ワタナベ星人の独語時間

所詮は戯言です。

映画部活動報告「犬猿」

犬猿」観ました。
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『さんかく』『ヒメアノ~ル』吉田恵輔監督作品。

 

真面目なサラリーマン、一成(窪田正孝)。強盗で服役していて出所したばかりの兄、卓司(新井浩文)。そして小さな印刷工場を切り盛りする由利亜(江上敬子)。同じ工場に勤務し。中途半端な芸能活動をする妹の真子(筧美知子)。

とある兄弟、姉妹。かけがいが無いはずだけれど。どうしても愛せない。でも憎み切れない。そんな二組の『きょうだい』のお話。

 

当方は第一子でして。二つ下に妹が居ます。

当方が小学5年生の時。無神経で嫌われていた家庭科教師が居まして。

忘れもしない『家庭科だより』というしょうもない新聞。4コマ漫画を担当した当方が漫画を提出した時。二人っきりで。あの大っ嫌いな教師が放った言葉。

「お宅は顔が可愛いのは貴方(当方)だけれど、賢いのは妹さんね」

今でも全身を震わせるくらい失礼な言葉。雷に打たれた位の衝撃。(加えて、何の脈絡もないという腹立たしさ)

緑黄色野菜たちがグダグダ言う漫画のオチも、明らかに落ちていない感じに無理やり変えさせられ。そして帰宅したら遠くに住む父方の祖母の訃報。

大人たちが悲しみに暮れる中。全く違う、誰にも言えなかった案件でおいおい泣いた当方。

「当方だけではなく、妹も馬鹿にされた」

当方は馬鹿扱いされ。でもそれ以上に、妹は不細工扱いされた。それが悔しくて。

当方は確かに頭が悪く、妹は秀才だった。けれど、それに対して引け目に思った事は無くて。寧ろ自慢だった。対して当方は特別愛らしい見てくれでは無かったけれど。妹に何かを言われた覚えは無い。(そして妹は不細工では無い)

妹はちょっとした事はあったけれど、エリートコースを今でも驀進し。当方は安定した職を手に付けて現在に至る。

互いに「クラスメイトなら友達にはならなかっただろう」とは言うけれど。ずっと仲は良くて。今でも二人で一緒にどこにでもいけるし…正直お互いこれからも伴侶には恵まれないだろうから、このままなら余生を一緒に過ごす事になる。でも嫌じゃない。

 

「あんな奴、兄弟じゃない」「顔も見たくない」当方はそんな巷の言葉は信じられなくて。…まあ。色んな形態があるとは思うので…幸せな関係に居るんでしょう。有難い事です。

 

地味だけれど。両親を支えながら営業の仕事をしてきた和成。そこら辺のいきがっている奴らも怖がる兄貴、卓司の出所。そして卓司が自宅に転がり込んできた事でかき回される日常。

行きたくもないキャバクラに連れて行かれ。そこで暴れ。自宅にはデリヘルを呼ばれ。

「最悪だ」と顔をしかめるけれど。

「どこかで憧れている生き方」のエッセンスもあるから…一概には切って捨てられない。

「なんだよあの車」「男ならでっかい事しろよ」「安っすい酒飲んで」憎たらしい。そんな事、言われたくない。けれど。ふと見てしまう、ディーラー。帰った家。溜息ついて。けれど。

「最近頑張ってるな」そう言って肩を叩いてくれる人の存在。忘れてはいけない。自分がきちんと積み上げた事を。

窪田正孝新井浩文。安定の手練れ役者がきっちり焦燥感を積み上げる中。かなり異色ながらも面白い化学変化を起こした、江上敬子+筧美知子。

下町の小さな印刷工場。家内工業で、家長であり社長である父親が倒れ。働いていた長女が社長の座を継ぐしかなかった。けれど。残った従業員をきちんと食べさせるだけの技量を彼女は駆使し。そしておそらく取引先からも「地味で小さいけれど。きちんとした仕事を素早く低コストでやってくれる会社」(そういうの、貴重ですよ)として重宝されているんだろうと。…多くは語っていないけれど、そういう池井戸潤テイスト町工場。下手したらロケットとか人工弁をニットから作る会社(日曜ロードショー)な訳ですよ。

その女社長、由利亜。

恐らく脳梗塞後寝たきりになった父親の介護もしながら。彼女の働き方や生き方をNHKでダイジェストすれば「抱いてくれ!」と日曜21時の友が殺到する案件なのに…如何せん彼女は恋する乙女。取引先の営業マン、和成に片思い。

「お前かああ」こんな若造、お前さんの良さなんか分からんよと思いきや、案の定妹の真子に行ってしまい。

「切ないいいい~」あの遊園地の下り。手ぬぐいの下り。悶える当方。

あんな乳しか取り柄のない妹に。そしてそんな妹になびいてしまったような若いアンチャンに。なんでまだ執着しなればいけないのか。

(でも。あの妹の空っぽ故の切なさも良かったですよ)

 

「普通に考えれば、手練れの兄に行けば良いのに。あのチャーハンの下りから。ぐっだぐだのエロい展開に持ち込めるのに。それで良いのに(キャラクター的にも合ってるし)」もどかしすぎてのたうち回る当方。けれど。

 

「好きって、そうやって割り切れるもんじゃないんで」

だから。みっともなくも足掻いてしまう。貴方、本当に分かってるの?あの子の事。

そうすればそうする程。墜ちて行くのは自分の方で。

 

二人とも、本業が女優では無いのに…凄く上手かった。もうあの姉妹にしか見えなくて…それは…大成功ですわ。

 

終盤。もうどうしようも無い渦に飲み込まれていく、二組のきょうだい。

でも。当方が観た世界。弟と妹のカップルは互いに初め「うちの馬鹿は」という切り口ではあったけれど。

「兄ちゃんは馬鹿じゃない」「お姉ちゃんは頑張ってる」と必死に相手に主張し。

兄と姉は崩れそうになりながらも「弟を守ろうとした」「妹を認めていた」という行動原理を提示し。

「ちくしょう…。何故今日に限ってタオルを持っていない!!」映画館で。溢れる涙をどうも出来なくて、鞄から手袋を出し、それで顔を覆った当方。

 

「当たり前だよ。きょうだいが憎い訳がない。」

 

ちょっとあっけない位に綺麗に落ちた感じもあったので…「吉田監督にしては大人しく終えたな」という感じもあるのですが。

 

こういう話は。嫌いにはなれないです。