ワタナベ星人の独語時間

所詮は戯言です。

映画部活動報告「解放区」

「解放区」観ました。

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ドキュメンタリー映像作家を夢見るスヤマ。小さな制作会社に所属し、理不尽な人間関係や実際の制作現場に悶々としながら下っ端ADとして働く日々。

ある引きこもり男性と家族を取材した現場で。対象者に対する態度や過剰で意図的な演出に、これまで溜め込んでいた不満を顕にしてしまい。先輩ディレクターの逆鱗に触れ、職場での居場所を失ってしまった。

 

「かつて大阪で出会ったこの少年達に会いたい。」学生時代に大阪府西成区釜ヶ崎で出会った少年二人。

『大阪の若者』をテーマ企画に、とあるドキュメンタリー作品のコンペを通過したスヤマ。

失くしてしまった己の居場所を探すかのように、勢い勇んで大阪府西成区釜ヶ崎に乗り込んだが。

 

「2013年。CO2(シネアスト・オーガニゼーション大阪)と大阪市が年に3本映画を製作するプロジェクトがあり、その内の一本として企画が通過し制作。しかし完成された作品を観て、このままでは大阪市からは助成金が出せないとの意見が上がる。すったもんだの末、結果大阪市助成金を全額返却。一時はお蔵入りが危ぶまれたが…その後数々の映画祭などで上映され。5年後の今。劇場公開の日の目を見た。」(滅茶苦茶ざっくりとした当方まとめ。)

 

当方はねえ。生まれも育ちも大阪なんですよ。

 

この作品を観て。色んな感情が押し寄せて、いまだに整理出来ていませんので。いつにもまして、非常に取っ散らかった感想文になると思いますが。…それはもう先んじてお詫びします。さて。

 

「そりゃあ、この内容観て大阪市はお金出しませんわ。」「こいつは胸糞悪い。」

 

西成。日本のスラム街と呼ばれるアンタッチャブルな場所。あいりん地区と呼ばれるそこ。当方は専門学校時代、電車の乗り継ぎでほぼ毎日通過しました。独特な風貌の職業安定所。その周りをたむろする灰色コーディネートのおっちゃんたち。電車から見えるその場所はいつも路上や広場に人がたむろっていて。炊き出しに並び。昼間からカラオケ機材出して歌っている人や、賞味期限切れの食べ物やよくわからない何かを売っていたり。昼間ですら異質なその空間は、夜になると更に危険が増す。学生の時も…今でも立ち寄らない場所。

最近ではあいりん地区も随分整理されて。(まず新今宮駅前が今と昔では全然見た目が違う)最近ではバックパッカーの外国人観光客が宿泊賃の安さ目当てで泊まったりすると聞いて驚いたりしますが。

そうやって。少しずつ『脱スラム街』を目指している大阪にとって。そりゃあこの内容はキツイ。こんなの応援出来ない。

 

とは言え。ここで描かれた西成の姿は、確かに我々大阪人にもおなじみのエピソードばかりで。「言いそう~。」「ありそう~。」声に出すか出さないかで「いかにもやなあ~。」と頷き、時には笑いが起き、時には顔をこわばらせた。そんな映画館での一体感。

 

となると。当方が一体何に「胸糞悪く」なっているのか。それは「主人公スヤマがクズ過ぎた。」こと。

 

ドキュメンタリーを撮りたい。本当の事を皆に伝えたい。そう夢見て今の制作会社に入ったけれど。

士気の下がり切ったチーム。ありきたりなテーマを惰性で撮る日々。「視聴者の見たいのはこういう感動ヒストリーだろう?」と言わんばかりに対象者を煽り、お決まりの言葉を引き出そうとする。今目の前にいる人間を見ていない。こんなの何がドキュメンタリーだ。

という正義感?青臭いけれど正論だと思うし、そういうスヤマの憤懣には同感出来る滑り出し。だったのに。

 

お偉いさんを前にしたコンペで「大阪の若者たちを取り上げたい」とプレゼンしだしたところで「西成に住む若者=大阪の若者代表では無いで。」とざわつきだした当方。

そして。いざ西成に来てから。思わず目を見張るくらいに。坂道を転がり落ちるかのごとく堕ちていくスヤマ。

 

「そりゃあそうやろうよ…。」

案の定、数年前にちょっと言葉を交わした程度の少年など見つけられず。一人で捜索は不可能と早々に判断、冒頭にあった取材先の引きこもり青年Hiroshi(字幕より…面倒なので以降『青年』表記でいきます)に声を掛けてみる。「…引きこもり?」と思うほどフットワーク軽く、西成まで来てくれた彼に散々人探しをさせる。しかも無給で。(それどころか青年の分はほぼ本人の持ち出し。終いにはタカりだす始末。)

なのに自分は人探しはそこそこに。酔った勢いで行きずりのお姉ちゃんといい感じになって、手持ちの財産奪われたり。

わざわざ東京から来てくれた青年に大した礼を言うでもなく、そしてフェードアウトしそうな恋人と連絡が付いたと思ったら金の無心。

 

「結局あんた一体何しに来たんだ。」

だらしなく漂うスヤマに苛々する。仮にもジャーナリスト気取ってるんなら、スラム街まで物見遊山で来てるんじゃねえ。その少年達はもう拘らんでええやないか。今あんたの周りで起きている事に余すことなくカメラを向けろ。

西成という場所がただ若者云々という言葉だけで語れるわけが無い。貧困。差別。ギリギリな衛生環境、住環境。けれど最低限ながらも生きていけるというぬるま湯。横並びの仲間意識。労働意欲や気力を落としていく環境で、人はどう生きるのか。結局誰もが最終的には一人で生きていかないといけないのに。温かい人情というぬるま湯に浸かり続けるのか。それとも這い出すのか。

『解放区』。ある意味底辺まで堕ちる危険性もあるこの場所で。ここに住む人はどう生きる選択をしているのか。…誰も言ってないのに。当方には聞こえてくる。あのフレーズが。

「おい。西成舐めとったらイてまうぞ。ボケえ。」

 

「何もできないくせに。お前らには何も出来ないくせに(言い回しうろ覚え)。」

ひきこもりの青年を追って。お決まりの感動ヒストリーに仕上げるべく、煽られた弟を連れてしつこく東京から西成までやって来た件の制作会社のチーム。傍若無人にカメラを向け、大声上げて感情を引き出そうとする彼らに放った青年の言葉。けれど皮肉にもたどたどしく続いた青年の言葉こそ本物なんだよなと刺さった当方。

 

西成に飲み込まれたスヤマと。西成で居場所を見つけた青年。

 

最終。「何でこんな事になっちまうんだよおおおお~。」心に住む藤原竜也の絶叫が止まらない、廃人まっしぐらな選択をするスヤマ。「こんなの。絶対どこにも流されないレポートやないか。しかも身も心も滅ぼすぞ。」

 

此処まで何一つ愛せない主人公が居たやろうか。スヤマの取る行動が、冒頭以外何もかも腹立たしくふがいない。「何してんのや!せっかく大阪まで来て!念願のスラム街で本物にまみれてんのに!」「人探しゆう名の自分探しなんて生半可な気持ちでやれるとこちゃうちゅうねん。」「中途半端な気持ちやったらどっか他でやってくれ!見せもんちゃうぞ!」

 

叫びながら駆け抜けていったスヤマを苦々しく見送りながら。「二度と戻ってくんな!」という気持ちと「とことんまで堕ちてから…根性見せれんのやったら這い上がってきてみい!」と相反する気持ちで溢れた当方。

 

ある意味一体感のあった映画館観客一同。「言いそう~」「ありそう~」と思わず頷いたり笑いが起きたり。そして「アイタ~。」「おいおいおい。」と顔をこわばらせ。一体どう気持ちに落とし前を付けたらいいのかと途方に暮れた。ゆすぶられ過ぎ。そんなジェットスター的感情体験。何だかんだ言いながら、巧妙で不思議な作品だと思いましたが。

 

ところで。当方の隣に座っていた派手なカップル。男性が上映中何度も席を立って、帰ってくるたび「プシュッ。」新しい酒を開け。3~4本ほど繰り返していましたが。

「何故ここだけ民度を合わせているんだ。」特に迷惑ではありませんでしたが。思わず心の中で突っ込まざるを得ませんでした。THE大阪。