ワタナベ星人の独語時間

所詮は戯言です。

映画部活動報告「スイス・アーミー・マン」

スイス・アーミー・マン」観ました。
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とある無人島。船で海に出て。そして難破。一人辿り着いた無人島。

恐らく幾つかの時を経て。孤独さ故に自殺しようとしていた青年ハンク(ポール・ダノ)その時。彼の目に飛び込んできた、死体のメニ―(ダニエル・ラドクリフ)。

自殺するムードぶち壊し。死体から絶えることなく聞こえるオナラ(腐敗ガス)。

でも…もしかして。もしかしてそのオナラ…。またがってみたら発進。ジェットスキーよろしく、無人島を脱出したハンク。そして現れるタイトル『スイス・アーミー・マン

 

「悪くなるはずがない」映画館の暗闇の中で。一人満面の笑みの当方。絶対これは好きな映画。間違いない。

 

ハリー・ポッターシリーズの主演。ダニエル・ラドクリフが死体役』そんな売り文句で。イロモノ面白枠。当方もその気持ちで観に行った輩でしたが。

 

「くそ…涙が」ぶっ飛んだ設定。中学生並みの下ネタ連発。なのになのに。

「孤独とは」「恥ずかしいとは」「対人関係における信頼とは」「愛とは」何だかとんでもないテーマの応酬に、自身のパラメーターをどう置いて良いのか定まらず。下手したら自身のやらかい所を無茶苦茶に押されて。どうしょうもない位に打たれてしまいました。

 

どこまでネタバレせずに行けるのか…。超個人的な備忘録とは言え、ネタバレ上等とは思っていないので…最小限で頑張ってみたいのですが。

 

「まあ。やっぱり言うとしたら役者チョイスの成功」

死体のメニーこと、ダニエル・ラドクリフ

言わずと知れたハリポタ。でも…多分彼はハリポタの印象を払拭すべく、近年敢えて変な役にチャレンジしている。当方が観たのは『ホーンズ』位でしたが。

当方はハリポタに関しては原作を義理的に全巻読みましたが。別にポッター映画は興味が無く。『何曜日かのロードショー』で観た程度。なので当時の彼の演技云々についても一切語る事は出来ません。出来ませんが。

 

「悪いけれど。ラドクリフは今の方が絶対好きだ」

 

今回。改めてそう思った当方。あいつ…あんな演技が出来るなんて。死んでいるとしか思えなかった。全然生きている時の想像が出来なかった。それは『まばたきをしない』『常に片目が半目』とかそういう技術的な事じゃない。顔色不良のゾンビメイク故じゃ無い。ハード面では無くて。あの喋り方。動き方。「いっそ動いてくれ」と思う程に、死体としての線引きがなされていた(変な言い回し)、メニ―。メニーそのものだった。

 

「そんな事が出来るなんて。ラドクリフ…」

 

そして。完全に同じく彼無しでは語れない、ハンク役ポール・ダノ

プライベートとオフィシャルでは充実してそうですが。如何せん、いつも何だかさえないボンクラ役。
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 今回もハンクという『引っ込み思案故に孤独な青年』をこちらが苦しくなる位リアルに演じておられました。

 

ジェットスキーさながら。無人島とはまた違う大陸にたどり着いたハンクとメニ―。不法投棄されているごみから見ても、以前居た無人島よりは文明の香りがする。…香りだけ。

「死にたくない」「生きたい」「助かりたい」「でも一人はもう嫌だ」と。放っておいて良さそうなのに。死体を担いで移動し始めるハンク。

寂しさ故に。語りかけていた死体が。思いがけずメニ―という名前であると分かり(無理やり)そして話出した事で。一気に加速するメニ―の万能性能。

 

『スイス・アーミー・ナイフ』=十徳ナイフ。滅茶苦茶便利なサバイバルナイフ。
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さながら。『オナラはジェット噴射』『斧』『バーナー』エトセトラと。メニ―の活用方法を見出すハンク。(にしても、当方はその水、躊躇してしまいますがね)

何よりも有難いのは『話してくれること』

 

でも。その内容は当初何故?何故?の説明。

君はメニ―で。死体だけれど天使。いつかは土に帰るウンコとは違う。嬉しいの表情とは。

もっと生きている時の記憶を持っているのかと思いきや。殆ど何も持ち合わせていないメニ―。それを埋め合わせしたくて。色々聞くメニ―に手取り足取り教えるハンク。

(またハンクの奴。驚くほどのDIY精神の持ち主な上に凄いクリエイティブですからね。そしてこのミシェル・ゴンドリー監督作品を彷彿とさせるテイストよ)
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そして。『愛について』を話す話す羽目になるハンク。

とんだ体内コンパスを持つメニ―。その生理現象について、出来る限り誠実に答えたハンク(泣ける)。そして。ちょっとした事で、メニ―に想い人の画像(スマートフォンの待ち受け画像)を見られてしまい。

メニ―の「あれは俺の愛する人だ」「彼女の事を思い出せば何かミラクルな力が出せるかもしれない」どうすればそういう思考回路になるのか。でも。その可能性に掛けて協力するハンク。

 

「あのバスのシーンの美しさよ」

あの…バスの…もうこのフレーズで泣きそうな当方。あのポール・ダノの美しさにも。あんなに泣ける『ジェラシック・パーク』にも。

「帰ったら毎日バスに乗ろう」にも。

 

そうなると。抑えられなくて。

あの夜のパーティー。そして川に落ちたシーン。最高過ぎて。
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当方は別にBL萌えは全く無い。と思っていましたがね。あれだけいちゃつかれたたら…まあ。如何ともしがたいですよ。

 

ところで。メニ―って何だったんでしょうね。

 

現実社会では居場所が見つけられなくて。そんな青年ハンクが一人旅にでて。遭難して。そこで絶望の末出会う『生きる希望』メニ―。

 

『死体とのバディモノ』って。江戸川乱歩の『蟲』しかり。イライジャ・ウッド主演の『マニアック』しかり。当方の大好きな『ハッピー・キラー・ボイス』しかり。死体はどんどん腐敗して、もう生きている時の面影は一切無い。それは主人公に対しての反抗的な態度も。これら作品に於いての死体は兎に角主人公である狂人にとって都合の良い対象でしかない。

 

ある意味。ハンクにとってのメニ―も。始めこそ奇抜な登場をするけれど。子供の様に色んな事に教えを請いて。そして感情のままに発言する。

 

「僕の口を君の口に押し当てたくなった」「僕のペニスを入れさせて」「先っちょだけ」「女の子って素晴らしいんだろうな」一見下ネタだけれど。それはハンクが絶対に女の子に言えなかった言葉。

 

「オナラを人前でするのは恥ずかしい」「そういう事はもっと親しくなってから」そうやってメニ―と自身を律するけれど。

 

段々。ハンクとの会話と、『サラ(女装したハンク)』に恋する事で無邪気さを失っていくメニ―。そうしてどんどんハンクの核心に迫っていく。もうそれは『都合の良い死体』では無い。

 

「オナラは恥ずかしい事なのかな?」「マスターベーションって悪い事じゃない」「誰だって少しは醜い。でもいいじゃないか。一人がそれを受け入れたのなら」(当方意訳)

 

ずっと自信が持てなかった。低能だと思っていて。イケていない自分が。恋をして。その相手を求める気持ちも押し込めた。いけない事だと。自分が恥ずかしくて。馬鹿にされるんじゃないかと。勇気が持てなかった。

 

「もしメニ―に出会えなかったら。無人島に行って帰って来た経験も意味が無い」

冷たいかな、そう思う当方。

 

メニ―は。物理的な意味で万能だった。でも。それだけじゃない。…でも。

 

「十徳ナイフって。サバイバルでしか使わないんですよ…。」

涙を浮かべ。そう思う当方。

 

ハンクとメニ―の出した結論。そこに行きつくまで。そのハンクの痛みしか伴わない成長と…その痛みにひたすら涙が出た当方。

 

公開初日。何となく観て泣いて。パンフレットを買って。翌日にサントラを購入して(またこのサントラが至高)。4日後にはまた映画館に足を運んでいる。

 

「くそ。涙が…」完全にやられている当方。

 

きっとメニ―はまた、無人島で一人震えている孤独な奴を救いに行ったんだろうと。

そう思うと希望が持てる。

とんでもない怪作が出ました。


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