ワタナベ星人の独語時間

所詮は戯言です。

映画部活動報告「メランコリック」

「メランコリック」観ました。
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昔ながらの佇まい。庶民の憩いの場。そんな銭湯『松の湯』。

昼間は銭湯。けれど…夜は殺人現場だった。

 

単館系映画でありながら非常に高評価。「『カメラを止めるな!』以来のマイナー傑作邦画作品。」「長編第一作目の新人監督がいくつかの映画祭で賞を受賞!」

一体何事かと。観に行った次第でしたが。

 

主人公の和彦。東大卒だけれど、卒後これといった職に就かず。半ニート状態で実家に寄生中。

穏やかな両親は決して一人息子の和彦を責めたりはしていなかったけれど…肩身は狭い。

ある日。たまたま訪れた松の湯。そこでばったり高校の同級生だった百合と再会。

壁にあった「バイト募集中」の張り紙。百合とまた会えるんじゃないかという下心もあって応募。晴れて働く事になった和彦。

同じ日に面接を受け、一緒に働く事になった松本。金髪でいかにもチャラチャラしてそうな彼と二人、銭湯の仕事を覚えていく和彦。

仕事も順調。百合との縁も途絶えることなく、寧ろ恋仲に発展。何もかもが好転している。

ある夜。松の湯の明かりがまだ付いている事に気づき、ふと覗いた和彦。そこで見たものは人殺しの現場だった。

一見普通のさびれた銭湯。そんな松の湯は深夜『殺人現場』として貸し出されていた。

それだけではなく。同僚の松本が実はプロの殺し屋であるという事も知って…。

 

THE巻き込まれ映画。

うだつの上がらない主人公が。働き始め、彼女が出来て。そんなほのぼのした日常の傍らに存在した闇の世界に巻き込まれていく…という。

 

「そうか~確かに銭湯で人を殺しても、床は広いし、しっかり掃除したらいい話やし。そして死体を焼けば風呂が沸かせるし。」

壁に画が書いてある系の、今日日珍しくなりつつあるオールドスタイル。そんな松の湯が。その利点を生かしての殺人現場及び処理場を請け負っていた。このアイデアだけでもう…色々勝っている(何に?)。

 

「どうしてこの人は殺されないといけなかったのかな。」

職場の秘密を知ってしまって。けれど『掃除』に特別手当が付くと知って積極的に夜の営業も手伝い始めた和彦が、何度か口にした疑問。

「そういうの考えたら持ちませんて。」

和彦の問いをバッサリ切り捨てて。サバサバと仕事(殺人)をこなす松本。

 

松の湯のオーナーはヤクザの田中に弱味を握られているらしく(借金)。先代のバイト、小寺が夜の営業を任されていた。しかし小寺は田中に引き抜かれる事になり。そして小寺の後継者として松本がやってきた。

くしくも同日に、純粋なバイト希望者として和彦がやって来たため、一緒に採用することになったと。

 

「もしも当方が和彦の立場だったら…。」

オー人事オー人事。小心者で臆病な当方なら、そんな職場、即退職&警察に駆け込むと思いますが(少なくとも松の湯の風呂には入れないな)。

和彦のあっけらかんとした態度よ。時々「あれ?」と過っても、おかしな職場環境を淡々と受け入れ、秘密は守り、寧ろ積極的に参加している。

 

何だか掴みどころがなくて飄々とした和彦。そんな和彦を取り巻く環境が「いい人しかいない」という羨ましさ。

高校時代の同級生、百合との再会。デートを重ね、そして恋人になって。また百合が可愛い。久しぶりに再会した時から積極的に好意を寄せてくる。表情がくるくる変わる、全身から「好き!」を漂わせる女子。こんなの、好きになるに決まってる。

 

和彦の両親。サラリーマンの父親と専業主婦の母親。夕食は三人で食卓を囲み。毎度「母さんのご飯は美味いな。」と食事の味を誉める父親(めっちゃうれしい)。

母さんの得意料理は大体揚げ物やな。ていうか揚げ物しかないな。数回の食事風景から推測する当方。高齢になるにつれ、揚げ物は胃が辛くなってきますが。まあ、息子が居るし…。

 

そして銭湯の同僚、松本。

一見とっつきにくい金髪の若者。しかも蓋を開ければプロの殺し屋。依頼に対しては粛々と請け負い実行する。けれど。意外と仲間に対しては情が厚い。

先代のバイト小寺を手伝い。ヤクザの田中に苦しめられている銭湯のオーナー東を思いやる。そしてのほほんとぬるま湯に浸かっている状態の和彦を心配している。

「掃除が楽で済む様に殺しますんで。」そんな気遣い、聞いた事無いよ。

 

仕事と恋愛の両立。こんな日が何となく続くだろう。きっと和彦はそう思っていただろうけれど。

松の湯VSヤクザの田中。遂に最終局面に突入。

「甘いんですよ!和彦さんは!殺人とか殺し屋とかに関わっているような奴が実家に住んで恋人作って。どこにそんな奴がいますか!」

兎に角松本がねえ。本当にいい奴なんですよ。ある意味仕事に対してストイックだし。

 

順を追ってネタバレはいけないのでここいらで風呂敷を畳みますが。兎に角当方が思ったのは「皆に愛されているなあ~和彦。」と「概ねいい人しかいない世界。」ということ。

 

危ない世界にいつの間にか巻き込まれた。けれどその自覚が無い和彦を心配していた松本の一生懸命さと漢気。

和彦を受け止める両親と百合。そのしなやかさ。懐の深さ。

田中の彼女アンジェラや、高校の同級生のいけ好かないと思っていた奴までもが愛おしい。優しくて一生懸命な人間が生き残る世界。

 

そう思うと。一見朴訥とした佇まいの銭湯オーナー、東なんかが一番厄介な人間で。こういう自分可愛さの日和見なキャラクターは結局信用出来ない。案の定。

 

「どうして和彦君は東大を出てるのに就職してこなかったの?」作中、色んな人からそう問われて。あやふやにしか答えなかった和彦が最後爆発した言葉。

「どうして東大を出たらきちんとした所に就職して結婚して幸せにならないといけないんだよ!(言い回しうろ覚え)」

目から鱗。高学歴側の視点なんて持った事が無かったけれど…確かにそうだ。

 

大学を卒業してから。ずっと居場所が見つけられなかった和彦が。やっと見つけた場所。それは一見素朴で、実はぶっ飛んだ銭湯。そこで知り合った仲間。恋人。

他人が見たら「何故東大まで出て?」と思うかもしれないけれど。これが和彦が守るべき大切な場所だった。

どう自分を表現したらいいのか分からなかった。けれどここでは本音を話せる。恋人にも正直に言える。初めはたどたどしいかもしれないけれど。これからは。

 

「闇社会が優しい世界。」「警察が存在しない世界。」「田中は組に所属していないのか?」「銭湯のカレンダーがずっと同じ。2月の物語。」「結局棚ボタにハッピーが落ちてきて、それを貯めに貯めて最後やっと主人公が動くんだな。」「人肉って焼いたらめっちゃ臭いそう。銭湯って確かに煙突が長いけれど…肉の臭いするって言われないもんかな。」無粋な突っ込みも過りましたが。そんなのは目をつぶって。

 

ところで。気づいた時には定員オーバーして募集が打ち切られていましたが。先日映画館と銭湯がコラボして銭湯でこの作品を上映する企画をやっておられました。その様子が何とも楽しそうで羨ましかった当方。

ともあれ。今後銭湯に行くことがあれば、この作品を思い出すんだろうな。(銭湯にとってはいい事ではないでしょうが…)そしてニヤニヤしてしまいそう。そう思うと罪深い作品。

 

嫌な気分になることは無いし、観られる環境にあるのならば万人にお勧めしたい。そう思った作品でした。