ワタナベ星人の独語時間

所詮は戯言です。

映画部活動報告「告白小説、その結末」

告白小説、その結末」観ました。
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フランス。デルフィーヌ・ド・ヴィガン著『デルフィーヌの友情』を。巨匠ロマン・ポランスキー監督が映画化。

私小説で人気をはくしたが、現在絶賛スランプ中の女流作家デルフィーヌをエマニュエル・セニエが。デルフィーヌに近づく謎に満ちた女性エルをエヴァ・グリーンが演じた。

 

人気女流作家デルフィーヌ。自身の母親を題材にした私小説にて有名になった彼女。「大感動」「勇気付けられた」「これは私に向けられた物語」読者からの絶賛の嵐。

しかしその反面「実の母親を食い物にして」と揶揄、中傷される事もある。というのも、小説の内容は精神を病み、最後には自身で命を絶った母親との生活を赤裸々に描いた告白本だったから。

件の本をきっかけに有名になったデルフィーヌであったが。それから数年。現在は絶賛スランプ中で、ひたすら『資料集め』『準備中』の日々。

子供達は独立し。恋人も居るけれど、互いの生活を尊重し別々に住居を構え。一見不満はないけれど…兎に角書けない。全く書けない。そんな状態にジレンマを抱え、そして疲れ果てていた。そんな時。

とあるサイン会で。出会った美女。その後出版社の内輪なパーティーで再会した彼女はエルと名乗り。

デルフィーヌの熱狂的なファンだというエル。エルの魅惑的な風貌。そして会話してみて分かった、引き出しの多さ、聡明さ。すっかりエルに惹かれていくデルフィーヌ。

 

「このエヴァ・グリーン配置。大成功。アン・ハサウェイ系目と口が大きい女性が見せる百面相。THE ナイス サイコパス。そしてくたびれ女流作家がぴったりのエマニュエル・セニエ。ナイスキャスティング。」

 

加えて脚本が『アクトレス~女たちの舞台~』のオリヴィエ・アサイヤス監督とポランスキー監督との合同執筆。そりゃあ、女同士のひりひりしたいやらしさ、体現出来ますよ。

 

件の告白本から、(恐らく身内と思われる)不明人物から執拗に送られる嫌がらせの手紙。それもまたデルフィーヌの精神的負担となっていた。

 

そんな、兎に角お疲れのデルフィーヌにごくごく自然に。しかしゆっくりと忍び寄るエル。デルフィーヌの悩みを聞いて。献身的に支えになって。すっかりエルに心を許すデルフィーヌ。遂に二人は共同生活を送る事になる。

 

「一体エルはどういう人物なのか。どうしてデルフィーヌに近づいたのか。その目的は?」

 

順を追ってネタバレしていくのもアレなんで。私的な感想を書いていきますが。

 

映画部長と当方の。当方が属するたった二人の映画部で。「当方の得意なジャンルは変態映画です」と公表している当方。これは何だか…そんな予感がするなと思って鑑賞に向かったのですが。

 

「ややこしい考えに囚われていたんやなあ。」自身に溜息が出た当方。

と言うのも、当方の予想ではもっとえげつない事になると思っていたから。

 

スランプに陥り、お疲れの中年女性作家。そこに現れた、怪しい魅力に溢れた若い美女。

自称ゴーストライター。何だか文筆業ではあるようだけれど。結局何をしている人物なのか分からない。そいえば後からよく考えたら、彼女の言動も行動も何一つ信ぴょう性は無くて。でも…そんな事思いもよらなかった。だってエルと一緒に居ると楽しいから。安心出来たから。

 

「何故楽しいんですか?何故安心出来るんですか?」

 

夢の大先生。自分の書いたモノが売れて、世間から評価された。けれど…皆が皆好意的な感想を寄越す訳じゃ無い。(それはどんな作品でもそうでしょうが)

そして今。自分は何一つ書けない。月日が経つにつれ、焦り、そして疲労していく。

子供も近くに居ない。恋人もいつも一緒に居る訳じゃない。友達だって煩わしい時がある。誰にも話せない。自分のこの燻った感情を。

そんな時。エルが現れた。丁度自分の話を聞いてくれて。そして存分に甘やかしてくれる相手が。けれど。

 

「貴方は兎に角書いてくれたらいいの。」次第に言動や行動に異常性を見せ始めるエル。不意に現れる凶暴性。ヒステリックにモノに当たる姿。初めこそ親切に見えた行動が、デルフィーヌを社会から隔離している様にしか見えなくなっていって。

出会った頃見せていたのと同じ表情が。時が経つにつれ、何だか常軌を逸したモノに見えてくるエル。

 

…っていうエルの豹変、分かりやすく描き過ぎかなあと。もっと真綿で首を絞めるごとく、じわじわ見せていってはどうなんですかね?そしてぶっちゃけ「エロく出来たんじゃないの?」そう思う当方。

「だって。あんなにエロいエヴァ・グリーンを配置しているんなら。恋人は居るけれど孤独を感じている中年女性作家に、微妙なエロさも匂わせながら近づいてもいいんじゃないのかね?そして『こんなくたびれた私が…好きなの?エル』と困惑させてもいいんじゃないのかね?」「彼女がみせる執着は…私の作品に?それとも私自身?」とか。

 

実際の作品では中盤位から、エルのサイコパスっぷりは露呈し始めて。デルフィーヌはそこにちょいちょい気付きながらも「エルの事、面白いから小説にするわ!」とのんきにくっ付いている。そして案の定怒涛の畳みかけの結末。

 

「一体エルはどういう人物なのか。どうしてデルフィーヌに近づいたのか。その目的は?」

 

一応それらしい回答は見せていましたし、「げに恐ろしき熱狂的ファンのお話」とも取れなくもないのですが。

 

「結果的に出た本。これは誰が書いた本なのか」

「これはデルフィーヌが書いた本なのか。ゴーストライターエルが書いた本なのか。」

 

そして全てが終ろうとしている中。ふと思い立ち、問い続ける当方。

物語が入れ子になっているのではないかと。

 

この物語を書いたのは誰だ。これはデルフィーヌが書いたノンフィクションなのか。エルが書いたフィクションなのか。果たしてデルフィーヌは存在したのか。

 

そう考えると物語の見方はガラッと変わる。なかなか面白い…(けれど描写はちょっと物足りない。)不思議な作品でした。