ワタナベ星人の独語時間

所詮は戯言です。

映画部活動報告「AKIRA」

AKIRA」観ました。
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「アキラくんが…。夢をみたの。人がいっぱい死んで。街が壊れて…。」

 

1982年~1990年ヤングマガジンにて連載された同名漫画を、原作者である大友克洋が総指揮を取って1988年に映画化。

製作期間3年、総製作費10億という規格外。後に名を馳せるクリエイター陣が製作に関わった事からも完成度が高く、また独自の世界観からも多くのファンを持つ作品。

 

1988年当時。この世に生を受けてはいたけれど。この作品を映画館に観に行くには当方の年齢はナンバーズ程度。幼すぎて…以降も有名すぎて気にはなっていたけれど、テレビサイズでは観る気になれなかった。全6巻の漫画は所持していたけれど映画版は未鑑賞のまま、遂に2020年。

IMAXで4Kリマスター版AKIRA公開!」満を持して。やっと映画館で観る日がやって来た。

 

「…ああこれは(溜息)。」「男子が大好きなモノ全部乗せ弁当やん。」

 

圧倒的画力と描き込みの多さ。コマの回転数。動きが速い早い。これを約30年前に?デジタル化到来前の手描き時代に⁈

冒頭。「1988年関東地方に新型爆弾が使用され、第三次世界大戦が勃発」からタイトルコールまで。血が沸き立つ高揚感に包まれる当方。そしてお馴染み、金田のバイクがターンしながら止まるシーン 。「恰好良いとはこういうことだ。」当方の心に住む紅い豚が痛い位に親指立ててくる。もう終始そんな感じ。

 

舞台は2019年のネオ東京。1988年に勃発した第三次世界大戦後「最早戦後ではない」をモットーに復興し、翌2020年には東京オリンピックを控えている。

アーミーと呼ばれる軍事政権と、対抗する反政府ゲリラが常に衝突。自由と暴力。猥雑として落ち着きのない街。

「健康優良不良少年」と自称する、金田をリーダーとする職業訓練校仲間のバイク集団。彼らは夜な夜な閉鎖された高速道路を走り回り、敵対するチームと張り合っていた。

ある日。いつも通りバイクを走らせていた金田らは、アーミーに追われていた不思議な風貌の少年タカシと鉢合わせする。先頭を走っていた鉄雄はタカシを避けようとして転倒し負傷。すぐさま追いついてきたアーミーに包囲され、タカシは回収。鉄雄も連れていかれてしまった。

アーミーたちにより警察送りになった金田は、そこでゲリラに属する少女ケイを見かけ一目ぼれする。

ケイたちは件の少年タカシを探しており。鉄雄の行方を知りたいのと下心もあって、金田もケイと行動と共にするようになる。

しかし。再会した鉄雄は最早以前の鉄雄では無くなっていた。

 

「あ。これ相当シンプルな話になっている。」「こういう感じやったっけ?」

 

全6巻の原作漫画を読んだのはもう随分前。正直詳細は覚えていなかったけれど、確かこんなに人間関係がタイトでは無かったぞ。あれ、ミヤコ様も脇役化してる。女神こと(当方がそう呼んでいるだけ)カオリって同級生やったっけ?

そして何より…「アキラが⁈」。

 

映画鑑賞後。緊急事態宣言前に近所の実家より持ってきたAKIRA全巻(一冊がかつてのタウンページ位あるので相当な荷物だった)を一気に読み返し、改めてこの世界観に打ちのめされた当方。そして感じたこと。

 

「漫画と映画は別物だ。」「登場人物と設定は同じで、最終的な着地も似てはいるけれどこれはパラレルワールドだ。」「それでもどちらも遜色が無かったのは…どちらも大友克洋が作ったからだろう。」

 

第三次世界大戦以前の政府が極秘研究プロジェクトとして進めていた計画。それは『ナンバーズ』と呼ばれた、超能力を有する、選ばれた子供たちの能力を覚醒させること。

しかしそのプロジェクトで覚醒した能力がコントロールできずに暴走した28号、アキラに依って引き起されたのが1988年の首都崩壊だった。

それ以降。力を封印すべく、アキラは地下施設にて厳重に管理されていたが。

ナンバーズの生き残り三人。その中の一人タカシと接触し、負傷した鉄雄はアーミーのラボに収容。そこでナンバーズとしての素質を見出され、引き出されていく。

アキラの魂と共鳴し、急速に肥大化していく鉄雄の能力。しかしそれは暴力的な力へと変貌していく。

 

金田と鉄雄。彼らは同じ児童施設出身。ほぼ同時期に施設に入所し、一緒に時を過ごしてきた。けれど、金田はいつも仲間の中心人物でリーダー格。自分は格下。つるんで行動を共にして、楽しいけれど疎ましかった。「今なら勝てる。」そんな鉄雄の気持ち…分からんでもない。そして「鉄雄は俺たちの仲間だ。だから俺が鉄雄を殺す。」最早化け物と化してしまった鉄雄を追う金田。そして散々すったもんだした挙句の鉄雄のあの表情、声、言葉…エモーショナル。堪らん。

 

10歳以前で成長が止まって、そしてそのまましわしわに老化した『ナンバーズ』の三人組の禍々しさ。こいつに関しては映像化の勝利。あのTHE子供なしゃべり方。そして鉄雄に近づいてくる時の不気味な夢。(あそこは『パプリカ』(今敏監督/筒井康隆原作)を想像してしまった)

キヨコが喋る様なんて「漫画を読んでいた時に脳内で再生されていた声だ!」と静かに大興奮の当方。

 

「1999年7月に人類が滅亡する。」ノストラダムスの大予言が何となく信じられていたあの時代。(因みに当方はノストラダムスと西暦意外の誕生日が同じ。蛇足。)

最早戦後ではない。高度経済成長。景気も上向きで、日本は豊かになりつつある。けれど、どこか虚ろで…こんな日がいつまでも続くわけが無い。世紀末が来る。何故か感じるディストピアの予感。淡い破滅願望。子供だったけれど、1980年から1990年代はそういう雰囲気があった。AKIRAという作品が現れたのはそういう時代だった。

 

シャーマン的存在を兼ねたケイの「アキラって何なんでしょうね。」という語り。

漫画では語られなかった『アキラ』という存在。形こそ一人の少年だっだけれども。全てのエネルギーの源であり、誰もが持ち合わせている…決して一つに答えを導きだしてはいなかったけれど。これは映画版の丁寧な所でもあり「原作者として言いたかったんやろうなあ~」と感じた所でもある。

 

とまあ。いい加減、浅瀬に住む当方が延々と感想を並べるのも気が引けてきましたので。最後に一つだけ。

「音楽めっちゃカッコいい。」

目の前に広がる映像だって十分に気持ちを高揚させてくるけれど。もう音楽が堪らん。なにこれワクワクし過ぎて声が漏れそうになる。ラッセーラにやられる。

サントラ?サントラ購入案件やないかこれ。

 

元々の作品状態を知らないのであれですが。おそらく4Kリマスターになった今回の『AKIRA』は映像、音響共にベストコンディション。IMAX環境で観られるならばこれは流石に見逃してはいかん。しかもストーリーもシンプルに収まっているし。

 

ちょくちょくあがる「劇場版AKIRA新作製作がどうのこうの」という噂。実現したらどの監督がどういう形で作ったとしても観に行くとは思いますが…多分この作品が映画化に対するベストアンサーだろうと思う当方。何しろ原作者自らが製作したんだからな。

 

いやあ。これまでこの作品を観なかった当方をどうかしていたと思う反面、ちゃんと映画館で初見を済ませた事を誉めてやりたい気もする。

何にせよ。映画館で観られる内に観た方が良い。

お勧めもお勧めです。