ワタナベ星人の独語時間

所詮は戯言です。

映画部活動報告「新感染半島 ファイナル・ステージ」

「新感染半島 ファイナル・ステージ」観ました。
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ソイツに噛まれたが最後、瞬く間に己も狂暴なゾンビと化してしまう。

謎のウイルス感染に韓国が飲み込まれてから4年。命からがら脱出できた元韓国人たちは難民となった。

 

パンデミック初日。姉一家と共に韓国から脱出した、元軍人のジョンスク(カン・ドンウォン)。日本へ向かう船に乗り込めたのもつかの間。船内で発生した集団ゾンビ化により姉と甥を失い…残された義兄チョルミンと共に、流れ着いた香港で廃人同然で暮らしていた。そして4年後。

ある日。アウトローな連中に引っ張り出され。「お前たちの国に大量のドル札が詰まったトラックが置きっぱなしになっている。3日以内に取ってこればそれ相応の分け前をくれてやるぞ」と持ち掛けられる。連中と共に韓国へ渡り「湾岸に船をつけて3日間待っているから車で当該トラックからドル札を運んで来い」とのミッション。

残り二人の仲間と共に。まだ夜の明けない韓国に上陸したジョンスクとチョルミン。

視力の無いゾンビは暗闇では活動が低下する。夜のうちにとっとと回収してしまおうとしていた彼らだったが。

 

 『新感染 ファイナル・エキスプレス』

2017年公開作品となると、実際にも約4年前。当方の『マブリーことマ・ドンソク(ラブリーとかけている可愛いあだ名)』へのリスペクトがさく裂した…「ガムテーププロテクター!」「マブリー!マブリー!」香ばしさ満点のパニックムービー。

watanabeseijin.hatenablog.com

 

「しっかりと着地した前作から。まだ続編の余地があったか。」

監督は前作同様ヨン・サンホ。キャストは前作からガラッと一新して。

 

「まあ。一言で言うと別モンでした。」

 

先に鑑賞を終えていた映画部部長からの「韓国版『マッドマックス怒りのデスロード』ですな」という感想に頷いた当方。

前作は「未知のウイルスに突然侵された人々が陥った恐怖。逃げ惑う中で、愛する者を守るためにはどうすればいいのか」…その心は「イコール自己犠牲」の連鎖。

普段は冷たく利己的、けれど愛する娘をどんな形でも守ろうとした父親。お腹の子供と愛する妻を守ろうとした男。高校生のカップル。三者三葉の視点が交差しながら、とにかく悲劇が連なったドラマパート。

 

今回。主人公ジョンスクは姉と甥を救えなかった痛みを胸に抱えては居るけれど。そこに固執し過ぎる事は無い。

4年前。逃げる道中で出会った親子を見捨てた。時を経て、舞い戻った祖国でその時の親子に再開したけれど…ちょいちょいそのエピソードも差し込まれるけれど。お涙頂戴で引っ張り過ぎる事もない。

 

「とにかく、カーチェイスがやりたかったんやな。」

 

思わずそう思ってしまったくらい。この作品の印象は『怒りのデスロード』。

 

4年ぶりに戻ってきた祖国はゾンビで溢れかえってはいたけれど…決して人類が死に絶えた訳では無かった。

廃墟と化した町を跋扈していた631部隊。最早狂気と化した軍人たちが集結したそれ。捕らえられた弱い者たちは集められ、夜な夜な631部隊の娯楽としてゾンビたちとの死闘を見世物にされていた。

 

ノコノコ車で上陸したジョンスク達。ゾンビたちと631部隊によりあっけなくチームは解体(モブキャラのいかにもモブ然とした扱いよ!一緒に乗り込んだ仲間二人ここで退場)。義兄チョルミンは631部隊に捕まり、ジョンスクは謎の幼い姉妹に拾われた。

 

改造車を巧みに操り。ゾンビも631部隊もかわして、ジョンスクを自らが住む秘密基地に運んだジュ二とユジン姉妹。彼女らの母親ミンジョンを含む三人は、かつてパンデミック初日で混乱状態だった時にジョンスクが見捨てた親子だった。

当時行動を共にしていた夫を亡くし。今は元師団長であったキム軍曹と行動を共にするミンジョン親子。とはいえ高齢のキム軍曹はうっすら認知症を患っていて、夢のアメリカ軍高官との無線通信に余念が無く戦力にならない。

 

かつての非道を詫び、再会にしんみりするのもつかの間。

「その大量のドル札ってやつを運べば、船に乗って韓国から脱出出来るってことか」

 

そこに気づいたミンジョン家族。そして、捕らえられたチョルミンから得た情報から同じことに思い至ったとある631部隊上官。

 

かくして。押し寄せるゾンビと631部隊との死闘を織り交ぜながら。果たしてジョンスクとチョルミン、ミンジョン親子は韓国から脱出する事が出来るのか。

 

「一体何を見せられているのか」

思わずそう思ってしまうほど。カーチェイスったっておよそ「こんな動きは実際には無理!」の連続。どれほどの高性能カスタムが出来るんだという変幻自在の車に、それをいともたやすく操る十代の少女。多分…当方がキッズな世代ならワクワク出来たんでしょうが…いかんせん、汚れちまった当方には「漫画か!」という突っ込みしか出来ない。

(そもそもねえ。無粋を承知ですが。世界中から孤立して4年も経つ廃墟でどうやってガソリンを得てるんですか?あの車のメンテナンスは?電気は?清潔な水は?食料は?どこかの備蓄倉庫から食べ物を調達するったって、賞味期限の問題も資源の枯渇も考えられる。どうやって彼らが生きてきたのかっていう描写が無さすぎるんですよ)

 

そしてあまりにも「主人公は死なない」が前提過ぎて…。

全速力で。しかも集団で追いかけて襲ってくるゾンビに対しても、631部隊のハチャメチャな攻撃にも銃弾にも「主人公及び主要キャストは死なない!」というあまりにもあからさまなご都合主義展開。(けれどモブは何処までも雑、脇役も概ね退場の扱い…)

 

まあ。「何があっても彼らは困難を切り抜けて生きていく!」というベクトルが一切ぶれないのは余計な心配が無く鑑賞出来るという利点があるか。

 

前作との関連は設定のみ。今回は随分エンターテイメント満載な方向に振り切った印象。ごった煮感が強いので戸惑いましたが…これは別モノだと割り切って身を委ねるしかない。

「まあ。『そもそも彼ら=ゾンビは何故韓国の地で異常発生したのか?』みたいな謎解きを始めなかっただけでも良かったとするか。」

本当にねえ。そういうシリーズ化だけは勘弁してほしい。ここまでで十分です。

映画部活動報告「聖なる犯罪者」

「聖なる犯罪者」観ました。
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ポーランド。元犯罪者が司祭になりすました事件を基に、聖と悪の境目は何処にあるのかを描いた作品。主演は28歳のバルトシュ・ビィエレニア。ヤン・コマサ監督。

 

20歳の青年ダニエル。殺人の罪を犯し少年院に入った彼は、そこで出会った神父の影響で熱心なキリスト教徒となった。

仮出所を迎え。「前科者は聖職者になれない」と知りながらも、神父になる夢を捨てきれなかったダニエル。田舎の製材所で働くこととなり、向かった村の教会でふとした行き違いから新任の司祭と勘違いされるが…誤解を正すことなくその座に収まってしまった。

始めこそおっかなびっくり。それはダニエルだけではなく、司祭らしからぬ彼の風貌に驚いた村人も同様であったけれど。次第に打ち解け、信頼されるようになっていく。

 

「人はただ 風の中を 迷いながら 歩き続ける その胸に 遥か空で 呼びかける 遠い日の歌」(遠い日の歌/パッヘルベルの「カノン」による)

 

当方の脳内で何故か流れる、小学生の頃に習った歌。静と動。嵐の様に渦巻く感情の中で、一体人は何に拠り所を見つけるのか。何に許しを求めるのか。何に安心し素直になれるのか。そんな事を考えていたら。

 

主人公のダニエル。未成年ギリギリで既に前科者。少年院の中で行われる集団リンチにもしれっと加担するなど、決して品行方正ではない。けれど、そこで出会った神父の教えの前では素直になれた。

出所後直ぐに酒、タバコ、ドラッグ、女をキメて。どうせ行く当てはないからと向かった、就職先の製材所。そこがダニエルの新しい居場所になるはずだったけれど。同じ村にある教会に立ち寄ったら、誤解が誤解を生んで…新しく赴任してきた司祭という事になってしまった。

これはまずい。とっとと逃げ出さなければ。そう思ったけれど。ぎこちないながらも聖職者らしく振舞ってみたら、村人も受け入れてくれた。

そうなると次第に居心地が良くなってくる。付け焼刃ではあるけれど、自分のやりたかった事が出来て、村人たちも信頼を寄せてくる。そうなると自信がついてきて、立ち居振る舞いもそれらしくなってきた。

 

「ここまで盲目的に村人総出で一つの宗教に入れ込むものなのか?」荒んだ心の持ち主である当方は、ついうがった見方をしてしまいますが…まあ、閉塞的なコミュニティでは強く導いてくれる存在というものに引っ張られてしまうんですかね。

 

また。この村で一年前に起きた哀しい自動車事故。村の若者数人を乗せた自動車と、隣町に住む男が運転していた自動車が衝突し、双方とも命を落とした。

若者たちの身内の心の傷が癒える事は無く。教会近くの献花場所で集う彼らに声を掛け、共に祈りを捧げるようになったダニエル。初めこそ彼らの痛みに寄り添っていたダニエルだったが、「一体どういう事が起きたのか」と事故の真相に踏み込んでいく。

 

この作品について当方が唸った点。それは「ダニエルが発した言葉はほとんど回りまわってダニエルに回帰していく」という所。

 

一言で言えば偽物。ダニエルは元犯罪者で聖職者ではない。けれど、そんな事情を知るはずもない村人からすれば立派な『司祭様』。

 

一体人は何を以てすがる相手を決めるのか?『司祭』という肩書きを持つ者?

「心に響く心地よい言葉をくれる相手」?「黙って話を聞いてくれる人」?けれどそれがある日突然村に現れた若い兄ちゃんだったら?村人は心を開いたのか?

 

正直。ある日突然村に現れた若い兄ちゃんが、どんなに言葉を尽くして村人に寄り添ったとしてもここまで村人にリスペクトはされなかっただろうと思う当方。

ましてや。少年院上がりで村の製材所で働く予定の元犯罪者ならなおさら。

 

「でも。世界ってそこまで救いようがないはずがない。」

 

件の宗教は、元犯罪者が聖職者になる道はないのかもしれない。けれど…宗教だけが人を救える訳ではない。(ここいらは当方の勝手な暴論です)

そもそもダニエルは何故聖職者になりたいんだ。自分が宗教に救われたから?それは素敵な事だけれど…そのテイクは必ずしも周りに同じ形でギブしなければいけないものなのか?

色んな事情があって犯罪に手を染めたのかもしれない。けれど、厳しい事を言ってしまうとやはり犯罪とは無縁な人生を送る人が多い中で、この経験はハンデとなる部分がある。

それでも、然るべき施設で刑を終えて娑婆に出たのならば…まずは社会の一員として生活して…そうして基盤を作ってから、ゆっくりと想いを発信していってはどうなのか。

 

持って回った言い方故、分かりにくいのは承知ですが。当方が言いたいのは「ダニエルよ。一足飛びに形だけを求めてしまっては結局貴方自身が救われないよ」ということ。

 

「人は皆誰かに認められたいと思っている(言い回しうろ覚え)」切に語ったダニエル。

 

一年前に村で起きた自動車事故。逝ってしまった若者達。彼らを失った事は辛いけれど、同時に奪われた命に対し糾弾するのは間違っている。「アイツは普段から酒飲みだった。どうせあの時も酒を飲んでいたんだろう」「アイツは人殺しだ」死人に口なしとはまさにこのこと。もう何も語れない死者を村人総出で否定し、残された家族に鞭を打つ。同じ事故で家族を失った、同じ境遇の人間に。そういう事が行われていた。

集団で陥った、正義と言う名の暴力。「人を思い込みで決めつけるな」という基本を村人に突きつけたダニエルこそが、「犯罪者は聖職者になれない」というルールを課されているという。なんという皮肉。

 

「そりゃあそうなるよな…」溜息を付きながらダニエルの顛末を見届けた当方。けれど言いたい。

「でも。世界ってそこまで救いようがないはずがない。」

 

噓から出た実という言葉がある。ダニエルの『司教様』という存在は偽物だったけれど。救われた人もいた。そしてダニエル自身も知ったじゃないか。こうして人は救われ、変わるのだと。

 

「だから。今度こそは自分の力でゆっくり積み上げていくしかない。」「ここまで人を惹きつける力をダニエルは持っているのだから。」

 

今はまだ苦しそうなダニエルの厳しい表情を最後に見届けながら。そう思えて仕方が無かった当方。頭の中で流れる歌。

 

「人はただ 風の中を 迷いながら 歩き続ける その胸に 遥か空で 呼びかける 遠い日の歌」(遠い日の歌/パッヘルベルの「カノン」による)

 

静と動が混在し。未だに正しさの着地点が見つからない…ひっそりと力強い良作です。

映画部活動報告「ヒッチャー」

ヒッチャー」観ました。
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アメリカ。シカゴからサンディエゴへの砂漠地帯にあるハイウェイ。

知り合いの車を陸送途中であった青年ジム・ハルジ―。ある嵐の夜にヒッチハイクをしていた男を車に乗せた。

ジョン・ライダーと名乗ったその男。不穏な雰囲気を察したジムの顔にナイフを突きつけ「俺は人殺しだ」「殺してくださいと言え」「俺を止めてみろ」と脅してきた。

暫くして、何とかジョンを車から振り落とす事に成功したけれど…ジョンはどこまでもどこまでもジムを追いかけてくる。

 

1986年公開のアメリカ映画。主人公のジム・ハルジ―に『E.T.』でデビューした、C・トーマス・ハウエル。そして殺人鬼ジョン・ライダーを『ブレードランナー』のレプリカント、ロイ役でお馴染みのルドガー・ハウアーが演じた。監督、ロバート・ハーモン。脚本エリック・レッド。

 

どうして35年前の作品を?と聞かれれば「ルドガー・ハウアーを観たかったから」との回答一択。当方は『ブレードランナー』のロイについてはそこそこの時間酒を片手に語れる位…一言で言うと好きなんで。スクリーンで観る機会があるのならばそりゃあ観たい。

 

この作品を観て感じたこと。それは改めて「シンプル・イズ・ベスト」。

アメリカの広大なハイウェイ。しかも砂漠地帯という単調で人気のない道で出会ってしまった化け物。一旦拾ったが最後。振り切ったつもりでも、どこまでもどこまでも追いかけてくる。

途中。ガソリンスタンドやダイナーに立ち寄り、警察に通報するけれど。何故だか自分が殺人犯と間違われて追われる羽目になったり。唯一の味方になってくれたウエイトレスのナッシュも危険な目に遭ってしまった。

 

余談ですが。当方は普通自動車免許を取得こそしていますが、完全なペーパードライバーで。どこまでもどんくさかった教習所での運転技術及び取得後のダメダメさ。公共交通機関の充実した生活環境からも、現在ほぼ身分証明書としてしか活用できていない。けれどそんな当方の脳内に今でも生き続けている『~かもしれない運転を心掛けよ』という教習所からの教え。

 

そんな『かもしれない』全開で観ていた当方にとって。危険信号が止まる事が無かったこの作品。

 

「そもそも、冒頭の雨が降りしきる真っ暗で単調なハイウェイを走っているという時点でアウト」殺人犯に出会う云々以前に居眠り運転で事故る。実際ジムも居眠り運転しかかっていたし…高速道路沿いのモーテルに暗くなる前にチェックインしないと。

「やばい人物と遭遇した後。何とか振り切れたんなら…高速道路から降りろ!その人気のない道は何だか不吉な予感しかしない!アメリカの交通事情を知らんけれど、まずは人気のある場所に自分を紛れ込ませて。そこから助けを求めよう。」

「いかにも寂れたガソリンスタンドとか、そういう所に車を止めなさんな!」

「二度ある事は三度あるんやから。兎に角人が沢山いる所に行きなさいよ!」

 

そもそもの「暗い夜道で一人、ずぶ濡れになりながらヒッチハイクしている人間と気安く二人っきりになる環境を作るな」という最大の危険予測で、しょっぱなから警告アラームを鳴らしている当方。こんなの、怪談案件か生きていてもヤバい奴しか想像出来ない。

 

「どうしてここまでジムに執着するのか?」「どうしてこんなに執拗に追ってくる?」

車から放り出されても。他の車に乗せてもらったり、どこからか車を調達してきてはジムを追いかけ、挙句先回りしてまでジムの前に姿を現せてくるジョン。

とは言え。初めて出会った時こそ「殺してくださいと言え」と刃物で舐ってきたくせに、そこからはただただジムを追いかけてくるだけのジョン。

 

「あれ?もしかしてジョンって…存在しないのか?ジムと表裏一体な存在かなにか?」二人が交差する時にジムに意味深に語り掛けてくるジョンに、次第にそう思えてくる当方。「俺を止めてみろ」「ほらやれよ」。けれど。「幻が人を殺すか?」首をかしげる当方。夢にしては人が死に過ぎている。

 

「おいお前ら頭を使え!後…弱すぎるのか、ジョンが無双すぎるのか?」ハイウェイの亡霊との戯れでは無かったのだと思いたかったところで登場した保安官たちの、殺人犯ジョンの前での無力さよ。

そして唯一のヒロイン、ウエイトレスのナッシュの扱いよ。血も涙もない…。

 

今作品が第一作目だった監督。粗削りで描かれた脚本。「金と勢いがあるってエエな!」すがすがしくななるほどの贅沢なカーチェイスや大爆発(警察車両がどれほどぶっとばされたか)。不気味さを具現化した怪物俳優と理不尽を突きつけられて成長していく青年を演じた俳優。これら全てが組み合わさった時…とてつもない化学反応が起きた。

 

「ジョン・ライダーは一体何者だったのか」「主人公ジムとの因果関係とは」「何故ジョンはジムを執拗に追ったのか」「そもそもジムも何者だ」肝心な部分を一切明らかにしない。その潔さ。

「兎に角おっかない奴がずっと追いかけてくる」終始その状況を描き続け「その理由は個々で考えろ!」と言わんばかり。強引さもここまでくれば文句も出ない。

 

ともあれ。ルドガー・ハウアー目当てだった当方にとっては至福の97分。どこまでもリミッターが振り切れていた狂人ジョンに大満足。「四の五の言うな。俺は何処までも好きにしてやる。」と自由奔放なのに何故か憂いを感じさせる…好き。でもそんなジョンにきちんと落とし前を付けたジムにも「お前!初めの頃と比べたら大人になったな!(本当にそう思える…顔つきが変わった)」と肩を叩きたくなった…最早どこのどいつだ状態の当方。息も絶え絶え。

そしてあの「ディズニーランド」のセリフに撃ち抜かれた当方。

 

内容がシンプル過ぎるが故に「もう観てもらうしか…」いつにも増して語彙力を奪われてしまった当方。

 

ところで。映画館で記念品のポストカードを貰ったのですが。公開当時の?そのセンスにもグッと鳩尾を差し込まれている当方。全てが味わい深いです。


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映画部活動報告「Swallow/スワロウ」

「Swallow/スワロウ」観ました。
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主人公のハンター。大企業の御曹司であるリッチーと結婚し、NYの郊外に住居を構え。

誰もがうらやむハイソな暮らし。けれど。

自分の話を聞いてくれない夫。悪い人たちではないけれど、親しみが持てない義理の両親。

裕福な生活に満足していたはずなのに…違和感を感じ始めた頃、ハンターの妊娠が発覚する。

夫も義理の両親も喜んではくれているけれど。どうしても「後継者誕生!」に沸いているようにしか見えなくて。

「もし…これを飲み込んだら…。」

何気なく手に取ったビー玉。キラキラしている。いざ飲み込んでみたら、異物が喉を通る感覚が気持ちよくて…たまらない。

 

「異食症か…。」

付け焼刃の知識ですが。『氷食。土・食毛など。氷食は若い妊婦に見られる場合があり鉄欠乏性貧血が原因の一つとも言われる。土・食毛は子供に多い。どちらもストレスが起因することが多いとされる。』

物語の序盤。妊娠発覚直後の義両親との会食で氷を手づかみで食べていたハンター。「金属の感触は気持ちがいい。」そう思うと、ハンターの食べていたモノたちは結構この疾患あるあるなのか。危なすぎるけれど。

 

「だって。初めのビー玉やったら真ん丸やから下まで通過するなあ~って思ったけれど。次は押しピンとか。結構鋭利なやつもいってるし…いつかどこかに刺さるって。そして電池もヤバい。」

ハンターは口から異物を飲み込むだけではない。排泄物に手を入れ、確実に下から出てきているかを確認。そのブツを洗って寝室の鏡台の前に並べるという『汚え~コレクション』までが一連のワクワクローテーション。

(余談ですが。例えばそれこそ『魚の骨』でも通過しなくて耳鼻咽喉科や消化器内科…果ては外科手術に至る事だってあるんですよ!あの「喉に骨が刺さったら、ご飯を丸呑みしろ」の危険性…因みに当方の肌感で最もヤバい食用魚の骨は鯛。でもフグの骨が腸に刺さった人もいるし…後、高齢者で危ないのは薬をシートのまま飲むやつ。あのシート、体内で溶けないんやからな!)

 

妊娠が発覚し、定期健診を受けた事で即明るみになったハンターの異食症。

家族は衝撃を受け。ハンターをまともにすべくカウンセリングへの通院と自宅に専属の看護師を雇う事になった。

シリアでの勤務経験のある男性看護師ルアイ。その屈強な体躯と初対面での「戦地では皆生きていくのに必死だからその様な病気になる者はいない(言い回しうろ覚え)。」発言。

自分を否定された様な気がして、彼とは距離を置くことにするハンター。

対して。数回のカウンセリングを経て、カウンセラーにぽつりぽつりと自分の生い立ちを話し始めたハンターだったが。

 

ハンターにとって本当の異物とは何だったのか。それは…一つにはとどまらない。

夫であり、義理の両親であり。そしてお腹に宿った命すらもが彼女にとっては異物でしかなかった。

 

体にとって栄養にならない無機物、しかも時には危険なモノを飲み込む瞬間。異物を口に含むことも、体を通過することもえもしれぬ快感を伴った。なぜなら。

それは必ず自分の体を通過して出てきたから。

 

妊娠と出産について。子を生していない当方がどうこう言いにくいですが。ハンターを観ていて感じたのは「嬉しそうではないな」ということ。

一見夫側の違和感が目立つので「だから彼女はおかしくなったんだよ」と捉えてしまうけれど。実は『ハンター側の事情』の方にも大いに原因がある。

 

周りには言わなかった、ハンター自身の出生の秘密。

これを書くのは致命的なんで…流石に書きませんし、なのでちょっと方向転換しますが。

 

「ところで大企業の御曹司と販売員って、どうやって出会って結婚に至ったんですか?」

元々は住む世界が違った二人。勿論全く出会う可能性が無いとは言わないけれど…お見合いじゃないでしょうから…どこかで出会って恋愛して、そして結婚したんですよね?

最後の最後には「俺の子供を返せ!」等々のアウトな暴言吐いていましたけれど。あくまでも愛し愛されていたから子供も出来たんですよね?

この二人の『物語が始まる前』が余りにも説明不足すぎて…ハンターはかつては気持ちを夫であるリッチーに言えていたのか。恋人から夫婦となり。そしてリッチーが会社の地位が上がった事ですれ違ったのか。何となく想像出来るけれど、あまりにも「お察しして!」という感じが否めない。これ、大切な描写だと思うんですけれど。

 

何故そこに引っかかっているのかというと。「リッチーとその両親はどうなるんだ」という気持ちが拭えないから。

いかにも庶民な娘と大事な息子が結婚した。実はそう思っていたとしても、ハンターに面と向かってそういう発言はしなかった。(確かに、貴方幸せね。とか、うちの嫁なんだから。とか私が妊婦の時は~みたいな発言はあったけれど)カウンセラーは結果アレやったけれど、ハンターにあてがった看護師ルアイのまともな事よ。そういう対応が出来る人たちなのに。たとえ巡り巡って保身の為だとしても。

 

看護師ルアイ。ハンターにとって初めは敵であった彼が、結果最も彼女に寄り添えた人間だった。無理に何かを引き出そうとするわけでもない。押さえつけない。ハンターが不安定な状態でベットの下に体を潜らせた時は隣で横になって眠ってくれた。

そして最後にハンターの背中を押した。

 

いかにも『無意識に傲慢な金持ち一家=リッチーとその両親』だったけれど、彼らなりにハンターを気遣っていた時期もあったじゃないか。ハンターは彼らとどうコミュニケーションを取っていたのか。取れていたのか。努力の限界だったのか。

結局、彼らにとってはハンターが異物となってしまう。理解し合えない、そのための努力も不毛だと諦めた時点で、かつて友好な関係を築けていた相手は異物で不要となる。

これまでの良かった思い出も一気に薄汚れてしまう。悲しいことよ。

 

あくまで物語はハンター視点で進むので。ハンター自身はこれまで溜め込んだ滓が流れてスッキリしたかもしれないけれど…独りよがりじゃないか?…相手を思いやれていないのはお互い様ではないかとも思った当方。

 

最後の最後。ハンターの中を通過していったものに溜息が出たけれど。それが彼女の出した答えなのだから…何も言えない。

ただ。これからは溜め込まなくてもいいように。異物で無理やり押し出さなくてもいいような人生を送れますように、と思う反面。

「初めて飲み込んだビー玉が光って綺麗に見えた。飲み込む前の異物が美しく見えた様に。幸せを感じていた時の事を後々そう思えたらいいな。」

そうあってくれと祈るばかりです。

映画部活動報告「無頼」

「無頼」観ました。
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「正義を語るな、無頼を生きろ。」

 

【無頼:正業に就かず、無法な行いをすること。また、そのさまやそのような人。】

井筒和幸監督作品のヤクザ映画。激動の昭和と平成を生き抜いたアウトサイダーを描いた作品。これは是非この目に焼き付けておかねばと、2021年初の映画部活動で観てきました。

 

「何か。何やろう…思ってたんと違った。」

 

映画館を後にする当方の胸に浮かぶ、若干のもやもや感。

「決して昭和の任侠映画に詳しいわけではない。『網走番外地』や『仁義なき戦い』を観ている程度で。後は『ゴッドファーザー』や『任侠ヘルパー』くらい?任侠映画たるもの!みたいな矜持なんて知らない。知らないけれど…なんかダイジェスト感が半端なかったというか。」

 

主人公、伊藤正治松本利夫)。昭和30年代生まれ。貧しい家庭で子供自らが金を稼ぐしか生きる術が無かった。母親は既に居らず、ボンクラの父親もいつの間にかのたれ死んだ。悪さを繰り返し、少年鑑別所にも入った。

出所して見つけた居場所はヤクザ稼業。何度も刑務所を出入りし「最早戦後ではない」と世間が盛り上がった東京オリンピック刑務所の中だった。

出所し組を持たせてもらう事になり、盃を交わした。上野動物園にパンダがやってきて、オイルショックで日本が揺れた頃に妻となる佳奈(柳ゆり菜)と出会った。

 

~とまあ。つらつらあらすじを書いていてもアレなんで、ここいらでストップしますが。兎に角『伊藤組組長、伊藤正治の半生』を淡々と時系列に描いているんですね。

 

貧しい生まれの少年が必死に生きていくさま。そうして大きくなった時、同じく世間とは折り合いを付けられずにいるはぐれモノたちを纏めながら、裏社会を生き抜いていく。日本全体に勢いがあった高度経済成長期。皆が若く血気盛んだった。日本ヤクザ戦争。抗争に依って仲間を失った。けれどバブルが崩壊し景気に陰りが見え始めた頃、ヤクザ稼業もやり方が変わった。

 

雑に挙げてしまいましたが…この他エピソードもてんこ盛りで146分。けれどどこかのエピソードに重点が置かれている感じでもなく(当方の理解力の問題)どうしても『伊藤組組長、伊藤正治の半生』のダイジェスト感否めず。

また、登場人物が多くて。有名どころを始め総勢400余名の俳優陣が…誰が誰だか分からずごちゃついているきらいもある。

 

「何やねんアンタ、文句ばっかり言って!」

 

やや険しい表情で、煮え切らずブチブチ文句を言っていた当方が「いやいやでもな」と表情を一転させる箇所。「柳ゆり菜は最高やった。」

 

映画『純平、考え直せ』(2018)で一躍脚光を浴びた柳ゆり菜。「この年代にこんなに肝の据わった女優が居たとは!」目からボロボロ鱗が落ちた。以降も「彼女が演るなら間違いない」当方が全幅の信頼を寄せている柳ゆり菜。

今回の伊藤組長の妻、佳奈。元々はエエとこの子だったけれど没落し、ホステスとして働いていた所を正治に目を付けられた。

正治と一緒になった。組長の妻。けれど血気盛んな連中は直ぐに何かしでかすし、正治は何度も刑務所を行き来。しかも自分は惚れた恋女房なはずなのに直ぐに他の女と浮気する。

正治に時には嫌事を言いつつも、しっかり正治不在の時は家を守る。組の若い子らに目を配る。その『姐さん』ぶりに惚れ惚れする当方。

(一つ不満を言うならば。主人公正治を演じた松本利夫が青年期~壮年期までを演じ、最後それなりに年を取ったビジュアルになったのに比べ、佳奈の歳の取らんことよ!)

 

貧しい出目から立ち上がり、時にはなりふり構わずにのし上がった。昔の仲間はもうほとんど居なくなった。そんな還暦の時。正治が下した判断とは。

 

「何にも頼らず、ただ己の内なる掟に従って真っすぐに生きた一人の男」うーんそういう風には見えなかったんですよねえ。そもそも何故刑務所から出て直ぐに組を持たせてもらえたのかも正直未だに良く分からんし(当方の理解力の問題)、頼る頼らんというより「時代の流れに乗るのが上手かったんやろうなあ~」「身のこなしが軽い」という印象。正治の内なる掟がイマイチ…読み取れなかった(当方の理解力の問題)。

 

なので。齢60の正治が下した判断には「はああ~?」という声が漏れてしまいそうになった当方。取って付けた着地点。浅はかではないか。

 

おそらく。期待値を高く設定し過ぎたせいで、勝手な肩透かしに終わってしまった。リアル昭和平成のアウトサイダー史大好き組には刺さるエピソード満載だっただろう。けれどその土台となる知識が無い当方はダイジェストに映ってしまった。

 

「これ。去年公開する予定やったんやな…。」

2020年。幻となってしまった東京オリンピック開催。何も起きなければ景気も人々の士気も明らかに高揚しただろう、そんな世界線でこの作品が公開されていたら…印象が違ったかもしれない。不毛なタラればですが。

 

どちらにせよ。昨今滅多にお目に掛かれないヤクザ映画。貴重な鑑賞体験を以て、2021年映画部活動開始です。

2020年 映画部ワタナベアカデミー賞


昭:怒涛の2020年が終わろうとしている。

和:今年も我々、当方の心に住む男女キャラクター『昭と和』が映画部活動報告一年の締めくくりを担当させて頂きます。

昭:映画好きあるある『今年の映画ランキング』。当方は「皆頑張ったのに順番なんて付けられないよ~。ジャンルも違うしさあ。」という観点から、オリジナル部門別でベストを付けていくアカデミー賞方式を採用しています。

和:ですが。ベストと言いつつも複数の受賞が出る事もあります。その場合は公開順番で公表させて頂いています。以上のルールで進めたいと思います。

 

昭:今年の劇場鑑賞本数は71本。うち旧作は3本。NETFLIX作品は2本でした。

和:少ない…近年は年間100本を切ってきていたとはいえ、流石に滅茶苦茶減っている。

昭:そりゃあなあ…今年はやっぱりどこを切り取ってもコロナ一色。全国の映画館が約2か月間閉館した事が大きすぎたよ。

和:劇場が再開した後もしばらくは間隔を空けての座席制限。収容人数が半分~3割位しかないから、観たい映画が観れなかった日もあったな…ちょっと、部門賞発表前に今年一年の個人的な映画鑑賞の思い出語っていこいうか。

 

昭:2020年幕明けの作品は『エクストリーム・ジョブ』。どこまでもカラッと明るい韓国映画。解体寸前の麻薬取締班が起死回生を掛けて唐揚げ屋になる。
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和:「俺たちは一体何をやっているんだ」。唐揚げ屋に夢中になり過ぎて自分たちが警察官である事を見失っていた。けれど、いざ行動開始したら、実は滅茶苦茶優秀なチームだったと。テンポが良くて楽しい作品やった。

昭:『さよならテレビ』。東海テレビドキュメンタリー劇場第12弾は自社の報道フロア。
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和:観に行ったのが製作者の舞台挨拶回やったんよな。元々小さい映画館ではあるけれど、満席で立ち見で観た。

昭:今では考えられないな。

 

和:中国武漢で発生した新型コロナウイルス肺炎。対岸の火事だったのもつかの間。全世界に波及。日本にも上陸し、あっという間に感染爆発した。得体の知れないウイルスに対する不安と恐怖は人々の判断力を奪い、他人への攻撃に向かう人も多くいた。

昭:マスク、アルコール、その他衛生材料や思ってもみない商品の争奪戦。どこそこでクラスターが発生したと報道されれば総出でバッシング。自粛警察誕生。

和:「まだ映画館とか行ってるんですか?」「もう行くのやめてください」面と向かってそう言われた時、全身が震えるくらいのどす黒い感情が駆け巡ったね。

昭:全国の映画館が閉まった約2か月間。再開してから今だってずっと映画関係や映画館で働く人たちは苦しい思いをしていると思うけれど…正直あの閉まる直前の3月あたりは映画館で映画を観る事をライフワークにしている者にも厳しい時やった。

 

和:何が映画だ。不要不急の外出は~そう叫ばれ出した頃に観たのが『ジュディ 虹の彼方に』。
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昭:鍵っ子だった当方と妹が覚える位に観た、MGM映画会社製作の『オズの魔法使』。その主人公ドロシーを演じたジュディ・ガーランドの人生の終盤を描いた作品。「オズ!」懐かしくて涙が出そうになった出だしから。どんどん堕ちていくジュディと最後の合唱に涙腺崩壊したな。

和:公開初日。本当はもっと観客が居ただろうに…というがらんとした映画館で上映を待っていたら、足を骨折した松葉杖の女性が入ってきた。この人にとっては今観ないといけない作品なんだなと思ったよ。

 

昭:映画館が閉まった間。ミニシアター・エイド基金にもささやかながら募金したけれど…映画が観たい。映画館で観たい。その気持ちが止まらんかったな。

和:そして満を持しての劇場再開。そこで観たのが『復活の日』。
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昭:ドンピシャの選択やったな~。40年前の作品とは思えない現在とのシンクロ設定。そして当時の角川映画が膨大な資金をつぎ込んだというバブリシャス。

和:『AKIRAIMAX版で観られる贅沢。原作者大友克洋が製作に関わっているから世界観が崩れないし流石の画力…でも個人的に圧倒されたのは音楽。迫力があったな~。
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昭:座席数を減らしての再開。映画館の換気システムについて広報され始めたのもあって、映画館=密。の印象がましになってきた。

和:マスク着用必須。飲食についての制限等はあるけれど、座席数制限も解除された。でも…前ほど映画を頻繁には観れなくなった。そもそも公開画延期の作品も沢山出たから…。

昭:未だ渦中という感じがするよな…ところで、思っていた以上に話が長くなったからここで一旦止めて発表に移っていこうか。

 

【ドキュメンタリー部門】

『さよならテレビ』『彼らは生きていた』
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和:『さよならテレビ』ホンマ、東海テレビのドキュメンタリーって良品やなあと思う。自社の報道フロアを対象にした今作。普段はカメラを向けている彼らが撮られる立場になった時の態度。そして3人の男たち。

昭:でも実は…という最後のシーンで足元を掬われる。「一体ドキュメンタリーってなんだ」という困惑。これ、本当に舞台挨拶の回で良かった。

和:『彼らは生きていた』。イギリス帝国戦争博物館所有のモノクロ映像を修復して編集した、第一次世界大戦終結100周年記念事業作品。

昭:西部戦線をメインに。戦争が勃発してからの国の機運や実際の現場。捕虜との交流や戦争終結以降までが淡々と記録されている。

和:何しろ本当の映像やからなあ。下手な演出も無い。こういう戦争映画が観たかったと思ったな。そしてこれ、パンフレットも見ごたえあり。

 

【美味しそう部門】

『在りし日の歌』『エイブのキッチンストーリー』
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昭:『在りし日の歌』は一人っ子政策をとっていた頃の中国で生まれた二人の男の子とその家族を描いた作品なんやけれど…食事シーンが滅茶苦茶美味そうやねん。

和:でっかい饅頭とスープ。悲しい気持ちで食べた年越しの水餃子。堪らん。

昭:『エイブのキッチンストーリー』は主人公エイブがワクワクしながら料理を作る様が観ていて楽しくて。後、ブラジル出身のチコのキッチンスタジアムシーンなんてずっとそこに居たくなるくらい高揚する。

和:美味しいは正義。

 

【お似合いのカップル部門】

『マティアス&マキシム』マティアス(ガブリエル・ダルメイダ・フレイタス)とマキシム(グザヴィエ・ドラン

『本気のしるし≪劇場版≫』辻一路(森崎ウィン)と葉山浮世(志村芳)
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昭:真逆なやつ持ってきたな~。

和:『マティアス&マキシム』5歳の時からの幼馴染の男性二人が、自主製作映画のキスシーンに協力した事に依って恋愛感情に気が付くという。もうねえ…マティアスよあんなにがっつりマキシムを求めといて往生際の悪い…腹を括れ!終始それ。

昭:『本気のしるし≪劇場版≫』どこに良い所を見つければいいのか皆目わからん浮世に俺のメンヘラアラームが早々から作動したけれど。実は全てを受け入れて堕ちる事に快感を感じている辻君こそが真のヤバい奴。もうねえ~二人だけでひっそり生きて欲しい。誰にも迷惑を掛けん様にさあ。

 

【変態映画部門】

『アングスト/不安』
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和:1980年にオーストリアで殺人鬼ヴェルナー・クニ―セクが起こした一家殺人事件を題材にした作品で1983年に公開された問題作。

昭:主人公K.の行動と彼の脳内ナレーションを延々観せられるんやけれどさあ。もう全然思考に共感が出来ないの。こっちは置いてきぼりやのにお構いなし。

和:犬が…何故この状況でこんなにK.に懐いているのか。そして劇場からの「犬は無事です」グッズ。笑ったね。

 

【ラストが胸アツ部門】

『シカゴ7裁判』
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昭:1968年8月に行われた民主党全国大会。その近くでベトナム戦争反対を掲げて集まっていた群衆の一部が暴徒化。扇動したとされた7人に対し国が10年の禁固刑を求刑した、「アメリカ史上最悪の裁判」。

和:オイタをしたにしても罪が重くないか~。そもそもその日に何があったんだ。けれど裁判自体が余りにも理不尽に進行。フラストレーションを抱えながらも「そうか。そういう事が起きたのか」そうしんみり終わろうとしたら。まさかの胸アツラストシーン。

昭:心の中でスタンディングオベーション

 

【助演女優部門】

『パラサイト 半地下の家族』キム・キジュン(パク・ソダム)
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和:あの作品に於けるメインの女性って誰なんだ。シンプルな奥様?あの奥様も凄く好きやったしこの作品に出てくる俳優陣のそうそうたる演技力には舌を巻いたけれど…キム家の長女キジュン。水が溢れかえる便器に座ってタバコを加える彼女は最高の画やった。

 

【助演男優部門】

『TENETテネット』ニール(ロバート・パティンソン

『罪の声』生島聡一郎(宇野祥平
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昭:『テネット』クリストファー・ノーラン中二病ロマンさく裂キャラクター。最後は「ニール!ニール!」の脳内シュプレヒコール。最近変態っぽい役が多かった印象やったから…正統派イケメン枠に返り咲いたな。

和:そして我らが宇野ちん…(勝手な宇野ちん呼ばわり)。『罪の声』グリコ森永事件をモチーフにした、イケメン俳優二人を主軸に置いた割には浮つかずにしっかり骨太な作りに落とし込んでいた。でも「聡一郎さん」登場からはもう…宇野ちんの独壇場やった。

 

【主演女優部門】

『ジュディ 虹の彼方に』ジュディ・ガーランド(レネー・セルヴィガー)

『ソワレ』山下タカラ(芋生悠)

『泣く子はいねぇが』桜庭(後藤)ことね(吉岡里穂)
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昭:『ジュディ 虹の彼方に』落ちぶれていくジュディ・ガーランドを全身で表現したレネー。老け込んだビジュアル。そしてびっくりしたのがあのパフォーマンス力。

和:歌って踊れるイメージが無かったからなあ。

昭:『ソワレ』父親から虐待を受けていたタカラ。刑務所送りになったのに、遂に出所して自分に会いにきた父親。父親と対峙して取った行動と、たまたま目撃してしまった翔太に見せた表情。

和:何て顔するんだよ。息を呑むとはこういう事。そこからずっと、タカラから目が離せなかった。

昭:『泣く子はいねぇが』正直吉岡里穂のポテンシャルを舐めていた。可愛くて元気な印象が強いからさあ。いつまでも子供じみた夫のたすくに対する苛立ち。そして時が経った今のことね。こんな演技の出来る女優だったなんて。

和:パチンコ屋の駐車場で見せたあの表情…堪らん。

昭:何様だ俺ら。

 

【主演男優部門】

『サンダーロード』ジム・アルノー(ジム・カミングス)
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和:テキサス州の警官、ジム。愛する母親が亡くなったその葬儀で、母親が好きだった曲「涙のサンダー・ロード」に合わせて踊るはずが持参したラジカセが故障していた。動揺し、支離滅裂なスピーチを続けた挙句、自ら歌いながらたどたどしく踊り始めたジム。この冒頭12分。共感性羞恥の末、一体何を見せられているのかという悪夢。

昭:ジムの事、しばらく好きになれなかったな~。すぐキレて大声出すし、暴力的やし。でもジムの必死さが分かってくるにつれて見方が変わったな。

和:最後のシーンは泣ける。ジム…不器用にも程があるよ。

 

【ワタナベアカデミー大賞/ラズベリー賞】

該当作品なし

昭:うわああああこう来たかあ。

和:元々から大賞は出たり出なかったりするというのもあるけれど…今年は映画館で映画を観られた事に感謝したいから。ラズベリーも出さない。

 

【監督部門】

昭:相変わらずぶっ飛んでたテリー・ギリアム監督の『テリー・ギリアムドン・キホーテ』。
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和:良かったね。やっと念願のドン・キホーテを完遂出来て。

昭:コロナ禍で公開延期作が続出した中で。それでも年内に公開した、クリストファー・ノーラン監督の『TENETテネット』。壮大な中二病世界。楽しかった。

和:大林宜彦監督の遺作となった『海辺の映画館/キネマの玉手箱』。何というか…色んな寓話をありがとうございました。
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昭:そしてまさかのキム・ギドク監督。

和:『人間の時間』あれが遺作?ええ~って思うけれど。なんかもう本当にコロナのやつ…。
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昭:延々語りつくしたので。そろそろ〆ますか。

和:ええと。想定外な一年となりましたが、何とか年を越せそうでひとまずほっとしています。

昭:全世界に蔓延した新型コロナウイルス肺炎。それに依って強制的に変化せざるをえなかった生活や習慣、意識。もうこれは。騒ぎが終息したとて、以前の生活には戻らないんやろう。そう思っています。

和:たまたま当方の趣味は映画鑑賞だった。今年は映画館で映画を観る事に窮屈な思いをしたけれど、これは当方に限ったことではない。皆が何かを制限されたり我慢したり諦めるしかなかった。その事で生活が立ち行かなくなった人も大勢いる。

昭:けれどエンターテイメントは生活が安定していないと享受してはいけない訳ではない。映画や音楽、舞台やイベント。人が集まり何かを成す。それらは決して「あっても無くてもいいもの」ではない。

和:ただ。今だにどう対応する事がベストなのかよく分からない感染症のせいで、大切にしている場所やモノが傷付けられたり取り上げられる訳にはいかないから…流動的ではあるけれど「こうしてください」と言われた事を守りながら映画部活動を続けていきたいと思っています。

 

昭:延々と長文にお付き合いいただいてありがとうございました。「観た作品全ての感想文を書く」「観た順番を入れ替えない」自身の課したレギュレーションに押しつぶされそうになることは今年も往々にしてありましたが。何とか完走出来て良かった…良かった(ホッと溜息)。さあ!混沌とした2020年も終わるぞ。という事で『復活の日』からはいどうぞ!

和:「どんな事にだって終わりはある。どんな終わり方をするかだ」。

映画部活動報告「バクラウ 地図から消された村」

「バクラウ 地図から消された村」観ました。
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ブラジル。クレベール・メンドンサ・フィリオ監督作品。

 

ブラジルのとある辺境の村、バクラウ。

長老の老婆、カルメリータが亡くなった。異国で暮らしていたテレサも帰郷。カルメリータの葬儀には村中の人が集まった。

そこからが不可解な出来事の始まり。突然インターネットの地図上から村の存在が消え、大切な給水車のタンクが襲撃された。滅多に来ないよそ者が現れ、そして村人が殺された。

一体村で何が起きているのか?誰が何の目的で村を攻撃しているのか?

 

「一体何を観せられたんだ…」思わずそう呟いてしまう。とんだ怪作。

 

そもそもブラジルという国がどういう所なのかが良く分からないのもあって…多分相当なセンスが光っている作品なんでしょうが、これがどこまでウィットの効いている話なのかが当方には不明(賢いフリは出来ません)。

「まあ確かにこういう…言い方がアレやけれど…田舎はちょっと不衛生で土着文化があって、というコミュニティーが存在しそうな感じがある」。

こんな風に持って回った言い方をするのは何だか適切じゃない。そもそも言いたい事が伝わらない。

 

「つまりは。どうせ田舎の土人だろうと舐め切って潰しに行ったら、とんでもない戦闘力を見せつけられた」という事ですか。

 

長老の老婆が亡くなった。村人総出で送った葬式の場で異常な取り乱し方をする女医。

広場で音楽を流すDJ。大ぴらな性風俗。何かと歌いだす老人。

村人から総スカンを食らっている政治家。どうも彼のせいでこの村はダムをせき止められ水は貴重らしい。

突然現れた白人のライダーカップル。ただの旅人だというがどうも怪しい…何だかぎこちない。彼らはあくまでも旅の休憩地点だと言い張り、早々に村を後にした。

そして村人の乗るバイクの後を付けてくるUFO…UFO⁈

 

終始ブツ切りで進行する物語。「ああ。こういう辺鄙な村ではこういう事もあるのかもしれない。」「ずっと暑そうな場所で水が十分じゃない所はな~」「あれ~なんか結構皆さん脱いでおられる。思いっきり裸ですけれど。R15+で大丈夫~?」「え。ていうかUFO⁈」

コロコロ変わる視点。次々現れる変わったキャラクター。纏まりのない展開に、いちいち「こういう事もあるのかな~」どうにかこうにか誰かに感情移入できやしないかと思うけれど…毎度毎度肩透かしを食らってしまう。でもねえ、これ終始こんな感じで突っ走るし…それがだんだん面白くなってくるんですわ。

 

「UFO⁈」という面白物体に「もしやB級SFモノか‼」と思わずワクワクしてしまいましたが…流石にそれはなく…。

 

つまりは…と説明出来る気もしませんので、感じたままを。

「何にも考えるな。楽しめ。」

 

ブラジルの辺鄙な村。観光資源もなく、ただただ田舎なだけのさびれた村。

とはいえ村人の生活水準は極端に低い訳ではない。何しろ彼ら、インターネット使えますから。意外と近代的。

ところが。謎のライダーカップルに妨害電波装置を設置され。携帯電話でのやり取りが不可になった。加えて停電。

村人皆殺しを企てる謎のスナイパー集団。元軍人?傭兵?警察?ただのサイコパス?いわくありげなイカレた連中が狙う相手は…とびきりイカレた村人たち。

 

終盤の割と残虐な殺戮シーンにはただただ乾いた笑いが止まらなかった当方。そうよな~何も小難しく考える必要なんて無いよな~。

 

オープニング曲と映像から既に「これは古い映画のオマージュかな」というテイスト。

舞台はブラジルなのに西部劇っぽい。徒党を組んで乗り込んでくるやつらを村人が退治するなんて七人の侍みたいでもある。

物資という手土産を持って媚にくる政治家に総スカンを食らわせる村人たちや、けれど政治家が去った後皆で山分けしている風景。

結局この村の消滅を企てた黒幕とは。

多分…分かる人が観れば分かる、今のブラジル社会に対する風刺みたいなのが差し込まれまくっているんやろうな~。事情が分からん当方は何となくその雰囲気しか察する事は出来ないけれど。

 

「ただ。根底にある精神の野生的なことよ」。

やられたらやり返せ。この村にある歴史記念館の物騒な展示物。どうしてよそ者たちは誰もそれを見なかった。この村人たちにはこういう血が流れているのに。強いぞ〜。彼らは強い。

時代は進んだけれど…歴史は繰り返された。

 

まあ。結局何の予備知識もなく観に行くのが正解。最終的にどう感じるのかは個人差があるとは思いますが…この最後の最後まで続く「誰の視点にも立てない」肩透かし感はだんだん面白くなってくるし、そして鑑賞直後おそらくまず思う事。「一体何を観せられたのか」。

 

政治家が持ってきた鎮痛剤?が怪しいと村人に説明していた女医。じゃあ村人たちが皆飲んでいた同じ薬は一体何だったんだ。アンタが処方してんでしょうが。もっとヤバい何かじゃないの。そうなると一体あのスープは何だったんだ。危ないな。

 

当方が思わず声を出して笑ってしまったシーン。温室と藁の屋根がある植物に囲まれた家に住んでいた夫婦。「いやいやアンタら…そういう所やで!」余りにも自然体。

 

カンヌ国際映画祭で高評価だった作品。この作品の持つセンスと本当のウィットを当方は知る由もありませんが…頭を空っぽにして観に行っても十分楽しめる、それでいいと思っています。

 

(バクラウまで17km)
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