ワタナベ星人の独語時間

所詮は戯言です。

映画部活動報告「JUNK HEAD」

「JUNK HEAD」観ました。
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遥か昔、人類は地下開発の労働力として人口生命体のマリガンを創造した。自我に目覚めたマリガンは自らのクローンを増やして人類に反乱。

それから1600年後の世界。

人類は地下世界で独自に進化するマリガンの生態調査を始めた。

~『JUNK HEAD』パンフレットより抜粋。

 

映像制作の経験が無かった内装業他を営む堀貴秀監督が、一人で撮り始めたストップモーションアニメ。造形~コマ撮りを延々4年続け、2013年に完成した30分の短編映画『JUNK HEAD1』。

渋谷アップリンクで「面白くなければお金はいらない」という投げ銭制度で一日だけ上映。その後紆余曲折あったが(こんな一言で纏めようとする当方の雑さよ)長編映画に仕立てなおすこととなり追加製作開始。

その後も3,4人の少数スタッフで作業を続け、2017年に完成。上映に至った。

 

ストップモーションアニメ』

当方の中でそう言われて想像するのは、かつてNHK教育番組で放送されていた『ピングー/pigu 』や『ニャッキ』。

単純な造形のクレイ人形が、緻密なコマ送りによって動いているように見える。

当方は映像製作やアニメ制作に関わる仕事とは全く無縁ですが。それでも流石に想像できる…この、一見ほのぼのとした映像を作るのにどれだけの労力と時間を要するのか。

 

「なんか凄いのが出てきたぞ!」

今作品公開後。「今時こんなに手間のかかる事を!」「しかも相当なクオリティで!」至る所から聞こえてきた、称賛の声。

公開当初、若干行きづらい(単純に遠いのと、生活と上映時間がすり合わせられなかった)映画館でしか上映していなかったので様子を見ていましたが。あれよあれよという間に上映館が増えたのを幸いに。無事鑑賞する事が出来ました。

 

ひとことで言うと「良いもの観させてもらいました」(何様だ)。

まさに「継続は力なり」。こんなに緻密で丁寧なお仕事をクオリティが一切落ちることなく最後まで完走されていることへの感動。

普段映画作品を観る時、結局はストーリー重視になってしまっている自身を実感。

けれどこの作品はストーリーや映像だけには留まらない。スクリーンに映るもの全てが全力で存在感を押し出してくる。

 

寧ろストーリー自体には緻密さが無い。

「核の冬により生態系が崩壊。汚染された地上に住めなくなった人類たちは生活圏を地下に埋めた」「地下開発のためにマリガンという人工生命体を創造したが、彼らは意思を持ち始め。遂には人類に反乱した」「人類とマリガンとの停戦。地下世界の分配」「正体不明のウイルスにより人類存続の危機。その危機を脱した後に人類が手に入れたのは人体の無機質転化。すなわち、微弱な電気刺激さえあれば頭部のみで生きていける体…代償として人類は生殖能力を失った」

新たなウイルスの発生で再び人類は存続の危機にさらされた。偶然知ったとあるマリガンに生殖能力の可能性を見出した人類は調査を開始。そこで主人公パートン(ダンス講師)が調査員をかって出た。

 

という冒頭の説明をした以降は、観ている側に「こういう事だろうな」と脳内補完をさせながら進んでいく。

 

ナウシカブレードランナーなど。どこかで聞いたようなディストピア設定を掛け合わせた世界観。

ウイルスに侵されさえしなければ、ほぼ永遠の命を得た人類。けれど日々の生活は殆どバーチャルで、人との接触もなく生殖能力もない。淡々とした日常。

好奇心と、ある意味暇つぶしも兼ねて調査員に志願。地下世界のもっと下層、マリガンの生息する場所まで降下したパートン。けれど降下途中で追撃に会い。頭部だけになってしまったパートンは「地獄の3鬼神」こと3バカに拾われる。ラボに運ばれロボットの体を得たパートン。初めは記憶を失っていたが、次第に記憶を取り戻し、マリガンたちの世界を目の当たりにしていく。

 

キャラクター達は、先述したNHK教育番組でお見掛けしてもおかしくないような愛らしい造形。主要なキャラクターは勿論、虫っぽい生物から誰彼構わず襲い掛かってくる野獣まで、どことなく愛嬌がある。(寧ろ人類の方が気持ち悪い)

おっとりした野獣「トロちゃん」や、高級食材で人間遺伝子由来のクローンである「クノコ」の「いやいやいやそれってさあ~」という造形。

そして圧倒的な迫力で畳みかけてくる「地下世界」。

全てが手作りとは思えない、武骨な工場要塞感。「~工業地帯」とかの映像を延々見続けられる性癖の人(当方も含む)には堪らん画作り。

…とまあ、総じて「男子って本当にこういうの好きなんだからあ~(誰?)」という夢の世界なんですわ。

 

日常に飽きて刺激を求めていた主人公が、未知の世界に飛び込んで目にしたモノ。相容れないのかと思っていた生命体とのふれあい。危険生物。ヒロインとなる孤独な少女との出会い。そして最後に最高の見せ場を作ってくれた3バカたち。胸が熱い。
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(あの3バカたちのフィギアが販売されたら間違いなく購入するんですがね。最後に知った彼らの名前も素敵過ぎた…。)

 

「苦しい事もあるだろさ 悲しい事もあるだろさ だけど僕らは挫けない 泣くのは嫌だ 笑っちゃおう 進め(ひょっこりひょうたん島テーマソング)」

 

「え。コレ続くの。」

最後に何が一番驚いたって、この作品が一話完結では無かったこと。そしてどうも「三部作構想」があるらしいという噂に「おお…」唸るばかり。だって…制作に7年…。

 

パンフレット1500円。パンフレットにしては高額ですが、この収益はそのまま次回作への製作費になるという話と、単純に製作秘話が知りたくて購入に至った当方。

おかげさまでふんわりとした理解で進めていた脳内補完も出来たし、何より全ページカラーで読み応えのある内容。これは買って損はしない。

 

かなり気長に待つことになりそうな続編公開。けれど一度この世界を観てしまったからには、是非ともクオリティは維持したままの続編を期待したい。

パンフレットで見る限り、色んな意味で過酷な製作現場であるようですが…是非ともご自愛頂きたい。(お金があれば全てが解決する…訳ではなさそうな印象)

 

どれだけ掛かっても最後まで見届けたい。

そう思う作品が現れました。

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