ワタナベ星人の独語時間

所詮は戯言です。

映画部活動報告「アンモナイトの目覚め」

アンモナイトの目覚め」観ました。
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1840年代。イギリス南部の寂れた海辺の町、ライムレジンス。

年老いた母親と二人土産物を営むメアリー・アニング(ケイト・ウィンスレット)。

実は幼少期に発掘した『イクチオサウルス』が大英博物館に収集されている古生物学者。しかし時代柄、彼女の功績は認められず。ずっと田舎町で細々と暮らしていた。

ある日。地質学会の権威である化石収集家ロデリック・マーチソンが妻のシャーロット(シアーシャ・ローナン)を連れてライムレジンスにやって来た。

ふさぎ込んでいる妻の気分転換になればと、話し相手を頼まれたメアリー。初めは互いにギクシャクしていた二人だったが。

 

「『ゴッズ・オウン・カントリー』のフランシス・リー監督最新作かあ~。」

 

2017年公開。イギリスの牧場を舞台とした男性同士の恋愛を描いた前作。「スパダリとはこのことか!」包容力無限大のゲオルゲに当方も漏れなく酔いしれた作品…のフランシス・リー監督。新たな舞台は1840年代の海辺の町。女性二人の恋。

 

「未知の古代生物の発見」かつて偉大な発見をしていながら。女性であるが故に正当に評価されなかった。家族には不幸が続き、いつの間にか母親と二人。その母親も最近滅法年老いている。

寂れた観光地。あまり来ない観光客相手に収集した化石を土産物として売る…身なりも構わず。そんな中年女性、メアリー。

ある日訪れたマーチソン夫妻。夫のロデリックは化石収集家で、メアリー目当ての来訪。「あのイクチオサウルスの発掘者でしょう!ああやはりお目が高い!」。

翌朝の化石収拾にも参加。天真爛漫な彼は「しばらくの間、妻のシャーロットを預かってくださいませんか」と切り出してくる。

 

これは…最近公開された『燃える女の肖像』を連想せざるを得ない。閉ざされた場所での女性同士の恋愛。(以降比較することはない予定です)

 

まあ…寂れた田舎町に埋もれていた中年女性、メアリー。過去に功績を挙げながらもひっそり暮らしていた彼女の元に現れた若き人妻、シャーロット。  

初めはどうしていいのか分からなかった。綺麗だけれど生気がなく、およそ場違いな装いでついて来たお人形。しかし彼女が海に飛び込んで風邪を引いて寝込んでしまい。看病したことから、二人の関係は変化していく。

 

そもそも何に対してふさぎ込んでいるのかもよく分からんシャーロット(欲求不満?)。「まあ…着衣水泳をした事による風邪か肺炎ですわな…」勝手に海に飛び込んだ挙句、大げさにメアリーの家で寝込むシャーロット。在宅訪問した医者(ゲオルゲ!お久しぶり!)も大した処方をするでもなく「女性ならば女性同士の方が看病しやすいでしょう(言い回しうろ覚え)」という「いやいや特効薬くれよ!」な言葉を吐いて診察終了。結局メアリーは過去何かあったとしか思えんご近所さんからヴェポラップ的なもの(ヴェポラップが何かはお手持ちのデバイスで検索してください。当方は子供の頃大変お世話になりました)を入手し使用。メアリーのかいがいしい(具体的には何を?)看護の結果回復(何から?)したシャーロット。

(切れ間の無い長文から心中お察しください。)

 

田舎町で年老いた母親二人で暮らすメアリー。比べて私は何も出来ない。そう言って泣くシャーロットに寄り添うメアリー。そして近づく二人の距離。

 

硬質で静か。けれどその内情には熱く燃える恋がある。

くたびれ切ったメアリーをリアルに演じ切るケイト・ウィンスレットは流石の貫禄。しかし華やかで若々しいシャーロットを演じたシアーシャ・ローナンも決して負けてはいない。

1840年代。まだ女性が社会で表立って活躍出来なかった時代。偉大な発見をしていながら埋もれようとしていた女性古生物学者と、夫を支える妻という役割に疲れていた女性。そんな二人の恋…。

 

そんな風に感じる事ができたら良かったんですが。

 

当方には残念ながら気難しい性質があって。

化石収集にもこの時代のイギリス事情にも全く疎いのですが。一つだけ事前に知っていたこと。「この二人はどうやら実在の人物らしい」

不遇の古生物学者・メアリー・アニング。化石採取で偉大な功績を残しているが、女性であることからイギリス学術振興学会からは認められず。生涯独身であり、47歳で生涯を終えている。

シャーロット・マーチソン。実際の人物はメアリーよりも10歳は年上。年下の夫ロデリックは元々は軍人であったけれど、時世の流れから夫に地質学者になるように勧めた。

メアリーとシャーロットの出会は事実。そこで人脈を得た、聡明で頭の回転の速いシャーロットがメアリーの良質な収集物をロデリックに回すべくロンドンに招待したと識者間で解釈されている。

 

「魅力的な人物であることはよく分かる。けれど…それならば実在の人物にこだわらない方が良かったのでは?」

 

メアリーは一体どういう人物だったのか。伝記的な内容を求めていたわけではない。けれど、実在した人物に対してこの描き方は…自由過ぎる。

男性優位であった時代における、女性としての学者としての生きづらさ。そこにはあまり視点が置かれていなくて。「彼女のセクシャリティ」という踏み込んではいけないところに終始。センシティブが過ぎる。

 

例えば。当方が死んだときに「あの人浮いた噂も無かったし、パートナーも居なくて。寂しい人生だったでしょうねえ」なんて言われたとしたら。

死んでいても棺桶破りたくなるくらいに腹が立つであろうと想像する当方。「恋をしなかったからって、とやかく言われる筋合いねえよ!」「当方の一生を勝手に値踏みするんじゃねえ!」

それに…「恋をしている」とか「今パートナーがいる」とかを誰かに報告する義務もない。

知らないくせに、勝手に「あの人は恋をしなかった」=「寂しい人生だった」と思われるのは心外ではないか。

ましてや。「色恋沙汰を誰にも漏らさなかったのは、同性愛者だからだ」という解釈もおかしい。

つまりは、恋愛とは超個人的で自由であるということ。誰を愛しても、誰も愛さなかったとしてもそれは個人の自由。

 

メアリーの47年の生涯が一体どういうものだったのかは、メアリーが語っていないのならば他人が分かるはずがない。生涯独身であったとしても、とやかく言われる筋合いもましてや新解釈を差し込まれる隙間もあるはずがない。

 

そして。何だかんだ仲睦まじかったらしいマーチソン夫妻にも何だか(シャーロットは80歳を超える大往生)…シャーロットを実際の年齢よりも随分若く設定したのははっきり言ってキャスティングと内容の萌えの問題であって、それならば尚更メアリーとシャーロットを題材にするべきではない。

 

「何故実在の人物をそのままスライドした。それさえなければ素直に物語の世界に溺れられたのに。」

 

二人の女優の演技や硬質な画面からにじみ出る静かで激しい愛。「アンモナイト」という掘り起こされて磨かれて初めて世間に認められる原石=埋もれてしまった科学者=メアリーという多重構造なんでしょうし、最後は一体どうなるの...という余韻もある。

 

ただ…偏屈故に真っすぐには受け止められなかった。

 

フランシス・リー監督。彼の作る硬質で静かな世界観は大好きなんで。次回作に期待しています。