ワタナベ星人の独語時間

所詮は戯言です。

映画部活動報告「ヒッチャー」

ヒッチャー」観ました。
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アメリカ。シカゴからサンディエゴへの砂漠地帯にあるハイウェイ。

知り合いの車を陸送途中であった青年ジム・ハルジ―。ある嵐の夜にヒッチハイクをしていた男を車に乗せた。

ジョン・ライダーと名乗ったその男。不穏な雰囲気を察したジムの顔にナイフを突きつけ「俺は人殺しだ」「殺してくださいと言え」「俺を止めてみろ」と脅してきた。

暫くして、何とかジョンを車から振り落とす事に成功したけれど…ジョンはどこまでもどこまでもジムを追いかけてくる。

 

1986年公開のアメリカ映画。主人公のジム・ハルジ―に『E.T.』でデビューした、C・トーマス・ハウエル。そして殺人鬼ジョン・ライダーを『ブレードランナー』のレプリカント、ロイ役でお馴染みのルドガー・ハウアーが演じた。監督、ロバート・ハーモン。脚本エリック・レッド。

 

どうして35年前の作品を?と聞かれれば「ルドガー・ハウアーを観たかったから」との回答一択。当方は『ブレードランナー』のロイについてはそこそこの時間酒を片手に語れる位…一言で言うと好きなんで。スクリーンで観る機会があるのならばそりゃあ観たい。

 

この作品を観て感じたこと。それは改めて「シンプル・イズ・ベスト」。

アメリカの広大なハイウェイ。しかも砂漠地帯という単調で人気のない道で出会ってしまった化け物。一旦拾ったが最後。振り切ったつもりでも、どこまでもどこまでも追いかけてくる。

途中。ガソリンスタンドやダイナーに立ち寄り、警察に通報するけれど。何故だか自分が殺人犯と間違われて追われる羽目になったり。唯一の味方になってくれたウエイトレスのナッシュも危険な目に遭ってしまった。

 

余談ですが。当方は普通自動車免許を取得こそしていますが、完全なペーパードライバーで。どこまでもどんくさかった教習所での運転技術及び取得後のダメダメさ。公共交通機関の充実した生活環境からも、現在ほぼ身分証明書としてしか活用できていない。けれどそんな当方の脳内に今でも生き続けている『~かもしれない運転を心掛けよ』という教習所からの教え。

 

そんな『かもしれない』全開で観ていた当方にとって。危険信号が止まる事が無かったこの作品。

 

「そもそも、冒頭の雨が降りしきる真っ暗で単調なハイウェイを走っているという時点でアウト」殺人犯に出会う云々以前に居眠り運転で事故る。実際ジムも居眠り運転しかかっていたし…高速道路沿いのモーテルに暗くなる前にチェックインしないと。

「やばい人物と遭遇した後。何とか振り切れたんなら…高速道路から降りろ!その人気のない道は何だか不吉な予感しかしない!アメリカの交通事情を知らんけれど、まずは人気のある場所に自分を紛れ込ませて。そこから助けを求めよう。」

「いかにも寂れたガソリンスタンドとか、そういう所に車を止めなさんな!」

「二度ある事は三度あるんやから。兎に角人が沢山いる所に行きなさいよ!」

 

そもそもの「暗い夜道で一人、ずぶ濡れになりながらヒッチハイクしている人間と気安く二人っきりになる環境を作るな」という最大の危険予測で、しょっぱなから警告アラームを鳴らしている当方。こんなの、怪談案件か生きていてもヤバい奴しか想像出来ない。

 

「どうしてここまでジムに執着するのか?」「どうしてこんなに執拗に追ってくる?」

車から放り出されても。他の車に乗せてもらったり、どこからか車を調達してきてはジムを追いかけ、挙句先回りしてまでジムの前に姿を現せてくるジョン。

とは言え。初めて出会った時こそ「殺してくださいと言え」と刃物で舐ってきたくせに、そこからはただただジムを追いかけてくるだけのジョン。

 

「あれ?もしかしてジョンって…存在しないのか?ジムと表裏一体な存在かなにか?」二人が交差する時にジムに意味深に語り掛けてくるジョンに、次第にそう思えてくる当方。「俺を止めてみろ」「ほらやれよ」。けれど。「幻が人を殺すか?」首をかしげる当方。夢にしては人が死に過ぎている。

 

「おいお前ら頭を使え!後…弱すぎるのか、ジョンが無双すぎるのか?」ハイウェイの亡霊との戯れでは無かったのだと思いたかったところで登場した保安官たちの、殺人犯ジョンの前での無力さよ。

そして唯一のヒロイン、ウエイトレスのナッシュの扱いよ。血も涙もない…。

 

今作品が第一作目だった監督。粗削りで描かれた脚本。「金と勢いがあるってエエな!」すがすがしくななるほどの贅沢なカーチェイスや大爆発(警察車両がどれほどぶっとばされたか)。不気味さを具現化した怪物俳優と理不尽を突きつけられて成長していく青年を演じた俳優。これら全てが組み合わさった時…とてつもない化学反応が起きた。

 

「ジョン・ライダーは一体何者だったのか」「主人公ジムとの因果関係とは」「何故ジョンはジムを執拗に追ったのか」「そもそもジムも何者だ」肝心な部分を一切明らかにしない。その潔さ。

「兎に角おっかない奴がずっと追いかけてくる」終始その状況を描き続け「その理由は個々で考えろ!」と言わんばかり。強引さもここまでくれば文句も出ない。

 

ともあれ。ルドガー・ハウアー目当てだった当方にとっては至福の97分。どこまでもリミッターが振り切れていた狂人ジョンに大満足。「四の五の言うな。俺は何処までも好きにしてやる。」と自由奔放なのに何故か憂いを感じさせる…好き。でもそんなジョンにきちんと落とし前を付けたジムにも「お前!初めの頃と比べたら大人になったな!(本当にそう思える…顔つきが変わった)」と肩を叩きたくなった…最早どこのどいつだ状態の当方。息も絶え絶え。

そしてあの「ディズニーランド」のセリフに撃ち抜かれた当方。

 

内容がシンプル過ぎるが故に「もう観てもらうしか…」いつにも増して語彙力を奪われてしまった当方。

 

ところで。映画館で記念品のポストカードを貰ったのですが。公開当時の?そのセンスにもグッと鳩尾を差し込まれている当方。全てが味わい深いです。


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