ワタナベ星人の独語時間

所詮は戯言です。

映画部活動報告「カモンカモン」

「カモンカモン」観ました。
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マイク・ミルズ監督・脚本。主演、ホアキン・フェニックス

 

ニューヨークに住む、ラジオジャーナリストのジョニー(ホアキン・フェニックス)。

ロサンゼルスに住む、妹・ヴィヴ(ギャビー・ホフマン)から突然来た電話。それは「数日の間、息子のジェシー(ウディ・ノーマン)を預かってほしい」という依頼だった。

 

ジェシーの父親であるポール(スクート・マクネイリー)。才能豊かで期待されている音楽家であり、家族と離れて大きな楽団に所属しているが、精神的に不安定な部分がある。

楽団からの連絡で駆け付けたが深刻な状態であり、ポールの傍を離れるわけにはいかない。なので不在の間息子の面倒を見てくれないかというもの。

独身。仕事の性質からも自由が利く身であるジョニーは快諾。そうしてジェシーとの生活が始まった。

 

『おじさんとボク』

さんざん見たことがある気がする『独り者の中年男性と子供のほのぼのとした日常を描いた作品』いわゆる子育て映画。今作も御多分に漏れず、そういった内容なのですが。

 

どこに出しても間違いようがない、そんな立派な独身中年。子を持たない当方はどうしても「子供あるある~」はわからない。わからないけれど。

「いくら何でもジェシー幼くないか?」

9歳児の発達段階、知る由もありませんが。それにしてもジェシーが幼い気がする(例えば。9歳の子ってカラクリがある歯ブラシとか欲しがるもんなんですか?)

朝から爆音でレコードをかける。大人を巻き込んでの「孤児院の子ごっこ」(おままごと)。スキンシップ大好き。すねたらフラッと姿をくらませる。

学校に通っている描写もぼぼなかった。つまりは…「変わっている」だけではない。集団生活が辛いタイプなのかなあと思った当方。

 

数日だけだと思っていたジョニーとジェシーの共同生活。けれど、ポールが膠着状態でヴィヴは家に戻れない。いつまでもロサンゼルスに滞在するわけにもいかず、二人はジョニーの家があるニューヨークへ移動した。

 

デトロイトニューオーリンズ。そこに住む少年少女にマイクを向け、心のうちを語ってもらう。

「自分の住む町をどう思う?」「自分がもし自分の親だったら何を伝えたい?(言い回しうろ覚え)」時にはそんな質問を出す。インタビュー番組制作がジョニーの仕事。

(これ、一体どこが母体になっているんだ…NPO団体?ニューヨークで独り暮らしができるくらいには稼げているみたいやけれど。まあ大きなお世話でしょうが)

少数精鋭のクルー。都市を飛び回る彼らにジェシーも加わった。

 

「普段少年少女と対話をしているんだから、子供の相手はできるだろう」

ところが。そんな甘い話じゃなかった。ジェシーの行動は予見できないことばかりで、うろたえるばかり。毎日のヴィヴとの電話でジェシーの扱いや普段の奮闘ぶりを聞くことになった。そしてポールの状態に対し真剣にアドバイスをするジョニー。

 

以前、兄妹の関係性は決して良好なものではなかった。

 

かつて母親の介護をしていた二人。認知症が進む母親に向き合うのが怖くて、きちんと関われなかったジョニーとがっつり面倒を看る羽目になったヴィヴ。発生するフラストレーション。言い合い。母親が他界した後、二人は疎遠になりつつあった。

 

けれど。9歳のジェシーを通じて、ぎくしゃくしていた兄妹の関係性も徐々に再構築されていく。

 

「大人はきちんとしている」

当方は子供のころそう思っていた。学校を卒業し職に就く。結婚し子供を産み親になる。大人は人の嫌がることはしない。しっかりしていて分別がある。漠然とした大人像があった。

 

「ところがどっこい。きちんとした大人なんて…下手したら存在しないぞ」

生活する手段は得ておきたいけれど。結婚して子をなさないと大人じゃないなんてことはない。意地悪な人もいるし、だらしない気持ちに負けるときはおおいにある。

つまりは「完璧な人なんていない」「人は人。自分は自分」。

 

これからの成長過程で、ほかの人より辛かったり気になることが多いかもしれない。けれど、そんなジェシーに「だから何だ」と言ってあげれられる。

ジェシーの周りにいる大人たちを見てごらんと。

 

精神的に不安定であったり。誰かと暮らしていなくてひとり。でも…だからなんだ。

いくつになっても不安を感じたり憤ったりする。感情に任せてしまう時もある。恥ずかしい思いをする。くよくよする。そういうことはなくならない。

 

誰かと一緒に生きていなくても。かつての恋人が忘れられなくても。恋ができなくても。これが自分だ。

完璧じゃないけれど、それなりに整った風に見られたくて。大人になると周囲に対して着飾る知恵がつくから、一見落ち着いて見えるけれど…内心ひやひやしているときだってある。

 

ジェシーとの共同生活は、蓋をしていた自分自身を見つめなおす機会になった。もういい歳、思えば遠くへきたもんだ。そう思っていたけれど…同じような場所でいまだにもがいていた自分がいた。

 

でも。そんな不格好な自分や大人たちを見たらいい。ジェシーが「大人はきちんとしていなければならない」とがんじがらめにならずに済むように。

 

大丈夫。大丈夫じゃなくても大丈夫。

 

全編モノクロ作品。確かにカラーだと情報量が飽和しそう(…と思う反面、ラスト周辺は色彩豊かに観たかった気もする)。

「君は幼いから。きっと忘れるよ」「そんなことない。絶対に覚えている」(言い回しうろ覚え)ベットでジョニーとジェシーが交わした会話。

 

てんてこまいだった日々も、後になったらふんわりとした記憶にしなからない。色褪せた…モノクロの…けれど確かにそんな日々は存在した。決して楽しいことばかりじゃなかったけれど。長い目で見たら一瞬で、けれど濃密だった。

 

お話もモノクロ映像も。そしてサントラも良かった。穏やかで心が満たされていく作品。思いがけず出会えた良作でした。