ワタナベ星人の独語時間

所詮は戯言です。

映画部活動報告「エイブのキッチンストーリー」

「エイブのキッチンストーリー」観ました。
f:id:watanabeseijin:20201215192929j:image

アメリカ。NYブルックリン生まれのエイブ。イスラエル系の母親とパレスチナ系の父を持つ。

両親の関係は良好だけれど、互いの祖父祖母たちが顔を合わせてしまうと文化や宗教の違いから衝突が絶えない。

12歳の誕生日。料理作りが大好きなエイブは自らの誕生日パーティの料理を担当。見るからにおいしそうな食事が出来たのに、結局パーティはいつも通り大人たちの言い争いでぶち壊しになってしまった。

傷心のエイブがインターネットを通じて知った「世界各地の味を掛け合わせて『フュージョン料理』を作るブラジル人シェフ、チコの存在。

町で行われていた『フードフェス』に向かい、チコの料理を食べるエイブ。

「料理を掛けわせることで、人々を結びつけることができる」。

フュージョン料理』を自身の背景と重ねたエイブは、チコが働くレンタルキッチンに押し掛け弟子入り。自分にしか作れない『フュージョン料理』で家族を一つにしようと決意する。

 

当方はねえ。お料理映画が大好きなんですよ。

生来食いしん坊なんで。歳を取った今は昔ほど食べられなくなりましたが、大体のモノは食べられるし、料理を作る事もさして苦にならない。(とはいえ、人様にお出しできるようなモンは作れません。あくまで当方用の豪快な山賊料理。)

しち面倒な理屈を捏ねられると閉口しますが。大抵どの映画でも料理を作っているシーンは好き。飾らない食事が好き。

なので。この作品のような「料理をすることが大好きな少年」「ワクワクしながら料理を作る姿」というのはいつまでも観ていられる。しかも主人公エイブを演じたノア・シュナップのキュートさ。正直85分では全然足りない。もっと欲しいもっともっと欲しい。
f:id:watanabeseijin:20201215225413j:image

 

イスラエル系の母親とパレスチナ系の父親。両家の祖父母。イスラム教とユダヤ教。文化の違い。自国に対する思いの違い。結婚したのち無宗教に転じた父親。妻を亡くし、知人の男性と行動を共にしている母方の祖父。

そして。エイブの家族を含め。今はアメリカにて生活している。

「これはエイブ以外にもスポットを当てるべき要素が一杯あるぞ」「盛りすぎやろう」。

両親が結婚した時。「もう15年も前のことなのに」母親はうんざりした声を上げるけれど、まだまだ祖父母たちのわだかまりは解けない。今でもエイブ一家を認めていない。

我が子を愛している。その息子、エイブも可愛い。けれど…我が子の伴侶と一族が気にくわない。

 

「ああもう苛々する。そんなに嫌なら集まらなければいいのに!」

 

序盤。12歳の誕生パーティのレシピを自らコーディネートしたエイブ。微笑ましくて当方ならば多少アレなモノが出たとしても全部食べる(宗教上タブーなモノは除外)。自分の腕を振るって、皆が楽しめる食事を作ってくれた。主役は誕生日のエイブなのに。

両親の心配は的中。結局両家が顔を合わせれば言い争いが始まり、楽しい気分はぶち壊された。最悪な誕生日パーティ。
f:id:watanabeseijin:20201215225347j:image

 

「これは。エイブが努力してどうこうする問題じゃないやろう」。「大人たちが悪い」。

真顔の当方。これを言っては実も蓋もないですが…自分たちのいざこざのせいで12歳の少年を苦しめているという自覚が無い。こういう大人の都合は大人同士で解決してくれ。我が我がの一方的なやり取りの応酬。あまりにもエイブへの思いやりに欠け過ぎている。

 

そんな時に知り合った、ブラジル人シェフのチコ。チコが作る、世界各地の料理を組み合わせた『フュージョン料理』という創作料理に魅せられるエイブ。

折しも夏休み。サマースクールとして入学した料理教室のあまりのレベルの低さに、そこに通うフリをしてチコのレンタルキッチンに弟子入り。

初めこそ皿洗いを始めとした雑用係だったけれど。次第に料理を教えてもらえるようになって。チコから料理や味の組み立て方を学ぶエイブ。

 

両家が顔を合わせれば険悪になってしまう祖父母たち。しかし決して元は悪い人たちではない。彼らの食卓で出されるものや食事に対する考え。宗教。文化。

皆が揃うと残念な事になってしまうけれど。個々人の事は尊敬できるし愛している。

「だから。家族の皆が食べられる『フュージョン料理』を作れば。楽しく過ごせるんじゃないか。分かり合えるんじゃないか」。

 

なんていじらしい。どこまでもぶれないエイブのいい子っぷりに胸の締め付けが収まらない当方。

折角盛り上がっていた、チコ道場での秘密のお料理レッスンが両親にばれて取り上げられるなど「まあ…確かに…隠れてこういう事はアカンやろうな」と思う展開もあったけれど。

 

『家族の皆にエイブの作った料理を振舞う会』。満を持して執り行われた、エイブ主催の家族会。渾身のフュージョン料理。

「なのに!なんなんだアンタ達のその態度は!」

 

順を追ってネタバレしていく事は良い事ではない。そう思うので一体この会はどうなったのか。そしてどう家族は向き合ったのか。そこはふんわりさせながら風呂敷を畳んでいこうと思いますが。

 

「12歳の孫が家族を想って作った料理を前に、よくもそんな態度を取れるな」。

「ああもういたたまれない」「ああエイブ!」「エイブが居ない所でそんな…」。

映画館の暗闇の中。マスクの下で何度も何度も溜息を付いた当方。これではあまりにもエイブが不憫。

 

大人たちの関係性はこの家族会を経て、一応温かなものへと変化したのですが…描かれていないだけで、大人たちはエイブにきちんと謝罪をしたのだと思いたい。そしてエイブ不在の間自分たちがどういう会話をしたのか。家族を一つにしたいと努力したエイブに対して誠実な対応をして欲しい。

 

ちょっと視点を変えれば、深刻でややこしい問題が見え隠れしているこの物語がどこまでもポップで明るいのは「料理のシーンが楽しいから」。

 

「エイブの家庭、結構富裕層。だって12歳の少年が扱うにしては何もかもが本格的な食材ばかり…丸鶏なんてそうそう買えるか!」そもそもエイブが料理をすること自体が必要に迫られていない。チコ達レンタルキッチンの面々が抱える背景とはまた違う。そんな思いも過りましたが。これを言い出すと膨らみ過ぎますので。

 

総じて「美味いもんは美味い」「美味いんは正義」。

どんな複雑でうんざりするような問題に悩んでいても、美味しいものを食べれば気持ちがほころぶ。

「料理を掛けわせることで、人々を結びつけることができる」。

 

85分があっという間。もっと欲しい気もするけれど…ちょうど腹八分目かと。美味しい映画でした。f:id:watanabeseijin:20201215225327j:image