ワタナベ星人の独語時間

所詮は戯言です。

映画部活動報告「スパイの妻」

「スパイの妻」観ました。
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1940年、太平洋戦争間近の日本。

神戸で貿易商を営む福原優作(高橋一生)は、仕事で赴いた満州で恐るべき国家機密を知ってしまう。このことを世に知らしめようとする優作と、彼をマークする憲兵たち。

信頼し、生涯愛しぬくと誓っていた夫の別の顔。

思わぬ優作の素顔に一時は戸惑うが、どこまでも付いていく妻の聡子(蒼井優)。

国が戦争に向かって不穏な空気に包まれる中。

正義を貫くためには誰かを犠牲にしなければならず、けれど崇高な精神の前ではその愛すらも手放さなければならない。

第77回ヴェネチア国際映画祭銀獅子賞(監督賞)受賞。黒沢清監督作品。

 

「これは…参ったな」。

劇場公開初日の10月16日金曜日。仕事終わりに鑑賞し、もやもやした気持ちを抱えて帰宅した当方。

 

先だってお断りしておきますが。これは当方の個人的な感想文であり、映画作品を鑑賞した率直な気持ちをそのまま書いています。嘘をついたりはしたくない。

一つの映画作品に対して、これが傑作だと思う人も居ればそうではないと感じる人も居る。この作品に感動した人を決して馬鹿にしている訳では無い。という事をあしからず書いておいて。

何を言い訳しているのかというと…当方が鑑賞後率直に感じたのが…「チープだな」という印象だったから。

 

1940年代の神戸。確かに古い建物を使い、役者は当時の雰囲気にスタイリングされた風貌。話し言葉も往年の俳優みたいな言葉遣い。なのに…なんだか空々しい。

「ていうかどこの放送局のセットだよ!」感が否めなくて。いやまあこれ実際に今年6月NHKのBSで放送されたテレビドラマなんですけれど。どうもテレビドラマにしか見えない。自宅のテレビサイズならば感じないのであろう違和感が…スクリーンに映されるとチープに見える。

 

脚本も滝口竜介、野原位、黒沢清とそうそうたる面々。黒沢監督単体ならば「ここの船のシーン、誰かがそこの階段から転げ落ちるぞ」なんて事もありそうでしたがそれもなく。兎に角終始メロドラマ調。

 

この作品は、太平洋戦争直前のピリピリした日本が舞台で。皆が質素な和装に切り替えていく中。貿易商を営み洋装を纏い…そのままでも周囲から異分子になりつつあった福原夫婦が、国家の機密を知り正義の行動を取ろうと奔走した姿を描いたのですが。

当時の日本の雰囲気を、勿論知る由もないのですが…正直「優作が見てしまった機密が他国に知られた所で日本国家にはどの程度のダメージがあるのだろうか。確かに非人道的だけれど…国家を転覆させるほどではないような…」なんて思ってしまった当方。

「ならば何も見なかったという事にしていいのか!」「お前の中の正義は何処だ!」

そんなお怒りの声が上がるのかもしれませんが…「ではその機密と引き換えに奪われた命や精神の重さはどう思うんだ」。苦々しく答える当方。

仕事で満州に向かい。そこで見てしまった日本国家の悪行。証拠を掴み、これを世界に吐露してやろうと画策する優作や、満州に同行していた甥の竹下文雄(坂東龍汰)や現地で働いていた看護婦。帰国後すぐに「こいつらはスパイだ」と憲兵に目を付けられ、追いつめられていくけれど。有事の前には末端の彼らの命など軽い事よ。

 

多分…当方の中で苦々しい感想が止められないのは、主人公の福原夫妻がどうも好きになれないから。

「僕はねえ。コスモポリタンなんだ」(コスモポリタン=コスモポリタニズム(世界主義)に賛同する者の集まり、世界主義者。/Wikipedia先生より)

優作があのエエ声でそう放った時。思わずクッと笑いがこみあげてしまった当方(いや…なんていうか…高橋一生って無駄にエエ声なんですよね)。

どこかの国に属したスパイなんかじゃない。世界平和の思想のもと、いけない事には蓋をしない、そういう主義だと。

その言葉を聞くまでは、疑心暗鬼にもなったけれど。「私は優作さんにどこまでも付いていくわ!」心を決めたが最後、べったりくっついてくる聡子。

 

「うぜえええええええええええ~」。

メンヘラ系女子が大の苦手。依存されたくない。自由を奪われると殺意すら感じる。そんな当方はこういう聡子みたいなタイプは滅茶苦茶苦手。

「優作さんと一瞬でも離れたくない!」「聡子はずっと一緒!」「私にはあなただけ!」ああもう鬱陶しい。

 

盲目的に自分についてくる事で、自身の人生を生きる事が出来なくなるであろう聡子をああいう形で切った優作は確かにお見事。愛ゆえの行動。まあ、分かり易過ぎでしたけれど(だって…ねえ…あの問題映像を見た時から似ているなと思いましたよね)。

あの「お見事!」の所で終わったらいいような気がしましたけれど。

 

散々好き勝手書いてしまいましたが。そもそも何故当方がこの作品を観ようかと思ったのかというと「黒沢清監督が好きだから」。

どことなく歪で滑稽。どこかに綻びがある。けれど何だか惹かれて仕方がない。

当方が勝手に『光と影の魔術師』と呼んでいる黒沢清監督。今回も、まさかの「感情やその場の雰囲気を照明で演出する」という誰にも真似できない演出をしておられました(『クリーピー 偽りの隣人』の冒頭、玄関前のシーンなんて鳥肌モノ)。

宇宙人俳優、東出昌大の扱いは、黒沢清監督が一番上手いんじゃないかと思っている当方。今回の憲兵の役も惚れ惚れ。

 

いわくありそうな時代背景や設定。構えて映画館に向かった結果、何だか壮大なメロドラマを観せられた感じが未だに抜けませんが。

まあ…何だかんだ毎回黒沢清監督作品には茶々を入れてしまうから…けれど結局次回作も観るのだろうなと。そう思う当方です。