ワタナベ星人の独語時間

所詮は戯言です。

映画部活動報告「タレンタイム~優しい歌」

「タレンタイム~優しい歌」観ました。

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マレーシア。2009年に公開された、ヤスミン・アフマド監督作品。公開同年にまさかの急逝。遺作となった作品。

ある高校で開催される事になった「タレンタイム」所謂演芸コンテスト。7周年の今回。7人の演者がオーディションで最終選出。
そして同時に演者を送り迎えする(高校生の)送迎バイク部隊も選出される。

主にはその演者の中の少女ムルーと、彼女の送迎担当になった聴覚障害を持つマヘシュの恋。優等生ハフィズと、彼のせいで二番手に落ちてしまったカーフォウとの関係性。その二つを軸に。物語は進んでいく。

兎に角前評判の良かったこの作品。

「そうか。マレーシアって…」鑑賞後。これまで触れた事の無かったマレーシアという国に思いを馳せる当方。

「マレーシアは多民族国家です」冒頭。このことわりが表示され。
その後。話が進む中で、無論翻訳こんにゃくを所持しない当方には彼らの言語を聞き分ける芸当は出来ませんが…「これは英語だ」「これは…何か現地の言葉だ」兎に角言語が入り乱れる。これは字幕が難しかっただろうなと思った作品。

しかも。「言葉」は口に出す類だけでは無くて。「手話」も入ってくる。

高校で。「タレンタイム」という演芸コンテストが行われる。マツコ・デラックスみたいな先生の号令を皮切りに。集まる生徒達。そしてオーディション。

すぐさま「次!」と切り替えられる中で。ひときわ光ってみせたピアノ弾き語りのムルーとギターのハフィズ。そして二胡のカーホウ。オーディション通過。

タレンタイム本番を最終目標として。各々練習する日々。でも。それに没頭出来る日々ではない。

ある者は恋に落ち。ある者は永遠の別れを迎えようとする家族を持ち。ある者は自身の能力の限界に胸を痛めている。

演者の個人送迎部隊。

高校生でバイク通学…アジアやしそれはいいとして、この人選。マツコ・デラックス似の先生は何を考えているんですか?

「そりゃあ、多感な高校生男女をペアにしたら…恋に落ちるに決まっているやんか!」

「貴方はタレンタイムファイナリストに決まりました」という知らせを持って自宅にやってきた、無口なイケメン。そりゃあ「貴方だ~たんだ。貴方だ~た~んだ。嬉しい。楽しい。大好き!」ってなっちゃいますよ。

しかも。「なにこいつ。真面目に送り迎えしてくれるけれど、愛想なさすぎ」からの「耳が聞こえなかったの?…ごめんなさい」もう加速的にラブは拡大。「だけど。気になる。昨日よりもずっと」アイツはとんだマーマレード・ボーイ。

(またね…。純朴なはずのマヘシュの「距離近すぎ問題」ムルーにヘルメットを装着してあげる時の距離感。「えっつ?もしかして…チューされちゃうの?」みたいなドキドキ感。ずるい。ずるいまでの天性の「恋人会話力」を持ったマヘシュ)

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マヘシュもまたたく間にムルーに恋してしまう。両想い。高校生同士の恋。好きだけが先行していればいい恋。なのに。

「二人の前にはだかる、マヘシュの母親」ここで効いてくる、マレーシア多民族問題。

「そうか…宗教の違いでこんなにも頑なな溝が生まれるのか…」

マシュヘの叔父。奔放で。プレイボーイ。好き勝手していたと思っていた叔父の、真っすぐ過ぎた、秘めたる純愛。

宗教の違う相手への憎しみ。怒り。当方は強い信仰心は持っていませんので、マシュヘの母親をどうこうは言えません。うわべだけの非難は薄っぺらすぎるから。ですが。

マシュヘの叔父が。マシュヘの姉が。「どうして?好きなら良いじゃない」マシュヘの母親に語り。
そしてマシュヘが叫ぶ「貴方(母親)の事はとても尊敬している。でも…ならば教えて欲しい。好きだという気持ちの忘れ方を」

マッシュへの母親が、決して悪人だとは思わない。宗教とは別の、本能的な「自分の大切な人を守りたい」という判断基準に「宗教の違い=価値観の違い」という概念があって。だから自分の大切な人が傷付けられるんじゃないかと思って必死に牙を剥いてしまう。母性故の防衛本能。
でも…それは自分の大切な人にとっては「誰よりもかけがえのない存在」であって。

叔父からのメッセージ「いかれた母親には耳を貸すな。愛する人がいたらためらうな」

ガチガチな価値観。無意識で、ある意味無神経な先入観。向き合っていかなければいけないのであろう、マシュヘの母親。

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対する、ムルーの一家のフラットで開放的な家族。

イギリス人の祖母を持ち。歳の近い姉妹は何かと言い合いをしながらも仲良し。家族全体が常にじゃれ合って仲が良い。中華系メイドのメイリンに無神経な事を言う客人には、ユーモラスに。でも毅然と抗議する。
娘の恋する相手を温かく受け入れる。

どちらも、家族を大切にする姿。なのに…起きてしまう「二人の恋を引き裂く事態」

もう一つのスポット。ハフィズとカーフォウについて。

ちょっと前の二人で尺を取りすぎてしまったのもあって…あっさりと書いてしまいますが。

出木杉君は基本好かれないよな…」だって。ドラえもんでも出木杉って二軍止まりじゃないですか。それはやっぱりとっつきにくいし、一緒に居たら自身と比較して自身を卑下してしまう。それは…楽しくない。結果距離を置いてしまう。

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まあまあイケメン。勉強が出来て。歌も上手くて。そんな愛せない彼の。「実は末期の脳腫瘍の母親がいる」という事実。(しかもそれを周りには言わない)
放課後。母親の病室でのひと時。甘えたくて。でもいい子で通して(ところで。彼の専属送迎部隊は?)

観ている側に、表面上では徹底的に「出木杉」で通した彼の。見せなかった苦悩に思いを馳せ。最後。やっと母親に甘えるそぶりを見せた彼に。そしてタレンタイムに「ベストを尽くす」と参加した彼に。

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そして。そんなハフィズをずっと憎んでいたカーフォウの、二胡の演奏に。

最後の最後。どっと涙が出て。止まらなくなった当方。


色んな人がいる。色んな考え方がある。一見相容れない事。でも。ゆっくり落ち着いて相手と対峙すれば。決して何もかも分かり合えない訳では無い。
時間が必要な事がある。視点を変えれば景色が全く変わる事がある。ある時突然に何もかもが分かる時もある。

互いを分かり合う時。言葉は要らないのかもしれない。視線を交わせば。握手をすれば。肩を叩けば。抱き合えば。…ただ寄り添えば。それだけで伝わる事は沢山ある。

幾らでも深読み出来る。でも易しい。優しい世界で。誰も悪者の居ない世界で。

確かに優しい歌を聞いた。そんな多幸感で一杯になった作品。

マレーシア。いつかは行きたいです。

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