ワタナベ星人の独語時間

所詮は戯言です。

映画部活動報告「流浪の月」

「流浪の月」観ました。

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公園にいたら雨が降り出した。慌てて走り出す人々。もう夕方だし、皆家に帰るのだろう。

なのに。その少女はブランコに座ったまま動こうとしなかった。

どう見ても傘を持っていない。どんどん濡れていく少女を見ていると我慢ができなかった。

「どうしたの」「帰らないの?」

押し黙ったまま。けれど家に帰りたくないという意思は伝わった。

「…うちに来る?」

 

当時10歳の家内更紗を、自宅に招き入れた大学生の佐伯文・19歳。

約二か月後、文は少女誘拐の罪で白昼衆人の中連行された。文の姿はインターネットを通じて『ロリコン野郎』として世間に拡散・認知された。

 

それから15年の月日が経って。再び二人の運命が交差する。

 

2020年の本屋大賞作品、凪良ゆうの同名小説の映画化。監督・脚本は李相日。撮影監督は『パラサイト 半地下の家族』のホン・ギョンビュ。

大人になった家内更紗を広瀬すず。佐伯文を松坂桃李が演じた。

 

冒頭から映像の美しさに心をもっていかれる。10歳の少女を19歳の男子大学生が自宅に連れていく。字面だけ見ると禍々しいのに、画でみるとなんと自然な流れだったことか。

どんどん雨脚が強くなる中で、帰る場所がないと動けなかった更紗を自分の居場所へ連れて行った文。荒ぶる風景の中で暗い目をして歩く二人の静けさよ。

 

文の部屋で二人きりで過ごした日々。物静かな文と奔放な更紗は、一緒に本を読み、遊び、ご飯を食べ、眠った。叔母の家には戻りたくない。いとこからの虐待に耐えるのはもう嫌だった。文といると安心する。やっと居場所ができた。

テレビで更紗が行方不明だと報じ始めた。「文、捕まっちゃうかな」「そうしたら絶対誰にも知られたくないことを知られてしまう。そんなのは嫌だ(言い回しうろ覚え)」

なのに。ついにその日は来てしまった。二人でいるところを発見され、文が連行される日が。

 

ロリコンかあ…」

かつて映画部部長の先輩(初対面)と「同性ながらこれはあかんなという性癖はあるか」という話になったことがあった。「いやでも、数多の性癖があるわけやから…一概にこれはあかんとはぶった切ることはできんな」そう言葉を濁す先輩に「ロリコンは…」という当方の発言に食い気味で「それはあかん」と前言撤回した先輩。「ロリコンは未成年者側の合意があいまいやし。そもそも犯罪やで」。

時々ニュースで見かける、エエ歳した大人による未成年者への性犯罪。性犯罪そのものも悪しき犯罪であるけれど…こと被害者が未成年者となると「気持ち悪い」「欲望を幼い相手にぶつけて」とより印象は悪くなる。

けれど…当事者たちだけが知っていること。感情。ここには誰も踏み込めない。

(更紗の子供時代を演じた白鳥玉季。凄い逸材が出たものよ…。くるくる変わる表情にくぎ付けになった)

 

15年の月日がたった。『ロリコン野郎』として認知された文と同様、更紗もまた『誘拐された被害者』として世間に周知されていた。

どこに行っても付きまとう好機の目。憶測で好き勝手言ってくる人々。何も感じないようにしようと言い聞かせて目立たないようにひっそりと生きてきた。

ハンバーグレストランでバイトをし。同棲している恋人の中瀬亮(横浜流星)とは結婚目前。

誰にも後ろ指なんてさされない。幸せになれるはずだった。あのカフェを見つけるまでは。

 

扱っているのはコーヒーのみ。バイト仲間に連れられてたまたま入ったそのカフェは、文が経営しているカフェだった。

 

そんなにあれこれ説明は入らない。とにかく役者たちの表情、しぐさ、会話で話を進めるのですが。暗く感情を押し殺していた更紗が文と再会し、自分を取り戻していくさまを演じた広瀬すずと、15年前からずっと自分の秘密をひたすら抱え込み耐えていた松坂桃李。二人の役者たちの力量よ。そして…更紗の婚約者亮くんを演じた横浜流星の思いがけなかった好演。泣いた当方。

 

一見ロリコン犯罪者と被害にあった少女。世間ではそう烙印を押されたけれど。二人の間に性的な関係はなく、どこまでも純粋な気持ちで繋がっていた。それは15年たった今でもあまり変化はない。けれど周囲はそんな風に理解しない。

 

世間的には好条件の亮くん。安定した職に就き、自分を大切にしてくれる彼氏。ちょっと過干渉だけれど、それは自分を愛してくれているから。けれど…実は「かわいそう」な相手を無意識に探し出しては自分を優位に立たせて逃げ場をなくし、依存してしまう性格。更紗が自分から逃げ出そうとしていると気づいたが最後、感情が抑えられずに暴力的になってしまう。

 

更紗の心を奪われた嫉妬から文を攻撃し、過去の犯罪を蒸し返すことで文の社会的地位を奪い追い詰める。けれど…いったん失った更紗の心は亮くんのもとには戻らない。ますます更紗と文の絆が深まってしまう。

 

「15年前のことはいったんおいといて。もう二人とも成人すみなのに今更ここまで世間が騒ぐものなのかね…」ちょっとそういう疑問が脳裏によぎりましたが。まあ、確かに分が悪い要素はあったけれど。

 

文が「絶対に誰にも知られたくない」と語っていた秘密。それが終盤に明かされたとき、あっけにとられてしまった当方。

あとから思わず調べてしまいしたが…なんだか蛇足感が否めない。この設定、要りますかね?いっそ純粋に(言い方)ロリコンってことでよかったんじゃないですか。だって…なんというか…とことん文が不憫なだけになってしまう…こういうどんでん返しは必要ないと思ってしまうんですが。

 

15年前。二人の関係が露呈し、引き裂かれようとしたときに文が更紗に言った言葉「更紗は更紗のものだ。誰にも好きにさせてはいけない」文よ、何故その言葉を自分自身にも向けない…。

 

出会いから15年。二人が再会して、そして二人で生きていく選択をした。もう誰からも非難されるいわれはない(はずなんやけれど)。今はまだふらふらと彷徨うけれど…安住の地を見つける日は必ず来る。そう信じての幕引き。

 

ところで、文と更紗だけでなく。亮くんにも幸せな日常が訪れることを当方は心から祈っています。