ワタナベ星人の独語時間

所詮は戯言です。

映画部活動報告「ワイルドライフ」

ワイルドライフ」観ました。
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「14歳。僕は父から男のプライドを。母から女の逞しさを学び。そして大人になった。」

 

俳優ポール・ダノ初監督作品。キャリー・マリガンジェイク・ギレンホール出演。

地味でもっさりした風貌とは裏腹に。俳優のキャリアは幅広く多才。そして私生活ではゾーイ・カザンとパートナー。そんなリア充(あくまでも当方の印象です)ポール・ダノ

近年で言えば、2017年ワタナベアカデミー賞作品賞受賞の『スイス・アーミーマン』等々。映画部部員としても大好き俳優の一人。そんな彼の初監督作品。

またキャストが豪華。キャリー・マリガンジェイク・ギレンホールが夫婦なんて。あんなに濃い顔立ちの父親からポール・ダノっぽい顔の少年が生まれるもんなんですかね。そう思わなくもなかったですが。

「ああこの少年。M・ナイト・シャマラン監督の『ヴィジット』に出ていた少年やん。」

主人公ジョーを演じたオクセンボールド、ビル・キャンプ。「おばあちゃん、ぼけてるの?それとも…やばいの?」壊れた老人たちが織りなす恐怖映画に出ていた孫の少年。「おっと。この少年のデコの広さ。なんか胸がざわざわするな。」そう思わせたあの少年。

何だか前置きが長くなってしまいましたが。映画を観た先人たちの評判も良く、そして監督及び出演俳優陣も気になったので。観に行った次第でしたが。

 

「これは…丁寧に…丁寧に家族が壊れていく様を描いている。」「大人が完璧じゃないって。確かに子供が初めてそう気づくのは両親なのかもしれないな。」

 

1960年代。カナダに近いモンタナ州の田舎町。親子三人で引っ越してきたばかり。

父親のジュリーはゴルフ場勤務。専業主婦のジャネット。そして一人息子のジョー。

田舎での生活がやっと軌道に乗り始めた頃、ジュリーは職場から突然解雇されてしまう。

なかなか次の職を見つけられず。挙句の果てには山火事を消す出稼ぎに旅立ってしまったジュリー。残された母子の生活は暗礁に乗り上げ。母ジャネットはスイミングプール、息子ジョーは写真館で働き始める。

幸せだった家族。その歯車がきしみ始め。家族の元を離れてしまった父親。孤独感と寂しさから、許されない処ににすがってしまった母親。

あの素晴らしい愛をもう一度。そう願うのは息子だけ。覆水盆に返らず。どうやっても戻れない夫婦の関係。その切なさ。

 

それをまあ。大自然の田舎をバックに、あまり緩急をつけずに描いていくもんで。

ちょっとでもお疲れ食後ボディで挑もうものならば。下手したら眠りにいざなわれる。けれど。万全の睡眠と集中力を持ってたら。心のやらかい所を締め付けられる事必須。

(当方は…一瞬まどろみの世界に連れていかれましたが。話を見失う事はありませんでした。)

 

「なんかなあ。分かる気がするよ。」

個人的な話ですが。1990年代中盤。日本経済が本格的に落ち込みだした頃。当方はまさしくジョーと同じく10代半ば。

当方の父親の職にも不景気の波ががっつり押し寄せた。その頃を何となく思い出してしまいながら鑑賞していましたが。

 

ジョーの目から見た両親と家族。決して生活は裕福ではないけれど。ジュリーは昼間働いて、夕飯は家族で揃って食べる。その日あったことなんかを話しながら。夜は両親はお酒を飲みながらゆったり過ごす。彼らの傍ら、宿題をして。分からない所は両親が見てくれる(ジャネットは元教師)。そんな何でもない、穏やかな日々。平凡だけれど安心して過ごせる幸せ。なのに。

ジュリーが職場を解雇された事で一変してしまった。一方的な解雇だったので、すぐに職場からは復職してほしいと依頼がきたのに。プライドが許さず元には戻れなかったジュリー。けれど新しい仕事を探す気にもなれない。鬱屈とした日々。

このままでは生活がたちゆかない。働き始めたジャネット。バイトを始めたジョー。

これでジュリーが次の仕事を見つけてくれたら。そう思っていたのに。まさかの『山火事を消す仕事』という出稼ぎに出てしまう。

 

「生活力が無い男のロマンほどばかばかしいものは無い!」

夢やロマンなど、何かしらの生活の基盤あってこそ。そう思うのに…山火事?何それ?しかもそれ…かなり危なそうなのに。どれくらいの収入になるの?

 

「娘さんよく聞けよ 山男にゃ惚れるなよ」「山で吹かれりゃよ 若後家さんよ」

(ダークダックス/山男のうた)

 

こんな田舎町で家族三人。引っ越してきたばかりでまだ友達だっていない。貧しくったっていいじゃない。一緒に今の状況を打破しないの?どうして?

ゴルフ場だってあなたの腕を認めているのに。悪かったのはこちらだ。帰ってきてくれって言ってるのに。

ジャネットの気持ち、痛い位に分かる。残されたジャネットが、スイミング教室で出会った金持ちに気持ちを引っ張られるのもこれまたよく分かる。けれどなあ~。

 

きれいごとを言うならば…両親共に「息子が居るんやから。あんたがしっかりしないと。」なんでしょうが。そんなの詭弁。

 

おそらく20代で結婚し息子が14歳。そんな30~40代の男女。

父親であり母親。けれどそれ以前に男であり女である。家族を作り、生活してきた。けれどその基盤が傾いたとき。

勿論家族は大切だけれど。それでも守りたいポリシーがあった。

一人になってしまった。これからどうしよう。寂しい。誰かそばにいて。抱きしめて大丈夫だって言って。そんな時。『誰か』が現れてしまった。

 

当方は(独身)貴族なので。家族を持つ気持ちは想像でしかありませんが。けれど30~40代の世代として、この男女の心理は共感し理解できる。

誰も悪くない。誰かが何かを少し我慢すればこういう事態は避けられたとは思うけれど…もう哀しい位に関係は崩壊に向かっている。不可逆的に。

 

大人になってしまった側から観れば。溜息ばかりですが。そりゃあ現在進行形で家族が壊れていく渦中に居る息子ジョーは辛い。辛すぎる。

 

「でもな。大人になるってこういう事なんよな。」

理不尽で。自分の意志ではどうにもできない。泣いて喚けば状況が変わるのならばそうする。でもそんな事では何も変わらない。そういう事って生きていると時々起きる。

 

変わっていく家族の形。けれど変わらない事もある。家族全員にとって苦しかった日々も、後になれば全てが悪かったわけじゃない。

 

ポスターにも予告にも使われた家族写真のシーン。あの家族にあった出来事と、それを経ての夫婦の関係を一枚に収める。確かに秀逸なシーン。

 

リア充俳優ポール・ダノ。恐るべし。なんなんだこの情緒は。余韻は。

初監督作品とは思えないレベルに「チッ。すっげえな。」当方は舌打ちが止まらないです。