ワタナベ星人の独語時間

所詮は戯言です。

映画部活動報告「ジョジョ・ラビット」

ジョジョ・ラビット」観ました。
f:id:watanabeseijin:20200121234929j:image
第二次世界大戦下のドイツ。

10歳の少年、ジョジョ。父親は戦地に出ており不在、母親ロージーと二人暮らし。

イマジナリー・フレンドのアドルフ・ヒトラー。気弱なジョジョを奮い立たせてくれる、文字通り心の友。

母国の役に立ちたいと、青少年集団ヒトラーユーゲントに入団。立派な少年兵を目指したけれど…訓練でウサギを殺せと命令され、どうしても出来なかったことから『ジョジョ・ラビット』とあだ名を付けられやじられた。挙句、手りゅう弾の扱いでミスした事により被弾。負傷してしまう。

前線から離脱してしまったジョジョ。母親ロージーと過ごしながら、相変わらずユーゲントに通い、ビラ貼りなどの仕事を貰う日々。

そんなある日。ジョジョは自宅に隠し部屋があり、エルサというユダヤ人少女を匿っている事に気づく。

どう考えてもロージーの仕業。けれど二人はロージーには内緒で接触を重ねる。

アドルフの叱咤を受けながらも、次第にエルサに惹かれていくジョジョ…。

 

ウェス・アンダーソン監督の『ムーンライズ・キングダム』みたいやな。」ぱっと見のビジュアルからの印象。オシャレな絵面でかわいらしいキャラクター達がテンポ良く動き回る。所謂ボーイ・ミーツ・ガール。そんな感じなのか?…でもヒトラーが混じっている時点で何か違う気がする。(因みに当方『ムーンライズ・キングダム』はブルーレイを所有している位好きです。)

冒頭。あのビートルズの楽曲から軽快にスタート。確かにコミカルで可愛らしい。10歳の少年ジョジョ目線の世界は一見ポップで柔らかい。けれど。

 

ジョジョを取り巻く世界は、とてつもなくシビアで。とてもじゃないけれど笑えない。

 

「ホンマに今のスカーレット・ヨハンソン(当方の勝手な名称、スカヨハ)は脂が乗ってるなあ~。」

本年米アカデミー賞助演女優賞ノミネートも納得の演技。母親ロージー

「戦争中にここまで鮮やかな出で立ちのご婦人は…。」

おしゃれでパワフル。心が明るくなるような服装を身にまとい。常にご機嫌な話し方。そして…「もうすぐ戦争は終わるわ。ドイツは負ける。」権力に抗う姿勢を崩さない。そもそも、自宅にユダヤ人少女を匿う時点で相当な(当時の)反政府思想の持主。

けれど。息子ジョジョナチスナショナリズムもハナから否定はしない。「ハイハイ総統様ね(こんな言い方はしていませんが)。」

ジョジョのユーゲント通いも止めない。(ジョジョが大けがした時は、ユーゲントに乗り込んで大尉に蹴り入れてましたけれど。)だってこんなの。お遊びだから。

今この国は狂った状況にあるけれど、戦争はもうすぐ終わる。今のドイツはまともじゃない。審判が下る。

息子のジョジョもまた、そこいらの国民と同じ様な事を口にする。でも…この子は命を粗末にしたりしない。ウサギを殺さなかった。優しい子。まだ自分で靴紐も結べないような子供は、危ない所なんて行かなくて良い。

不在になった夫と、居なくなった娘に胸を痛め。挙句ユダヤ人の少女を匿う。反政府活動。

パワフルで、でも飄々としたロージーの行動は危ないけれど、どこまでも愛に溢れている。

「恋をしなさい。」「誰かを想うという事は…。」

 

「母親だ。」ロージーが余りにも魅力的で。そしてそんなロージーを演じきったスカヨハに感服。

 

ユダヤ人少女、エルサもなかなかに魅力的。ここまでたどり着くまで悲惨な体験があっただろうけれど。それはどちらかと言えば最終辺りで淡々と語られるだけ。

 

元々アドルフ・ヒトラーをイマジナリー・フレンドにするくらい想像力豊かなジョジョと。一人でこもっている時間の長いエルサ。画や文章を交換することで次第に打ち解けていく二人。(特にエルサの恋人のフリをして手紙を書くジョジョの下りに、当方の心臓を襲った強い絞扼感。)

ユダヤ人ってこの世のものじゃないんじゃなかったの?そしてこの人もあの人もユダヤ人なの?想いを共有できるの?…あれ。同じ心を持つ人間じゃない。

 

中盤。どこか不穏な空気を匂わせながらも、まだコミカルに進行していた物語の世界がガラッと姿を変えた時。そこまで笑いが起きていた映画館の雰囲気が変わった。

 

どこか夢見がちだった。ポップで優しくて柔らかい世界観だった。でも。舞台は第二次世界大戦下のドイツだった。

 

夢見る少女じゃいられない(少年だけれど)。いつまでも周りに助けられているばかりではいられない。強制的に『周り』を奪われて現実を突きつけられた時。ジョジョはどうやって生きていくのか。

イマジナリー・フレンドは結構。でも本当にジョジョが選ぶ信念は?自分の意見は?

 

初めからどうにも憎めなかった、ユーゲントのクレンツエンドルフ大尉(サム・ロックウェル)。「何で俺がお前らガキの相手をしないといけないんだ。」暇さえあれば酒を食らって。でも、ケガをしてからも懐いてくるジョジョを何だかんだずっと気にかけていた。

「うわ。これはヤバい。」中盤以降。ジョジョとエルサ絶対絶命のピンチの時も、さりげなく現れて窮地を救ってくれた(よく考えたらあのタイミングって…ジョジョとエルサも同じ運命を辿る所やったって事ですよね。寒気がする。)。

そして最後…。ネタバレになるので詳細は書きませんが。「カッコいいとはこういうことだ。」当方の中の紅い豚が親指立てる胸アツ行動…。大尉、アンタは本物の尊敬出来る指導者だよ。

(そして。「そんなの大した問題じゃないよ!」これまたいいキャラ過ぎる、不死身なジョジョの親友、太っちょヨーキー。大抵彼の言う事は真実。)

 

夢見がちだった少年時代が終わって。新しい時代がやって来た時。やっと自分で靴紐を結ぶ事が出来るようになったジョジョの問い。「ねえ。どうする?」

 

…それしかない、けれどそれが出来なかった人を想うと。最高のラストシーンだったなと。

 

まあ総じて言えば、最高のボーイ・ミッツ・ガールでもある。思い出す度、胸が苦しいです。