映画部活動報告「オーバー・フェンス」
「オーバー・フェンス」観ました。
佐藤泰志の函館三部作小説の映画化。
山下敦弘監督作品。
オダギリジョー、蒼井優主演。
ごく普通に就職し、結婚し、子供を儲けた。平凡な人生を送るはずであった。なのに。
夫婦関係は破たんし。仕事も辞め。故郷の函館に戻った男やもめの主人公。
職業訓練校に通いながら。一体俺はこれからどうしたもんかとぼんやりしていた主人公の前に現れた、奇想天外な女。
前もって提示しますが。当方は本当に「メンヘラ女子は相入れない」んですよ。
「酒さえ飲まなければ真っ当な人物」と評される当方。当方だってまともな人間じゃない。大体「まともな人間」なんてどこにも居ない。
誰だって、強くなんてない。弱くて。一人は怖くて。時にはしゃがみこんで泣きたい時もある。だって「にんげんだもの:みつを」
分かりますよ。分かりすぎる位にわかりますよ。
「でも駄目なんだ。メンヘラ女子は本当に疲れるから」
詳細は一切語りたくありませんが。当方のこれまでの半生に於いて、当方をかき乱し、疲弊させた2人のメンヘラ女子。…思い出したくもない過去。
この作品の蒼井優の演技。その憑依した姿には数多の称賛の声が寄せられ。
「痛々しくも、何だか抱きしめたくなった」「全身で表現していた」「涙が出た」等々。
蒼井優の生々しい「聡」その演技力。
また、「完全な受け」を演じたオダギリジョーについて。
当方は演ずることの何たるかは知りませんし、大仰には語りません。兎に角「その人物そのものに見えた」というだけで。
だからこそ、この作品の主人公二人に言いたい。
「似た者同士のメンヘラカップル。分かる相手を見つけたなら、それは幸せ。それで結構…だから、人様に迷惑を掛けんようにな!」
聡。
鳥の求愛行動をダンスで表現する。態度も機嫌もコロコロと二転三転。泣いて笑って叫んでの大忙し。挙句窓ガラスを割り、バイト先にも大迷惑を掛ける。(あんなの…警察沙汰やし、テレビで取り上げられるレベルやぞ)
「ああもう。ほんまに嫌い!こういう女!」
気持ちが盛り上がって、勢いでセックスして。良い感じなはずやのに…突然絡んでくるくだり。
「何で奥さんと別れたか教えろ?黙秘権ってやつがあるしな!何でそんな核心にいきなり土足で踏み込んでくるんだよ!大体、お前は自分の事一切喋らずに、相手には秘密を教えろって。そんなの、フェアじゃないやろうが!」
当方ならそう言ってキレるし、絶対に言わない。しかもあんな扱いを受けたらもう二度と聡を受け入れませんよ。
だからこそ。その後も「ごめんね」だけで聡を受け入れた主人公も、当方には同じ穴のムジナにしか見えなくて。
一見まともに見えた主人公。その立派な「面倒臭い奴」レベル。
「俺には捨てるものなんかない」「俺のせい」「何かを壊した俺と、お前と云々(急激にダウナーな気分に襲われる当方。依って、以下略)」その完全に己に酔ったテンション。
「うぜえええええええええ。」一升瓶片手に飲んでいたおいちゃん当方が一升瓶を割る瞬間。
「男が終わった事をいつまでもグダグダ言うんじゃない!思うのは勝手やけれどな!お姉ちゃんの前で言うもんじゃない!!」
(そういう男女の姿を描いている作品だという事は、一応理解はしていますよ。一応は)
メンヘラって、よっぽどな切り方をしない限りずっとしがみついてきますからね。嫌な言い方ですが。
だから見てみなさいよと。この作中の二人を。
「恐らくは何回も付いたり離れたりを繰り返すんやろうな。腐れ縁というやつで。」
主演のカップルにいまいち嵌れなかった当方。
でも。あの職業訓練校の描写にはしみじみしました。
皆が同い年とかの学校じゃない。各々歩んだこれまでの半生があって。その上で選んで集まっている集団。でも。
「本当に大工になるのかなあ?」
自分の今居る場所にピンと来なくて。
皆がむしゃらにやっている様には見えなくて。でもこれは遊びでは無くて。
ちゃらちゃらと若い奴とつるんでいる原さんの、実は浮ついていないきちんとした大人という現実。
地に足つけて。しっかり家族を守っていこうとする姿。その覚悟。
どうせ馬鹿の集まりだと、訓練校の皆を見下す事で心の均整を保とうとした森。なのに。不器用で。誰よりも下手くそで。ここは俺の居場所じゃないと。結局はどこかで仲間を欲しているのに。噛み合わなくなった歯車はもうどうも出来なくて。
「彼には居場所が見つかるのだろうか。」心に引っかかって。どうしてもこの作品を思い返す度当方の心に引っかかる森。
「そして、鈴木常吉さん演じる『勝間さん』」
リタイア組。正直再就職の為なんてがっついた気持ちでは来ていない。飄々とした最年長者。
指導する教官より年上で。ふわふわとした風貌と。説教臭い事なんて言わないフランクさ。でも、締めるべき時はびしっと締める。
「良いなあ。こういう年配者になりたい。憧れるよ。」
初めは、何となく同じクラスであるという集団にしか見えなかった。でも。次第に生まれる連帯感。
あんまり頑張っていなかったソフトボールの練習。でも。色んな段階を経て、皆の中で大切なものになっていったソフトボール大会。
「良いなあ。これ、卒業したら皆ばらばらになるんやろうけれど。また集まりたくなるような仲間やし。恐らくこの日の事も、これまでの事も笑いながら酒を酌み交わせそうな気がする。」
大人になってからそんな仲間ができるなんて。幸せすぎる。
「そうか。いつかは笑えたら。それで良いんかもしれないな。」
かつての自分も。失敗だと心を痛めた事も。おかしな彼女も。へとへとになった日々も。
その時一緒に笑ってくれるのは誰かは、今は分からないけれども。
最後に飛んでいったボールを見た時。何かが吹っ切れたような、そんな気がしました。