ワタナベ星人の独語時間

所詮は戯言です。

映画部活動報告「ただ悪より救いたまえ」

「ただ悪より救いたまえ」観ました。
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「ここまでする必要があるのか」

 

委託殺人を生業とする暗殺者・インナム(ファン・ジョンミン)。祖国である韓国から追われ、現在は日本に身をひそめている。

「これが最後だ」そう約束して、ヤクザのコレエダ(豊原功補)を打ち取った。

やっと引退できる。そう思ったのもつかの間。タイのバンコクで暮らすかつての恋人の訃報が届く。

なんと彼女には自分との間に娘がおり、しかも現在行方不明だという。

急遽タイに向かい、娘の行方を探すべく動き回るインナム。

そんなインナムを血眼になって追う人物がいた。

殺し屋レイ(イ・ジョンジュ)。義兄弟コレエダをインナムに殺され、復讐の鬼と化したレイは何処までもインナムを追いかけてくる。

 

韓国発のノワールアクション。ホン・ウォン監督・脚本作品。108分。

 

「いやあ~もうこういうシンプルなやつを観たかったんですわ。」一切の捻りなし。だがそれがいい

 

祖国である韓国から見放された凄腕の暗殺者。そんな俺は今、日本でひっそりと必殺仕事人を請け負っていた。だがもうこれで引退。後は南国でのんびり余生を過ごそう…そう思って請け負った仕事。無事遂行したし、もう思い残すことはない。

俺がかつてだれよりも愛した女。けれど別れるしかなかった…でもきっとバンコクで幸せにやっている。

そう思っていたのに…ふいに聞かされた。殺されたと。その直前、俺に助けを求めてきたのに…俺は答えなかった。

彼女には俺と別れた後に生まれた娘がいると知った。娘…俺の娘。なのに居ない。どこかにさらわれたという。畜生。俺の娘をどこにやった。

俺は探す。何としても。どんな手を使っても。こんな俺が何よりも大切だと思える娘を。

 

「ってどんなハードボイルド小説だよ!」

当方の記憶がよみがえる…自宅の父親所有本棚にあったハードボイルド小説(特にお気に入りは西村寿行)もう何十年も読んでいないので諸々忘れてしまいましたが…概ね「引退した/寸前の凄腕アウトロー(一匹狼)が主人公」「愛する者を失い復讐に燃える」「アウトロー連中に対して何だかんだ無双」「女たちを入れ食い状態」「エロ描写必須な上にエロに関しても無双」「エロ過多」「結局は誰も報われない…センチメンタルなラスト」そういう展開。

 

この作品にエロの要素は一切ありませんでしたが。おおむねこの『ハードボイルド理論(当方の造語)』のセオリーを踏んでいる。

(余談ですが。「ハードボイルド」について調べたところ「固くゆでた卵云々」という文言が初めに出てきて「それじゃない!」と思わず声に出てしまった当方)。

 

行方不明になった幼い娘を必死に探すインナム。バンコクでは最近子供が誘拐される事件が相次いで起きていた…一体何が起きている?

という娘の捜索に集中したいのに。日本で最後に殺したヤクザの弟がしつこく追ってくる。

 

レイがまた最高。細身で端正な男前。けれど子供のころ親に仕込まれた屠殺の技術を余すことなく活用。つまりは刃物を自在に扱い、どこまでも相手を追いつめて残虐に殺す。

「ここまでする必要があるのか」そう言って相手が命乞いをしてくることに多幸感を感じるといった共感しかねる感性の持主。

「兄貴を殺した奴は許さない」突き抜けたブラコン精神から始まって。けれど終いには「殺し合う理由は忘れた」「兎に角死ね」とゾンビのごとくインナムを追ってくる。

 

あまり状況を説明してくれる部分が少ないので。インナムとかつての恋人のストーリーなんかはちょっとモタモタしている部分もあったり、レイの初動も若干分かりにくかったりしたのですが。二人がタイでガチンコ勝負を始めだすともう手放しに面白くなってくる。

 

「何故お前たちは死なない」そう言いたくなるほどの無茶に次ぐ無茶。手りゅう弾。乱射。爆発。乗っている車の横転。命が幾つあっても足りないはずなのに…足りている。

トゥクトゥクに乗って銃をぶっ放すレイに至っては満面の笑みで観てしまったほど。

「これだ。こういうのを見たかった」

派手なドンパチ。銃たって機関銃まで出てくる。駆け付けた警察車両は当然吹き飛ばされ、アウトローが歩く背景の建物はもれなく大爆発する。そうこないと。

 

インナムの娘は何故行方不明になったのか?最近起きていた子供たちの連続誘拐事件の真相…明かされていましたが。「そのネタはいい加減タイ政府から怒られるんじゃないか?ほほえみの国も流石に笑ってはくれんぞ」という案件。後、確かに「ソレ」は取るだけかもしれないけれど…流石に布を掛けてからの消毒はずさん過ぎる。清潔操作ありきの業界なんで。そこはきちんとしておいて欲しい(ネタバレ回避のためこれ以上の表記は無理)。

 

タイでインナムのガイドを務めたニューハーフ。面白くてかわいくて義理人情に厚い…ハードボイルドあるあるのエロい美女じゃなくニューハーフの彼女を持ってきたのは良かったなと思った当方。

 

とまあ。色々と突っ込みたい所もあったような気もしたのですが。それを上回る「これこれ!」という高揚感でそんなのどうでもよくなってしまう。

 

ですが一つだけ。日本のシーンで、インナムが任務遂行の報告をしていた中華屋。相手がラーメンの汁を飲みほして、けれどその鉢に麺が残っているのを見て。「そんなラーメンの食べ方をするヤツ見た事ないよ!」心の中で思いっきり突っ込んだ当方。

 

完全に「ノワールアクション」とやらでねじ伏せてきた作品。面白くて大満足でしたが。

この感想文を書くにあたって、うっかり西村寿行について調べてしまったことから。

当方には今、電子書籍西村寿行作品を購入するべきかという葛藤が生まれています。


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