフワして、連れて歩く分には可愛いんやけれど。深い話は出来なさそう。息抜きにはなるけれど、ずっと一緒には居れない。

昭:俺はそこまでは言ってないぞ。

和:でも。きゃぴ子の背景が見えてくるにつれ、彼女に対する印象は変わってくる。

昭:シングルマザー家庭。結構真顔になってしまう、ネグレクト案件子供時代。挙句母親は昨年再婚してきゃぴ子を捨てた。

和:愛されたい。誰かにずっと可愛いと言ってほしいし、そばに居て欲しい。安心したい。「私たちは愛されるために生まれてきたのよ。」そう言い聞かせて。その叫びをああいう形でしか表現できない。

昭:でもさあ。きゃぴ子だって年を取っていくわけやし、いつまでもあんなキャラクターでは居られんやろう。

和:そうやね。でもそんなきゃぴ子を子供の時からずっと見ていて。そして完全肯定で支え続けた地味子ちゃんの偉大さよ。

昭:きゃぴ子が落ちてしまった時、どこに居たってはせ参じて救い上げてくれる地味子ちゃん。地味子ちゃんこそがきゃぴ子の白馬の王子様。

和:「誰が何と言おうときゃぴ子は可愛い。」まったく…私も地味子ちゃんが欲しいよ。

 

昭:主人公二人はどうやった?

和:「メンヘラ女子は苦手」なんですよ。昭:分かる。

和:もごもごした話し方。「死ぬ」って口癖で簡単に言う所。すぐカッター取り出してリストカットする様。でも大したことのないためらい傷。

昭:先生が授業で語った内容に反応して泣きだす所なんて「ああもう!」ってなったな。

和:でもさ。我々は多分そんなメンヘラ鹿野に距離を取ってしまうけれどさあ。小坂は興味をもって近づくし、きちんと思った事を臆せず言うやん。

昭:「死ぬ死ぬ言って死なないくせに。俺が殺してやろうか。」「なんだよお前の腕。イカ焼きみたいになってるじゃねえか。」「死ね!」

和:「死」とか「殺す」という言葉が本来持つ強さ。でも二人にとって死は全然身近じゃない。だから言葉のキャッチボールの中でポンポン出てくる。例えば我々が言う「暑くて死にそう~。」「お腹が空いて死にそう~。」でも実際にこう言ってるとき死にそうになっている?

昭:なってないよ。そこまで考えて言ってないよ。

和:鹿野と小坂。「死ぬ」「殺す」「死ね」そういうやり取りをしながらも。行動を共にするにつれ、次第に「生きる」事に目を向けていく。「一緒に時を過ごしていこう」そう思った途端の急転直下。

昭:あれはもう…言葉が出なかった。

和:それまで簡単に口に出してきた「死」という言葉の持つ本当の意味。

 

昭:3組の高校生の話は、何となく同じ時間軸では無いな…。ふとした時に「あれ?」という違和感を感じていたけれど。主人公二人の世界が大きく揺らいだ後「うわああああ。とピースが嵌っていく。

和:そうか。きゃぴ子と地味子ちゃんの会話と回想シーンはこう繋がるのか。そして撫子ちゃんの不屈の精神、その背中を押したのがあの子だったのか。

昭:メンヘラをこじらせていた鹿野が、最後あんな表情であんな言葉を言えるとはな。目頭が熱くなったよ…。

 

和:アイドル映画と舐めてはいけない。(そもそもそんな売り方はしていなかったけれど)思い起こせば、特にキラキラした恋愛なんてしていなかったけれど。苦くて、みっともなくて。どうにもならない事はままあった。でもその中で一生懸命だった。そしてそんな時間はあっという間だった。そんな己の記憶の琴線に触れまくって、ぐしゃぐしゃになってしまう。そんな作品。良質な青春映画でした!

 

(ザッザッと歩き出す昭和二人の背中を見送りながら…敬礼。当方の締める隙間なし。)