ワタナベ星人の独語時間

所詮は戯言です。

映画部活動報告「ファントム・スレッド」

ファントム・スレッド」観ました。
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イギリスの大御所俳優、ダニエル・デイ=ルイスの引退作品。

ポール・トーマス・アンダーソン監督。

 

1950年。ロンドン。オートクチュール専門の仕立て屋、レイノルズ(ダニエル・デイ=ルイス)。

彼の作るドレスには数多の貴婦人が夢中。顧客は金持ちだけではなく、皇室の王女なども名を連ねていた。

ある日、レイノルズはカフェで働くウエイトレス、アルマ(ヴィッキー・クリープス)と出会う。若くて田舎者のアルマ。しかし彼女はレイノルズの求める完璧な体を有していた。

アルマをミューズとして迎え。精力的に作品制作に打ち込むレイノルズ。

始めこそレイノルズに付いてきて楽しんでいたアルマであったが。次第に、レイノルズから散々否定され彼の世界に踏み込めない事に不満を覚えはじめ。

 

「また一つ。村が死んだ。」(風の谷のナウシカの冒頭シーンより)

 

Mr.エレガントの篭絡。

砂漠で。指の間から零れ落ちる砂を眺めた後、膝を折って崩れる当方。「レイノルズよ…。」なんて有り様だよと。

(今回、比喩表現が過剰に盛り込まれます。ご注意下さい)

 

主人公レイノルズ。初老。姉のシリル(レスリー・マンヴェル)と二人でオートクチュール専門の仕立て屋を営み。彼のエレガントな作品は富裕層のご婦人の憧れ。彼女達はこぞってレイノルズのドレスを纏った。

 

「でもまあレイノルズ。かなり神経質で気難しい。」

朝は静かに始まって欲しい。ちょっとした物音、まして無駄な会話なんてもってのほか。製作中は絶対に邪魔をしない。バターは大嫌い。アスパラにはオリーブ油と塩しか使うな。その他変わった事はするな。いつも通りが一番。少しでもイレギュラーな事があればその日は一日機嫌が悪い。

 

そんな性格が災いして。例え恋人が出来たとしても「私を見ていない」と悲観され。そうなると面倒だと直ぐに切ってきた。

 

レイノルズの姉、シリル。そんな弟とずっと二人三脚でやってきた。弟の事は何でも分かっている。弟の理解者は私だけ。

「私に口では勝てないくせに」「弟はそういう人よ」「あの娘、もう駄目ね」

 

レイノルズに見初められてやって来たアルマ。元々カフェのウエイトレスで、華やかな世界とは無縁。けれど。彼女はただの無邪気な田舎者では無かった。

 

朝食。ガチャガチャ音を立てて食事をしてレイノルズに怒られ(あれは大抵の人が怒ると思いますが)。仕事のブレイクにとお茶を持っていって怒鳴られ。

挙句「サプライズがしたいの」とシリルに相談。「その日は誕生日じゃないって」「絶対怒るって」と制止するのも構わず、強引にシリルを追い出して、サプライズパーティー。しかもレイノルズの大嫌いなバターを使った料理。

 

「嫌いやわああああ。アルマ。」全当方が絶叫。

他人との距離感が合わない。自分の中で決めたルールが幾つもあって、そこには誰にも踏み込まれたくないのに。ガンガン踏み込んでくるアルマ。

 

「いいか。私は嫌いなモノを美味しそうに食べる演技が出来る。」案の定、震えながら激怒りのレイノルズ。そりゃあそうでしょうよ。なのに。

 

「私はいつも待っているだけ?私は貴方と一緒になれないの?(苛々しすぎて言い回しうろ覚え)」泣きながらナプキン振り回して騒ぐアルマ。

 

「うぜええええええええ。」(全当方が絶叫)

 

当方のスタンスは、(こんな神経質ではありませんが)レイノルズ派。自分の世界ががっつりあって、いかに大切に想う相手であろうがそのパーソナルスペースには踏み込んで欲しくない。けれど。

 

…話が唐突に脱線しますが。昔、後輩で「中学生の時の初恋の相手と両想いになって。今でもずっとその彼氏と付き合っている」という女子が居ました。

彼女はそのままその彼氏と結婚。現在二人の子供の母親ですが。確か昔(その時点で十年は付き合っている)「彼氏とは四畳一間みたいな所で二人っきりでも全然辛く無い。彼とはもう家族同然で空気みたいなもの。寧ろ離れている方が不安。」みたいな事を言っていて。

「当方は絶対に無理。どんなに大好きで家族同然で空気みたいだと思ったとしても、距離が取れないと発狂する。」真顔で震えた…何故かこのエピソードを鮮明に思い出した当方。

 

アルマがベタベタを望んだとは思いませんが。兎に角レイノルズの取りたい距離感とアルマのそれは違った。

 

「いや、違う。本当は一緒なんやな。けれど認めたくない。だってそれは負けやから。負けたくない。なのに…気持ちを緩めたらどこまでも堕ちてしまう。それを恐れたから、レイノルズは足掻いたんやな。でも…負ける気持ちよさ、そんな予感。」

 

つまりはまあ、はっきり言うと『恋する者同士のマウントの取り合い』という話なんですよ。

 

Mr.エレガントとして。自身を律して数多の作品を産み出してきた。そうして作り上げてきた世界。プライド。それが目の前の若い女に屈してしまう。ねじ伏せられる。

だって結局彼女が好きだから。

 

「多く愛した者の負けなのです。」

紫式部著『源氏物語』。六条御息所

終身プレーボーイ光源氏。まだ彼が若かった時の年上の彼女、六条御息所(当方が一番好きなキャラクター)。始めこそ「若造が」と高をくくっていたけれど。次第に己の恋心が抑えきれなくなって。嫉妬の果て生霊になってしまう、そんな一心不乱に恋してしまう彼女の堪らん言葉。

 

「彼女はここにはふさわしくない。彼女が居ると仕事にならない。」そう言って震える弟の姿を見る、姉のシリル。彼女もまた、その時アルマに負けた。

 

ところで。2018年の上半期時点で『キノコ映画』を二本も観てしまうなんて。(『ビガイルド 欲望のめざめ』)結構こういう時にホットなアイテムなんですね。キノコって。

(当方がレイノルズの立場で実態を知ったら…どうしてやりましょうかね。少なくとも当方に被虐性に伴う性的興奮という性癖は無いみたいなんですが)

 

「また一つ。村が死んだ。」

 

Mr.エレガントの終焉。一見終始見目麗しい絵面と音楽に彩られながら。

随分と泥臭いマウント合戦とその顛末を見せられた。そんな作品でした。

映画部活動報告「ゲティ家の身代金」

ゲティ家の身代金」観ました。
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1973年。イタリア、ローマで発生した実在の誘拐事件。

当時世界一と評された石油王、ジャン・ポール・ゲティ。彼の孫、ジョン・ポール・ゲティ三世が1973年7月に誘拐された。身代金要求は1700万ドル(約50億円)。発生当初はジョン自身も絡んだいたずらかとも思われたが、誘拐は事実であり。少しずつ身代金の減額に成功するも交渉は難航。

同年11月には新聞社にジョンのもの思われる、切断された耳の一部が送りつけられる。「後10日しか待たない。それ以上支払いを渋る様ならば、もう片方の耳や他の体の一部を送る。」

事件発生当初から。一貫して息子を守るべく立ち向かい続けたジョンの母、アビゲイル・ハリス。

しかし、彼女が戦っていたのは犯人グループだけでは無い。残る相手は「身代金は払わん」と、大富豪でありながら頑として支払いを拒否した石油王であった。

 

『エイリアン』『ブレイドランナー』その他多くの名作を産み出し続ける大御所、リドリー・スコット監督80歳の。キレッキレのクライム・サスペンス作品。

 

「石油王を演じたケヴィン・スぺイシーの例の案件に依る、劇場公開直前の降板。誰もがお蔵入りを覚悟した中、急きょクリストファー・プラマーで撮り直し。三週間後の公開に間に合わせた。」そして公開後複数の映画賞にノミネートされるなど、高く評価されている。そんな話題作。

 

「正直当たりはずれがあるリドスコ監督やけれど。これは流石としか言えない。緊張感に終始包まれ。構成と絵面の見せ方の妙よ!」

 

「やっぱり急きょ代役を引き受けたクリストファー・ブラマの貫禄!いやいや寧ろ彼が石油王でドンピシャやろう!」
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「去年の『マンチェスタ・バイ・ザ・シー』。最近の『グレイスト・ショーマン』の記憶も新しい、ミシェル・ウィリアムズ。キュートな顔立ちの彼女が最近見せる『母』の演技。」
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「最近何かとスペシャリスト役を演じるマーク・ウォールバーグ。今回は交渉人。」

 

そんなお決まりの感想。もう既に色んな所で見かけましたし、かと言って当方も人の子、結局同じようなポイントしか触れることは出来ず。

つらつら書いてなぞるのもアレなんで。さっくり二つに絞って。こじんまりと収めたいと思います。

 

『イタリアンマフィアの末端、チンクアンタのリマ症候群っぷり』
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誘拐や監禁など、極限状態に陥った犯罪被害者が加害者との間に心理的なつながりを築く事をストックホルム症候群(心的外傷ストレス障害)とすると、対になるのがリマ症候群。加害者が被害者に対して親近感を持ち、攻撃的態度が和らぐ現象の事。

ウィキペディア先生より抜粋、当方意訳)

 

誘拐当時16歳だったジョン。あどけなさも残る顔立ち。どこにでもいる、マセた不良。けれど彼は狙われた。世界一の大富豪の孫だから。彼はどこにでもいる16歳では無い。まさに歩く身代金(おぼっちゃまくん)。

資産50億ドル(約1、4兆円)とされる石油王ならば。孫に課せられた1700万ドル(約50億円)なんてはした金だろうと。孫の命が掛かっているのならば払うだろうと。強気で提示したのに。まさかの支払い拒否。

直接石油王とアポは取れない。あくまでも交渉の窓口はジョンの母親アビゲイル。しかし彼女は「お金が無い」の一点張り。

「お前の家族はどうなっているんだ」(実はびんぼっちゃまくんか)

もし我が子や家族がさらわれたとしたら。俺なら何をしてでも救ってみせる。金なんてどこからかかき集めてやる。なのになんだ。お前の家族は。血の通った人間か。お前、愛されていないのか。

加えて、犯行グループ内での焦燥感。苛立ち。こんな誘拐劇、もっと早くケリがつくはずじゃなかったのか。そして決裂。

誘拐当初の犯行グループの壊滅。しかしジョンは解放されず。より大きな組織に売られてしまう。そこでも「俺の言う事なら聞く」と世話役を買って出たチンクアンタ。

母親に何度も電話して。値段交渉を行いながらも「早くしてくれ!ジョンの命が危ういだろうが!」ヤキモキ。

 

「でもね。あんた、犯人やからね。そこ。忘れんな。」真顔の当方。

 

「うん。リマ症候群として仕上がっていくのも、最後の下りも良かったけれど。あんたやっぱり犯人やからね。」「そこ。忘れんな。」

 

もう一つは…やっぱり「ケチってアカンわあああ~」

 

「どんだけ金があろうとも。あの世には一銭も持って行けないんやで」「死ぬときは裸だ」地団駄踏むけれど。

世界一の大富豪が。まさかのドケチ。「俺は身代金など払わんぞ!」の一点張り。

「今回金を払ったら、他の14人の孫達も狙われる」なんて。もっともらしい事を言ってましたけれど。結局は何故俺の金をドブに捨てないといかんのだという不快感。

確かに、ジョンの両親は離婚。母親アビゲイルに親権があるジョンは戸籍上は他人。

けれど石油王の孫であるからこそジョンは誘拐された訳で。大金であろうが、血の繋がった孫に変わりは無い。だから金を出すと誰もが思っていた。石油王以外は。

 

「また腹が立つ事に。趣味の絵画や骨とう品収集には湯水の様に金を払うという…」身代金支払いを拒否するのと同時進行に。古い絵画にはポンと出費。憎たらしい。

 

「よくこんな状況に対応し続けたな…当方があの母親の立場なら、自我が崩壊するか石油王を殺しに行くよ。」

誘拐犯と石油王。ダブル交渉の日々。ジョンを保護したのが同年12月であったことを思うと約半年の攻防戦。

 

「そして当方の妹が必ず言う言葉。『こんな奴。畳の上では死なれへんで』ピタリ案件。」

 

ところで。これが実際に起きた誘拐事件であるとなると。やはり鑑賞後調べてしまいましたが。
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「そうか。ジョン…以降は薬物&アルコール依存症で20代に肝不全と脳梗塞発症…失明し寝たきり…廃人として54歳で死亡。母親アビゲイルに看取られて…。」沈む当方。

 

エンターテイメントクライム・サスペンスとして超一級ではありましたが。「事実は小説よりも~」の現実を知って。

後から何だか胸が重たくなりました。

 

映画部活動報告「友罪」

友罪」観ました。
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薬丸岳の同名小説を。『64 ロクヨン』の瀬々敬久監督で映画化。

 

ジャーナリストの夢を諦め、とある町工場で見習いとして働き始めた益田(生田斗真)。同じ日から働きだした鈴木(瑛太)。

街工場の持つ寮に揃って入寮。隣同士の部屋になったけれど。誰とも関わろうとはしない鈴木。

毎日皆が寝静まった頃帰ってきて、そして毎夜うなされている。

何を考えているのか分からない。一体鈴木は何者なのか。

前後して。工場の近くで、小学生男子の滅多刺しにされた死体が発見される。

 

益田と鈴木を主軸として。次第に鈴木と恋仲になっていく美代子(夏帆)。益田の元彼女で雑誌記者を山本美月。そして鈴木がかつて在籍した医療少年院の先生を富田靖子

タクシードライバー佐藤浩市が演じた。

 

「いや…これ。話詰め込み過ぎなんちゃうの。」

 

いきなり結論を出してしまいますが。どうしても言わざるを得ない。散漫だと。

 

「益田と鈴木の主軸のみで十分やろう。富田靖子佐藤浩市のパート、ばっさり切っていいんちゃうの。」

 

~一体鈴木は何者なのか。って。予告と宣伝から既に『鈴木が17年前に14歳で殺人事件を犯した元少年だった』と公表しているので。

「猟奇殺人を犯した人間の今」「加害者とその家族の一生涯抱えていかなければいけない罪」「一家離散」「人は犯罪者に対してどういう印象を持つのか」「大人は助けてくれない」そういう…聞いた事あるなあ~という内容のオンパレード。

 

なので。「かつて罪を犯した人間は幸せになってはいけないの」「人様の家族を壊したお前が家族を作ろうとするな」「あんた。謝る事に慣れてるんだよ」お決まりのセリフ山積。

 

文句ばかりが先行しましたが。一応話の流れとして。

工場付近で起きた児童殺傷事件。犯人不明の中、ふとネットで沸き上がった『元少年の仕業じゃないの』『あいつ、最近まで働いていた工場辞めて行方分からねえぞ』という無責任な発言。それを知った雑誌記者が元彼の益田に相談(何で?あんたの仕事守秘義務とか無いの?コンプライアンスは??)。

慣れない生活で疲労しながらも、益田も何となく調べたら(しかもウィキペディアレベル)元少年はまさかのお隣さん、鈴木であったと。

鈴木という人物。確かに得体は知れないし、初めは不気味だった。けれど。

一緒に働いて。暮らしていくうちに、次第に打ち解けてくれる部分もあって。優しい一面や笑う顔も見た。俺たちは友達。なのに。

 

「ていう所メインでええやないかあああ~」

 

「少女漫画ですか?『天使なんかじゃない』??」ベタ中のベタ、捨て猫云々からの(いやいや、そういやDVストーカー男からやった)鈴木と美代子の恋。

美代子に関しては「警察に相談しろ。そいつのやっている事は犯罪だ」と真顔で言うしかない当方。

まあ。アダルトチルドレン鈴木と、美代子と、「その引きずり方は夏目漱石の『こころ』の先生っぽ過ぎる。Kしかり、その親友しかり、なんて当てつけがましい死に方をするんだ」中学生時代の罪に悩まされ続ける益田。その3人の心情を丁寧に掘り下げていけばよかったんですよ。

 

医療少年院の先生。彼らと関わって。彼らには闇もあるけれど甘えたい所もある。そういう視点でのみ描けばいいのに。先生と娘の話は何処か他所でやってくれ。

そして何より蛇足だったタクシードライバー。『加害者家族』って、てっきり鈴木の父親かと思うじゃないですか。それが全然違うって。

 

「またねえ。これ、役者は軒並み良い演技をしているんですよ」(何様)

 

佐藤浩市富田靖子は当然。益田の中学時代の親友の母親、坂井真紀とか。脇役も渡辺真紀子。光石研宇野祥平等、早々たるメンバーが全力投球。

 

「弁当の美味しそうな奴全部乗せ状態。結局何食べてるんだか分からなくなっちゃうんよな。」

 

そして。主演の生田斗真瑛太

瑛太の演技プラン…確かに凄かったけれど…わざとらしいと言えばそうも見えてしまって…」もごもごする当方。「あの。いっそ生田斗真瑛太、逆にしてみても良かったんじゃない?」

『脳男』で心の無いキャラクターを演じていた生田斗真。意外とこういう役嵌りそうな気がするんやけれど。

 

「そして監督よ。女優を綺麗に撮る気無いやろう」

富田靖子。坂井真紀。渡辺真紀子。ベテラン手練れ女優達の「(本当にすみません)老けたなあ~」という映り方。

「しかしそこで唯一驚異的な透明感を見せた夏帆!一体今幾つだよ!何あのイノセント感‼」どんなに汚れてみせたって。絶対に汚れない。却って恐ろしい…。

 

結局。「何がジャーナリズムだ」というゲス展開に依って二人の友情は破られ。けれど俺たちはまた出会う。という終焉。

 

「うわああ。全然しっくりこない」

元少年犯罪者。ひっそりと生きていたはずの彼と俺はたまたま出会ってしまった。始めは何も知らなくて。けれど次第に打ちとけあって。「大切な事」も話せそうな信頼関係も構築されてきた。なのに。そこで知ってしまった彼の罪。けれど。「あいつは怪物じゃない」。だって彼はこの歳で出来た友達。不器用な友達。

彼だけが罪を負っているんじゃない。俺だって人には言えなかった罪がある。

 

順を追って振り返れば、そういう話であったとは理解しているんですがね。何だか平行事案が多すぎて。

 

「何か惜しい。」確かに満腹にはなりましたが。全部乗せ弁当感が半端なかったです。

 

映画部活動報告「29歳問題」

29歳問題」観ました。
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香港。2005年初演。キーレン・パン作、演出、主演(一人二役)舞台『29+1』。

その後13年に渡って再演され続けている作品を。彼女自身が脚色、監督。

キャリアウーマンのクリスティと、夢見がちなティンロ。

2005年4月3日に。同じく30歳を迎える29歳の女性の一か月を描いた。

 

2005年3月。29歳のクリスティ。美容系の会社でバリバリ仕事をこなし。長年の恋人も居て。一見充実した勝ち組キャリアウーマン。

仕事ぶりを認められ、まさかの会社を任せられるという大抜擢。舞い上がるけれど。

昇進した事での仕事量の多さと責任の重さに精神は追い詰められ。

恋人とはすれ違い。言い合いの日々。遂には「俺が2週間出張の間、互いに頭を冷やそう」と距離を取られ。

離れて暮らす両親。父親の認知症が進行している事は気にはなるけれど。忙しい最中、お構いなしに電話をしてくる父親には苛々してしまう。

そんな中。一人で暮らしていたマンションを「良い値段で買ってくれる人が見つかったから」と大家に無理やり追い出され。

途方に暮れる中。大家が「次の家が決まるまでの仮住まい」として紹介してくれたアパート。

元々の住人は現在旅行中で、空いている間ここを貸してくれると。

実際に引っ越してみて、住人が生年月日が全く同じ女性である事を知ったクリスティ。

「こんにちは。私はティンロ」

笑顔がチャーミングなティンロからのビデオメッセージ。タワレコ&雑貨屋みたいな小物で溢れた部屋と、残されたティンロの日記。

 

「29歳かあ…」

 

はっきり言って29歳はとっくに過ぎて。寧ろ『39歳問題』の方に足を突っ込みつつある当方。正直「29歳の時ってどう思っていた?」というと思い出せず。

 

「20代という年代がふわふわしすぎて。結局若造やし。いっそ早く30代になりたいと思っていた気がする。」

「20代で結婚!」「子供!」という縛りも当方に無く。それは今でもそう。ですが。

 

確かにかつて「もう30になってしまう‼」と焦っていた学生時代の友人(女性)が居ました。

「女に生まれたからには子供を産みたい」「この人とは進展しそうにないから次だ次」その猪突猛進振りに次第に当方とは距離が離れていきましたが。『女30』というパワーワードはこうも人を変える力があるのだと強く実感。

 

「でもあれですな。生き方って正解は無いしな。」ぼんやり呟く当方。

 

いつだって一生懸命。向上心に溢れ。仕事はきちんと。日々のスケジュールをこなし。

アフターファイブは女子会、恋人との時間。見た目もいつも綺麗に。手を抜かない。

今は結婚する時じゃない。だらしないところのある恋人との生活なんて考えられない。

憧れの女社長。一代でこの会社を立ち上げ、大きくした。そんな社長に認められた。「この会社を大きくするために私は新天地を開拓するから、今の会社は貴方に任せる。」嬉しくて。

けれど。一気にのしかかる重圧。迫りくる企画。なのに上手くいかない。不安と苛立ち。

上手くいかない。これまでの様に上手く立ち回れない。

その苛立ちは恋人にも向けられ。喧嘩。挙句距離を置く事に。

しかも邪険にしていた父親に新しい局面が起きた。
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「いくら何でも。たった一か月で問題が起き過ぎやろう。」険しい顔の当方。

 

「水を差して申し訳無いんですが…。一か月かそこらで、昇進。住宅の退去。仕事の暗礁。恋人との別れ。親との別れ。仕事との離別って…詰め込み過ぎやろう。」

 

年代的に起きそうな事柄をてんこ盛りに盛り込んで。どれにも漏れなくオチを付けて。確かに幾つかは切なくツンときましたが。…きましたが。

 

「あの女社長は全然凄腕じゃないな」「元々クリスティがどういうポジションだったのか分からないけれど、いきなり支部長?的なポジションに抜擢って。無茶過ぎるしせめてサポートを付けてやれよ。あんたの会社はあれか。あんた(社長)以外は管理職不在で、他は20~30歳代の若者でワイワイやっている部活か。会社潰れるぞ。」「案の定一人できりきり舞い。」「そんな大役を貰って、たった一つのプロジェクトで傷付いて。一か月で降りるって。ある意味クリスティ潰しやないか。それで去るときにはああいう声掛けって。納得出来るか。」「後進育成の出来ないワンマンカリスマ経営者。」「そして一体どういう衣装をモデルに着せるつもりやったんやろう。」

主にクリスティの仕事について。リアリティが無さ過ぎて…モヤモヤし続けた当方。

「その会社。変すぎるから。辞めて正解。」

 

いつだって一生懸命に頑張ってきた。なのに。グイグイと袋小路に追い詰められる。

仕事。恋人。家族。どれもこれも歯車が狂いだして。

 

「まあでも。ティンロパートの圧倒的ポジティブ感と、それが一転する切なさ。そして疾走感。」

 

クリスティが仮住まいする事になったアパートの住人。ティンロ。『ジェーン・ス―』さんにしか見えないビジュアルの彼女の天真爛漫さ。

小さなレコード店に勤めて10年。底抜けに明るい性格。いつだって笑顔。コロコロ笑って。幼馴染の男友達といつも一緒につるんで。遊んで。
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そんな日々が続くと思っていた。

 

今は憧れのパリに旅行中。そんなティンロのはじける様な日記を読んで。同い年の彼女に思いを馳せるクリスティ。

 

愛嬌はあるけれど。お金がある訳じゃない。幼馴染だって恋人では無い。なのに。

ティンロの住んでいたこの部屋。ビデオレター。そして日記。溢れんばかりの多幸感。

どうして?どうしてそんなに楽しそうなの?どうして笑っていられるの?

何処で私は間違ったの?ねえティンロ。貴方は私みたいに一人でやるせない気持ちになった事がある?泣くクリスティ。

 

「そうか。そうかティンロ…。」

(その落としどころに、正直モヤモヤともしましたが。)

 

「兎に角笑えれば」

いつだってポジティブに。そうやって生きてきた。けれど。人生に有限を感じた時、目の前の景色は全く変わった。

年齢は関係ない。今。今を悔いなく生きる。自分を大切にする。見たいものは今見に行く。やりたいことは今する。今すぐ。

誰かと自分を比べない。いつだって変われる。でもそれなら今。今すぐ変わる。

 

(後ねえ。あの夕日の中の。幼馴染とのモダモダしたやり取り。全当方が悶死。「頼む!もうヤッテくれ!」そしてあの年齢でそのステージはシビア過ぎるし…女性にとって後のボディイメージの変化は許容しがたいと思うし。それこそ今だよ今‼)

 

29歳問題』そのタイトルから想像するような「焦った女性のドタバタコメディ」なんかとは全く違う方向性。途中訝しく思う所もありましたが…非常に爽やかに着地した作品。

 

「これ。29歳の時に観たらどう思ったやろう。」

そう思って今、ふと身近(職場後輩)に29歳の女性が居た事を思い出した当方。

ちょっと薦めてみたいと思います。

 

映画部活動報告「ランペイジ 巨獣大乱闘」

ランペイジ 巨獣大乱闘」観ました。
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2018年5月18日金曜日。ランペイジ公開日。当方にとってのXデー(職場の歓迎会)。

昨今の酒呑みに対する社会からの圧力。及び自身が他人との酒宴よりも自宅の一人呑みに安住の地を見出しており。酒に酔って自身では制御出来ないキャラクター(狂人)が当方及び人様を傷付けるのでは無いかと恐れ。

そして何よりも、その日の会場が、昔盛大に酔ったという気恥ずかしさから4年程足を向けなかった居酒屋。そんな事今回の幹事が知る訳が無いけれど…怒りと不安で迎えたXデー。

「今日は巨大化した動物が街を襲う事態をこの目に収めなければいけないんです」当方の悲しすぎる攻防も『全員参加』というパワーハラスメントに押され。

結果。いつもの『メニュー表の上から順番に酒を頼む(そしてその日も下まで完了)』という下品なオーダーをかましながらも「ウォーター」を随所に折り込む事で、何とか正気を保った当方。

 

翌日。這う這うの体で『巨大化した動物が街を襲う事態』を目に収めましたが。

 

「平たく言うと…5月病…ですか?心が骨折…」GW以降、心が折られる事案が小さく積み重なり。最早当方の心は踏み慣らされた麦畑。そうして最終この宴。

何だか無気力。当然通常業務には一切支障はきたしませんが、帰宅後の自炊も粗野なテイストとなり。毎夜ゴロゴロと布団に慰められる日々。(当方を温かく包んでくれるのはお前(布団)だけだよ!)そうして自堕落に過ごした1週間。

 

「さ。もうええ加減感想文いきますか」(勇気を持って布団から退団)

 

いやあ~。これ。予告での期待値半端なかったんですけれどね~。はっきり言うとB級どんちゃん騒ぎ映画でしたね~。(本当にばっさり)

 

(結局何を売りにしている会社なのかのかよく分からなかったけれど)某大企業の『遺伝子操作をし、巨大&凶暴化した動物を軍事使用する』という目的で、宇宙で秘密裏に行われていた実験が失敗。宇宙ステーション及びサンプルを積んで地球に向かっていたロケットは爆破。

その破片が地球、北米の一部に落下。そのサンプルから出た物体を吸い込んだゴリラ、狼、ワニが巨大化&凶暴化してしまう。

荒れ狂い、誰彼ともなく襲い掛かり暴走する三頭。逃げ惑う人々。

某企業は当然秘密裏に巨獣の回収を試みる。と言うのも彼等には巨獣の凶暴化を止める薬剤があるから。(巨大化については手立て無し)

巨獣を確保し、当初の目的通り研究続行。そう目論んで。遺伝子操作の内容を周知している某企業は巨獣に組み込まれた習性を利用し本社におびき出す。

ただただ無作為に暴れていた三頭は見事、本社に向かい始める。しかしそこはシカゴのど真ん中。

人類(アメリカ人)にとっての有事が始まった。

 

「え?」何度でも何度でも何度でも立ち上がり呼びましたけれど。声が枯れるまで。

「この薬剤は一本一個体にしか効かないんですか?そして個体差(主に巨大化)が凄まじいんですけれど。」

ゴリラ:ジョージ 12m/9t。
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だれもそう呼んでいませんでいたけれど。狼:ラルフ 26m/13t。
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最早これ一体何だ。ワニ‼:リジ― 16m/150t。
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「狼も空を飛ぶよな」何だって⁈(当方の心の声)

いくら何でもあんなに噴煙立ち上る地上にそんなに長時間ワニは居れんやろう!!。

そして一番元々のサイズがでかいはずのゴリラが一番小さいって。何この薬。元々の母体のサイズに反比例するんですか??

 

「まあ…ゴリラのジョージは主人公オコイエ:元軍人で霊長類学者のお友達という設定やから。ある程度のサイズに留めておいたという事だと理解していますよ」オコイエ舐めのジョージ、という絵面を成立させるにはあのサイズが限界かと。弱弱しく呟く当方。

「だって。だって。職業に貴賤は無いけれど…あんまり軍人から霊長類学者って進路ない気がするし…って言うか、ドウェイン・ジョンソン(面倒なんでロック様称)のビジュアルが全然学者然としていないし…寧ろ彼もまたゴリラやし。」
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(手錠を引きちぎる強さよ‼)

先日公開された『ジュマンジ』の。早くも続編かな?そんなキメ顔満載のロック様。

 

元々動物保護センターに居たジョージ。ゴリラ故当然言葉は話せないけれど。知能の高い彼はオコイエと手話で会話。心が通じていた。

そんなジョージが巨大&凶暴化。「俺ならジョージを止められる!!」そうして彼らを追うオコイエ。

「私はかつてあの会社で働いていたの。そしてあの薬を開発した」とんだマッドサイエンスト、ケイト博士の登場。そしてオコイエと合流。

「お前はクズだ」何故そんな風に言われなければいけないのか。そう思うラッセル捜査官。結構まとも。

 

巨獣が街になだれ込んで。街を。人を。生活を破壊しまくる中。まともに対応しているのはその3人のみ。アメリカ、まさかの軍頼み。

 

「日本を見習え!!かつて怪獣に何度も領土を踏み荒らされたあの島国を‼国の有事と直ぐ様判断。国家を挙げて対策本部を設置する俊敏な対応力を‼」立ち上がる当方。(心の中で)

 

「アメリカンよ!!これは戦さやぞ!!『KAIJYUU いいなあ~。街をぶっ壊されたいな~』って思うのは自由やけれど、出したなら出したなりの収束の仕方を考えろ!!少なくとも奴らは軍の攻撃ごときではびくともしない!!犬死!!そんで元来その拮抗薬云々は笑止の案件な‼結局巨獣同士のバトルロワイヤルって!!当方がシカゴ市民ならどこか別の所でやってくれって言うよ!!後アメリカンお決まりの『件の最終兵器を落として事態を収束』って思考、原水爆禁止の思想の持ち主からしたら不快でしかないから!!あんた達、第二次世界大戦から何を学んだんだ!!」

おっと。怒りの方向が危険な方向に向かいましたが。

 

「いいんですよ。ただただ大きな獣が何かを破壊している絵面を観たいんですから。」

そうして穏やかに受け入られる人にはその広大な心の海で飲み込める作品。ですが、心が多重骨折しまくっていた当方は一々いちゃもんを付け続け。

 

「最後に言う。もし当方がシカゴ市民なら、あいつがどんなに良い奴になったと言われても殺処分を要求する。そして下品な手話(ジェスチャー)してんじゃねえ!」

 

1週間のリハビリ期を経てみると、一体何故そこまでカリカリしたのか分からなくなってきましたが。

何だかんだ結局、楽しく観たんやなあ~と振り返るばかりです。

 

映画部活動報告「孤狼の血」

孤狼の血」観ました。
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「これは『アウトレイジ』に対する東映の答えですね」ー古舘伊知郎

 

「最早現代の日本に『ノアール作品(暴力映画)』は存在しない」

当方の属する、たった二人の映画部で。時折語られる、『日本ノアール作品絶滅説』

深作欣二監督亡き後の継承者不在」「アウトレイジは『死に方大喜利』と化した」「園子温監督は?」「冷たい熱帯魚以降のマンネリ感」「敢えて言うなら井筒和幸監督かも…」そして「もうバイオレンス畑は韓国映画に持って行かれる」となっていた昨今。

「ああそうか。白石和彌監督!『日本で一番悪い奴ら』の‼」しかも会社は東映

これは期待できるかなと。胸を膨らませて公開翌日に観に行きました。

 

「冒頭の『東映』ロゴの古さ!ぐっとくるわああ~」まだ何も始まっていないのに。高まる当方。

 

東映』言わずと知れた、任侠映画の老舗。『網走番外地』『仁義なき戦い』『極道の妻たち』どのシリーズも最早伝説。

 

「けれど。これはあくまでも『呉原東署第二課暴力団係の刑事』が主人公。ヤクザの仁義がどうこうという話では無いんよな」

 

昭和63年。広島。架空の都市、呉原東。

広島大学を卒業したエリート、日岡秀一(松坂桃李)。広島県警から配属され、第二課暴力団係:マル暴のベテラン問題刑事大上省吾(役所広司)とコンビを組まされる。

大上。数多の功績を挙げながらも。その手段を選ばない犯罪すれすれな捜査手腕と、余りにも多くの情報を握っている事から、ヤクザも警察も一目置かざるを得ない刑事。

地元を取り仕切る尾谷組とズブズブの関係に見せながら。対立している加古村組にも多少話が出来る。

両者の組はかつて衝突。一般市民を多数巻き添えにした大抗争を起こし。余多の血が流れた挙げ句、加古村組の上層部ヤクザが刺殺され。抗争の結果尾谷組組長が逮捕された。

それから14年。尾谷組は若頭一ノ瀬守孝が取り仕切り。対する加古村組はバックに付く五十子会に守られながら。

両者は一触即発の日々を送っていた。

 

ある日。とある消費者ローンに努める会社員の男が行方不明になった。

数か月後。会社員の妹が呉原東署に捜索届けを提出。その消費者ローン会社が加古村・五十子会の傘下であった事から、ヤクザの仕業だと。大上・日岡は捜査に向かうが。

 

「どっちがヤクザか分かったもんじゃない」という強引スタイルで。ヤクザだろうが何だろうが踏み込んでいく大上。証拠を得る為には暴力、恐喝、放火。何でもあり。

そして「広大」と呼ばれながら。大上に付いていって。「ちょっと!大上さん!」「こんなの駄目ですって」一々正論を言うけれど。結局大上に押し切られる。そうして次第に『大上スタイル』に仕上がっていく日岡。(実は空手の達人)

 

ヤクザ映画あるある。組のメンツ。組の中のヒエラルキー。その誰に顔を立てなければいけない云々。「オヤジ」「お前うちのシマで何さらしとるんじゃ」「どの面下げてうちのシマ歩いとるんや」「お前らの組はお終いじゃ」「全面戦争やぞ」「おどれ。警察ちゃうんか」「警察じゃけえ。なにしてもええんじゃ」「おもろいこと言うちょるな」「今のうちが居るんはガミさんのお蔭じゃあ」「ガミさんが本当に大切にしちゅうは何か分かるか?」「カタギの人間守る為やったら何でもするわ。」「ガミさんにとっちゃあ、ヤクザは捨て駒じゃあ。」あるあるほっとワードのみで構成、展開される世界。

 

つまりはいつでも戦争寸前だった二つの組(プラスもう一つ大きな闇組織)。そこに関わっていたカタギの人間の失踪が起きた事で警察が介入せざるを得なくなる。

それをきっかけに双方の幾つかのトリガーが引かれ。あわや大戦争寸前。しかし、そうなるとまた一般市民が巻き添えを食ってしまう。そこで一番穏便な方法での終結を目指した大上と、その破たん。そして大上の後継者となっていた日岡の取った行動とは~という流れ。

 

「まあ~綺麗何処を集めましたな」革張りの黒いソファーに沈みながら。足を組んで。肘乗せから伸びた腕を…腹の上で…指を組む当方。(目を閉じてご想像下さい)

 

「『渇き』の実績があるから。アウトロー寸前の汚い刑事大上を役所広司。そして徐々に仕上がっていく若手エリート刑事日岡松坂桃李。このキャスティングは間違いない。」

(先日の映画部長と当方のやりとり。「松坂桃李は面白い」「一つ頭突き抜けましたね。『彼女がその名を知らない鳥たち』のクズ、最高でした」「ああいう汚れが出来るって頼もしいよな」)

「尾谷組若頭一ノ瀬に江口洋介って。って言うか一ノ瀬の下の名前『守孝:モリタカ』って。絶対狙ってるよな!だって大上に何で若頭が下の名前で呼ばせてるよ!笑ってもうたやろ!」

その他。クラブママに真木よう子。そしてヤクザサイドに中村倫也竹野内豊石橋蓮司ピエール瀧等々。比較的『驚きもしない綺麗処』集結。

 

この手の作品にありがちな、『スクリーン一杯に広がる俳優の顔。キメ顔とキメセリフ』それが一々決まる。でもそれが少し物足りない。

 

「北野組、園組の面々を概ね省いて行って。(ピエール瀧石橋蓮司は別)そうなると綺麗処になっちゃうんやなあ~」全体的に絵面が綺麗すぎて。のれない当方。

 

國村隼。でんでん。渡辺哲。そして女性陣の活躍はもっと見たかった。そうなるとやはり黒沢あすか姐さん。

「それか。畑違いの起用狙いならばいい加減、中井貴一織田裕二池脇千鶴忽那汐里のヤクザ映画参入はどうだ。」脳内キャスト置き換え遊びが発動する当方。

 

一見アウトロー寸前の不良刑事。しかし彼が本当に守りたかったものとは。そして当初の目的と変わって。次第に『本当のマル暴刑事』に仕上がっていく若手刑事。

 

「そういう話やって事は良く分かった。そして良く出来ていた。そこそこバイオレンスな描写も頑張った。間違いなく及第点。なのに少し食い足りない」

 

「続編?」汚らしい恰好の松坂桃李が、アウトロー寸前の不良刑事をしっかり継承しながら呉原東を闊歩する姿?そんな続編?いらんいらん。(そしてあんな落とし前をつけた日岡が生きておられる訳が無い。そう思う当方)

 

「一体何を観たかったのかと言われたらあれやけれど…おそらくもっとむさ苦しい男男したしたものを欲していたのかと…分かるよねえ?東映さんよ」

 

完全に当方の嗜好の問題。「良いんやけれど…スマートで綺麗すぎる」という理不尽ないちゃもんを付けて。歯切れが悪く終えたいと思います。

 

映画部活動報告「心と体と」

「心と体と」観ました。
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静謐。雪が音もなく降る森。そこにある池のほとりに佇む、オスとメスの鹿。

寄り添い。水を飲み、草を噛み、共に駆ける。

 

そんな夢を共有していた。そう知って惹かれ合う男女。

 

ハンガリー映画イルディコー・エニェディ監督作品。

 

「いやもうこれ。完全にノーマークでしたけれど!『なんか良い…』っていう声に押されて観に行ったら…何これ?ホンマに『なんか良い…』としか言いようが‼」

語彙力が無くて…全然この作品の事を説明出来る気がしません。「もう‼ええから!観に行って!」としか。

 

牛肉食品処理工場が舞台。そこの財務部長エンドレ。管理職であり、実際の精肉現場には殆ど立ち入らない。かつては妻子も居たけれど、離婚して男やもめ。見た目にも枯れ切っている。片手が不自由。

部長室の窓から工場を見下ろしていて、ふと目に入った女性。マーリア。

産休に入ったスタッフの代理として採用された、品質検査官。

透き通るように美しい彼女。硬質な雰囲気を纏う彼女は、無表情で厳格。仕事は確実だけれど融通は一切きかず、とりつくしまもない。当然、直ぐ様職場で浮いてしまったマーリア。

そんなマーリアを気に掛けて、食堂で声を掛けてみたりもしたけれど。噛み合わず。

ある日。工場に保管されていた牛の交尾促進薬が紛失。警察沙汰になり、全職員が精神分析医のカウンセリングを受ける事となった。

そのカウンセリングから、エンドレとマーリアは同じ夢を毎夜共有していたと知る。


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『雪の森で交流する、つがいの鹿』

 

夢の話をきっかけに急接近。次第にそれは好意へと発展するが。

夢の中では自然で居られるのに。現実ではすんなりとはいかなくて…。

 

『生真面目な人』

マーリアを一言で言うと、そうとしか言いようが無い。『こじらせ女子』なんてぬるいぬるい。

驚異的な記憶力を持ち。職場ではコンプライアンス重視。品質検査官として優秀ではあるけれど、その融通の利かなさは他の従業員にとって息苦しさしかない。けれど。

マーリアは決してお高くとまって他者を見下している訳では無い。ただ驚異的に不器用なだけで。

万人と関わりたい訳では無い。愛想良く振舞って仲間を作りたいなんて微塵も思わない。そんな自分に疑問も無かったし、一人でも何とも思っていなかった。なのに。

 

毎夜夢に現れる、そして一緒に居る事で心が満たされる。そんなつがいの鹿。

まさかそれを共有していた人が。こんなに近くに居たなんて。

 

初めて誰かを欲した。けれどどうしたらいいのか分からなくて。

 

「また。枯れた切ったエンドレが久しぶりに恋をしたのに。恋の仕方、忘れた訳じゃ無かったのに。生真面目なマーリアのペースに絡まって。彼もまたどうしていいのか分からなくなってしまう」

 

普通。互いに憎からず思っている男女が一緒に居て。相手の気持ちなんて何となく伝わるし、そうなると自然に寄り添いたい。ややこしい確認とかは飛ばしたい。だって大体分かるじゃないのと。大人ならそう思うじゃないですか。

 

なのに。工場に新しく入ったチャラ男に嫉妬して「これ、私の携帯番号だ」とマーリアにメモを渡しても「携帯電話を持っていません」と真顔で返事され。「ちょっと思い違いをしていたみたいだ」と顔を歪める(内心「バカバカバカ!俺!」ってなるやつ)…なのにマーリア。実は本当に携帯電話を所持していない。

「一緒に寝ませんか」「目覚めて直ぐに夢の話が出来る」そういって自宅にマーリアを呼んだのに。そしてマーリアは来たのに。結局カードゲームをする羽目になる。

 

何故。何故夢の中では、視線を交わしただけで互いの想いが伝わるのに。

 

何もかもやるせなくて震えるエンドレの背後から。そっとその肩に手を置きたい。ただただ無言で一緒に居てやりたい。そう思った当方。

(エンドレ役のゲーザ・モルチャー二。本業はドラマトゥルクや編集者等で全くの演技未経験だったなんて!脱帽!)

 

「でも。マーリアだってエンドレに惹かれている。ただ…彼女のペースっていうものを辛抱強く待ってやらんといかんのやな。」

 

「成人専用のカウンセラーを紹介するって」マーリアの、おそらく小児期からのカウンセラー。マーリアから恋の相談を受け。「専門じゃないから全然分からん」と困惑するけれど。お構いなしに何度も相談をしに訪問してくるマーリアに「取りあえず携帯電話を買ったら」とアドバイス

「この気持ちをどうしたら良いのか分からないから、AVを見たりしている」という真顔のマーリアにも「何それ駄目。音楽とか聴いたりしたら?」と結果的確なアドバイスを提示。そして次第に情緒を深めていくマーリア。

 

このカウンセラーしかり。この作品は、サブキャラクター陣も非常に良かったですね。エンドレの同僚、「この工場の大半の男は俺の妻と寝ているんだ!」奔放な妻の尻に敷かれっぱなしの人事部長。

新しく入ってきたチャラ男。結局「人を見かけで判断するな」というごもっともな教訓を残した彼。(パンフレットで知ったんですが。実生活ではマーリア役のアレクサンドラ・ベルボーイと彼がパートナーなんですね)

実は恋のエキスパート。掃除のおばちゃん。

「何その質問」というエロい精神分析医。堪らん。

 

そして。つがいの鹿。

「鹿に演技は強要出来ないだろうから。ひたすら二頭の鹿を撮り続けたんやろうけれど…(といっても一週間)けれど実際スクリーンに映し出された時の雄弁さ。何も語っていないのに‼鹿たちがこちらに語り掛けてくる」何この鹿映画。

 

兎に角美しい、鹿のシーン。

そして食肉加工工場という、生死の生々しさがシステムチックに昇華される現場。

登場人物の生真面目故のおかしさ、哀しさ、愛おしさ。

 

最後の最後。あのセリフとマーリアの表情で締めた時。

 

「あああ~一から十まで全部好き…好きやわあああ~なんか良い。なんか良いこの作品」

 

体中の空気を抜きつくす。そんな深いため息と共に。映画館の座席に沈んだ当方。


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