ワタナベ星人の独語時間

所詮は戯言です。

映画部活動報告「来る」

「来る」観ました。

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澤村伊智原作小説「ぼぎわんが、来る」の映画化。中島哲也監督作品。

 

「もうすぐアレが来んねん。でも秀樹の所にも来るで。だってアンタ、嘘つきやもん。」

 

幼い頃の記憶。一緒にお山で遊んでいた女の子。ある日突然居なくなった。『アレ』に連れていかれたあの子。

親からの虐待だ。あの子は殺されたんだ。大人たちは好き勝手な事を言ったけれど。結局誰も、真相もあの子も見つけることは出来なかった。

何故かあの子との思い出は断片的で禍々しくて…なのにあの子の名前も思出せない。なのに。何故かこれだけははっきり覚えている。

「秀樹の所にも来るで。だってアンタ、嘘つきやもん。」

 

田原秀樹(妻夫木聡)、やり手営業マン。出入りのスーパー店員の香奈(黒木華)に一目ぼれ。猛アタックの後結婚。娘知沙の誕生に合わせマンションも購入。日々イクメンぶりを描いたブログを更新。幸せ一杯の生活を演じていた。…演じていた。

薄っぺらい幸せを公開する裏で。乖離していく夫婦の気持ち。確かに妻子を愛する気持ちはあるものの、子育てに対し具体的な協力など一切無い秀樹に疲労し愛想を尽かしていく香奈。

 

そして。『アレ』がやってきた。

 

オカルトライター、野崎和浩(岡田准一)。知り合いの民族学者、津田大吾(青木崇高)の親友田原が怪奇現象に悩まされているという相談を受け、元彼女でキャバクラ嬢霊媒師の比嘉真琴(小松奈々)を紹介する。メンヘラで言葉足らずな真琴に始めこそ憤ていた田原。けれど「どうしても気になる」と田原家に押しかける真琴。付いて行く野崎。そこで二人が見たのは、想像以上の相手であった。

 

『アレ』に依って次第に崩壊していく田原家。その威力で死傷者が続出する事体となって。

遂に真琴の姉、日本最強の霊媒師琴子(松たか子)が立ち上がった。そして琴子の呼びかけで日本中の霊媒師が田原家に集結。

大規模『祓いの儀式』。それでアレを止める事は出来るのか_。

 

「入口と出口の印象が随分違う作品。」当方の鑑賞後第一印象。

 

前半の田原家エピソードと、後半のお祓いエンターテイメント。

 

まあ…結構公開から時間も経っていますので。ぽつりとバラしてしましますが。これ、結局『アレ』って一体何なのか?という明確な回答がある作品じゃないんですね。

なので。几帳面に謎解きをしてすっきりさせたい派の人には全然腑に落ちない作品だろうと思う当方。「何この最後のどんちゃん騒ぎ。」

 

当方ですか?…まあ当方も基本的にはすっきりさせたい派なんですがね。正直、去年観た韓国映画『哭声/コクソン』のお祓い合戦の面白さを思い起こさせたあのシーン、寧ろ「韓国のあの人、それっぽい人が居るのを確認。後は國村隼を召喚せよ!」なんて思っていた次第でしたし。…嫌いじゃ無かったです。

 

ただ。確かにお話の終わらせ方としてはすっきりしなかった。ですが。

 

この作品の肝となる前半の田原ファミリー物語。『嘘つき』の秀樹が香奈と一緒になって、知沙が産まれて。そして崩壊。この流れが余りにも秀逸。怒涛の畳みかけ。

 

序盤のシーン。田原一族の法事という『地方都市の旧家あるある』。

「今はまだお嫁さんちゃうねんから~。」「お手伝いとかいらんて。お客さんやねんで。」「もう。秀樹。香奈さん邪魔。」親戚一同が集う酒宴。やれアイツは負け犬だ、その点秀樹は優秀や。そんな余計な言葉を発端に起きる喧嘩。走り回る子供。女同士のマウントとしきたり。(また効果的(=イケズ)に使われる関西弁よ)観ている一部の人間を震えさせるジャパニーズホラーでどんよりとさせ。

結婚式。幸せな二人を冷ややかに見る客人。(今日日引き出物が新郎新婦の顔入りプレートって。そもそも食事を盛り付ける皿に人の顔って。使いにくいし捨てにくいし…)

新居でのパーティ。あんなにお腹の大きな妻に大勢の客人をもてなさせるなんて…。

 

「そもそも秀樹は何故あそこまで虚栄心が強いんやろう?」

 

お話の中で特に言及されませんし。「アンタ、嘘つきやから」の言葉からも元々見栄っ張りな性格なんだろうと。それが行き過ぎた結果なんやろうと思いますが。

 

「あの法事後の酒宴から当方が思い至った事。つまり秀樹は骨の髄まで『田原家』の人間なんやなあという印象。」

 

地方出身で。東京で就職して成績の良い営業マン。可愛い妻子に恵まれて。一等地で子育てを考慮したマンション購入。幸せな成り上がり。けれどそれはナチュラルな流れ。

俺は田原家の中の勝ち組。都会でも通用するし、それどころか元から都会に住む人間よりずっと成功している。でもそれは打算じゃない。俺は自然にそうなった。

愛する妻子。そして妻子も俺を愛している。笑顔の絶えない家庭。俺のサクセス人生、最高じゃない?

 

余りにも『形から入る』タイプの秀樹。秀樹自身は自身に言い聞かせる事であたかもそれが真実であると錯覚出来る。けれどそれは秀樹にとってのみ都合の良い夢。

身近な人間にとっての『秀樹の夢』は『嘘』でしかない。あくまでも主人公は秀樹で。周りは皆脇役で、秀樹の嘘を演出するただの駒。

 

けれど。本当は秀樹だって分かっている。けれどこの虚構が崩れるのは怖い。

 

『アレ』の正体は結局明かされない。けれど禍々しく凶悪な威力を持つ『アレ』は追われる者が抱える「見ない事にした恐怖」の権化。

 

結局飲み込まれ。喰い潰される田原ファミリー。

 

化け物である『アレ』を呼び寄せていく田原ファミリーのヒストリー。そのノンストップな展開。この前半が余りにも完璧すぎて。だから後半とのバランスに若干違和感を感じようと構わない。「おかしな所は当方の脳内引き出しで補てんします。」そう言ってしまう。

 

(それにしても前作『渇き。』と言い、中島監督作品の妻夫木聡は本当に良い。今回も薄っぺらい秀樹の役、最高でした(褒めています)。)

 

全体的に振り返ると、どうしても雑な点や投げっぱなしも気になる。この終わり方はしっくり来ない。けれど。良くも悪くもテンポがよくて…禍々しくて、なんやこれの連続だけれど。流石中島作品、絵面のインパクトが強くて、目が離せない。

 

「まあ。総じて言うと十分楽しんだ感じか…。」

 

ただ。鑑賞中体の力みが凄くて。終わった後どっと疲労。脳が痺れ。そして全身の脱力感。…非常に気力体力を使う作品でした。