ワタナベ星人の独語時間

所詮は戯言です。

映画部活動報告「よこがお」

「よこがお」観ました。
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深田晃司監督作品。筒井真理子主演。

ある事件をきっかけに『無実の加害者』に陥れられた看護師の市子(筒井真理子)。平々凡々と暮らしてきた彼女の日常が突然無責任な世間に取り上げられ、崩壊へと追いつめられる。事件は自分には関係ない、身に覚えのないことなのに。

一人の女性が理不尽な運命に巻き込まれた時に見せた顔とは。そしてそれを受け入れて再び歩き出すまでの絶望と希望を描いたヒューマンサスペンス。

 

あらかじめお断りしておきますが。

当方はこの主人公市子の職業『訪問看護師』について、多少知っている部分があって。なのでどうしても「なんやそら」の視点が多くあり、おそらくこの作品を素直に観られていない部分が沢山あります。念のため悪しからず。

 

訪問看護師の市子。真面目な勤務態度で利用者さん家族からの信頼も厚い。プライベートでは職場上司の医師戸塚(吹越満)と婚約中。戸塚は前妻と離婚し、幼い息子と二人暮らしだが市子と息子の関係も良好で結婚は秒読み。

とある利用者さん宅の娘、基子(市川実日子)。学校を卒業し現在はニートの彼女は何かと市子を慕っていて。「私も介護職に就きたい」と希望。仕事終わりに基子の勉強を見てやるのが市子の日課だった。

ある日、基子の妹が失踪する。まだ中学生。騒然とする中。数日後に若い男と居る所を発見保護されたが。一緒に居た男は市子の甥だった。

「あなたが引き合わせたんだ。」「甥の性格に影響を与えたのはあなただ。」

私は関係ない。そう思うのに世間の糾弾の手は市子に伸び…。

 

「市子がどれだけ技術的に秀でた看護師なのか知らんけれど。利用者さんとの距離感を間違っているな。」序盤から真顔になる当方。

どういう規模で展開している訪問看護ステーションなんだか知りませんが。一人の看護師が担当している利用者さんは普通何人もあって。話の進行上そこは語られませんでしたが…もしあんなトロトロやってたらどれだけ時間があっても足りない。

サービスの内容も選択次第ですが。保清。食事介助。吸引や投薬、処置。やることが一杯あるのに限られた時間で、看護師はてきぱき動き。たとえ「お茶でもどうぞ」に預かっても家族とはちょっとお話する程度。本当にしっかり聞くべき内容(大抵は行政介入や施設云々とか)ならばケースワーカーなんかをご紹介。「システマチックな。何て愛が無いんだ。」そう言うのならば個人専用の人材を雇えばいい。高齢化社会のこのご時世、介護を金で買うってそういうことだ。

「市子さんみたいになりたい。」現在ニートの基子。介護士になりたいのならば然るべき学校を調べて入学したらいい(入学する事自体はそんなに難しくない)。そういう手立てを調べてやれよ。

もし看護師になりたいのだとしても、最低限必要なのは中卒ないし高卒資格。看護学校や看護大学入試に向けて勉強するべきで、どちらにせよ試験には看護も介護も知識は要らない。

つまりは、「一体基子は喫茶店やファミレスで何の勉強をしているんだ?」という疑問。あれ、何の問題集開いてるんですか?そして現役看護師の市子は何の勉強を見ているんですか?

正直勤務時間外に利用者さんの家族と関わり過ぎていると感じている上に、その娘の進路相談にまともに乗っている様には見えなかった。

 

まあ…そういう余計な視点が入っているので…正直話に身が入らない。

「中学生を誘拐した二十歳の甥っ子。」

これがねえ。殆ど語られないんですわ。「何故そんな事を?」「そして中学生妹の心境は?」「二人に何があったのか?」何となく匂わせるシーンもあるにはありましたが。肝心なそこは言及されない。

(蛇足だと分かっていても。どうしても甥っ子に真実を語って欲しかった。そう思った当方。どんな内容でも。部分的でも。でないと、本来糾弾されるべき誘拐事件の存在が薄くなりすぎているから…。)

 

「事件のきっかけは一家に出入りしていた訪問看護師。」「彼の性的嗜好に影響を与えた叔母の存在。」

よくもまあ…と思ってしまうマスコミの糾弾。しかもセンシティブな性的案件まで(あれは流石に下世話)お茶の間に流される。市子はただの人なのに。何も罪を犯していない。法に触れたのは甥なのに。じわじわと社会的に殺されていく市子。

 

その引き金を引いたのは基子。市子に想いを寄せるがあまり、その想いをかわされた途端牙をむいた。私はこんなに市子さんで一杯なのに。私を置いてきぼりにして幸せになろうっていうの?…そんなの許さない。

私の妹の平穏を奪ったのは誰?そいつはどうして妹を知った?私たち一家を壊したのは市子さん。勝手に離れて行こうだなんて許さない。

 

「そういう束縛するタイプ。嫌いやわあああ。」メンヘラ系女子が地雷の当方、自爆。

 

誇りをもっていた仕事。愛。社会的信頼。全てを失った。けれど…やられっぱなしではおれない。

 

依存心全開の基子も苦手だったけれど。何より市子の定まらない印象に危うさと不気味さを感じていた当方。

あの犬のシーン。池のシーン。日常生活から乖離した場所での支離滅裂さ(すみません。当方には解釈する努力が湧きませんでした)。

「何故今そんな話をするんだ?」市子が基子に語った、唐突すぎた「昔あの子が小さかった時にね…。」幼少期の甥っ子に対してやったいたずら。(本当にねえ。あれ、何であんな事言ったんですか?ぶっこみもいいところ。会話のセンスが意味不明。)

市子が基子に対して行った復讐のベタさ。

「メンヘラ基子が依存し、暴走した原因は市子の異常性。存在自体が不穏。」

 

そういう不穏な存在市子を巧みに演じていた。それは確かに女優筒井真理子の力だとそう思いましたが。

 

よこがお。片方の顔が見えている時。もう片方の顔は隠れて見えない。人間の多面性を表したというタイトル。

 

ああ。こういう顛末になるのか…資格職やし、働く場所と部署を工夫すれば看護職続けられそうやのになあ。しみじみとそう思った市子の行きついた先。

 

いかんせん。主人公の職業に対する茶々が入り過ぎて…なんだかまともに観れなかった。なので感想も纏まらず支離滅裂。ただ。

今まで視線をそらせなくて。そうしてがんじがらめになった関係から目をそらした。横顔。そして踵を返す。もう二度とそこに視線をやることはない。振り返らない。

そうやって歩き出した市子と甥っ子への希望のラストだと。そう思いたいです。