ワタナベ星人の独語時間

所詮は戯言です。

映画部活動報告「CLIMAX クライマックス」

「CLIMAX クライマックス」観ました。
f:id:watanabeseijin:20191119182311j:image

フランス。1996年。雪に閉ざされた建物。

有名な振付師に選ばれた22人のダンサー達。公演に向けての最終リハーサルを終えて、打ち上げパーティーが始まった。そこで振る舞われたサングリア。

皆で浴びるように飲み、歓談していたが。

そのサングリアには何者かの手によってLSDが混入されていた。

時が進むにつれ、集団ドラッグ中毒状態へ陥る一同。

トランス状態に陥ったダンサー達。誰も逃げられない。本能が剥き出しになり、狂乱の極みとなった宴。最早地獄。

 

ほぼ演技経験なしのダンサー達を集め、圧倒的なパフォーマンスで阿鼻叫喚を描き切った。監督はギャスパー・ノエ

 

「ノー・モア・ドラッグ。酒と薬物がコンボで決まるって恐怖でしかないな…。」

 

下手なお涙頂戴「クスリは貴方を殺します。」系よりよっぽど怖い。人が本能むき出しになって制御出来なくなっていく様を見る方が。

 

正直、お話らしい中身なんてない。本当に冒頭書いた通りの展開で。一応「サングリアにLSDを入れたのは誰だ!」なんてシーンもありましたし、最後には犯人らしい人物も提示されますが。特に犯人捜しをする内容ではない。何故なら…誰一人まともではなくなるから。

 

有名な振付師の舞台に選ばれた22人のダンサー達。彼ら一人一人にカメラを向けた短いインタビュー映像から物語は始まる。「貴方にとってダンスとは?」「このメンバーに選ばれてどう思う?」各々質問内容は若干異なっていて。「恋愛についてはどう?」「パートナーとの関係は?」「今まで後悔したことは?」「クスリはしたことある?」エトセトラ。エトセトラ。

キャラクターの設定上回答が決まっていた人物もいたけれど。自由に答えてもらった人物もいた。そうギャスパー監督が語っていた通り、自然に受け答えしていた面々。

「ダンスを失う?…死かな。」

思想や信念、倫理観や恋愛観、各々違いはあるけれど。22人に共通していること。それはダンスが己の全てで。自身の技術や表現に自信がある、つまりは…全員プロのダンサーであること。

 

場面が変わって雪山の施設。20分以上に及ぶ一同のダンスシーン。ノリノリの音楽に合わせて圧巻のパフォーマンスに「カッコいい…。」ほれぼれと見入ってしまった当方。

 

「貴方のソロ、すごく良かったわ!」なんて互いに褒めあって。気持ちよく始まった打ち上げの宴。主催者が用意した食事と飲み物をつまみながら皆一応に笑顔。DJブースから途切れることなくダンスミュージックが流され。各々踊りながら歓談タイム。けれど。

「ここの女とは全員ヤッタぜ。」「お前の彼氏が気にくわない。お前には恋愛は早い。」次第に雲行が怪しくなってくる。延々と下種なエロ談義で笑いあっている者やヒステリックになっていく者。

皆で円になってダンス合戦。音楽に合わせて己を見せつけ、セッションし、そして潰し合う。次第にその様相が狂気を帯びていく。

 

「誰かが飲みものに何かを入れたみたい。」「誰だよ!」「クスリを抜くにはクスリを入れないと!(そうなの⁈)アイツなら持ってんじゃないの?いっつもやってんじゃない頂戴よ!」ダンスフロアから離脱して、宿泊ブースに移動しても。その道中にはのたうち回る者が居たり。相部屋のルームメイトが錯乱状態であったり。勝手に部屋に乱入されて連れ戻されたり。

 

「地獄だ…。」

全員ダンサー。全身使って激しい動きをしながら、酒に混ぜられた薬物なんて接種したら早いペースで体に回る。そして爆音で流れるダンスミュージック。無意識でも踊り出してしまう性。こんなの正気を保てるはずがない。

 

またねえ。正直、エロに振り切れるなら酒池肉林。盛大な乱交パーティというお楽しみで済みそうですが。本能ってエロだけじゃない。普段燻っていた妬み、嫉みが爆発してしまう者も居て。そんな連中が徒党を組んで誰かに襲い掛かるという悲劇。

「お前がクスリを盛った犯人だろう!」そう決めつけられて、雪が吹雪く外に追い出された人物。体調が悪いと泣いていた人物を追いつめ、終いには自傷行為をさせた集団。「お前は前から気にくわなかったんだ。」複数名でリンチ。錯乱し死を選んだ者。殺された者。胸糞悪い。

 

ままならない体。不気味な高揚感と叫びだしたくなる衝動。泣き、叫び、のたうち回り。誰かを求め、けれど傷つける。彼らが自我を失って彷徨う様を見ているとただただ溜息が止まらなくて。「ノー・モア・ドラッグ。」

 

当方が一番「これはあかん。」と思ったのは、この場に子供が一人混ざってしまった事。振付師の息子がこの狂った宴を目にしてしまった。「これはあかん。ホンマにあかん。そして母親よ!隔離するのに何故そんな危ない場所を選んだ!さっきまで寝かしつけていた部屋でええやん!」そして案の定。最悪の事態。

 

実際にダンサーを使っている事からの、人物達の動作の機敏さ。ハイテンションな音楽。ダークな色調で進行する音楽。観ている側も次第にバットトリップしているかの様に酔ってしまう。そして真っ赤な画面。上も下も分からない。誰が誰だか分からない。そんな境地にまで振り切った後。…白々しく訪れた朝。「新しい朝が来た。」

 

もう…本当に終始「ノー・モア・ドラッグ。」というフレーズが脳内から消えない。そんな作品でしたが。

ギャスパー・ノエ監督の持つセンスというか、独特のテンポというか…「一体今何を見せられているんだ!」という気持ちになるのに、何故か繰り返し観たいという気持ちもある。まさに中毒。恐ろしい限りです。