ワタナベ星人の独語時間

所詮は戯言です。

映画部活動報告「岬の兄妹」

「岬の兄妹」観ました。
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片山慎三監督作品。主演、松浦裕也・和田光沙

 

「足の悪い兄が、発達障害自閉症)のある妹に売春をさせる話」

 

とある海辺の地方都市。集合住宅の一角で二人で暮らしている兄妹。

共に成人してはいるけれど。兄:良夫は足に障害があって片足を引きずり、全力では走れない。そして妹:真理子は自閉症で他人とのコミュニケーションがおぼつかない。

昼間。良夫が地元の造船所で働く間。真理子が自宅から出て行かない様に足を鎖で繋ぎ、家の外から南京錠で施錠する。なのに度々破られるバリケード

 

「真理子が居なくなった。真理子知らない?」

 

冒頭。ボロ屋から転がり込む様に飛び出し、幼馴染のはじめちゃん(警察官)に泡を食って電話。方々を走り回り、海に漂うスニーカーまでさらって真理子を探し回る良夫。

数時間後、見知らぬ男からの電話があって。真理子を引き取りに行く良夫。「突っ立っていて、お腹が空いたって言うからご飯をおごった」そういう男に何度も何度も頭を下げた。けれど。家に帰ってから。真理子の下着の汚れとポケットに突っ込まれた一万円札から、どういう事が起きたのか察し、声を荒らげた夜。~そんなエピソードで幕開け。

 

父親の存在は語られず。母親も真理子の元を去った。だから良夫が真理子の面倒を見ている。

 

ある日。造船所の人員整理に良夫が引っ掛かり。「俺が足が悪いからだろう!」リストラされた良夫。寂れた地方都市には新たな職が無く。ポケットティッシュに広告の紙を差し込む内職(一つ1円らしい)を始めるが。当然生活は成り立たず。

二人で街を彷徨い、食べ物が無いかごみを漁って。仕事道具のポケットティッシュを「甘い」と食べて。そうして遂に…電気が止められた。

 

生きていくため。

「いい子いるんですがね。」「一時間一万円でどうですか?」

足を引きずりながら。真理子の売春を斡旋し始めた良夫。

 

「何でそんな事になってしまうんだよおおお。」当方の心に住む藤原竜也が終始大声張り上げて叫び続けた作品。

 

「どうして?この田舎には社会福祉の手が無いの?行政は?民生委員は?どうなってんの?」

 

障害者認定は?ましてや二人ともが何らかの障害があるのなら、お金は微々たるもんでも支給されるんじゃないの?彼等を見守る人は居ないの?社会も、会社も、友人も、ご近所さんも…それとも。

 

「そんなのは綺麗事だと?」

 

たった二人の兄妹。社会から孤立し。ボロい平屋の一軒家に住んでいる。誰からも見られないよう、中から段ボールで窓を塞いで。此処は兄妹二人の座敷牢

 

そこで何とか生きて来た。けれど…限界が来た。

 

『売春』。体を売って金を得る。それだけでも眉をしかめてしまう犯罪なのに…この兄妹の最悪な所は『妹がその重大性を理解しているのか分からない』そして『全て承知で兄が妹を売っている』生活の為とは言え…。

 

背景が悲壮なのに。どこか飄々とした感じの真理子。「恐らく真理子は寂しかったんやろうな。」そう推測する当方。男達は性欲処理に真理子を買うけれど、触れられ、求められる喜びで溢れる真理子。(そして…下品な言い方ですが。多分床上手なんですよ)

 

「と言ってもさあ。こんな地方都市で、こんなことしていたら直ぐ様人の目に付くって。警察やおっかない人に見つかるやろうし、病気や妊娠の可能性だって…。」

…まあそうなるわな。危なっかしすぎる兄妹二人の危険すぎる犯罪行為の、数々の顛末に溜息が止まらなかった当方。

 

「お前はなあ!足が悪いんじゃない!頭が悪いんだよ‼」

 

そう言って良夫を殴ったはじめちゃん。彼の言っている事はまとも。けれど言いたい。

「じゃあ頭が悪い奴はどうやって生きていったらいいんだよ!」

 

この兄妹が生きていく術を。一体誰なら教えてくれるんだ。誰なら寄り添ってくれるんだ。誰も二人の力になっていない現実の中で、何を以って正解だと言うんだ。

 

誇り高く死ねと言うのか。体を売って何が悪い。売れるモノがあっただけ良いじゃないか。今生きていく為にはこれしか無かったんだ。

 

「こんなの。もう誰も何も言えないよ…。」

 

しかも、たった二人の家族。良夫と真理子との生活は一生続く。

真理子さえ居なければ。もう少しまともに生活出来る。真理子の居ない人生…けれど、良夫はその選択を選ばなかった。

 

真理子にとって、この売春生活はどうだったのか。

数多の男と寝て。体を重ねていく事で、目覚めていく性の喜び(陳腐な表現)。けれど。男なら誰でも同じでは無かった。

「こんな恋の見つけ方があったなんて。」まさかの。曇天の雲行の中で。一筋の光の気配。

 

売春稼業の顛末。最悪を塗り重ねて。行きつくところまで行きついて。映画館なのに思わず声に出して溜息を付いてしまった当方。

 

「結局は。グルグル回ってまた同じ生活か。」最終。冒頭と同じく、また真理子が居なくなったと探し回る良夫の姿にもう止めてくれと思った時の、あの電話。良夫の表情。

 

「これは…ハッピーエンドでいいんやんな?」まさかの。まさかの希望の持てるラストを持ってきたんだと。お願いですから。お願いします。

そう願ってやまないです。