映画部活動報告「エル ELLE」
「エル ELLE」観ました。
『氷の微笑』のポール・バーホーベン監督。イザベル・ユペール主演のフランス映画。
レイプシーンでの幕開け。
被害者のミシェル。一人で住む一軒家でくつろいでいたいた昼下がり。スキー帽を被った闖入者に依って、まさかの自宅でレイプされる。
一人になって。暫く呆然と床に倒れていたミシェル。でも。むくりと起き上がった後、てきぱきと掃除。服を捨て、風呂に入って。そしてデリバリーの寿司を注文。
ーそんな彼女の行動を見るだけで「こいつ…ただモノじゃないな」と感じさせる。
(エロ)ゲーム会社の剛腕社長。一部の若手男性社員からは疎まれ、又は心酔され。でも全く動じない。鼻にも掛けない。
離婚した夫(作家)は最近若い彼女が出来て。何だか楽しくない。とは言え、自身はちゃっかり仕事上のパートナーで親友の夫と不倫中。
当然、レイプされた事は許せない。でも警察に通報する気がおきない。
と言うのも、ミシェルの父親は39年前に大量殺人を犯したから。
39年前。当時10歳だったミシェル。加害者の家族という事でメディアに追われ、周囲から忌み嫌われた経験を持つミシェルは、どうしても警察とは関わりたくなくて。
時々スマートフォンに送られてくる不気味なメール。そして社内のPCにバラまかれたエロコラ画像。「犯人は誰?」探っていくミシェル。
そんな時。「お宅に不審人物が居ましたよ」と警察に通報し、ミシェルを送ってくれた向かいに住む若夫婦の夫。ときめくミシェル。
自宅でパーティを開き。こっそりアプローチ。何だかいい感じに思えたけれど…。
イザベル・ユペールありきの作品。
主人公ミシェルがねえ…兎に角可愛げが無いんですよ。何事に対してもクールで皮肉っぽい。
例えば。元夫、親友とその夫(不倫相手)とのレストランディナーでも「私。レイプされたの」とあっけらかんと告白。動揺する周りに「この話はもういい」とぶった切って。こんな食事会、楽しめる訳が無い。
ミシェルの年老いた母親。ゴテゴテのAルリ子系メイクを施し。明らかに金目当ての若い男と再婚すると惚れまくっている母親に「馬鹿な事を言うな」「みっともない」「私がいつか同じ事を言いだしたら殺して」とぶった切り。
ミシェルの息子ヴァンサン。成人しているけれど、定職に就く訳でも無く。やっとハンバーガーショップでバイトを始めて。と言うのも彼女に子供が出来たから。
心優しい…優しすぎる息子。息子は可愛い。でも明らかに尻に敷こうとしている息子の彼女は気に食わない。そして案の定…。
そんなエピソード満載。ちょっと詰め込みすぎかなと思うけれど。ミシェルは常に強気。あっけらかんとした物言い。実際にレイプ被害にもあっているのに。気持ち悪いメールも送りつけられているのに。特にセキュリティーを強化する訳でもなし。
「会社の人間が犯人なの?」疑って。結局は違う案件が平行して起きていたという結果で。でもその落とし前の付け方は非常に中学生男子風。
「男はみ~んな馬鹿。結局世界は女が回している」
まあ。ひっくるめるとそういう作品かなという解釈を当方はしてしまいましたが。
余りにもミシェルというキャラクターが達観しすぎていて。何だかどこまでが『本気』でどこまでが『かまし』なのか分からない。真意が今一つ掴み切れない。
レイプ犯をそこまで真剣に追っている様にも見えず。
ネタバレしてしまうと…レイプ犯の正体は分かるんですが。その相手に対してミシェルが取った行動もあんまり共感出来ず。
「結果ああなる事を見越していたとしたら…それは凄いけれど…違うんやろうな」
何の実体験も基にしていませんが。SMとレイプって絶対に違うと思うんですね。前者は相互理解と、需要と供給が成り立ってのプレイで。でも後者は完全に一方の勝手な性欲を押し付けてくる…暴力でしかない。
だからミシェルがどうしてああいう受け入れ方をしたのか理解出来ない。
なので。寧ろあのレイプ犯のパートナーが最後に放った言葉の方に闇を感じて。「おっかねええ」とぞっとした当方。
まあ。幾つになっても魅力的なイザベル・ユペールに男達は皆翻弄されて。自爆して。残ったのは女ばかり。「男はみ~んな馬鹿。結局世界は女が回している」
(エピソードを幾つか減らして。そして39年前の事件の背景とミシェルの人格形成の経過はしっかり描いていたら…と思いますけれど)
何だか歪で…でも気になる。後からじわじわやってくる。そんな作品でした。