ワタナベ星人の独語時間

所詮は戯言です。

映画部活動報告「ゲティ家の身代金」

ゲティ家の身代金」観ました。
f:id:watanabeseijin:20180602214117j:image

1973年。イタリア、ローマで発生した実在の誘拐事件。

当時世界一と評された石油王、ジャン・ポール・ゲティ。彼の孫、ジョン・ポール・ゲティ三世が1973年7月に誘拐された。身代金要求は1700万ドル(約50億円)。発生当初はジョン自身も絡んだいたずらかとも思われたが、誘拐は事実であり。少しずつ身代金の減額に成功するも交渉は難航。

同年11月には新聞社にジョンのもの思われる、切断された耳の一部が送りつけられる。「後10日しか待たない。それ以上支払いを渋る様ならば、もう片方の耳や他の体の一部を送る。」

事件発生当初から。一貫して息子を守るべく立ち向かい続けたジョンの母、アビゲイル・ハリス。

しかし、彼女が戦っていたのは犯人グループだけでは無い。残る相手は「身代金は払わん」と、大富豪でありながら頑として支払いを拒否した石油王であった。

 

『エイリアン』『ブレイドランナー』その他多くの名作を産み出し続ける大御所、リドリー・スコット監督80歳の。キレッキレのクライム・サスペンス作品。

 

「石油王を演じたケヴィン・スぺイシーの例の案件に依る、劇場公開直前の降板。誰もがお蔵入りを覚悟した中、急きょクリストファー・プラマーで撮り直し。三週間後の公開に間に合わせた。」そして公開後複数の映画賞にノミネートされるなど、高く評価されている。そんな話題作。

 

「正直当たりはずれがあるリドスコ監督やけれど。これは流石としか言えない。緊張感に終始包まれ。構成と絵面の見せ方の妙よ!」

 

「やっぱり急きょ代役を引き受けたクリストファー・ブラマの貫禄!いやいや寧ろ彼が石油王でドンピシャやろう!」
f:id:watanabeseijin:20180602233839j:image

 

「去年の『マンチェスタ・バイ・ザ・シー』。最近の『グレイスト・ショーマン』の記憶も新しい、ミシェル・ウィリアムズ。キュートな顔立ちの彼女が最近見せる『母』の演技。」
f:id:watanabeseijin:20180602233849j:image

 

「最近何かとスペシャリスト役を演じるマーク・ウォールバーグ。今回は交渉人。」

 

そんなお決まりの感想。もう既に色んな所で見かけましたし、かと言って当方も人の子、結局同じようなポイントしか触れることは出来ず。

つらつら書いてなぞるのもアレなんで。さっくり二つに絞って。こじんまりと収めたいと思います。

 

『イタリアンマフィアの末端、チンクアンタのリマ症候群っぷり』
f:id:watanabeseijin:20180602233859j:image

 

誘拐や監禁など、極限状態に陥った犯罪被害者が加害者との間に心理的なつながりを築く事をストックホルム症候群(心的外傷ストレス障害)とすると、対になるのがリマ症候群。加害者が被害者に対して親近感を持ち、攻撃的態度が和らぐ現象の事。

ウィキペディア先生より抜粋、当方意訳)

 

誘拐当時16歳だったジョン。あどけなさも残る顔立ち。どこにでもいる、マセた不良。けれど彼は狙われた。世界一の大富豪の孫だから。彼はどこにでもいる16歳では無い。まさに歩く身代金(おぼっちゃまくん)。

資産50億ドル(約1、4兆円)とされる石油王ならば。孫に課せられた1700万ドル(約50億円)なんてはした金だろうと。孫の命が掛かっているのならば払うだろうと。強気で提示したのに。まさかの支払い拒否。

直接石油王とアポは取れない。あくまでも交渉の窓口はジョンの母親アビゲイル。しかし彼女は「お金が無い」の一点張り。

「お前の家族はどうなっているんだ」(実はびんぼっちゃまくんか)

もし我が子や家族がさらわれたとしたら。俺なら何をしてでも救ってみせる。金なんてどこからかかき集めてやる。なのになんだ。お前の家族は。血の通った人間か。お前、愛されていないのか。

加えて、犯行グループ内での焦燥感。苛立ち。こんな誘拐劇、もっと早くケリがつくはずじゃなかったのか。そして決裂。

誘拐当初の犯行グループの壊滅。しかしジョンは解放されず。より大きな組織に売られてしまう。そこでも「俺の言う事なら聞く」と世話役を買って出たチンクアンタ。

母親に何度も電話して。値段交渉を行いながらも「早くしてくれ!ジョンの命が危ういだろうが!」ヤキモキ。

 

「でもね。あんた、犯人やからね。そこ。忘れんな。」真顔の当方。

 

「うん。リマ症候群として仕上がっていくのも、最後の下りも良かったけれど。あんたやっぱり犯人やからね。」「そこ。忘れんな。」

 

もう一つは…やっぱり「ケチってアカンわあああ~」

 

「どんだけ金があろうとも。あの世には一銭も持って行けないんやで」「死ぬときは裸だ」地団駄踏むけれど。

世界一の大富豪が。まさかのドケチ。「俺は身代金など払わんぞ!」の一点張り。

「今回金を払ったら、他の14人の孫達も狙われる」なんて。もっともらしい事を言ってましたけれど。結局は何故俺の金をドブに捨てないといかんのだという不快感。

確かに、ジョンの両親は離婚。母親アビゲイルに親権があるジョンは戸籍上は他人。

けれど石油王の孫であるからこそジョンは誘拐された訳で。大金であろうが、血の繋がった孫に変わりは無い。だから金を出すと誰もが思っていた。石油王以外は。

 

「また腹が立つ事に。趣味の絵画や骨とう品収集には湯水の様に金を払うという…」身代金支払いを拒否するのと同時進行に。古い絵画にはポンと出費。憎たらしい。

 

「よくこんな状況に対応し続けたな…当方があの母親の立場なら、自我が崩壊するか石油王を殺しに行くよ。」

誘拐犯と石油王。ダブル交渉の日々。ジョンを保護したのが同年12月であったことを思うと約半年の攻防戦。

 

「そして当方の妹が必ず言う言葉。『こんな奴。畳の上では死なれへんで』ピタリ案件。」

 

ところで。これが実際に起きた誘拐事件であるとなると。やはり鑑賞後調べてしまいましたが。
f:id:watanabeseijin:20180602234441j:image

 

「そうか。ジョン…以降は薬物&アルコール依存症で20代に肝不全と脳梗塞発症…失明し寝たきり…廃人として54歳で死亡。母親アビゲイルに看取られて…。」沈む当方。

 

エンターテイメントクライム・サスペンスとして超一級ではありましたが。「事実は小説よりも~」の現実を知って。

後から何だか胸が重たくなりました。