映画部活動報告「追想」
「追想」観ました。
2007年発表。イギリスの作家イアン・マーキュアンの小説『初夜』。
ドミニク・クック監督にて映画化。
『所謂成田離婚(新婚旅行後即離婚する事)』『婚姻時間六時間だった夫婦』の物語。
1962年。新婚ほやほやのカップル。二人は若く、お互いを愛し幸せだった。なのに。
初夜。たった一度の。そして初めての性生活で二人の夫婦関係は破たんした。
妻フローレンスをシアーシャ・ローナン。夫エドワードをビリー・ハウルが演じた。
2007年当時。結構話題になったんでこの小説は当方も読みました。
そこで感じた「おっとこれは…」という印象。から十年以上経った今。映画として再び観た当方は一体何を感じたのか。~というのを、当方の心に住む男女キャラクター『昭/あきら:男』と『和/かず:女』に忌憚のない会話で語って頂きたいと思います。
和:いやこれ会話って…。きっついわ。
昭:男女の会話形式ってさあ、性別による認識とかを基に議論を交わすって事やん。 ああでもない、こうでもない。だから男ってやあね。とか女って奴は。みたいな。
和:まわりくどいなあ。つまり私たちの回答は『エドワードが不憫』で一致って事です。以上!マイクお返しします!
昭:流石にそれで終わらすなよ。…ただ。そうとしかなあ~。
和:私は女の立場のキャラクターやけれど。フローレンスの描写が貧弱過ぎて、彼女の行動が推測でしか図れないよ。だから彼女のフォローは出来ない。
昭:まあまあ。怒りなさんなよ。って何今回俺の立場。
和:小説を昔読んだ時も思った。ぎこちないセックスをお話全体の中に細切れに挟み込む事でいたたまれない痛々しさは伝わるけれど。そこまでの二人の愛を育む姿とのバランスがおかしいと。
昭:小説を結構忠実に再現したんやなあと思ったね。(原作者が脚本も書いたので当然と言えば当然)会社経営者の娘フローレンスと労働者階級の息子エドワード。二人の出会い。お互い親には苦労していて。でも特に取り上げられるのはエドワードの母親。
和:不幸な事故以降精神疾患を患う母親。美術に造詣が深くて天真爛漫だけれど、その不安定過ぎる病状に家族全体が疲労困憊。そこに現れたフローレンス。母親も含め、次第に穏やかさを取り戻していくエドワード一家。
昭:対するフローレンスの家族が…。かなり重要な背景なはずなんやけれどなあ。ワンマン会社経営者の父親。その暴君ぶりとフローレンスが一体どういう躾けを受けて来たのか。母親も初め達者に対して見下した態度を取っていたし。
和:1962年という年代。性に対してオープンでは無かったと思われる時代で。輪をかけて純粋で。性的な事に対して寧ろ嫌悪感を感じているフローレンス。~という描写、薄くなかったですか?
昭:二人で会ってる時、いっつもいちゃついてたもんな。笑い合って、チュウして、抱き合って。それで「私。セックスは出来ないの」って。何だそれ。どういう思考回路?
和:私には答えられん。何しろ中の人(=当方)は『雪山の山荘で男女数名で孤立』というお題に対して『裸で暖め合う』という回答の持ち主やから。まあ…気が動転してああいう事を言ったんやろうと推測するな。
昭:この作品に対して座りの悪さを感じるのは、正直『これは壮大なコントなのか』と感じたから。
和:おおっと。思いがけず昭さんからぶっ込んできました。我々の二つ目の一致『これは壮大なコントなのか』問題。
昭:だって。映画の冒頭からのホテルの描写。あのホテルマン達なんて完全にコメディやし。はっきり言うと、これまでの二人の純愛メモリーの合間にぎこちないにもほどがあるセックス描写を織り込んで。そしてあの顛末って。コントなの?これどういう気持ちで観たら正解なの?ってなったやん。
和:小説の時にも感じたこの感情。ただ、私はそれは1973年に飛ぶ瞬間の音楽で答えたと思ったね。
昭:確かにこの作品は音楽のセンスが良かったな。
和:1962年パートが終わって。1973年。そして2007年パートは正直すっかり忘れていたので。新鮮な気持ちで観たけれど。ひたすらセンチメンタルで畳みかけていってたね。
昭:もう完全に『ラ・ラ・ランド』の世界。男はひたすら痛みをまとって憂いていって。なのに女はしっかり前を向いて生きていく。なに?あのフローレンスのその後。
和:まあ身も蓋も無い言い方をすると、お堅い処女の初体験はがっついた童貞じゃなくてスマートにコトを運んでくれる相手やったらこんな大事には至らんかったのに、って事でしょう?よっぽど気持ち悪かったんやって。
昭:お前‼!本当に身も蓋も無さ過ぎて爆死するかと思ったやろ!!
和:エドワードにそう言ってやりたい。アンタ不憫やったな。忘れな。って。だってアンタにとっては美しい思い出でもフローレンスにとってはどれだけの恥ずかしい黒歴史か。それを50年も経って姿見せるって。ホラー過ぎるよ。
昭:言い過ぎ言い過ぎ。お前忌憚が無いの意味履き違えてんぞ。駄目駄目もうマイクをお返しします!!
当方一人なら。ふんわりオブラートに包んだであろう感情をむき出しにしてくる『昭と和』。…恐ろしい。
はっきりとネタバレはしていませんが。映画本編(できれば小説も)を観ていなければ絶対に理解できない内容になってしまいました。
ですが。この作品を観た方にはこう感じた者も居るはず…と思うんですが。
ともあれ。二人が離れていく砂浜のシーン。あの美しさと独特のアングル。あれはピカイチのお薦めシーンでした。