ワタナベ星人の独語時間

所詮は戯言です。

映画部活動報告「怪物はささやく」

怪物はささやく」観ました。
f:id:watanabeseijin:20170612214734j:image

アメリカ=スペイン製作。同名小説(児童文学)の映画化。J・A・バヨナ監督作品。

「何か微妙な感じのポスター。でも気になる。何しろ『パンズ・ラビリンズチーム』製作作品」
f:id:watanabeseijin:20170612232503j:image

もう多分、これまでのギレルモ・デル・トロ監督作品のマイベストだと言っても過言ではない、当方お気に入りのダークファンタジー。

(映画部部長が『パシフィック・リム』を熱く熱く語っていた時も、やんわりとその旨は伝えました)
f:id:watanabeseijin:20170612232530j:image

あの。独特過ぎる、可愛らしさの欠片もないキャラクター達。一見美しくて。でも全く救い様の無い作品。こういうの、実は好きなんですよ。

 

「まあ、そういう感じなのかなあ~」なんて。原作未読。あんまり予習すること無く、気楽に映画館に向かった訳ですが。

 

「何やこれ。思っていたより緻密やし、じわじわ締め付けられる」

一言で言うと、ええ話やったんですよ。

 

12時07分にそれは起こる。悪夢も。不思議な怪物の登場も。
f:id:watanabeseijin:20170612233019j:image

13歳の少年、コナー。両親は離婚し母親と二人暮らし。でも。

進行性の病に侵された母親。もう終末期で、正直軽快する見込みは無い。

内気で。絵を描く事が大好きで夢見がちなコナーは学校でも同級生達にいじめられ。

ある日。母方の祖母が家に乗り込んできて「コナーは別れた夫に預けて治療に専念しろ」と言ってくる。反発する母親とコナー。しかしそんな中で母親の容態は悪化。入院する事になってしまう。

何もかもが手詰まり。そんな夜。12時07分。突然の衝撃。

家の自室窓から見えている、丘の上にそびえるイチイの巨木。それが突如手足が生えた怪物のビジュアルでコナーの元へと歩いてくる。

驚くコナーに「これから3つの真実の話をする。俺が話し終わったらお前が4つ目の話をしろ」一方的な宣告。そして夜な夜な怪物の話が始まった。

 

まず、この主人公コナー役のルイス・マクドゥ―ガル。
f:id:watanabeseijin:20170612232652j:image
この役が彼で無かったら…たらればなんで分からないですが…成立しなかったんじゃないか。そう思う当方。

「13歳にしては、ちょっと周りと比べたら幼い感じ。背丈が小さいのもあるんやろうけれども。誰よりもお母さんが好きで、この状況に胸を痛めている。くすぶっている。でも。それを吐き出せない」
f:id:watanabeseijin:20170612232715j:image

目力が半端ない。一見弱弱しいけれど、コナーはその目で強く相手を見てしまう。どこか納得していない、反発した視線。だからこそ。それに腹を立てる者も居る。文句があるなら。何かあるなら言えよという表情。

「いい子ちゃんが」と同級生に絡まれるコナー。でも。コナーは黙って殴られる。それは何故か。

 

怪物が話す話。それは大きな木である彼が、これまで見てきた話。

 

「一見良い人物に見える者は、果たしてその通りなのか。人を見かけで判断していないか」「身を切るような決断をしてでも、信念を投げ出してはいけない」「嫌な奴ではあるけれど、彼の言っている事は正しい」「透明人間が透明人間で無くなる時」

 

寧ろ捻りが一切ない、清々しい位にコナーの現状とマッチした内容。

 

「それにしても、この画の美しさよ」

怪物の話すパート。アニメーションなんですが。それがもう、水彩画ベース?という美しさ。そのコロコロ動く様も独特のセンスで。これは面白い。

 

ただでさえ色んな所から追い詰められた日々で。気の合わない祖母。母親と引き離されるんじゃないかと思うと憎らしくて。父親は悪い人では無いけれど、彼との関係の中に自分の居場所は見つからない。そんな中で。刻一刻と母親は終末に向かっている。

 

夕暮れの中で。母親がコナーに言った言葉「今こうやって言葉が出ない位の怒りに包まれている事を。決して後で気に病まないで(言い回しうろ覚え)」当方の涙腺決壊。

 

この状況を。病に倒れて。愛する息子と別れる日が近い事を。誰よりも彼女が一番悔しい、無念だと思っているはずなのに。

 

実際に体は苦しいし、辛いし。何故こんな事になったのか、何か手立てはないのか。希望は無いのか。そんな段階を経ていく中でも、自分よりも、息子を気遣う。

何故なら彼女は母親だから。息子に伝えたい。今のあなたで良いんだと。でも無理をするなと。

 叫びたい時は思いっきり叫べばいい。かくあるべきと決めつけて、無理に自分を当て嵌めなくていい。あなたは何も悪くない。

 

3つの話を聞いて。4つ目。コナーの見ている悪夢の全貌が明かされた時。
f:id:watanabeseijin:20170612233354j:image

 

「そりゃあそうやで…でもそう思うのは真っ当やと思う。悪い事じゃない。そんなに自分を追い詰めなくていいよ」呟く当方。

 

そう言えば、コナーは何かと「罰は?」と聞いてきた。でもそれは違う。

 

一見良いとされる事。悪い考え方。こんな事を思うのはいけない事なんじゃないか。常に気持ちを張りつめて。でもそんなの…疲れてしまう。

 

嫌いだと突っぱねてきた祖母との、線路前でのやり取り。彼女が悪い人じゃない事も、わざと嫌な事を言ってきたんじゃない事も。勿論分かっていた。分かっていた。

だって彼女と自分は「母親」で繋がっているから。

 

最後の最後。この「怪物」の正体が。

これらは一体、誰から誰に向けた話であったのか。それが明らかになった時。

 

改めて世界が広がって。そしてそれが明るい光に包まれていたことで。

当方はとても救われた気持ちになりました。

f:id:watanabeseijin:20170612233430j:image