ワタナベ星人の独語時間

所詮は戯言です。

映画部活動報告「散歩する侵略者」

散歩する侵略者」観ました。
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皆大好き。黒沢清監督の最新作。

末期状態であった夫婦。数日間の行方不明の後、見つかった夫真治は松田龍平になっていた。

 

「違う違う!」慌てて立ち上がる皆さま(誰?)。「『真治は別人の様になっていた』やろ!」

静かに続ける当方。

飄々と無表情で。妙に落ち着き払った態度と受け答え。病院に駆け付けた妻鳴海(長澤まさみ)も、どう対応したらいいのやら。ほっとしたのもあるけれど。それ以上に押し寄せる腹立たしさ。何故か歩くのもやっとの夫は、妻と二人になった時に打ち明ける。「ガイドになって欲しい」

時を同じくして。とある一家惨殺事件が発生する。一人だけ助かった女子高生あきら(恒松祐里)。彼女を取材しようと事件現場をうろついていたジャーナリストの桜井(長谷川博己)は、奇妙な少年天野(高杉真宙)に出会う。

「俺たちは宇宙人なんだ。地球を侵略する為に、まず地球人の『概念』を集めに来たんだ」「より多くの概念を集める為のガイドになって欲しい」

初めは半信半疑。しかし彼らと共に行動するにつれて彼らの主張を認めざるを得なくなっていく桜井。

「家族」「家」「仕事」「自分」果たして概念を奪われる事は不幸なのか。幸せなのか。奪われることで失うものは。そして愛する者が侵略者に奪われたら…。

 

前川知大率いる劇団「イキウメ」の同名舞台の映画化。昨年、神木隆之介門脇麦主演で公開された『太陽』も同じ劇団の作品であったと。なるほどなるほど。こういう不穏な奴がお得意なんですねと頷く当方。

 

ところで。始めに重大なお断りをしておかないといけないのですが。

 

「当方は黒沢清監督の事がとても好きなんですよ」

 

どうしてなのか…何故か当方が熱く黒沢清監督作品を語れば語る程「馬鹿にしている」と思われるという誤解がありますので。大好き宣言してから始めさせて頂きますが。

 

まあ。あれですよね。宇宙人=松田龍平というキャスティングでもう勝ったも同然。(誰に?)

松田龍平と全く面識もありませんし、失礼なのは承知ですが…(小声)いつもああいう感じじゃないですか。覇気も無いし、いつだって無表情で三白眼。ぼそぼそと喋る口調も朴訥として。のらりくらり。

「夫は別人になって帰ってきた」って。そのビフォアーを全く想像出来ない。想像出来ないけれど、「宇宙人=松田龍平になって帰ってきた」と言われればそれは飲み込める。

後の二人の若い宇宙人は結構役をしっかり作って気持ち悪くしていたと思いましたがね。でも松田龍平のみが通常運行。素でしっかり宇宙人。

 

原作ありきなんで。あんまりどうこう言えませんが…良く言えば「確かに舞台っぽい」はっきり言えば荒唐無稽。でも揺るがない。黒沢清監督作品に於いて、作品の整合性なんかを言うのは野暮だから。むしろおかしくなればなるほどニヤニヤが収まらず。

 

冒頭。女子高生あきらが遭遇する、惨たらしく荒らされた家と家族。でもそこから一転。血だらけの満面の笑顔で外を歩くあきら。

 

「本当につかみが上手いんよな」(誰とは言いませんが。ああいうシーンで大量過ぎる血をぶちまける某監督の下品さ。それに比べ、きちんとリアルな惨殺現場)さすがホラー出身の気持ち悪くて最高なスタート。

 

「家族」「家」「仕事」「自分」エトセトラ。エトセトラ。「それって何?」「説明できるように頭に思い浮かべて」そうやって相手に考えさせて。イメージ出来たところで「それ。もらうね」概念を奪い去る。奪われた人間に一瞬浮かぶ涙。でもそれもつかの間。

概念を奪われた人間は。ある者はそれによって全てを失ってしまう。でも幸せになる者もいる。そして多くの概念を奪われた者は…どこか虚ろなぼんやりとしたモノになってしまう。そしてそれは最早人間では無い。

 

「散歩して。多くの人間と会って。対面で質問して概念を奪う。そうして地球人のサンプルを入手する…って。結構ハードル高いけれどな」まあでも。町が世界が壊れそうになる展開を見ると、彼らはスクリーンでは見えない所で街頭インタビューをしまくったんでしょうね。

 

そして「一体国家は何処でどうやってその宇宙人云々の危機を察知したんだ」

 

一家惨殺の生き残りあきらと少年天野。そしてガイドの桜井。彼らが合流して行動すると。何故か武装した厚生労働省幹部に追われ。なんですか。彼らが去った後の。あの「概念を奪われた者が見せる奇異行動」ってやつ故ですか。

地球を侵略するというビックスケールの割に、一つの街に降り立ってちまちま活動する宇宙人たち。

「あかんあかん。そういう些細な事の揚げ足を取ってはいかん」我に返る当方。

 

終わっていた夫婦。同じ屋根の下に住みながらも最早心は離れていた。そう思っていた。なのに。

 

自分が知っていた真治では無い(当方達観客からしたら、元の夫の方が想像できないですけれど)からっぽで。でも放っておけない。

言ってる事は無茶苦茶。なのに。今再び持てる夫婦の時間。

「やぱり『岸辺の旅』以降。黒沢清監督にはこういう夫婦ものをやりたいという意志を感じる」何となくそう思う当方。

かつては他人。でも愛し合い。夫婦となって。でもだんだんすれ違う。そしてもう…終わり。決定的なピリオドが打たれたと思った所から…物語は始まる。

 

「終わり良ければ全て良しってか…」今回。余りに美しく着地した事に震えた当方。

 

お楽しみポイントをふんだんに散りばめて。

あの人が出てきた途端「地面に気を付けろ!また落とし穴に落とされるぞ」とニヤニヤした当方。「満島真之介の幸せそうな表情!でもあんたの主張意味不明やで」「カメラの動きが鬱陶しい!!」「またもや光を操る黒沢清!」そして「長澤まさみよ!!」

 

クリーピーなのはあんただよ」当方をニヤニヤの渦に叩き落とした、昨年公開『クリーピー』の竹内結子。あの「真夏に隣家にシチューの差し入れ。しかも透明の大きなボウルにサランラップで。両手に抱えて!どうやったらこぼさずに持ってこれたのか。そしてお宅にはタッパーは無いのかね?」等の面白過ぎた主婦。そこまでは行かなくとも。

 

「あんた…圧力鍋何処やったっけ?って。何故階段から持って降りてくる?台所にも置いてないって、それ使ってないアイテムやん」「真ちゃんそれ前は絶対に食べなかったのに。って何その食べ物?かぼちゃ?ですか?色的に。何故他の食材は全て皿に盛っているのにその謎の食べ物だけタッパーから直に食べているのか?」しょうもないけれど見逃がせない。黒沢清映画あるある変な主婦炸裂。

 

もう一人のガイド。桜井こと長谷川博己。そのブレブレな人間性と最後の面白ウォーキング。脳裏に焼き付いて離れず。そして東出昌大最強伝説。

 

当方の中で松田龍平に並ぶ「宇宙人俳優」東出昌大。その彼がまさかの「愛を教える牧師」役。その絶妙な配役と、案の定うさん臭い話が始まった…と思いきや即刻カット。次のシーンで松田龍平の言った言葉に本当に笑ってしまった当方。

 

129分に渡って。終始滑稽な話を繰り広げるんですが…本当に「終わり良ければ~」なんで。何だか感動的な話を観た様な。じんとした気持ちにすらなってしまう。

今回そうやって着地している事で「ぬるい!」という声も当方は聞きましたが。

 

しっかり黒沢清テイストは引き継ぎながらも。最近の経験を活かして話をまとめたんだと。そう思いましたし。当方は十分ニヤニヤと楽しむ事が出来ました。

職場にて。今日の昼休憩でも、空気を無視して同僚にお薦めする当方。

 

ただ…何故か当方が熱く黒沢清監督作品を語れば語るほど、どうしても「馬鹿にしている」と誤解されてしまうんですよ。ですので最後にもう一度。

 

「当方は本当に黒沢清監督が大好きなんですよ」