映画部活動報告「ロニートとエスティ 彼女たちの選択」
NY。都会に住む、女性カメラマンロニート。撮影中に舞い込んだ、聖職者である父親ラビの訃報。
厳格な正統派ユダヤ・コミュニティ。そこが生まれ育った故郷。二度と戻る事は無いと思っていた故郷に帰るロニート。
何も変わらない。堅苦しいしきたりも習慣も。そこに居る人も…そう思っていたのに。
幼馴染で親友のドヴィッド。父の後を継ぐであろう聖職者の彼は、ロニートがかつて誰よりも愛した女性、エスティと結婚していた。
昭:回れ回れ~メリーゴーランド~もう決して止まらないように~動きだ~したメロディ~ラララ~ラブソングううう~。
和:え⁈久保田利伸!ラップ?私ラップ担当させられんの?ていうか何アンタのそのテンション⁈
昭:はいどうも。この映画感想文を書いている当方の心に住む男女キャラ、昭と和(あきらとかず)です。今日はねえ…酔ってもいいですか?SAKEの力、借りてもいいですか?
和:「彼は酒に酔っているのではない。自分に酔っているのだ。」…一体どこのドストエフスキーだよ。何?大丈夫?
昭:俺はねえ。この作品で男性目線でコメントを求められるのがしんどいの!だって。だってこれって…。
和:はいはいはい。そういう感じで進められたら速攻クライマックス迎えそうやから、内容に触れていこうかと思いますよ。
昭:NYでカメラマンとしてバリバリに働いているロニート。ある日仕事中、父親の訃報を知らされる。
和:衝撃。動揺。地球上から父親が居なくなったという事実を突きつけられて、理解できるけれど理解できない。実感できない。あの町から離れた場所では誰ともこの感情を共有できない。このままでは後悔する。父親を見届けなければ。そうして、もう戻らないと決めたはずの場所に戻ったロニート。
昭:親子の縁を切られ、捨てたはずの故郷。相変わらずの堅苦しいコミュニティ。そうだ、こういうがんじがらめな人間関係が苦手だったんだ。誰も変わっていない。
和:けれど。最も変わって欲しくなかった相手が変わっていた。かつての恋人、エステイは親友のドヴィッドと結婚していた。
昭:平たく言えば、「かつての恋人と再会して、やけぼっくいに火が付いた二人とその夫」という図式なんですわ。
和:身も蓋もない言い方するなよ~。
昭:誤解を恐れずに言いたいんやけれど。個人的に「好きになったら性別は関係ない。」と思っている。だから、彼女たちが同性同士だとか、そういうのは関係ない。だから単純に夫目線としたら「元恋人が現れて妻をかっさらっていかれそうになっている状況」と判断してしまうの。
和:いやでもそれはさあ。色々あったんじゃないの?宗教の事分かんないけれど、同性同士の恋愛に厳しそうに見えたし。それどころか、男女であっても性的な事柄は隠せっていう感じじゃなかった?女性は大人しく引っ込んで夫を立てておけ、っていう。
昭:厳格なユダヤ・コミュニティ。ってやつをそもそも知らないんやけれど。女性はカツラをかぶったりするんやね。
和:聖職者のドヴィッドの下着姿も独特のストイックさ。そしておそらく、決まった相手以外には触れてはいけないんかなと思った。例えそれが友情や気持ちを共有するハグやタッチングであっても。
昭:好きな相手には触れたい。ラブだけじゃなくて、ライクでも。辛そうな相手の背中や肩にそっと手を置きたい時、あるよ。
和:ライクねえ。でもさあ、ラブやったら当然…。
昭:(食い気味に!)好きな相手には触れたいよ!別に人前でいちゃつきたいとかいうんじゃないけれどさあ。せめて二人の時は相手を感じたいよ!
和:そういう事が許されなかったんじゃないの。ロニートとエスティは。
昭:…。
和:ちょっとネタバレしちゃうけれどさあ。ロニートとエスティの関係って、親にも周りにもバレてれんのよね。結果それでロニートは父親から絶縁されるし、町を出るしかなくなってんの。
昭:町一番の聖職者で指導者。誰からも尊敬されるラビの娘ロニートの同性愛発覚。そりゃあ堅物なあの町にそのままは居辛いやろうな。
和:あ~あ。あの二人、やっちまったな~。でもロニートはこの町を捨てたし、今頃自由の国で伸び伸びやってんでしょうよ!そして残されたエスティは真っ当になって、幼馴染のドヴィッドと結婚。所詮は若気の至りだったんやろうな!あれは昔の事!
昭:「残された方は大変なのよ(言い回しうろ覚え)。」そう放ったエスティ。この町に残るにはそう振舞うしかなかった。あれは一時の事だと。
和:でも。ずっとくすぶっていた。私はずっとロニートを愛している。今でもずっと。
昭:ふざけるなああああああ。
(背景の音楽:い~つでも探しているよ。どっかに君の姿を。向かいのホーム 路地裏の窓 そんなとこに居るはずもないのに(略)新しい朝 これからの僕 言えなかった好きという言葉も~)
和:山崎まさよしが気持ちを盛り上げてきました!…愛してる。ロニートを愛している。ロニートとの恋。あれは一世一代の恋だったし、今でもそう。身も心も一つだと感じたのはロニートだけ。
昭:お前。セックスが義務だと言われた夫の気持ちが分かるか。
和:(無視)私はずっとロニートを求めていた。私はずっとそうだった。
昭:ボロボロに傷ついたエスティ。ロニートは逃げたじゃないか。俺なら守ってやれる。俺はエスティを愛している。そういう下り、別に描かれてはいなかったけれど…流石に行間から察する。閉塞した環境で、濃厚な二人の恋愛とその終焉を目の当たりにしても尚、俺はエスティを守ると決めた。なのに何故。今更ロニートの事を蒸し返す。お前たちは恋愛の良い所しか見ていない。刹那的に求め、求められて。けれど相手がどういう状態になっても見捨てないで味方になる、離れない。そういう事がお前たちには出来るのか。
和:(小声)結局私たちは同じ人間(当方)から派生したキャラクターやから…気持ち、分かるよ。
昭:嫌な言い方やけれど、この作品で一番自己中心的で台風の目だったのはエスティ。三者ともが納得していなかったけれど胸に収めたかつての感情を、ほっくり返して、振り回して、そして終わらせた。
和:ラビの死は一世一代のチャンス。でも…ラビだって、娘は可愛かったと思うよ。会いたかったやろうなあ。
昭:どこまでも公平で寛容な気持ちを持っていたドヴィッド。「あなた達には選択の自由がある。」ラビの意思も引き継いで、けれど完全に捨て身で彼女たちに贈った言葉。
和:最後に。彼女たちの選択。どう思いましたか?
昭:もう後ろを向いてはいけないよな。後ろは過去でしかなくて、歩みを止めるモノではない。自由を提示された時に自分で選択したんやから…これがファイナルアンサーやろう。これが彼女の進む道。
和:切ない。
昭:でもこれが一番皆が幸せになる結論。忘れてた?ロニートの職業カメラマン。
和:思い出を閉じ込める…何これ。何この強制的なセンチメンタル終焉。
昭:俺は酒に酔っているんじゃない。…自分に酔っているんだ。
和:うわあ…。