ワタナベ星人の独語時間

所詮は戯言です。

映画部活動報告「最初の晩餐」

「最初の晩餐」観ました。
f:id:watanabeseijin:20191203080220j:image

父が亡くなった。

久しぶりに家族と親戚が集ったその夜。通夜振る舞いは『目玉焼き』で始まった。

 

構想7年。脚本も手掛けた、常盤司朗監督作品。

東家。父・日登志(永瀬正敏)が闘病の末亡くなった。東京から帰省した、カメラマンの末っ子麟太郎(染谷将太)。地元で結婚し二児の母となっている姉・美也子(戸田恵梨香)と通夜の準備をする中。母・アキコ(斉藤由貴)が通夜振る舞いは仕出し屋ではなく自分で作ると言い出す。

一人台所にこもって。何やらこさえる母に怪訝な表情を隠せない姉弟

やがて運ばれてきたのは目玉焼き。ざわつく親戚らの中、つぶやく麟太郎。「これは親父が初めて俺たちに作ってくれた食事です。」

具沢山味噌汁。キノコピザ。焼き魚。餃子…懐かしい手料理の数々は東家で起きた出来事を思い出させる。

20年前。互いに連れ子同士で再婚した両親。母アキコの連れ子だった年上の兄、シュン(窪塚洋介)。初めはなかなか打ち解ける事が出来なかった。けれど少しづつ二つの家族は歩み寄り、一つの家族になった。…けれどあの15年前の日。

家族は再びバラバラになってしまった。

 

父が残した一冊のノート。そこに記された思い出のメニューが。懐かしく、どこか苦い東家の日々を振り返り…止まった時間を動かしていく。

 

通夜振る舞いで出された料理にまつわるエピソードで話を進めていく。

 ~という。非常に素朴ながら。丁寧に丁寧に家族のヒストリーをあぶりだしていく作品。

またねえ。キャストが豪華。全員主役級の俳優たちで固めながら。けれど誰も突出し過ぎない。(そして20年前の東家の子供たちを演じた子役たちの透明感も半端ない。)

物語は淡々と進行していくけれど。単調さは感じなかった。

 

15年前に東家に起きた出来事。何かが起きた。長男シュンはある日突然家を出て。そして現在まで音信不通。シュンより年が離れていた美也子と麟太郎には結局何が起きたのか分からずじまいのまま。「よけものにされた」気持ちは両親への不信感に繋がり、せっかく出来ていた信頼関係にひびが入ってしまった。

 

父が恋人の存在を明かした日。初めて5人が顔を合わせた日。一緒に暮らしだした頃。やっと打ち解けあえた頃。家族皆で山に登った事。楽しかった思い出。けれど。

父とシュンが二人で本格的に登山を始め。二人きり。男同士で話す事が増えた頃。両親にとって何かが起きた。それを知ったシュンが東家を出ていく程の事が。

 

「ねえ。二人にも知ってもらいたいの。」

通夜振る舞いも終盤で。母が語った真実。今は家族を持つ美也子はそれを知って号泣したが。普段周りから「冷たい」と言われてしまう麟太郎は困惑、美也子に問う。

「家族って何なの?」「姉ちゃんなら分かるんだろう?家族って何?」

 

よくよく話のあらすじを振り返ると、結構シンプルなんですが。(正直この『真実』も「再婚同士なら無くはないと思う…というか既婚者がパートナー以外と恋に落ちるってこういう事やし。」と冷静に受け止めた当方。まあ…多感な年ごろなら仕方ないのか??)肉付けの仕方が情緒に溢れている。何だかハートフルに着地したし…。

 

とまあ。何故こんなに歯切れ悪い文章をもごもご書いているのかというと…。

 

「この通夜振る舞い自体が余りにも非現実的だと思っている当方がいる。」

 

通夜振る舞い:故人との最後のお別れをする食事会。親族、親しい友人などで行う。故人を偲んで皆で思い出話をしたり酒を飲むのが一般的で、故人への供養やお清め。遺族から弔問客へのお礼といった意味がある。(ライフサポートプラスから抜粋、勝手に省略)

 

亡くなった父日登志が残した思い出レシピノート。それを再現したメニューを通夜振る舞いに充てる。確かに「故人を偲ぶ」には最適かもしれないけれど…。

 

「初めの目玉焼きならまだしも。直後に具沢山味噌汁(汁物ってお腹膨れるんよな)。ピザ(手間!)。焼き魚(手間!)。これらを母アキコがワンオペで?!キッチンスタジアムでも何でもないただの一軒家の狭い台所で?そんな大勢の相手を対象とした鍋窯とか…巨大オーブンとか東家にはあるの?魚焼きグリルは??」「ブレーカー落ちるぞ!」「おい娘美也子!そして親戚席に座っている女性陣よ!女だからとかそういう意味じゃなくて主婦なら分かるやろう?!立て!台所に集合!アキコを手伝え!これ段取り無視の乱発メニューもええ所やんか。一人で切れ間なく食事提供とか絶対無理やで!」「まさかの途中から餃子を餡から作るの?これ一晩では終わらんで!」「誰が最後まで食べれんの!途中で吐いたりでもせん限り食べきれんで!」「アキコはいつの間にここまでの食材を集めてたの?アキコはあれか。普段は給食センターとか食堂で働いてんの?」

 

無粋なのは承知ですが…突っ込まざるを得ない。あまりにも料理のバリエーションが広すぎるし、メニューの組み立てが作る側食べる側双方にとって無茶過ぎる。

 

当方が客人なら…いてもたってもおられなくなる。「あの…何か手伝いましょうか?」故人を偲ぶ会どころじゃない。こんなの正気の沙汰じゃねえ。おい酔っ払いども(叔父と麟太郎)!喧嘩してんじゃねえ!(もう一つ言うと、これ相当な洗い物も出ると思うんよな…。)

 

母親は狂ったメニューを淡々と提供。子供たちは母親を大して手伝うわけでもなく。そして最後に現れた長男シュンによる、まさかの締め『すき焼き鍋』。悲鳴…。

これまた。『実は美也子と麟太郎は知らなかった、父とシュンのエピソード』が添えられるのですが。それよりも。「味の確変は個人の取り皿でやってくれ。」父日登志の代わりにシュンにかすれ声でつぶやく当方。お前にとっては美味いのかもしれんが。それは止めてくれ。

 

「バカバカバカ!そういう目でこの話を観るんじゃない!」そういうお叱りの声、しっかりと受け止めますが…どうしても目を瞑ることが出来なかった。

(後。もう一つ気になったのが…台風?来てませんでした?雨戸とかさあ。閉めないの?ガラス戸ってめっちゃ弱いで??)

 

多分当方が幼少期に。祖父祖母の時、田舎宅での通夜葬式で見た光景も相まって。(田舎故にある、外のかまども使って、女性陣総出で料理してました)「こんなん無理やって!」が止まらず。ファンタジーとして割り切る事が出来なかった。(そういう総出の共同作業も後々故人への思い出になるんやけれどな…。)

 

「確かになかなか集う事が出来ない家族なんやろうけれど。後日残された家族だけでこのメニューをぽつぽつ食べながら話をして、というのではどうなのかな。性急過ぎやしないか。」

 

家族ってなんだ。かつては二つの家族だった。それが一つになって。なのにまた離れてしまった。けれど…再び彼らを繋ぎとめたものとは。家族ってなんだ。でもそんなの、一体誰が答えられるんだ。模範解答なんてない。ただ一緒に居たい。それだけ。互いにそう思えたら。それが家族。

 

そんなハートフルに着地しながらも。何故かその過程で大食いチャンピョン的な何かを見たような気がして、どこか落ち着かない当方。

 

「ああ。頼むから食べ残しが余り出ていませんように。そしてどっと疲れた母アキコが倒れた時は…3人の子供たちお願いします。」

いかんせん。余計な心配が尽きないです。