ワタナベ星人の独語時間

所詮は戯言です。

映画部活動報告「カメラを止めるな!」

カメラを止めるな!」観ました。
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2018年。今年夏の社会現象と言っても過言ではない化け物映画。『カメラを止めるな!』。

ENBUゼミナール発。上田慎一郎監督作品。(ENBUゼミナールと言えば、当方は2014年『殺人ワークショップ』白石晃士監督作品を連想します。)

 

6月公開。東京での一週間限定レイトショー作品にも関わらず、観た者達の口コミから火がついて。遂には全国まで公開が拡大している作品。

「何か凄いやつ観た。」「何あれ。」「終始バカバカしいのに、最後には涙が。」「ちくしょう!」そんな悲鳴にも似た感想の断片を目にして。膨らむ期待にじりじりしながらひたすら待機。そして8月。当方の住む地域でもやっと公開封切り。

連日ネット座席予約組による『満員』表示を憎らしく眺めた一週間。満を持して観る事が出来ました。

 

舞台は山奥の浄水場。そこで行われていた『ゾンビ映画撮影』。と言っても自主製作作品。低予算バレバレのチープな撮影隊。なのに。こじんまりとした所帯とは裏腹に、こだわりが強い監督。監督の終わりの見えない撮り直しに全員が疲労困憊。最早一体何が監督の望む世界なのか誰も理解できず。見つけられず。手立ても無く。

そんな中。まさかの『本物のゾンビ』が撮影隊を襲う。

 

という内容のショートムービーが冒頭から37分。確かに緩い。「何この間。」「おいおいアイツ…何してんの?演技してなくない?」「グダグダの会話。どうしたどうした。」「このゾンビの役者さん。凄いな。」「えっつ。こんなカメラワーク、ありなん?」「何でこの役者さん熱量が振り切れてんの?」観ている側は「おいおいおい」の連続。けれど。これが噂に聞いた『冒頭37分、ノンストップ』と知っているから。一応にドキドキしながら。最後「無事終わったあ~」とほっとした前半。

 

カメラを止めるな!』は前情報が無い方が良い。と言うよりも「映画そのものの内容をなぞりにくいし、出来たとしてもそれをするのは野暮」と思いますので。

 

地方勢当方が。実際に住んでいる地域にこの作品がやって来る前に聞いたネタバレのみを提示したいと思います。

 

『冒頭37分。グダグダのゾンビストーリーが展開される。しかしそれは驚異のノンストップ一本撮り』『以降は『どうしてこのゾンビストーリーが産まれたのか』が語られる。』

 

「ああこれ。『ラヂオの時間』系だ…。」

 

三谷幸喜作品の中で当方がぶっちぎりに大好きな映画。『ラヂオの時間』(97年)。

とあるラジオ番組の生放送ドラマ。そこで大御所女優が言い出した我儘に皆が振り回され。けれどそこは生放送。出演者スタッフ総力を挙げアドリブで対応。次第に物語は壮大なスペクタクル作品へと化けていく。

 

この作品も同じ。生放送一本撮りという、やり直しの効かない限られた空間で。次々と巻き起こる珍事件。けれど各々の持ち場で。そのスペシャリスト達が最大限の力を発揮し、物語を繋いでいく。

 

「そんなの…心を打たないはずがないよ。」

 

当方はすっかりくたびれた中年なので。ティーンエイジャーや学生、新社会人世代がこの映画を観てどう思うのかは分かりませんし、正直今の所当方には彼らの声は聞こえていません。それよりも。

 

当方が聞いた声。それは所謂『何かを表現するお仕事をする人達』の声。そして『映画を愛する人達』の声。そんな『くたびれ切った中年』の声。彼等の悲鳴。

 

日々与えられた仕事をコツコツこなしてきた。時を重ねて失敗をしなくなった。そつなく一定のクオリティを叩き出せるようになった。そんな安定した自分が。久しぶりに課せれらたイレギュラーなミッション。

自分ならやれる。これまでの経験は自分にとって多くの引き出しを作った。それで対応出来る。そう思ったのに。

何だこれの連続。全然思った通りにいかない。複数の人間が交差する現場で。思いもよらない事件が立て続けに勃発。

これは無理。そう言いたい。けれど。崩れた事態を必死に立て直そうとする仲間が居る。無様に転んだ奴も再び起き出して。必死に出来る事を考える。一緒にやる。一人じゃない。これは皆で作る仕事。投げ出せない。

 

「観ている人が居るだろう!」「どこに?」「~居るんだよ!!」

何故こんな事をしている?誰の為に?今の自分に観客は感じない。今は誰も見ていないかもしれない。けれど。それがなんだ。ウケなんか狙わない。

今の状況は非常事態だけれど。これは自分のやりたかった事でもある。

何が引き出しだ。そんなもの…いっそ全部ぶちまけろ!今だ。

 

カメラを止めるな!

 

回せ回せ。今は誰も観ていなくても良い。馬鹿馬鹿しくても良い。笑われたって良い。兎に角今。互いにやれるベストを尽くせ。

これが自分達の仕事だ。

 

 

一度観た「おいおいおい」と思った映像が。幾重もの背景を帯びて。「そういうシーンだったのか」「こういうことか」その肉付けに。チープなはずのこのストーリーが愛おしくなってきて。自然と涙が出てきた当方。

 

話題になっている要因として。低予算。それ故の短い撮影期間。そこからのシンデレラ映画。という側面はありますが。それだけじゃない。というより、注目すべきはそこじゃない。

単純に面白い。胸を打ちすぎて辛い。そんなお仕事映画。

 

それをスクリーンで観られた幸せ。

 

「この騒ぎが収まったら。また映画館で観よう。」そう誓う当方。

 

「最後まで席を立つな。この映画は二度はじまる」

この映画ポスターに書かれた文言。

 

エンドロールでの映像を観た時。三度目が始まったと。また涙が浮かんだ当方。