映画部活動報告「サンダーロード」
「サンダーロード」観ました。
テキサス州。警察官ジムの愛する母親が亡くなった。葬儀で母が好きだったブルース・スプリングスティーンの『涙のサンダーロード』を流そうとするが、持参した娘のラジカセの調子が悪く、再生することが出来ない。
無言のままではいけないと母親との思い出を語ろうとするジム。しかしそれはすぐに支離滅裂なものとなっていって。終いには涙ながらに踊りだし…。
「うわあああ。これ誰か止めてやれよ~。」
冒頭12分ワンカット。あまりにも痛々しいジムの姿に、共感性羞恥で居たたまれなくなる当方。
「教会にだってカセットテープ再生出来るツールあるやろうに。」「ちょっとその司会女性よ!もう止めて止めて!」「そこの男よ!スマホで音楽流してやるのかと思ったら…何画像撮ってんだ!」
バレエ教室を営んでいた母親への想い。それだけをシンプルに伝えればいいのに「それ、言わん方がいいって」という自爆ネタを連発。グダグダな雰囲気。挙句収拾がつかずに『母親へ捧げるダンス』を始める。
主人公ジムを紹介するのに過不足無い滑り出し。
キレ易く協調性が無いジムは職場でも浮いた存在。
別居中の妻との間には一人娘のクリスタルが居るが、現在親権争いの渦中にある。
何もかも上手くいかない。けれどその理由のほとんどがどうもジム自身にありそうに見える。中盤位まで「ジムの事、好きになれんなあ~」。と苛々していた当方。
沸点が低く直ぐにキレる。大声を出して騒ぐ。しかもしつこい。
「もういい。お前どっかいけ。」これ以上醜い言い争いをしたくないから追い払いたいのに、歩き出したと思っても何度も振り返って大声で喚いてくる。
けれど。どうしてもジムを嫌いにはなれない。
すぐにキレて喚くけれど。決して相手の事を全否定はしない。どこかしら良い所も見つける。時間がかかるけれど、悪いと思ったら謝る。
クリスタルの親権争い。件の葬式での『奇行』(あの動画撮影していた奴…ネットに上げるなんて…)まで持ち出して「こんなヤバい父親にクリスタルは任せられない」と言わんばかりの周囲。裁判所でも上手く立ち回れず。
けれど、ジムの主張はあくまでも「娘には両親が必要なんだ」。と今まで通りの共同親権。クリスタルを愛しているけれど、ひとり占めにしようとは思わない。
またねえ。このクリスタルも絶妙なキャラクターで。
9歳。健康的な体型で、どこかしらもっさりしている。「新学期だから目立ちたい」とメイクをしてみたり(勿論ジムに見つかって落とす羽目になる)。
決まった友達とべったり付き合って内弁慶。かと思っていたら最近ではクラスの中で悪目立ちするような事ばかりしているらしい。
(そしてクリステルとジムに共通した問題…遺伝?するもんなんですかね。どちらにせよ、確かに早いところ対処してあげた方がよさそう。)
つまりは「この親にしてこの子あり」。ジムとクリステルはよく似ている。
『不器用』の一言では片づけられない…何事にも一生懸命で頑張ってはいるけれど、その方向性が人とは違う。結果ぎこちない動きだけが目に映って、何だか痛々しい。
中盤に起きた「ホンマにこれはあかん」出来事。
唯一と言っても過言ではない、同僚で友人のネイトに対し八つ当たりしてからの大げんかでジムがとっさに取ってしまった行動。
失職寸前の状態にまで陥って。自業自得とは言え四面楚歌。どうにもこうにもならなくなった…という所からの逆風。
「見てくれている人は居るんだな。」
一見、扱いにくくて厄介者のジムがどういう人物なのか。付き合いが長くならないと分からないけれど。決して悪い奴じゃない。
相手の良い所を探す。何事にも一生懸命。そして守るべき相手をとことん愛する。
そして。ジムの周りだって…誰もが完璧な人間なんて居ない。
冒頭の葬式。どうしてジム以外の兄妹は葬儀に参加しなかったのか。その答えが明かされた後のジムの優しさよ。
最終。「そんな落とし方…。」という事件。
こんなのクリスタルにとっては一生モノのトラウマやないか。そう思うけれど「誰がこの子にとって良い親なのか。なんて一部の面では判断出来ないな」。と溜息を付いた当方。(またジムの言葉が素晴らしい)
危なっかしい、似た者親子。前途多難な予感はプンプンするけれど…きっと彼らを見守って差し伸べてくれる手は存在する。
帰宅後。改めて『涙のサンダーロード』を聴いて歌詞を読んで。「こんなに良い曲だったのか」と泣きそうになった当方。
あの葬式に参列した人もこうやって調べて聴いて欲しい。そうすれば、ジムが母親に贈った音楽もダンスも…決して痛々しくは無い。
監督、脚本、編集、音楽、主演の5役を務めたジム・カミングス。切なくて優しくて愛おしい。次回作が楽しみです。