ワタナベ星人の独語時間

所詮は戯言です。

映画部活動報告「無頼」

「無頼」観ました。
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「正義を語るな、無頼を生きろ。」

 

【無頼:正業に就かず、無法な行いをすること。また、そのさまやそのような人。】

井筒和幸監督作品のヤクザ映画。激動の昭和と平成を生き抜いたアウトサイダーを描いた作品。これは是非この目に焼き付けておかねばと、2021年初の映画部活動で観てきました。

 

「何か。何やろう…思ってたんと違った。」

 

映画館を後にする当方の胸に浮かぶ、若干のもやもや感。

「決して昭和の任侠映画に詳しいわけではない。『網走番外地』や『仁義なき戦い』を観ている程度で。後は『ゴッドファーザー』や『任侠ヘルパー』くらい?任侠映画たるもの!みたいな矜持なんて知らない。知らないけれど…なんかダイジェスト感が半端なかったというか。」

 

主人公、伊藤正治松本利夫)。昭和30年代生まれ。貧しい家庭で子供自らが金を稼ぐしか生きる術が無かった。母親は既に居らず、ボンクラの父親もいつの間にかのたれ死んだ。悪さを繰り返し、少年鑑別所にも入った。

出所して見つけた居場所はヤクザ稼業。何度も刑務所を出入りし「最早戦後ではない」と世間が盛り上がった東京オリンピック刑務所の中だった。

出所し組を持たせてもらう事になり、盃を交わした。上野動物園にパンダがやってきて、オイルショックで日本が揺れた頃に妻となる佳奈(柳ゆり菜)と出会った。

 

~とまあ。つらつらあらすじを書いていてもアレなんで、ここいらでストップしますが。兎に角『伊藤組組長、伊藤正治の半生』を淡々と時系列に描いているんですね。

 

貧しい生まれの少年が必死に生きていくさま。そうして大きくなった時、同じく世間とは折り合いを付けられずにいるはぐれモノたちを纏めながら、裏社会を生き抜いていく。日本全体に勢いがあった高度経済成長期。皆が若く血気盛んだった。日本ヤクザ戦争。抗争に依って仲間を失った。けれどバブルが崩壊し景気に陰りが見え始めた頃、ヤクザ稼業もやり方が変わった。

 

雑に挙げてしまいましたが…この他エピソードもてんこ盛りで146分。けれどどこかのエピソードに重点が置かれている感じでもなく(当方の理解力の問題)どうしても『伊藤組組長、伊藤正治の半生』のダイジェスト感否めず。

また、登場人物が多くて。有名どころを始め総勢400余名の俳優陣が…誰が誰だか分からずごちゃついているきらいもある。

 

「何やねんアンタ、文句ばっかり言って!」

 

やや険しい表情で、煮え切らずブチブチ文句を言っていた当方が「いやいやでもな」と表情を一転させる箇所。「柳ゆり菜は最高やった。」

 

映画『純平、考え直せ』(2018)で一躍脚光を浴びた柳ゆり菜。「この年代にこんなに肝の据わった女優が居たとは!」目からボロボロ鱗が落ちた。以降も「彼女が演るなら間違いない」当方が全幅の信頼を寄せている柳ゆり菜。

今回の伊藤組長の妻、佳奈。元々はエエとこの子だったけれど没落し、ホステスとして働いていた所を正治に目を付けられた。

正治と一緒になった。組長の妻。けれど血気盛んな連中は直ぐに何かしでかすし、正治は何度も刑務所を行き来。しかも自分は惚れた恋女房なはずなのに直ぐに他の女と浮気する。

正治に時には嫌事を言いつつも、しっかり正治不在の時は家を守る。組の若い子らに目を配る。その『姐さん』ぶりに惚れ惚れする当方。

(一つ不満を言うならば。主人公正治を演じた松本利夫が青年期~壮年期までを演じ、最後それなりに年を取ったビジュアルになったのに比べ、佳奈の歳の取らんことよ!)

 

貧しい出目から立ち上がり、時にはなりふり構わずにのし上がった。昔の仲間はもうほとんど居なくなった。そんな還暦の時。正治が下した判断とは。

 

「何にも頼らず、ただ己の内なる掟に従って真っすぐに生きた一人の男」うーんそういう風には見えなかったんですよねえ。そもそも何故刑務所から出て直ぐに組を持たせてもらえたのかも正直未だに良く分からんし(当方の理解力の問題)、頼る頼らんというより「時代の流れに乗るのが上手かったんやろうなあ~」「身のこなしが軽い」という印象。正治の内なる掟がイマイチ…読み取れなかった(当方の理解力の問題)。

 

なので。齢60の正治が下した判断には「はああ~?」という声が漏れてしまいそうになった当方。取って付けた着地点。浅はかではないか。

 

おそらく。期待値を高く設定し過ぎたせいで、勝手な肩透かしに終わってしまった。リアル昭和平成のアウトサイダー史大好き組には刺さるエピソード満載だっただろう。けれどその土台となる知識が無い当方はダイジェストに映ってしまった。

 

「これ。去年公開する予定やったんやな…。」

2020年。幻となってしまった東京オリンピック開催。何も起きなければ景気も人々の士気も明らかに高揚しただろう、そんな世界線でこの作品が公開されていたら…印象が違ったかもしれない。不毛なタラればですが。

 

どちらにせよ。昨今滅多にお目に掛かれないヤクザ映画。貴重な鑑賞体験を以て、2021年映画部活動開始です。