ワタナベ星人の独語時間

所詮は戯言です。

映画部活動報告「EUREKA ユリイカ」

EUREKA ユリイカ」観ました。
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九州の田舎町で起きたバスジャック事件。生き残った運転手の沢井真(役所広司)と田村直樹(宮崎将)と妹の梓(宮崎あおい)。三人は凄惨な現場を体験し、心に深い傷を負った。

2年後。妻にも行方を知らせず消息不明だった沢井が再び町に戻ってきた。

同じころ町では通り魔による連続殺人事件が発生しており、周囲は沢井が犯人ではないかと疑惑の目を向ける。

町での生活に居心地の悪さをを感じつつ。沢井は住宅街からやや離れた一軒家に田村兄妹が二人きりで暮らしていると知り、田村兄妹の家に向かう…そこから三人の共同生活が始まった。

 

2000年公開。真山真治監督作品のデジタルマスター完全版上映。3時間37分。

 

「そうかあ。2001年公開…。」

タイトルは知っていたけれど…映画館で見逃がしたままだった。そんな作品に今、デジタルマスター完全版で会える喜び。

 

2000年代前半の宮崎あおいの禍々しさはずば抜けていた(褒めています)。

『害虫(2001)』『好きだ、(2005)』『初恋(2006年)』子役時代から現在におけるまで彼女の出演作は数多あるけれど…あの頃の宮崎あおいには「周囲の人間(特に大人)を狂わせていく、孤独で訳ありな少女」という独特の雰囲気があった。

 

そんな禍々しい宮崎あおいを久しぶりに見たと同時に「ああ…宮崎将」。

引退されたとのことでしたが。どことなく高潔で硬質なのにはかなげ…好きな俳優だったなあと。

俳優といえば。刑事の松岡を松重豊とか。弓子の国生さゆりとか。沢井が働く工務店にいるシゲオが光石研とか。尾野真千子とか。「若い…」感慨深い。

 

冒頭。通勤通学の足となる路線バスの風景。始めに中学生の兄と小学生の妹がバスに乗り込んだあと。乗客が増えてくる中、ドアが閉まる寸前に乗り込んできたサラリーマン。

場面が変わって駐車場。足がもつれそうになりながらバスから走る人が銃声とともに倒れる…とんでもない修羅場と、「ああ…疲れ切った人ってこういう感じだな」を体現しきった犯人。一気に引き込まれる世界観。これはあかん。持っていかれる。

 

事件のショックから、ふさぎ込み周りとコミュニケーションを取らなくなった兄妹。世間からは好奇の目で見られ家庭は崩壊。母親は家を出、父親は自動車事故で亡くなり、その死亡保険で得たお金で二人きりで暮らしていた。

 

事件から2年。突然姿を消し音信不通だった沢井が町に戻ってきた。今になってどうして?周りが訝しげに沢井を見る。しかも、沢井が帰ってきたのと同じころに町で通り魔によると思われる連続殺人事件が発生していた。「あいつが犯人じゃないか」疑われる沢井。

 

転がり込んだ実家。けれど実権は父親から兄へ変わっており、居心地が悪い場所になっていた。

実家を飛び出して沢井が向かった先は、先日知った田村兄妹の家。何とか上がり込むことに成功した沢井が目にしたのは荒れた室内。およそまともな生活をしていないと察した沢井は田村兄妹との共同生活を申し出る。

 

共同生活にメリハリを持たせたのが田村兄妹の従兄・秋彦(斎藤陽一郎)。夏休みを利用して二人の面倒を見に来た大学生。わりとずけずけと思ったことを口にする性格。

初対面の沢井に驚いたけれど…あっさり共同生活に加わる。

 

四人での生活が始まった途端、また新しい殺人事件が発生した。

被害者が沢井の同僚であったことと、事件当日に沢井と一緒に居たことで警察に事情聴取され、あげく2年前の事件を知る刑事から「あの時お前の目を見て思ったよ。こいつは何かをしでかすと」と異常者扱いされる。

 

どうして。自分は凄惨な事件に遭遇した被害者なのに。今までと同じ生活なんてできない。そっとしておいてほしい。だから周りと距離を取った。心の整理なんてできない、何をどうしたらいいのかわからない。ずっともがいて苦しんでいる。なのに周りからは自分の方が「おかしい奴」として見られている。どうして。

 

「旅に出よう。何かが変わる」

中古で小型バスを買い、田村兄妹を誘った沢井。バスはトラウマだろうがと鼻で括った秋彦をよそに、無言でバスに乗り込んだ田村兄妹。一緒に改装作業を行い、ついに四人のバスの旅が始まった。

 

一見坦々と物語は進む。九州の景色(特に阿蘇の広大さよ)。キャンプ場。けれど例の『連続殺人事件』のことは決してうやむやにはされない。

犯人とその動機に関しては「うむ、そうだと思っていましたよ」としか言いようがない…深いため息をついた刹那、間髪入れず秋彦の無神経発言に顔をしかめた当方(秋彦的にはいつも通り思ったことを言っただけなんよな。言葉は時に無邪気な暴力になるのに)。案の定。

 

一応ネタバレ回避で進めたいのでふわっとした感じになってしまいますが。

2年前に起きた、バスジャック事件。同じ悪夢を体験し、各々が心に傷を負った。

そこから時がたち。三人で共同生活をはじめ旅に出た。あの田舎町を出て、非日常を積み重ねるうち傷を見せ合った(あくまでも比喩です)。

時折衝動的に湧き上がる感情をぶつける術が暴力以外になかった。もう取返しがつかないところまで来てしまった者。崩壊していく相手を見守るしかなかった者。支えあい、未来へ導く力をもっているのに、体が蝕まれ朽ちていこうとしている者。

心の傷ゆえの崩壊。決別。

 

沢井が放った言葉「生きろとは言わないが。死なんでくれ!」

生きてさえいれば。

 

最後に。海へたどり着いた沢井と梢。ついに聞いた梢の言葉と、沢井の呼びかけ。

弔いと再生と、希望。

 

Eureka:ギリシャ語に由来する感嘆詞。『わかった』何かを発見・発明したことを喜ぶときに使われる(Wikipedia参照)。なんと良いタイトルか。

 

設定がシビアなのに派手な展開にはしない。セピアと淡いカラーの色調。繊細だけれどふわふわ流されない役者たちの演技。長いけれど長くない。なんだか夢のような…そんな作品でした。