ワタナベ星人の独語時間

所詮は戯言です。

映画部活動報告「斬、」

「斬、」観ました。
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塚本晋也監督作品。池松壮亮蒼井優出演の時代劇。

 

江戸時代末期。のどかな片田舎の農村で村人たちの手伝いをしながらのんびり暮らしていた、浪人・都築杢之進(池松壮亮)。侍に憧れて。都築を慕い、日々木刀で剣の稽古を付けてもらう隣人宅の息子市助(前田隆成)。「うちは百姓なのに。」そんな弟にヤキモキしながらも、都築に想いを寄せ、付きまとう市助の姉、ゆう(蒼井優

ある日。剣の達人という澤村(塚本晋也)という男が都築を訪ねてくる。

「お国の為。京都の動乱に参加しないか。」

都築の腕を見込んで、一緒に徒党を組まないかという誘い。浪人と言えど武士の端くれ。承諾し、いざ出発直前。農村に無頓者(中村達也)達が流れてきた。

 

「人を斬るとはどういう事か。」「刀を持っていたとて、果たして人を斬る事が出来るのか。」

 

80分の作品。コンパクトでありながら、非常に重苦しい作品。

 

冒頭。都築と市助の稽古のシーンから幕開け。その「時代劇で手持ちカメラ?」という動きまくりの画に生々しさを感じた当方。そしてこの作品を通じて予感は実感となった。と言うのも。

「時代劇での殺陣って、基本的に定点カメラかお決まりの角度から、型に嵌りながらキメキメに撮るイメージがある。けれどこの作品の殺陣は早いし、カッコよさも無い。ブレブレやし、時に画面は暗いし正直どうなったのかよく分からない。けれど。実際、人が武器(ここでは刀)を持って相手に立ち向かう時、恰好なんて付けている余裕なんて無いし、剣術の型もあるんやろうけれど…そこに収まらないなりふり構わなさだってあるはず。というリアル。」

 

ド田舎の農村で。「国の有事のお直しに向かう為、腕の立つ侍を集めている。」と現れる澤村。まさしく『七人の侍』。(あれは村の用心棒でしたが)しかも静の印象を持つ剣豪という都築や、百姓出身でメンバーにスカウトされる市助なんて。もうそのままなぞっているじゃないか。となると村の娘ゆうななんて出発の前の晩、都築と結ばれる…とかそういう話なのかと思いましたが。

 

「まさかのそれ以前の話。」

 

澤村に誘われて。侍であるならば当然と快諾しながらも。覚悟が付かない都築。日々剣の鍛錬は怠らなかった。遂にその腕が試される時が来た。なのに。

一人で何度も剣を抜き、納め。そして剣を振って。なのに神経が昂る。集中出来ない。

そして出発の日。いざ行かん、としたのもつかの間、熱発し倒れる都築。

出発を翌日に倒し、臥せる都築。しかし。たったその一日の間に、状況は一変してしまう。

 

勿体ぶっていたらいつまでも話が進みませんので。あっさり核心に進みますが。

 

「俺は人を斬れない」

 

侍という肩書きを持ち。刀を持ち。剣の訓練を積み。鍛錬を怠らず。所謂武士道をしっかり学んできた(と思われる)。そんな都築であるけれど。その刀を人には向けられない。

穏やかな生活。そこで百姓の息子相手に木刀で練習する程度なら出来る。しかし、実際の果し合いの現場に出会っても見ていられない。と言うのも。

 

彼には「話せばわかる。」という考えが根底にあるから。THE平和主義者。

 

京都に出発する寸前、農村に現れた無頓者(と言うか野武士ってやつですよね)。村の皆は彼らの風貌や柄の悪さや悪い噂に怯え、都築に「やっつけて」と泣きつく。しかし都築は一人彼等の元に向かい。そして最終的には酒を酌み交わし、コミュニケーションを取る事に成功する。「彼らは決して悪い人ではありませんよ。」

 

けれど。村人の無頓者に対する恐怖は拭えず。都築が臥せっている間に勃発してしまった小競り合いから結果、最悪の殺戮へ発展。そして「やられたらやり返せ」のどぶ板合戦が始まってしまう。

 

「お前は侍じゃないか。」「その刀は何のためにある。」「京都に人を殺しに行くつもりだったんでしょう?」「貴方が敵討ちをしてください。」「殺して。」「殺せ。」「剣を抜け。」「戦え。」「立ち向かえ。」

 

俺は侍だけれど、人を殺める事は出来ない。そう気づいてしまった都築に、どんどん追い打ちを掛けていく澤村とゆう。

 

またねえ~。ゆうが…『近年の蒼井優お得意のタイプ』なんですわ。つまりは情緒不安定で危なっかしくて、直ぐキイキイ金切り声張り上げて、変にエロくて、人の触れて欲しくない所にぐんぐん踏み込んで騒ぐキャラクター。

そりゃあ、弟があんな目に合ったらおかしくもなりますがね。もうその範疇が無制限過ぎる。

「危ないから付いてくるな!」山の中でも、暗くなっても。ずっと髪を振り乱しながら後ろを付いてくる。絶対にごまかされない。この目で見届けるんだという執念。

(もう…メンヘラ女子が大っ嫌いな当方にとって『思わず抜けない刀で切りかかりたくなる』相手。)

それで案の定危ない目に合ってりゃ、世話無いですよ。(心の声)

 

話がズレました。

兎に角、そんな「俺は人を斬れない。だからもう放っておいてくれ。」となっていく都築をどこまでも追いかけてくる澤村とゆう。

「お前は侍だろう。人斬りだろう。斬れないというならどこまでも追いかけてやる。それが嫌なら俺を斬れ。」

 

(現代に生きる当方の目からしたら『転職』の二文字しかありませんが。)

 

侍という肩書きの重さ。刀を持つ立場。刀の意味。人を斬る為にある武器を持って。一体俺は何の為なら人を斬れる?

何も思わず刀を人に向けられたら。けれど俺には出来ない。出来ないと言ってるのに。

どこまでもどこまでも山の中。出口なんかない。疲れ果てているのに。なのにいつまでも俺を追ってくる。

 

当方の勝手な解釈ですが。都築の心の中で葛藤する想い。澤村とゆうは実体を伴うけれど都築の矛盾する想いの権化でもある。だから彼等は都築を諦めない。しつこく絡みついてくる。

 

「となると。このラストのその先は。」

 

あの暗い森をどう解釈するのか。

まだ答えは出ないです。