ワタナベ星人の独語時間

所詮は戯言です。

映画部活動報告「ボストン市庁舎」

「ボストン市庁舎」観ました。
f:id:watanabeseijin:20211225211138j:image

ドキュメンタリー界の巨匠、フレデリック・ワイズマン監督。最新作の舞台は監督の故郷であるボストン市庁舎。

 

ボストン市:アメリカ・マサチューセッツ州の州都の中でも最大の都市。建設は1630年でアメリカの中でも最も古い都市の一つである。市民は68.44万人(2019年時点)で、その半数を黒人・ヒスパニック・アジア系の有色人種が占める。トップクラスの高等教育機関や名門スポーツチーム等を有する。撮影時期は2018~2019年で、市長はマーティン・ウォルシュ市長。

 

ワイズマン監督は、前作『ニューヨーク公共図書館 エクス・リプリス』で知ったというにわか者なのですが。この「大きな組織の各部署を淡々と映し出していく」という面白さが堪らなくて。上映時間274時間に怯むことなくワクワクしながら映画館に向かった当方。

 

「いやもう素晴らしい『はたらくおじさん』(NHK教育番組)でした!」

鑑賞後満面の笑みで映画館を後にした当方。後にユリイカフレデリック・ワイズマン特集本も購入。

 

役所という場所がどういう事を行っている場所なのか。引っ越しや出生、結婚、死亡した時などの手続きをする場所という漠然としたイメージしか持っていなかった。なので「こんなこともしているのか!」の連続(国も都市の規模も違うので同じだとは思いませんが)。

 

市民から寄せられる電話に対応する職員たちから幕があけ。同性カップルの結婚式に立ち会う職員。「アメリカにはこんなに馬力のあるゴミ収集車があるのか!」家具を飲み込んで粉砕するゴミ収集車にたまげた直後、盛大に紙吹雪を散らせてパレードが行われるシーンが続く。一見ばらついて見えるけれど、おそらく色んな部署や人やエピソードを緻密に組み合わせてこの作品は成り立っている。

 

当方がより印象に残ったといえば、やっぱり「大麻ショップの出店申請に関する意見交換会」のシーン。

貧困層が多い地域に、合法化された大麻ショップを出店したい。その申請者たちと、地元住民の意見交換。地元住民たちはただでさえ治安の悪いこの地域に、大麻ショップの出店は不安と不満がある。

「どこから雇用するんだ」「アンタ達は俺みたいな黒人は雇わないだろう」「駐車場が無いという事は路上駐車が増える」「ここの警察官にこれ以上の負担は掛けたくない」地元住民の鋭い意見に対し、初めはどうにも歯切れが悪かった申請者たち。挙句「市に命令されてこの会を開いているだけだ」と言ってしまい、同席していた市職員の立場が無くなってしまう。

これは厳しいな。対立した関係性で終わってしまうのかと思いきや、申請者が「俺もボストン市民としてこの地域に還元したい。でも出来ないんだ」「地域に何かしたい」「これは俺の使命だと思っている」熱く語り出した所で流れが大きく変わる。

女性の参加者が「これっていい事なんでしょう?じゃあ一緒に考えましょうよ(言い回しうろ覚え)」と発言。「この会は一回きりなの?住民はもっといる。言語が違う者たちも居るからちゃんと通訳も付けて会議を重ねましょう」

つまりは。地元にきちんと還元できる店を互いに話し合って作ろう、ということ。(あくまでも合法だし)大麻ショップ自体は否定していない。ならば安全で地域からも認められた店を作ろう。その為には申請者たちにも腹を割って話をしてもらわないと。

 

元々の会議は2時間以上に渡ったところを26分にまとめているそうなのですが。市職員がほぼ介入することなく、地元住民と申請者で議論してこの流れになる様は観ていて高揚感が半端なかった。

 

路上駐車繋がりでは、路上駐車で違反切符を切られた市民と職員との会話のシーンでほっこりし。

次に交通管理センターへと場面は変わり。モニターを見ながら「路上駐車しているよ」と関係者に連絡を入れる職員に笑いそうになってしまった当方。けれど深刻な雰囲気では描かれていないから「監視カメラ社会!」という気持ちにはならなかった。というよりも、モニターで見ながら市職員が信号機を調整・操作しているなんて知らなかった。

 

そして。マーティン・ウォルシュ市長。

「6人の名市長について」という新聞記事を見てワイズマン監督が撮影許可を申請する手紙を送り、唯一返事が来た相手。

アイルランド移民で労働者階級出身。撮影当時の2018~2019年はトランプ政権下で分断が進み、オバマ前大統領時代のオバマケアは崩れつつあった。そんな中「ここではアメリカ合衆国の問題を解決できません。しかし一つの都市が変われば、その衝撃で国が変わる」と市職員たちに語り掛け、実行する。

兎に角市民に寄り添い、話を聞き、何ができるのかを考える。その信念は市職員たちも同様。「どうすれば市民のためになるのか」を考えて自部署で出来うるサービスを良いものにしようとする。

 

『お役所仕事』形式ばったルールにがんじがらめ。「昔から決まっていることだから」と柔軟性がなく、何かの手続きに行けばたらいまわしにされる。出来れば行きたくない。あと何故かシャツの袖の所にアームカバーをしているイメージがある。やたらハンコを押す場面が多い。

当方が何となく抱いていた市役所のイメージ…申し訳ないですが。

こう見えて(どう見えて?)毎月届く『市政だより』も読んではいるんですけれど。何をやっているのか想像出来ない。

 

その反面、脳内で決めつけた印象が先行し過ぎて『役所』の動きが見えていないのかもしれないとも思った当方。

ボストン市民だって、こうやってドキュメンタリー映画にされない限り、自分の住んでいる所の市役所がどんな仕事をしているのか知らなかっただろう。274分もかけて、実は緻密に構成された「はたらくおじさん」を観て初めて知る『我が町のお役所』の仕事。ここまでやらんと伝わらないですわ。

 

当方に役所で働く知り合いがいないのが何とも…職員の人に感想を聞いてみたいんですがねえ。絶対面白そう。

 

纏まらずだらだら書いてしまいましたが。嵌る人には嵌る、ワイズマン監督のドキュメンタリー映画。当方は大満足でした。