映画部活動報告「プロミシング・ヤング・ウーマン」
「プロミシング・ヤング・ウーマン」観ました。
「私たちは『将来有望な女性』のはずだった。」
エメラルド・フェンネル監督/脚本作品。
元医大生のカサンドラ・トーマスことキャシー(キャリー・マリガン)。在学中に同級生で親友だったニーナに起きたショッキングな事件によって大学を中退し、現在はコーヒーショップで働く日々。
かつての覇気もなく過ごす彼女だったが。実は夜な夜なバーやクラブに出没しては泥酔したフリを装っては男に「お持ち帰り」されていた。
「キャリー・マリガンで復讐劇かあ~。」
あどけない笑顔。美少女だった彼女もすっかり大人。(当方的に好きなキャリー・マリガン出演作は『わたしを離さないで』。)
「何ていうか…歳を重ねたんやなあ~。」
角が立たない様にしたいのは山々なんですが。当方が彼女を見て感じた第一印象。
ファニーフェイスだからといって、幾つになってもフワフワした格好が似合う訳ではない。今回のキャシーの恰好ははっきり言うと子供っぽいし若作りで老けて見える。
と言うのも、実はキャリー・マリガンはスタイリッシュな恰好の方が映えるのでは…と思っている当方。
「でも。そう見える事込みでこういう恰好をさせたんだろうな。」
体は確実に歳を重ねている。けれど精神的には成熟しきっていない。それは、己が大きくトラウマを受けて立ち止まってしまった時から動いていないから。
はたから見たら、三十路の女性はおよそしないファッション。けれど本人は気にならない。何故ならばそこで全てが停止したから。
この作品の感想を語るにあたり。ある程度のネタバレをしていかなければどこにも踏み込めないと思うので…先んじて今回多少ネタバレをしていく事をお詫びします。
同郷で幼馴染。ずっと仲良しでいつも自分より優秀だった。そんな大親友・ニーナが大学在住中に同級生のアルにレイプされた。
ニーナは精神を病み。キャリーは大学に提訴したが「将来有望な青年の未来を断ち切るつもりか(言い回しうろ覚え)」と突っぱねられる。
ニーナとキャリーは大学を中退。その後、ニーナは自殺してしまった。
時は流れ。両親と実家暮らし。昼間はコーヒーショップ店員。夜は泥酔したフリをしては男に「お持ち帰り」させては「いざ事に運びそうになった時」に覚醒して反逆する。そんな日々を送っていたキャリーは、コーヒーショップに客として訪れたかつての同級生で小児科医・ライアン(ボー・ゾーナム)と再会する。
「酔ったフリをして男をひっかけ。二人きりでエロい雰囲気になった時に反逆する。」
危ない…そんなの、男性が逆上したらどうするつもりなんだ。何だかんだ腕力では男性に女性は勝てないし危険極まりない…。キャリーのお馴染みの手口(言い方よ)を見せられた刹那、脳内に危険信号が灯り表情を険しくしてしまった当方。
その行為を繰り返しては手帳に記録を残していたキャリー。「酔っ払っていて相手が前後不覚」「だからと言って女性に乱暴していいわけではない」という自己流啓蒙活動を積み重ねていた彼女の前に現れたかつての同級生ライアン。
「この人も他の男性と同じ?」
始めこそ随分警戒していたけれど。何度か会う度にライアンの誠実さに惹かれていって。互いに恋に落ちていく。
ニーナの母親に言われた「もう貴方は前を向きなさい」。
ニーナを忘れないでいてくれてありがとう。でももう貴方は自分の人生を歩んで頂戴。
当方は誰の親でもありませんが。確かにそう言うだろうなと思いますよ。
久しぶりの恋の予感に酔うけれど…大学時代の同級生と再会し交流を深めるという事は、おのずと他の同級生の近況も目にしてしまうという事で。
「あんな事をしておいてのうのうと暮らしている。」
いまではセレブ気取りの同級生女子。当時聞く耳を持たなかった大学校長。そして…元凶のアル。
キャリーの復讐劇。それは概ね『目には目を。歯には歯を。』やられた事と同じ事を相手にぶつける。「だって仕方ないじゃない~」とかつての出来事に言い訳を付けたその内容をそのまま相手に投げ返す。
少し脱線しますが。
「例えば。学生時代などの若い頃に散々周りを振り回した(本人にとっては)大恋愛や、人を人とも思わない不義理をかましたなどの迷惑。そういう思い出を全部チャラにできるよな。結婚と出産て。」と思う時が当方にはあります。
「この人と一生一緒に過ごせるなんて幸せ」とか「生まれてくれてありがとう。貴方は私の宝物です」。その気持ちに嘘はないとは思いますが。そういう浄化されたハッピーポエムを見るとふと過る「過去のお前を忘れるんじゃねえよ」という心の声。
キャリーの復讐の原動力。かつての同級生たちが社会的に成功していき。新たな人生の節目を迎えている。けれど忘れるんじゃない。かつてお前たちが犯した事を。
「私たちは『将来有望な女性』のはずだった。」
中盤以降。在学中に泥酔した親友がレイプされたおぞましい事件の追加情報を知ってしまい。
「もう復讐なんてやめよう」と切り替えつつあっキャリーの進行方向ががっつり方向転換され、暴走していく終盤。ですが。
「どうして自らの手で制裁しないといけないんだね…。」溜息の当方。
「確固たる証拠を掴んだんやから、社会的に殺せばいいやないか。どうせこいつらは一人では何も出来ないんやから。」「法的手段を取れ。」
前述の『自己流啓蒙活動』しかり。キャリーが単独で動くのは危険極まりないと思うのに…どうしても自分の口で相手にモノ申したいし、己で制裁を下したい。
「後は多分…それで自分が死んでも良いと思っているんだろうな。」
この復讐劇がどういう決着をつけたとしても。万が一自分の目で見届けられなかったとしても…絶対にこいつらに逃げ場は与えない天罰を下してやる。
キャリーの意気込みは十分に伝わる最後でしたが…どうしても「痛快!」とは思えなかった当方。
「だって。これはニーナが望む事なのかね?」
物語には一度も登場しなかった、キャリーの大親友ニーナ。有望視され、不本意にも若い命を自ら絶った。その彼女は、果たして親友にこういう復讐劇を望むんでしょうかね。どうしても…当方はそう思えなくて。ただただ溜息。
最後に余談で〆ますが。
キャリーが最後敵陣に乗り込む時に流れていた音楽が、ブリトニースピアーズの『Toxic』。それまでも「なかなかな選曲をされるな」と思っていた当方の脳が痺れた瞬間。
この作品を撮るにあたり、エメラルド・フェネル監督がキャリー・マリガンに「これを聴いておいて」と渡したと言われるセットリスト、是非とも聴いてみたいです。