ワタナベ星人の独語時間

所詮は戯言です。

映画部活動報告「バグダッド・カフェ」

「午前十時の映画祭 バグダッド・カフェ」観ました。
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1987年。西ドイツ映画。

 

アメリカ。モハーヴェ砂漠の中、ぽつんとあるモーテル兼カフェ兼ガソリンスタンド『バグダッド・カフェ』。
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かつて賑わった時があったのかもしれないけれど。店は寂れ。掃除も行き届いていないので尚更みすぼらしい状態。

働かない夫。好き勝手な事ばかりしている二人の子供。幼い孫。悪い者ではないけれど、決して働き者では無い従業員。寂れた店にも、だらけた周囲の人間にも全てに苛々してヒステリックに当たり散らす、女主人ブレンダ。
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ある日。汗だくでスーツケースを引きながら、歩いてやってきたドイツ人の旅行者ヤスミン。
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久しぶりの宿泊客なのに不愛想に対応するブレンダ。

「一体何者なの?」怪しんで、追い出そうとするけれど…全く去る気配を見せないヤスミン。

 

「何か。有名ではあるけれど…結局よく知らない作品。」恥ずかしながら未見。

しかも今回、他の映画鑑賞とのスケジール調整で『バグダッド・カフェ』を選択した当方…でしたが。

 

「これは‼」些末な出来事やらにささくれ立っていた当方の心に。乾いた場所に。しみじみと何かを満たしてくれた…恐らく近日中にBD購入案件。

 

はっきり言うと『雰囲気映画』『何も起こらない』『辻褄が合わない』『自称映画通を名乗る奴がファッションアイテム的に選ぶ映画』そうやってとられかねない。だってそうだから。確かに雰囲気映画で、大きな事件が起きる訳でも無い。淡々と話は進んで。辻褄なんて全然合わない。ツッコミどころは幾らでもある。けれど。嫌いじゃない。寧ろ好き。

 

北風と太陽の話。あの「旅人のコートを脱がせる」というレギュレーションに対して。冷たい風で無く、温かい日差しで旅人はコートを脱いだ。

分かりやすい教訓。『凍てついた人の心は、優しさに依って溶かされる』この作品のテーマも同じ。

 

物語の初め。ドイツから夫婦で車でアメリカ旅行に来たヤスミン。何かで夫と喧嘩になって。砂漠に一人放り出されたヤスミン。
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とぼとぼ歩く彼女の後ろ姿~の『calling You 』。震える当方。

 

そして舞台は変わって。バグダッド・カフェ。店の面々と、一人キレまくっているブレンダ。正直げんなり。夫もブレンダに愛想を尽かして出て行ってしまった。

 

男女に関わらず。落ち着いてまともに話が出来ない人間。大声を張り上げて相手を威圧して。そういう人間が大嫌いな当方からしたら、「ブレンダを出すな!!」と苛々する事この上なし。(しかも物語の中盤位までブレンダこの調子)

 

「一体何者なの?」「本当に旅行者なの?」「何故同じ服ばっかり着ているの?」(ヤスミンが車から降ろされた時に持ってきたトランクが夫の物で。男物しか中には入っていなかったから)うさん臭い、ドイツ女。とっとと出て行って。なのに。

 

最悪のおもてなしをしているにも関わらず。どっかりと居座るヤスミン。そしてブレンダが買い出しで不在の内に、店を徹底的に掃除。

ブレンダは烈火のごとく怒っていたけれど。結局綺麗な事務所は使いやすい。そしてそんなヤスミンの姿に、惹かれていくバグダッド・カフェの面々。

 

ビッチの娘。いつもピアノを弾いていると怒鳴られていた息子。不思議な雰囲気の従業員。隣のワゴン車に住む、カフェの常連客(画家)。初めこそ、皆一応に距離を取って様子をうかがっていたけれど。
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ヤスミンの柔和な雰囲気に。チャーミングな魅力にすっかり魅せられてしまう。すっかりヤスミンに懐柔されてしまう。

 

そして。遂に難攻不落と思われたブレンダの心が、ヤスミンに依って溶かされる。意外とあっさりと。

 

「何で?」「それ何で?」「って言うか。ヤスミンの背景、説明無さ過ぎやろう」ずっこける当方。

 

映画作品の中で起きる事象や人物について、作品内で全て説明せよとは当方も思いません。話には奥行きや個々が感じ取るべきものがある。けれど。…けれどこの作品は余りにも余白が多すぎる。

 

「そもそもヤスミンの夫はどうなったんだ」「ヤスミンの人物描写がふんわりしすぎ。人が良くてお茶目だという事しか分からん」「手品のキットとか民族衣装とか。一体ヤスミンの夫は何者なんだ」「お金、どうしてるの?」「子供の話。それ以上しないの?」大体はヤスミンのリアルな背景に対する疑問。

 

まあでも。それ…きっちり説明しだすと野暮になるんでしょうし、この作品でやりたいのは『北風と太陽』なんでしょうし。

 

溶かされたブレンダの変わり様。最終にはすっかり丸くなっちゃって。まあ最後は皆ニコニコで。店も何故か『手品カフェ』として大盛況。いい人達が集う場所なんでしょうな。ハイウェイカフェなんで大体はトラック野郎なんですが。こんな中年女性二人の手品でワクワクして集まってくれて。お酒も出していないのに。

 

「あ。そうやった。ヤスミンって旅行者やった」そんな急転直下の後。また再会。
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「ここで終わっていたら神映画やったと思う」そう思うんですがね。ちょっと最後蛇足な上に意味不明かなあと。

 

そういう不器用で不思議な作品ではありますが。観ていたらしみじみ癒される。やっぱりギスギスした気持ちで日々を過ごすと腐ってしまう。そんな単調な毎日に、何か面白い事を運んでくれる存在。そうやって一緒に笑って。そうしたら世界はガラッと変わる。

 

音楽も良いし、何より画が綺麗。夕暮れの日が落ちる所。ぽつんと寄り添うワゴン車。広大な砂漠の一本道の中にあるバグダッド・カフェ。美しい。

 

『オサレなカフェかバーで流れる映画』(あの、無音にしているやつ)当方の中であんまり中身の無い、けれども画的に綺麗な作品を揶揄して示していましたが。

「これはまったりしながら。お酒か紅茶片手(当方はコーヒーが飲めないので)に観たい」

当方初めての『店で流して欲しい映画』(勿論それなりの音量で)認定。

まったりまったりしながら。溶けて観たいです。